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MBAと経営

先日、神戸大学の社会人MBAの方から、修士論文を書く参考のために、インタビューを受けました。自分のMBA時代を懐かしく思い出しましたので、今回はMBAと経営について書いてみたいと思います。

KKD

私がMBAを取りに行ったのは50歳、当時は本社の常務取締役でした。その年齢で、その立場でなぜわざわざそんなところに首をつっこんだのか、思い出してみました。私は、30代前半から、いくつかの新規事業の立ち上げを成功させ、30代の終わりに取締役になりました。そこからは無我夢中で10年間、KKD(勘と経験と度胸)だけで、もがきながら結果を出してきました。もちろん成功だけでなく、多くの失敗も経験してきました。ただ、失敗については色々と理由が見つかるのですが、なぜ成功したかについては、うまく説明出来ません。もし自分のやり方に、重大なomission(抜け)があって、もっと大きな成功を取り逃がしているとしたら、勿体ないことだ思いつつも、日々において、そんなことを振り返る余裕も無く、ひたすら突っ走っていました。

そんな折りに、MBAに行くことを友人から勧められました。MBAについては多少の知識があったのですが、ひょっとして想像以上に、もっと成功するフレームワークがつくれるのではないだろうかと、スケベ心がふくらみ、50歳を目前に3ヶ月間の受験勉強を経て、滑り込むことに成功したのです。


S系MBAの最高峰、神戸大学 経営学研究科

入学した神戸大学MBA、同級生のほとんどは、企業から派遣された、30半ばの若手のホープたち、そこに加えてお医者さんや弁護士、会計士、役所、新聞社の人もいて、そのバラエティーの豊さにまず驚かされました。一方私も、当時の肩書きは常務取締役だったので、経営者を目指すMBAに、なぜ「現物」の経営者が通ってきているのかと、かなり訝しく思われていたらしいです。

神戸方式のMBA授業は、金曜の夜と土曜日の終日しかありません。その代わりに、宿題が毎週毎週びっくりするほど出て、何冊もの課題図書を読まされ、その上に課目毎の終了テストがあって、日曜はグループワーク必須で寝る間もないという、スパルタな日々が続きました。若きホープたちは、まったく眠らずに、いくらでも考えたり、議論したりしていましたが、初老の私にとってはかなりキツかったです。。


そこで手にしたもの

さてそのMBAで、何を学んだのか。私がうっすらと期待していた、「必ず成功する秘密のビジネス講座」のようなものは、もちろんありませんでした。まじめに振り返ってみると、まず実務でやっていない、会計や財務、統計学などについては新たな知識を得ました。一方、マーケティングや事業戦略、組織など、日々の実務に関連することについては、独学もしていたので、新しいと思われる知見は、さほどありませんでした。では無意味だったのかというと、そんなことはありません。

例えば事業戦略や、マーケティング理論などを単品で、付け焼き刃的に振り回しても、大した効果は出ません。むしろ間違った方向に進む可能性すらあります。MBAでは、個々の知識だけでなく、相互の関連を理解させるカリキュラムのおかげで、体系として全体を学べました。これらを全て正しく理解したわけではありませんが、MBAに行ってなかったら立ち往生していたであろうことは、数多くあります。


経営は実務と理論の往復運動

経営は実務が第一、理論で会社は動かせないと、経営学を否定的に言う人もいます。たしかに数学などの自然科学と違って、社会科学は答えが収束しません。隆盛を極めた会社が、墜ちていくのを、事前に予測できるわけではないし、ケーススタディに取りあげられているような、昭和の名経営者が、今の時代に生きたとしても、同じように活躍できるかどうかもわかりません。経営は、いつも時代のcontext(文脈)によって大きく左右されるからです。

ただし、どの会社の、どんな状況であれ、自然や必然でつくられたものはなく、全ては会社が下したoption(選択肢)の結果であることは、紛れもない事実です。これは裏返せば、想像するよりもはるかに多くのoptionがあるとも言えます。そして、天才的な経営者でないかぎり、より正しい選択(この基準も難しいのですが)をするためには、過去のケースやそそこから導出されたフレームワーク、理論、セオリーを学んでおくしか、手は無いのです。判断に必要な知識もそうです。全て持つのは無理ですが、どういう索引と体系になっているのか知らないと、なにがトレードオフなのか、なにを選択するのか、議論する事さえ出来ません。MBAはこれらの訓練所であり、そこに訓練ネタを供給している研究者も含め、経営学には大きな価値があると、私は思っています。

その後

さてその訓練所に集った70人の同級生とは、卒業してからも、時間を見つけて飲みに行っています。かなりの割合で、自ら異動したり、海外赴任したり、転職したり、起業したり、博士課程に行ったりと、様々な人生のoptionが展開されていて、話を聞いていても刺激的です。かく言う私も、卒業から1年半後に、事業部を会社として独立させました。

MBAに集まったのは、私にとってもみんなにとっても、「前夜」だったのでしょうね。これからも最適な選択をして、もっと良い会社にするためにも、様々なやり方で学び続けようと思っています。なので、同窓生のみなさん、これからもよろしくお願いします!


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