THE NEW JAPAN
日本の地域文化を特集する雑誌『THE NEW JAPAN』。伝統の継承、新しい融合の創造、そして過去を未来へとつなぐ試みを探していきます。
https://thenewjapan.com/
2025年12月4日、NOT A HOTELから一冊の雑誌が創刊されました。タイトルは『THE NEW JAPAN(ザ・ニュー・ジャパン)』。
それは、私たちが掲げる「日本の価値を上げる」というミッションを、紙のメディアという形に昇華させた挑戦です。創刊号で特集したのは、石垣島や西表島をはじめとする「八重山諸島」。しかし、この雑誌は単なる地域紹介のガイドブックではありません。
「日本をどう伝えるか」ではなく、「日本とどう出会い直すか」。
なぜ今、私たちはこの挑戦を始めるのか。その舞台裏にある議論と試行錯誤について、編集長を務めるW. David Marx、プロジェクトを牽引した編集者・中牟田知樹、そして旅の体験を設計する中村友美の3名に詳しく聞きました。
━━━ まずは創刊おめでとうございます。リリースから1ヶ月以上が経ちましたが、そもそもこのプロジェクトはどのように始まったのでしょうか。
David:始まりは、2025年3月に代表(Co-CEO)の濵渦さんから受けた「海外に向けて、日本の地方の魅力を伝える雑誌をつくろう」という一言でした。私はグローバルの広報担当として入社して間もなかったのですが、急遽編集長を任されることになって(笑)。
━━━ なかなかの急展開ですね。
David:最初は「本当につくるの?」という半信半疑な部分もありましたが、そうこうしているうちにイメージが沸き始め、すぐに『THE NEW JAPAN』という名前が浮かびました。それを提案したら「いいね、それでいこう」と即決。そこから中牟田さんに連絡して、具体的な制作が動き出しました。
W. David Marx:執行役員 Global Communications。ハーバード大学東洋学部卒業。慶應義塾大学商学研究科修士課程修了。グーグルでアジア太平洋広報シニアディレクターとして13年間従事。HUMAN MADE株式会社 社外取締役。著書に『アメトラ』『STATUS AND CULTURE』がある。2024年4月NOT A HOTEL参画。
━━━ 中牟田さんは、コンテンツクリエーションチームとして普段は各拠点のカタログなどを制作してますが、雑誌の話を聞いた時はどう感じましたか。
中牟田:Davidさんから最初に「エディトリアルガイド」というかたちで、雑誌の編集方針をDavidさん自身の言葉で表現した資料をもらったんです。それが非常にクリアで、迷いがなかった。だから僕も「この雑誌を実現するために、どんな紙を選び、どんな写真家に依頼すべきか」という具体的な設計にすぐ入ることができました。
━━━ 特筆すべきはクリエイティブチームの布陣です。アートディレクターはイアン・ベネット氏ですね。
David:はい。書籍『NOMA IN KYOTO』のデザインを見て、彼にお願いしたいと思いました。驚いたことに、彼は当時まだ日本に来たことがなかったのですが、それでも「ぜひやりたい」と言ってくれて。そこからデンマークやスウェーデンのデザイナー、そして日本の取材チームが合流する、非常にグローバルな体制で制作が進みました。
制作過程は、まさに「飛行機をつくりながら飛ぶ」ような感覚。目的地を見据えながら飛び続け、つくりながら機体を整えていく。ページをめくるたびに新しい発見がある、これまでの観光雑誌とは一線を画すクオリティを目指しました。
中牟田:創刊号でまだ実物がない段階でしたが、コンセプトに共感してくれたフォトグラファーやイラストレーターの方々も加わり、濃密な制作の日々でした。それぞれの視点で見つめた八重山諸島の姿を、イアンさんやデザインチームが一冊の本にまとめ上げる過程は、雑誌ならではのプロセスだったなと。
中牟田 知樹:上智大学総合グローバル学部卒。新卒で出版社マガジンハウスに入社、anan編集部で女性誌『anan』の編集に携わる。22年12月NOT A HOTELに参画。
━━━ 今、なぜこのタイミングで「雑誌」だったのでしょうか。
David:いま日本は空前の観光ブームですが、多くの外国人が知っているのは東京、京都、ニセコなどのいわゆる“ゴールデンルート”が中心です。けれど、日本全国を巡るなかで、地方にはまだ世界に知られていない素晴らしい文化や伝統が数多く残っていると実感してきました。だからこそ、その価値を“世界基準のかっこよさ”で提示する役割が必要だと思ったんです。
中牟田:会社としてもミッションを「日本の価値を上げる」へとアップデートし、2025年7月にはISHIGAKI EARTHが開業しました。自分たちが拠点を置く地域の魅力を、単なる「物件周辺の情報」としてではなく、ひとつの文化的な文脈として語り直す必要がある。そう感じたことも、このプロジェクトの大きな後押しになりました。
建築家・藤本壮介氏が表現するもう一つの地球 “ISHIGAKI EARTH”
━━━ 具体的に、どんな軸で編集されたのでしょうか。
David:もっとも大事にしたのは、観光スポットを紹介することではなく、その土地の「景色」や「食」に触れたときに生まれる「行きたい」という衝動をかたちにすることです。たとえば伝統をそのまま見せるだけではなく、若い世代がそれを受け継ぎながら新しい挑戦をしている姿。そんな「動いている文化」に光を当てたかった。情報を並べるのではなく、癒やしやインスピレーションを届ける「体験としての雑誌」を目指しました。
中牟田:制作を進めるなかで確信したのは、NOT A HOTELというブランドと、この雑誌のメッセージが完全にリンクしているということです。「日本の地方には、世界に誇れる価値がある」。それを今回は建築を通してではなく、編集というアプローチで表現する。それこそが、このタイミングで雑誌を創刊した最大の意義だと思っています。
日本各地の地域文化を紹介する雑誌『THE NEW JAPAN』
━━━ ここで、中村さんがリードする「Destination Experiences(DEx)」チームとの関わりについても伺いたいです。
中村:私は2025年3月から、石垣島をはじめとするNOT A HOTELのある地域への視察を進めていました。もともとはDExチームが開発する体験をまとめたブックレットの制作を中牟田さんと進めていたのですが、現地で出会う体験や内容が次第に『THE NEW JAPAN』の取材と重なる部分が増えていったんです。
━━━ 八重山諸島でプロジェクトが二つ並走していたわけですね。
中村:そうなんです。ただ、中牟田さんが両方の制作に深く関わってくれたおかげで、役割の棲み分けが明確になりました。DExは「NOT A HOTELに泊まるからこそ叶う、エクスクルーシブな体験」を深掘りし、『THE NEW JAPAN』は「より広く日本の価値を世界にプレゼンする」役割を担っています。
中村 友美:慶應義塾大学総合政策学部卒。教育、フィットネス、フレキシブルオフィス業界にてグローバルプロジェクトマネジメントを経験。2023年11月NOT A HOTELに参画。
David:お互いのプロジェクトに対して、いい意味でプレッシャーがありましたよね(笑)。DExチームがつくったブックレットを見て、「負けられない、もっと良いものをつくらなきゃ」と。このチーム内の“良い競争”が、最終的なアウトプットの質を引き上げたと思います。
一同:(笑)
中牟田:友美さん(中村)と一緒に地域を巡りながら、「これは雑誌の特集として見せるべきだ」「これは深い体験設計に向いている」と、現場でチューニングしていきました。その時間を通して、雑誌と体験設計が地続きであることを強く実感できた。
まさに理想的なクリエイティブのあり方だったと思います。最終的に『THE NEW JAPAN JOURNEY』というトラベルサービスへと繋がっていく、一貫した体験の骨組みは、この密な連携があったからこそ実現できたと感じています。
━━━ アウトプットの裏側には、相当な試行錯誤があったと想像します。
David:意外かもしれませんが、一番の苦労は「制限がなかったこと」でした。通常、雑誌制作はページ数や予算などの制約があるからこそ、クリエイティビティが研ぎ澄まされる。でも今回は、良いコンテンツがあれば160ページの予定を190ページに増やしてもいい、という自由があったんです。だからこそ、どこで“完成”とするか。その判断が一番難しかったですね。
中牟田:試行錯誤とは異なるエピソードですが、リサーチの段階では想像していなかった出会いも本当にたくさんありましたよね、友美さん。
━━━ 例えば、どんな出会いですか?
中村:忘れられないのは、カツオ漁船のエピソードですね。もともとは別の文脈で、地域を支えてきた先達の方々が泡盛を飲んでいる様子を撮ろうとしていたんです。その飲み会でたまたま隣に座った方が、八重山最後のカツオ漁船の息子さんだった。「これは『THE NEW JAPAN』の記事として絶対に取材すべきだ」と思って、中牟田さんを呼びました。
中牟田:水揚げされたばかりのカツオを食べながら、漁に対する想いを聞かせてもらって。後日船長であるお父さまとも会わせてもらい、カツオ漁船に乗せてもらえることになりました。地域に足しげく通って、現地の方とお酒を酌み交わさないと辿り着けないストーリーがある。現場に足を運ぶことの重要性を、改めて実感した瞬間でした。
八重山最後のカツオ船 (photo: Tatsuya Tabii)
中牟田:あとは西表島のエピソード。島での取材中、希少なイリオモテヤマネコに出くわさないかと楽しみにしていましたが、やっぱりそう簡単に見つかるものではありません。その「出会えなさ」こそがリアルな体験だと思い、写真を借りて掲載するのではなく、イラストレーターさんに描き下ろしてもらうことにしました。本を読んだ人が、実際に見つけてくれたら嬉しいですね(笑)。そうやって現場での試行錯誤を一つひとつ積み上げていったこと自体が、この雑誌の面白さだと思います。
━━━ 創刊と同時に発表された『THE NEW JAPAN JOURNEY』は、雑誌というメディアを実体験へと接続する大きな挑戦ですね。
中牟田:はい。THE NEW JAPANのWebサイトでは『THE NEW JAPAN JOURNEY』のページがあり、そこからオーダーメイドの旅行体験を申し込めるようになっています。雑誌を読んで「ここに行ってみたい」と思ったその瞬間に、私たちが旅をフルサポートする。誌面のストーリーと、その先にある体験までを、ワンセットで提供する構想です。結果として、このメディアならではの独自性を、より明確にできたと感じています。
中村:実はこれ、リリース直前まで議論を重ねました(笑)。海外の方に向けたトラベルプランの構想自体は別で進んでいたのですが、リリースの半月前に「雑誌で高まった熱量が冷めないうちに、そのまま旅を予約できるかたちにしよう」と一気に動きました。この『THE NEW JAPAN JOURNEY』が、日本の価値を“体感”してもらうための最高の入口になると信じています。
━━━ 雑誌が旅へ誘うチケットになるのはワクワクしますよね。今後の「THE NEW JAPAN」の展開を教えてください。
David:2026年は計3冊の刊行を目指しています。次号は「瀬戸内特集」の予定です。さらに雑誌だけにとどまらず、物件のカタログに『THE NEW JAPAN』視点のコンテンツを織り交ぜたり、東京や京都では情報量の多い小さなガイドをつくったりと、メディアの形そのものも広げていきたいですね。
中牟田:目指しているのは、「NOT A HOTELが手がけた雑誌」という枠を超えて、『THE NEW JAPAN』そのものが一つのブランドとして確立することです。書店で偶然手に取った人が、日本のディープな文化に触れ、その体験が私たちのミッションへの共鳴につながっていく。そんな流れをつくりたいですね。
中村:『THE NEW JAPAN JOURNEY』としては、今後ルスツ(北海道)をはじめ、フラッグシップとなる拠点が全国に増えていくなかで、よりエクスクルーシブな体験を磨き上げていきたいです。そして、思わず「WOW」と声が出るような旅をプロデュースし、「日本の価値を届ける最後の一手」を私たちが担っていきたいと思っています。
中村自身も体験を通じて、その土地の歴史、文化を学んでいる
━━━ 最後に、この記事を読んでいる方々へメッセージをお願いします。
中村:『THE NEW JAPAN JOURNEY』は、まだまだ始まったばかりで、ゼロからイチをつくるフェーズです。日本の価値を旅というかたちにして届ける。そのパッションを持った、一人目のオペレーションマネージャー(旅行事業オペレーションリード)を募集しています。この旅のつくり手として、ゼロから一緒に立ち上げていける仲間と出会えることを楽しみにしています。
中牟田:『THE NEW JAPAN』では各地域の編集者やライター、そして体験を共創してくれるパートナーを求めています。自分たちだけの視点で「これがいい」と決めるのではなく、地域に深く入り込んでいる方々とインタラクティブにつくり上げていきたいですね。伝えたいことはまだまだありますが、そのすべてを雑誌に込めましたので、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。
David:編集長はアメリカ人で、デザインの拠点はヨーロッパ。舞台は日本(地方)です。共通言語としての「クオリティ」だけを頼りに、文化も時差も飛び越えて一冊をつくり上げる。この複雑で、かつてないほど刺激的なプロセスを楽しめる人にとって、今のNOT A HOTELはきっと一番面白い場所だと思います。新しい日本を世界へ提示するチームに、ぜひ加わってほしいですね。
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