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#1「わからなさ」をめぐる対話

Smappa!Groupでは「よくわからない」プロジェクトがそこかしこで興っている。「よくわからない」部署がいつの間にか誕生している。「よくわからない」イベント、「よくわからない」会、とにかくわからないことだらけだ。でもあなたはデスクの隣の人のことをそんなに「わかって」毎日を過ごしているだろうかと問われると...そこまでの自信はないはず。わからなさと生きる弊社、Smappa!Groupがわからないことをわからないまま対話する場をはじめます。

第1回はSmappa!Groupが運営している『新宿歌舞伎町能舞台』にて開催された「とうとうたらりたらりらたらりあがりららりとう」展を企画し、参加作家でもある渡辺志桜里さんとSmappa!Group CLUB OPUST代表 青山礼満の対話です。

とうとうたらりたらりらたらりあがりららりとう
<展覧会概要>
会期:2022年11月18日(金)~11月27日(日)
会場:新宿歌舞伎町能舞台・他
主催:Studio Ghost, Smappa!Group(株式会社ワインライス)
キュレーター:渡辺志桜里
コキュレーター:卯城竜太, 大舘奈津子(一色事務所)
参加作家:
飴屋法水たち, 石牟礼道子, エヴァ & フランコ・マテス, コラクリット・アルナーノンチャイ, 小宮花店, 小宮りさ麻吏奈, ザ・ルートビアジャーニー, 動物堂, ピエール・ユイグ, ミセスユキ, 渡辺志桜里
その他展示作品:
三原山噴火テレフォンサービス音源, 新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ, 九相図巻
特設サイト:https://toutoutarari.com

青山礼満(以下レマン):志桜里さん、今回はよろしくお願いします。昨日はあまりゆっくり見れなかったのでもう一度見に行く予定です。少し時間いただけますか?

渡辺志桜里(以下渡辺):ぜひぜひ。なんでも聞いてください。展示自体なかなか言語化しにくいのは自覚しているので、レマンさんの理解のお手伝いできたら嬉しいです!

「足拍子(部分)」飴屋法水たち(2022)
能舞台上で行われる足拍子や、翁と天皇の関係を歌舞伎町という街にまで拡大した、第2会場へとまたがるインスタレーションの「部分」である。第1会場では、振動スピーカーを用いて能舞台自身をスピーカーに変える。もとより能舞台は、会場によっては床下に壺を仕込むなど、足拍子の反響のために設計されるものである。その音は一説には天の岩戸の伝説に由来するというが、ここで出力されるサウンド(涌井智仁作)の構成は、昭和天皇の崩御間近にマスコミを通じて宮内庁が報じていたバイタルサインによる1分間の心拍数と呼吸数をなぞろうとする。足袋履きを条件とする能舞台で、神話を足裏へと召喚する。


レマン:今回の展示の正直な感想は「わからなかった」です。
これからの世の中、言語化出来ないよくわからない世界、例えば宇宙とか精神、宗教、生命の神秘などが重要な救いになってくるのだと思っていて、そのよくわからないものと今を繋ぐ実験が「とうとうたらりたらりらたらりあがりららりとう」という展示なのかなと思いました。

それを歌舞伎町でやることはすごく軽やかでいいよねって思うのと、能がそもそも理解を超えたモノ、コトと現実や人間をつなぐためのもので、「翁」はその象徴。だから能舞台をロケーションに選んだことはとても意義深いなと。

もしも僕の職業であるホスト視点から考えるなら、ホストは宗教と似てるから言語化できること(女の子の気持ちをコントロールして儲けることや値段が法外であること)以外に価値を見出されて人を惹きつけたり救うのはこの展示のテーマと近いのかもしれません。

作者によって生と向き合った作品や逆に死に対して向き合った作品、作者ごとに見ている場所や角度も違っていて、世界(例えば宇宙、精神、宗教、生命の神秘)に対する考え方や表現は人それぞれの物差しが違うからこそ、答えもなければ人によってバラバラだったように感じます。

考えるほどに答えはあるだろうし、ないだろうし。
わからなくなっていったので今回の展示の感想はまず「わからなかった」です。

「小宮花店」小宮りさ麻吏奈(2016-2017)
小宮によって都内の商店街で1年間経営された花屋の記録。パフォーマンスとして位置づけられて、販売された花にも作家の汗を蒸留した香料を吸わせるなど、身体的な営みが付随されていた。「展示」や「再演」という身体表現にまつわる自明の美術の形式を店舗という形で異化。花屋という形式が存在する背景を問うとともに、既存の生殖の外側を模索することや「花」という女性性の表象の典型を再解釈することを試みた。

1番好きだった作品は「小宮花店」 作品の構成が好きでした。僕は誰かに影響を与えることができたとき、自分のエッセンスがその人に渡っていく感じが好きです。花に自分色を落として誰かに渡って行く行為がその自分の気持ちとが重なっていいなと思いました。

1番わからなかった作品はコラクリット・アルナーノンチャイの「Natural gods」です。
映像としてもよかったし内容も面白かったんですが、色々な事象にテーマが飛びすぎて肝心の芯の部分が捉えられなかった。わからなかったけど言葉だったり雰囲気は好きな作品です。

正直アートが全然分からなくて子供みたいな感想ですみません。

「囲炉裏(火)」(2022)
「不知火」や「薪能」など火にまつわる事柄の多い本展であるが、ここでは数人が火の番を勤めることでその機能に特化したスペースを用意。暖を取る、素焼き、燃やす、など様々に火の用途を活かす。食事の提供も不定期で開催。食すことで発症した水俣病、しかしその「穢れた大地」からも海の恵みを想起していた石牟礼道子による食への考察を着想とした。デザイン:西村健太


渡辺:丁寧な感想ありがとうございます。
今回多分作品一つ一つを見ていくと飛び石しているように見えると思います。というのも今回私も全体像の掴めない『翁』が、私たちの可視化できるところまで現れた時に見える片鱗を集めて一つの大きなエネルギーにしていったというイメージで展示を作りました。

例えば火山は地底のマグマの一部でそのマグマ自体の全体を捉えることはおそらく不可能なように、私にもそれが何なのかわからないのです。

そこで、わからない要素にもう一つ東洋的な近代以前の身体感覚のようなものがあると思ってます。レマンさんが一番わからなかったとおっしゃっていた「Natural Gods」は、その典型みたいな作品です。すごく雑に説明すると、インターネットって文字通りネットワークですよね。それと同じように世界にある、人間や動物、虫や石、そう言ったあらゆるものはすでにネットワーク状にあるのではないか。 とするならば、個々のものたちは実は繋がれた一つのもの、という認識なのです。その意識はアニミズム的な思想を持つ東洋に色濃く現れて、日本に渡って『翁』として洗練されました。今回レマンさんが好きと言ってくださった『小宮花店』の作品もそう言う目線で見てもらえると人と人が交流する時にある意味”自分”という強固なものと思われるアウトラインはお互いの影響によって解けあったりしますよね。
自分ってじゃあなんだろうと考えた時に親の精子と卵子から生まれたし、生まれてからも環境というあらゆるものに囲まれて育って、1人の時って実は1秒もないじゃないですか。そう考えるとこの世界の全体と繋がれちゃう。なんかそんな感じです。

逆すごく興味を惹かれたのですが、ホストが宗教と似てるとおっしゃってたこと、詳しく聞きたいです!

Natural Gods コラクリット・アルナーノンチャイ(2017)
ニューヨーク拠点のタイ人アーティスト。精霊と自然の関係を追った本作は、日本での長期滞在中に富士山や恐山などで撮影された。その後Dis.artで発表されたが、世界中のビエンナーレの常連作家である彼にして本作の知名度は高くはない。作家の思想のベースにある東南アジア特有の精霊信仰と土着、その自然観が最も顕著に現れた作品と言えるが、東アジアにまでその繋がりが見出された根底には、かつて海を渡って沖縄から北海道までへと伝来された、縄文と太古のアニミズム信仰への共有がある。

レマン:とても分かりやすい解説ありがとうございます!自分は作家さんの考えとは全く違う意図で作品を勝手に解釈してしまう事が多いです。志桜里さんが説明してくださるとスッと作品の意図が分かりやすく理解できます。

順番が逆ですね。当たり前ですが作品をしっかりと理解しなきゃダメだなと反省しております。

今までは自分の気持ちや心情、その瞬間に自分が感じた事を素直に考えてきました。自分にとって何か刺激をもらえたり、インスピレーション、または人生のヒントを得るなど...でもそれはただ自分勝手にアートを消費してるだけなのかなと今回感じました。

こういう機会を得るのはなかなか難しいとは思いますが、僕みたいなライト層がアートによりのめり込めたり楽しめる機会になると思うので、そういった工夫もあればなと思います。

第2会場 ※第2会場には、第1会場で配布された「地図」を手に向かってください。5分ほどで到着します。

さて実際にホストをしていてホストクラブと宗教は似ているか?と問われれば、宗教ではないと思います。ただ限りなく近いものに感じる瞬間もあります。

ホストクラブという業種が成立しているのは恐らく日本だけですが、無宗教が圧倒的に多い日本だからこそ宗教の役割のほんの一部を担う瞬間がある気がしています。
誰しもが誰かに頼ったり、縋りたい気持ちってあるはず。
その感情のぶつける場所が日本に生まれ育つと本人に任されて、その対象となる選択肢も広いんじゃないかと考えます。

世界に目を向けると、ほとんどの人は生まれた瞬間から何かしらの宗教にすでに属していて小さい頃から何かあった時に頼りになる神のような対象がいます。でも日本に生まれた僕たちは熱心に信仰する特定の対象を持たない人が多いですよね。

ホストクラブに来店される女性は、心に深い傷を負っている方がかなり多いと感じます。
そして商業的に考えた時にホストを強く頼ってくれるお客様や、逆に自分が強く頼ったお客様に大金を使って頂けるというケースが多く見受けられます。もちろん、ただお酒を飲みたいとか、ただただその時間を楽しみたいっていう女性もいらっしゃいますが。

新年ニ當リ誓ヲ新ニシテ國運ヲ開カント欲ス國民ハ朕ト心ヲ一ニシテ此ノ大業ヲ成就センコトヲ庶幾フ(1946)
いわゆる昭和天皇による人間宣言。GHQの期待に天皇が応えるかたちで発布された調書であるが、その主な内容は日本の近代民主主義の文脈を再考したものである。「天皇を現御神とするのは架空の観念」とし、自らの神性を否定した箇所が「人間宣言」として知られているが、実はそこでは「人間」という言葉は使われていない。


宗教に似ていると感じた中で、僕はホストとお客様どちらも神様になる瞬間があると思いました。
僕達だけが相手にとっての神様なわけではなくて、お互いにその瞬間があるということです。女性は外に出れば男性にお金を払ってもらうことが多い立場ですよね。僕らは逆に女性からお金を払っていただいています。世間一般とは真逆のことです。

ホストに通うこと、宗教に信仰すること。

日本人に限定してこの2つの言葉を捉えると、少しタブー感というか一個ギアを入れないと立ち入れないことだと僕は思っています。ホストに通うことの方が少しライトな感じはありますが、すごく大きな枠で捉えたらホストと宗教は共通する雰囲気はかなり多いと思います。

そこですごく気になったのは実際に強く宗教に信仰してる人たちが今回のこの展示を見たら、どう感じるか?ということです。やはり無宗教の人と何らかの宗教に属している人ではだいぶ今回の展示への捉え方が違ってくるのかなと。


(第2回につづく)

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