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薬剤師業務をRe-engineeringする(④メディカルジェネラリスト編)

Re-engineering

前回の最後に出したポイントをカテゴライズしておさらいしましょう。

(1)今日的課題は原価削減、品質/サービス向上、スピードアップ
→高齢化を背景とした昨今の医療費増大の問題に対応すべく、国としては一人当たりの医療費単価を下げる
→既に病院や介護施設だけでは対応できず、在宅医療へと流れ始めている
(2)従来の標準品大量生産に適した、職能別に細分化された分業制アウトプットから、多品種少量に適した職能横断的な顧客志向・プロセスベースの仕事の進め方に革新する
→医療サービスの消費プロセスが完結している「外来」と「入院」カテゴリーであれば、薬を渡す「機能」が医療機関の外に行ったとしても、消費プロセス自体は基本変わらない
→病院やクリニックの前で決まった薬の在庫を確保し、処方箋に記載された決まった薬を渡す「割にあったビジネス」
→在宅医療は「割に合わない」
→高齢者医療の現場では個々人の持っている病気は複合的でそれぞれバリエーションも異なる
→これからは病気は治すのではなく、人生100年時代と言われる寿命を見据えて付き合う
(3)リエンジニアリングするためにはアウトプットが完了するまでのプロセスにおいて、職能を横断する(他の人間の専門的担当業務範囲を侵す)ことから、ITの活用による合理化の必要性がある
→在宅医療の現場にはこれまで適用されてきた「外来」や「入院」の仕組みや考え方では通用しない

この中で、これから向かう方向性として一番注目したいのは、(2)の「多品種少量に適した職能横断的な顧客志向・プロセスベースの仕事の進め方」です。

特に意識したいのが、以下の2点。

多品種少量=高齢者は個々人の持っている病気は複合的でそれぞれバリエーションも異なる
顧客志向・プロセスベース=病気は治すのではなく、人生100年時代と言われる寿命を見据えて付き合う

在宅医療のフィールドにおいて、上記を軸にオペレーションを組んでいく必要があると考えます。

Medical Generalist

メディカルジェネラリストとは、全く新しい職種・役割・概念です。

以前のフィードでもお伝えしましたが、メディカルジェネラリストの概念は英国のMedical generalismから来ており、これを日本式にカスタマイズしていきます。

メディカルジェネラリストは、目の前の患者の疾患や服用薬のことはもちろん、生活環境、患者が住む地域の特性、近所付き合い、患者家族の状況など、その人の総合的なバックグランド情報も把握しており、医療・介護の保険適用範囲と、それ以外の民間ソーシャルケア等の保険外サービス、他業界のサービスを含めた多角的な視点から情報のHUBとなり、医療・介護を始め、各業界のスペシャリストたちとコミュニケーションを取りながら、患者や家族の総合的な生活支援を行い、結果として本当の意味でのQOLを上げていくことを目指します。

メディカルジェネラリストのミッションは、顧客志向的な価値提供による総合的QOLの向上です。
また患者のみに限らず、患者の家族やステークホルダーを意識したコミュニケーションが必要になってきます。

これらの状況から価値の提供を行うにあたって、既存の保険内サービスでは補うことができません。

そこで必要になってくるのが、“ビジネス”です。

一般的にビジネスというと、金儲けや拝金主義という印象が(特にコンサバティブな方々に)まだあるようで敬遠されがちですが、ビジネスとはお金を循環させる手段であって利益獲得自体が目的ではありません。

日本で著名なドラッカーも、経済的利益がビジネスの目的ではなく、「ビジネスの目的は『顧客創造』である。」と有名な言葉を残しています。

また至極単純な話ですが、何か価値を提供する・提供を受けることを継続するにはお金が必要なのは言うまでもありません。

私たちのいる東京都八王子市は、昨年ヘルスケア分野において日本で初めてソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)が導入されました。(八王子市大腸がん検診受診率向上SIB

今や社会課題を解決するにも、様々なファイナンステクノロジーを利用しながら、ビジネスで解決する時代であり、また世界的に見てもSDGsを中心としたビジネスにお金が集まっています。

なお、このSDGsにはヘルスケアセクションもあり、世界医師会・日本医師会もこれを意識した活動を行うようになってくると考えられます。(参考記事:日医on-line

こういった時代や経済の動き・流れを、ミクロの視点だけでなく、マクロ、またはそれ以上の広い視野を持って受け入れ、何をすべきかを一人ひとりが考える必要があると思います。

いつも通り話が脱線しましたが、そもそも“在宅医療は「割に合わない」”ということを前回お伝えしましたが、それを「顧客を創造して、割に合わせて、継続させる」のがビジネスという手段ということです。

メディカルジェネラリストとしてのキーファクターは、コミュニケーション、情報のHUB、多角的視点と考えています。

ステークホルダーは医療、介護、地域社会、行政の関係者から、他業界のサービスサプライヤー、エンジニアなど、多岐に渡ります。

アプローチ方法も様々で、医療的な価値提供はもちろん、ケアマネのような生活状況からの視点、地域包括ケアの担当者のような地域状況からの視点、サービスを開発するエンジニアのようなプロダクトベースからの視点など、そこにいる個人が得意とするアプローチ方法を選択し、違うアプローチが最適で必要と判断した場合は、他のメンバーが得意とする分野とナレッジ共有しながら価値を提供していきます。

メディカルジェネラリストは「個」でもあり、「集」でもあることで、提供する価値を最大化させます。

ビジネスモデルも、既存にあるもの・既に他でやっているものなど、様々なものを活用するでしょう。

・薬や介護用品の調達をメインとするなら江戸時代からある富山売薬方式やWEB発注代行
・IADL(手段的日常生活動作)の調査を含めたアンケートシステムと関連する士業サービスの紹介
・ADL(日常生活動作)の維持の観点から、生産緑地等を活用した農業と料理のカルチャー教室
・認知症対策とコミュニティー作りを目的とした、サブスクリプション型の漢方カフェ
・外出困難な患者へのストレス解消を目的とした、VR観光プログラム
・寝たきり患者へのエンターテインメント提供を目的としたベッド上での仮装写真撮影

など、こういったアイデアを、個々人の持っている複合的でバリエーションも異なるニーズへ適応・応用していきます。

だから、“コミュニケーション”、“情報のHUB”、“多角的視点”が必要になり、多品種少量のニーズに対していかに顧客志向・プロセスベースで価値を提供して、ビジネスとして成り立たせるのか、それが日本式のメディカルジェネラリストの目指すところです。

Medical Generalist”の確立は手段であって目的ではない

メディカルジェネラリストの【Vision】

医療や介護などの現場を始め、どこででも、誰とでも協業でき、大切な人を守る力を持っていることを目指す

メディカルジェネラリストの【Mission】

顧客志向的価値提供による患者・家族・ステークホルダーのQOLの向上

メディカルジェネラリストの【Value】

・在宅医療現場で医療的な価値の提供ができ、経験がある
・患者とその家族のことを把握し、またニーズを知っている
・患者が住む地域のことや特性を知っている
・医療、介護の保険サービス及び、その地域の保険外サービスを知っている
・医療、介護、地域、行政の関係者とコミュニケーションが取れる
・必要に応じて、ソーシャルケアや民間サービスが提供できるよう行動ができる
・患者とその家族のニーズに対して、医療、介護を始め、その他サービスの企画提案ができる

メディカルジェネラリストはあくまで「総合的に自立したスキル」を身に付けている状態です。

その先には、さらなる社会課題への挑戦があります。

まず場所。

医療資源が少ない地域、過疎地域、年老いた家族のためのUターン、家族の移住に伴って新しい地を開拓するIターン・Jターン、こういった場所においても、与えられた環境下で高度なスキルを発揮できること。

そして時間。

男女問わず、自分自身が育児、または介護、状況によっては両方のダブルケアによって、決まった時間の枠内で仕事ができない、パートなどであっても、自分が住む地域で当てはまらないかもしれないなどの状況下でも、キャリアをリタイアせず、大切な人を守りながら収入を得られること。

これらを実現するためにはソフトとハードの両面で“仕組み”が必要ですが、メディカルジェネラリストとしての「総合的に自立したスキル」がまず前提となることは間違いありません。

そういった挑戦の対価として、『薬剤師』という資格を、存在を、もっと魅力的で、信頼と憧れと共に社会的責任を担う、そんな職業にしたいのです。

そういった道を示し、導くのが、“薬剤師ではない私の役目”だと思っています。

ぜひ、薬剤師の皆さん、力を貸してください。

バックナンバー:①問題提起編②機能と価値編③バリュー・フォー・マネー編

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