ユーザーの声に耳を傾け、その背景を深く理解する――RITのUI/UXデザイナーとして活躍した田浦さんは、ユーザーファーストのマインドを大切にし、常にユーザーを意識したデザインに取り組んできました。このインタビューでは、UI/UXデザイナーに求められるものや、会社を離れてみて分かるRITの姿などについてお話を伺います。
好奇心が切り開いた新たなキャリア
―これまでのキャリアについて教えてください
田浦:芸術系の大学でデザインを専攻し、卒業した後に広告系の制作会社に入社しました。そこでグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートしました。やっていたのは主に海外向けの製品、黒ものや白ものの販促物のデザインでした。販促物全般という感じで、製品撮影や画像レタッチ、それを使ったカタログやウェブサイトの制作も担当しました。さらにインビジュアルやロゴデザイン、製品のロゴ制作もやっていましたね。この会社で約6年半くらい働き、その後、RITに入社してUI/UXデザインに携わるようになりました。業界も職種も変わった形で、新しい分野に挑戦することになりました。RITでは約3年間、UI/UXデザイナーとして経験を積みました。今後はUI/UXもグラフィックも、どれも並行してやりつつ、活動を広げていこうと思っています。
―広告系制作会社から転職する際、なぜUI/UXデザイン職を選んだのですか?
田浦:転職を考え始めたのはちょうどコロナ禍に入ったくらいのタイミングでした。グラフィックデザイン自体はすごく好きなんですけど、その会社で作っていたものの多くが海外向けで、紙媒体だったりビルボードだったり、現地でしか完成品が見られないものが多かったんです。実物を手に取ったり、ターゲットの方がそれを使う姿を見る機会がなかったので、もっと身近に完成品を感じられる仕事がしたいと思うようになりました。それで、どこからでもつながれるデジタル媒体やウェブデザインにシフトしたいと思ったのがきっかけです。特にコロナ禍ではUber Eatsをよく利用していたんですけど、そういう日常生活に密着したサービスやアプリの開発に関わるのはとても面白そうだなと思って。そこからUI/UXデザインの方向を視野に入れて、転職先を探し始めたときに出会ったのがRITでした。
―グラフィックデザインからUI/UXデザインへ転向する際に大変だったことは何ですか?
田浦:グラフィックデザイナーからUI/UXデザイナーに転向して一番大変だったのは、インターフェイスのビジュアルデザインやブランディングに思う存分時間をかけられないことでした。
グラフィックデザインでは、デザインカンプの段階で細部までこだわった完成度が求められるので、じっくり時間をかけるのが当たり前でした。でも、UI/UXではプロトタイプを作る中で、体験設計やユーザビリティを優先する必要があるので、細部にこだわりすぎると全体の進行に影響が出るんですよね。
「細かいビジュアルは後回しでOK。まずはユーザー体験や使いやすさを優先!」っていう考え方に切り替えるのは、正直めちゃくちゃ大変でした。でも、伸びしろのあるプロダクトをチームで育てていくという新しい視点に気づけたことで、「完成品を作る」から「未来の可能性を広げる」デザインに考え方をシフトできて、少しずつ慣れていきました。
チームで最もユーザーを把握している存在がUI/UXデザイナー
―そもそも、UI/UXデザインとは何ですか?
田浦:UI/UXデザインというのは、サービスを開発するときにユーザーのニーズを理解して、それをサービス側のビジネス目標と組み合わせて設計するというイメージです。例えば、まだ誰も気づいていないけれど、あったら便利なものを手軽に使いやすくデザインすることで、誰かの生活が少しでも幸せになる。そんな役割がUI/UXデザインだと思っています。
具体的なプロセスで言うと、まずお客様とのヒアリングから始まります。予算や現実的な要件を確認して、その次にリサーチを行います。ターゲットとなるユーザーはどんな人たちか、彼らが抱えているニーズや課題は何か、また業界や競合サービスがどうなっているのかを調べます。その調査結果を基に仮説を立てて、ユーザーの課題をこうやって解決するのがいいんじゃないかと方向性を定めます。
次にプロトタイピングを行います。仮説に基づいてサービスやアプリのモックアップを作り、それを実際にユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ながら改善していきます。この検証と改善のサイクルを繰り返して、最終的に完成度を高めていく流れですね。
―UI/UXデザインの際に常に意識していることやマイルールのようなものはありますか?
田浦:基本中の基本ですが、やはり『ユーザーファースト』を意識しています。仕事を進めているうちに、どうしても自分の主観が入り込んでしまうことがあるんですよね。そうすると、仮説も偏ったものになりがちです。なので、常に『ユーザーの視点を優先する』ことを意識しています。
あともう一つは、『やってみよう』という姿勢ですね。私はどちらかというと慎重派で、デザインの細部にこだわりすぎることが多いんです。でも、UI/UXデザインでは、スピード感を持ってとりあえず形にしてみることが大切です。失敗を恐れずにまず行動する。これは、以前のグラフィックデザインの考え方とは異なる部分で、すごく新鮮でした。
―RITのUI/UXデザイナーに求められるスキルとは、どのようなものですか?
田浦:やっぱり『ユーザーを理解する力』が一番大切だと思います。ユーザーから話を聞いて、その背景を深く考え、本当に重要な要素を導き出すスキルですね。例えば、ユーザーが『こういうことが不便です』と言っても、それをどう解釈して形にするかがRITのUI/UXデザイナーの役割です。そしてチームの中で、誰よりもユーザーを理解している存在になる必要があります。
その上で、ユーザーの意見を正しく代弁し、チーム全体の方向性を支えるスキルが求められると思います。たくさんのデザインツールを使えたとしても、それができないと、開発するものがユーザーのニーズからずれてしまうこともありますから。ツールの使い方は、毎日使っていれば自然と身につくものなので、後からでも十分学べます。それよりも、デザインのコアとなる考え方や、ユーザーのニーズを理解する能力が重要だと思います。
好奇心を武器に、自分の未来もデザインする
―在職中に印象に残ったプロジェクトは何ですか?
田浦:特に印象に残っているのは、エンタメ系の長期プロジェクトです。これは、私が初めて手掛けた案件であり、入社から退職するまでずっと関わり続けてきたものでした。最初はとても楽しかったですが、同時にすごく大変でしたね。特に初めてやることばかりだったので、思ったように進まないことも多かったです。それでも、クライアントと社内チームが一丸となって取り組んでいたので、難しいながらもやりがいがありまし、この案件でUI/UXデザインの全プロセスを通して学ぶことができました。
このプロジェクトでは、基本的にオンラインで仕事をしていたのですが、一度だけみんなで集まって食事をしたことがありました。それが本当に楽しくて、普段リモートでしか会えないメンバーと直接会って話せたのは、特別な経験でしたね。メンバーが入れ替わることもありましたが、チームとしての一体感が強く、チーム全員が同じ思いで進めるというのは、本当に重要だと感じました。
―RITでの経験は、今後のキャリアでどのように役立つと思いますか?
田浦:以前、グラフィックデザイナーとして働いていたときは、基本的に他のデザイナーも打ち合わせに同席していたので、私はサポート役に回ることが多かったんです。でも、RITでは案件につきデザイナーが一人でつくことが多かったので、打ち合わせやプレゼンも自分でやらなければならない場面が増えました。そのおかげで、説明力や交渉力といったスキルがかなり鍛えられました。自分の考えを言葉にして伝えること、相手に納得してもらうことができるようになったのは大きな成長だと感じています。
ほかにも、UI/UXの5つのステップをこなす機会が増えたことも貴重な経験だと思います。もちろん、一人ですべてを完璧にこなすわけではありませんが、一通りのプロセスを理解して実践できたことは大きな強みだと思います。その過程で私も自分の得意な部分や課題を見つけることができました。例えば、『ここは自分が苦手だから、もっとスキルを磨きたい』とか、『ここは得意だから、次の仕事でも活かせる』といった感覚を掴めるイメージです。その経験を踏まえて、フリーランスとしてどのような仕事を受けたいかを明確に考えられるようになったのは、大きな成果ですね。
―この記事を読んでいる方々に向けてメッセージをお願いします!
田浦:私がこれまでのキャリアの中で大切にしてきたのは、『好奇心を持つこと』です。実際にやってみないと分からないことが多いので、まずは興味を持ったことに挑戦してみるのが良いと思います。それに、RITは自分がやりたいことを言えば、それを任せてもらえる環境です。やりたいことがあるなら、挑戦できる環境で働くのは本当に大きな経験になります。好奇心をくすぐられるような機会があれば、ぜひ一歩踏み出してみてください。それがきっと次のステップにつながると思います。