「その価格じゃまとまらないよ。」
パーツワンの代表である長倉と台北見本市(通称:AMPA)に参加した時のことでした。
グローバルな仕事をしてみたい。
日本の最大産業である自動車に関わりたいと思ってパーツワンのインターンに応募したのは東京で冬の到来を告げるからっ風が冷たく吹付ける頃だった。軽い気持ちでインターンにエントリーしたが、パーツワンの選考は自分の考えを自分の言葉で表現することを追及し、新しい知識を吸収すると即アウトプットする力が求められます。インターンの選考を受ける前はこんなにハードルの高い会社とは思いもしませんでした。インターンとしてジョインした3ヶ月で仕事の基本を徹底的に叩き込まれる日々を過ごし、仕事に対する厳しさを知る一方で仕事に対する欲が少しずつ出てきました。
~会うべき10人プロジェクト始動~
2019年新年の挨拶で代表である長倉が
「会社の成長スピードを加速させる。」
こんな話を遠耳で聞きチャンスがあれば自分が当事者となって仕事を動かしたいと思っていました。
語学の壁を感じたことはなかったので海外チームの一員として役割を果たす自信はあったのですが、それはまだ先の話と思っていました。ところが「海外進出するための会うべき10人プロジェクト」の責任者として社長から指名され自分の仕事への取り組み方が大きく変化していくことになります。このプロジェクトはパーツワンが海外進出をする事前準備として組まれたプロジェクトで、重要なキーパーソン10人をリストアップし直接ヒアリングに行き(全員初対面)、成功例や失敗例、現地の政治的情報や宗教情報、国民性や市場分析を行うプロジェクトです。在日スリランカ人や、すでにフィリピン、マレーシア、タイなどに輸出を行っている日系企業に直接赴き情報収集をスタートさせました。それ以外にもロングリストと呼ばれるリストを作成し直接電話でヒアリングを行い、企業を選定していきます。その過程の中でスリランカ人より確かな情報を得た海外進出チームはこの時点で4月下旬の台北出張、5月上旬のスリランカ出張を決定しました。(その後スリランカ出張はテロのため延期が決定される)
~インターン生でも海外出張する~
2019年4月下旬の台北出張に向けて事前準備を開始します。アプローチリストを作成し、事前アポイントをとりターゲットサプライヤーを選定していきます。早朝の羽田を出発し台北入りしたのはお昼前。気温29度。湿度85%と言った南国の雰囲気が高揚する私の気持ちをさらに加速させます。空港から長距離バスに乗りAMPAの会場に着くと世界各国からバイヤーが集まっていました。サウジアラビア、インド、フィリピン、パキスタン、アフガニスタン、タンザニア、南アフリカ、フィリピン、中国、インドネシア、マレーシア、タイ、アメリカ、カナダ、ドイツやスウェーデンもいました。
「おお、これぞグローバルビジネス!」
アポイントをとってあるサプライヤーと早速交渉します。相手は老舗サプライヤーが多く交渉はタフなものになりました。クオリティの担保、価格、MOQ(最低少数ロッド注文)の有無、納期、シッピング手数料の有無、パッケージの確認、こちらの意向とサプライヤー側のメリット。小ロット短納期の希望に対して、大量発注を要求してくるわけですから交渉は簡単にまとまりません。
また言葉のニュアンスは同じ英語でも伝わらないものが多く、何度も何度も言葉を選び直し相手の表情を見て話を進めます。
現代の海外貿易交渉はスマホを駆使し、画像を取り寄せ、資料を取り寄せ、Line交換をし、少しずつ話が前に進んでいきます。サプライヤーとの交渉でスマホのフル活用は必要不可欠です。機転を利かせたITツールのフル活用は外せません。
日本企業との交渉のような型にはまったお行儀の良いものよりも、その場、その瞬間にしか感じ取ることのできない感覚を信じて相手のYESを引き出します。
どこかの偉い学者が言ってた5段階の心理とか、小さなYESを積み重ねるだとか遠い記憶の片隅にあったけど、現実はそんなものではなかった。
~商談のタフさを体験~
老獪でタフなサプライヤー担当者は
「新規の製作だから始めのオーダーは500個以上だ。」
「300万円以上でなければ話は進めない。」
など要求も様々。
私達のメリットと相手のメリットを何度も説明して、立ち話からスタートし、カタログが出てくると次はサンプルが出てきます。脈ありと認められるとテーブルでの商談に移り、感触が良ければ飲み物が出てきます。さらに具体的になるとエンジニアが出てきたり総経理が出てきたり。工場と連絡をとってみたり。チャレンジャースピリット溢れる国民性はすでに電子機器の世界で確立している「世界の工場」と言う立ち位置を証明するようなものであり、自動車部品の業界に於いても全く同じでした。北米や欧州、中国、日本に納入実績のある会社がほとんどです。
「お前の会社は何年やっているのか?」
「日本のどこにあるのか?」
「俺はもっと凄い会社を知っている。」
交渉なのか責められているのか?区別が付かなくなるぐらい言葉に言葉を重ねてきます。
そう、これは「ビジネス交渉という場を通した戦いなんだっ!」攻めなければ。攻めのカードを切らなければ。日本市場の大きな可能性はサプライヤーにとってもプラスになるはず。いつもなら自分の言葉を伝えるだけで良いのですが英語に変換するとなると考えながら話をすることが求められます。相手の顔を見て、こちらの意図する部分がきちんと伝わっているのか?一言一言確認しながら商談を進めます。まるで数学の証明問題を小学校低学年の子に説明するような気分です。
数字とその根拠を伝えゆっくりとゆっくりと一つ一つの事実を積み重ねて話をして行きます。
相手の英語理解力を確かめ、工場のスペック、今までの実績を確認するといよいよこちらの要求を全面的に伝えていきます。新規の案件についてはほとんどの人が興味を示してくれ、とても好意的な印象を受けました。できない理由を探すのではなく、どうすればできるのか?を真剣に検討してくれます。ここまでは順調だと思っていました。
ところが条件面の交渉になると空気が一変します。攻めと守り。守りと攻め。お互いの主張はするものの交渉の溝は大きく広がるばかり。
社長からはもっと攻めろと指示を受けますが、サプライヤー担当者は我慢の限界のような表情で私を睨みつける。
「うっ。」
現実には言葉にできない圧迫した空気感が漂います。振り返って社長の表情を見ると笑顔で妥協する気一切無し。日本のユーザーのためだと極めてポジティブ。サプライヤー担当者は早口の台湾語でボスと言い争うような雰囲気。重い空気が交渉のテーブルに漂います。
ここで屈したら交渉は終わりだと弱気になりそうな自分の心を奮い立たせ、再度アタックします。
わざわざ日本から来たんだ。
日本のユーザーのためにも良い条件を引き出さなければ
交渉を通じて使命感のような気持ちが芽生え、言葉に力が入ります。言葉でダメなら身振り手振りで。怖顔、嬉顔、斜顔、良顔。
サプライヤー総経理の表情も徐々に優しくなりパーツワンとサプライヤーメーカーの合意ポイントが見えてきました。「この後の交渉はメールで」と言ってきましたが、「私達は台北までビジネスパートナーを探しに来た。このまま帰ることはできない!」と言葉と共に本気度を伝え、熱意が国境の壁を超え相手に伝わりました。
国が違えば常識も感覚も違う。習慣やメンタリティも違う。だから面白いし新しい発見がある。
これがインターンなのか?
いや私は間違いなくビジネスの中心にいる。仕事を通じて他国の文化や違いを知り自分自身の知見が広がっていくことが今は何よりも楽しい。これがパーツワン。
台北市汐留区より。
児玉 丈爾(東京大学文学部4年生) 通称ジョージ ペーパードライバー。長崎県出身。