ニューロマジックでは、取締役のベッティーナ・メレンデス(Bettina Meléndez)と、取締役兼執行役員の永井 菜月(ながい なつき)の2名の女性リーダーが活躍しています!
今回は、二人の対談の模様をお届けします。
ニューロマジックの未来像から、日本社会の現状、そして女性リーダーとして感じていることなど、率直に語ってもらいました!
※この記事はSERVICE DESIGN BLOGの転載です。
2024年9月30日にTOKYO PRO Marketへ新規上場したエクスペリエンスエージェンシー「ニューロマジック」。上場を記念して、取締役兼執行役員の永井 菜月(ながい なつき)と取締役のベッティーナ・メレンデス(Bettina Meléndez)の対談を行いました。
ニューロマジックは女性社員の割合が高く、チームリーダーの半数以上を女性が担う職場です。2024年に永井さんが執行役員から取締役兼執行役員になり、ベッティーナさんと共に役員に加わりました。日本企業において、女性リーダーが半数以上を占める職場は依然として珍しく、2024年7月の時点で東証プライム+スタンダード市場上場企業役員に占める女性の割合は12.9%にとどまっています(参照元:Keidanren)。
二人は、それぞれサステナビリティとDEI(多様性、公平性、包括性)領域を担当し、社内外で積極的に変革を促進しています。上場を果たし、より一層の飛躍を目指すニューロマジックが、どのようなビジョンを掲げ、未来に向けてどのように進んでいくのか。まだまだ女性リーダーが少ない日本の現状について、どう感じているのか。お話を伺いました。
左からベッティーナ・メレンデスと永井 菜月
■ベッティーナ・メレンデス(Bettina Melendez)
国際的エージェンシーでの戦略立案、オランダ領キュラソー島政府観光局でPRのマネージメント職を経て、ベルリンのスタートアップシーンにてカスタマーエクスペリエンス、サービスデザイン、コミュニケーション、ビジネスデザインの職務を経験。豊富なビジネス経験と、複数NGOでの社会貢献・ボランティア活動を通じて、ビジネスにおける持続可能性について幅広い知見を身につけている。2021年、ニューロマジックに参画し、サステナビリティソリューショングループのリーダーとして従事。2024年5月1日よりニューロマジックアムステルダムのCEOに就任。オランダ・アムステルダム在住。
■永井 菜月(ながい なつき)
上智大学院グローバルスタディーズ研究科卒業。2018年当社入社。サービスデザイナーとしてユーザーインタビューなどの企画・実施から、調査結果を基にしたサービスの体験設計やブランドデザインを担当。 2020年よりチームリーダーとして育成や同グループの事業づくりにも携わる。また学生時代から多様性やEquity(公平性)について関心を持ち、修士課程では米国のマイノリティコミュニティを研究。2022年よりDEI担当執行役員。2024年5月より現職。
インスタにバイト先。二人のニューロマジックとの意外な出合い
ーーまずはじめに、お二人がニューロマジックに入社した経緯を教えてください。
ベッティーナ・メレンデス:ニューロマジックとの出合いはInstagramを通してでした。何かの投稿に私が返信する形でDMでの会話が始まって、履歴書を送り、サービスデザインのプロジェクトにフリーランサーとして参加することになりました。でも言語の壁があり苦労していたところ、サステナビリティトランスフォーメーション(現:サステナビリティソリューション)グループが立ち上がることになり、戦略の考案を頼まれ、チームを任されました。それからあっという間に3年が経ちます。
私は子どもの頃からサステナビリティには強い関心がありました。11歳の頃にはグリーンピースのクラブに入り、アウェアネスを広める活動をしていたことを覚えています。父がジャーナリストなので、情報に触れる機会が多く、世の中に問いを持ち始めるのも早かったのはあるかもしれません。小さい頃から環境問題に危機感を持っていて、そこから段々と教育に関心がでてきました。その後マインドフルネスについてのコースをとり、経済的格差が目立つエリアで小学生にマインドフルネスを教えるボランティアを始めました。この混沌とした世界で、子どもたちが自分自身のなかにセーフスペースを見つけられたら、彼らの人生の質が向上するとともに社会も良くなると思ったんです。
永井 菜月:私は、ニューロマジックの社員との偶然の出会いがきっかけでした。大学院生のときにしていた原宿のバイト先に、ある日、サービスデザイングループを結成した元社員が買い物に来ていました。彼は日本語が話せなかったので、英語で接客することになり、そのなかでジョークを言ったところ、英語力を褒めてくれて。翻訳できる人材を探していたみたいで、「君みたいに英語を話せる人をどこで見つけられる?」と聞いてきました。大学院の最後の年だったので、「私は?」と言ったんです。そんな経緯で、サービスデザインのチームに最初はインターンとして入りました。
DEIへの関心のきっかけとしては、大学院ではアメリカに移民してきたイスラム教徒の2世、3世がどのように信仰とアメリカ文化のなかでアイデンティティを形成するかを研究していました。きっかけは小学5年生のときに起こったアメリカ同時多発テロ事件です。それまでの人生で初めて目にした大きな国際問題でした。当時の報道に偏りを感じて、イスラム教徒の多面的なストーリーを知りたいと思いました。
ニューロマジックのキャリアは翻訳家とサービスデザイナーとして始まったので、多様性や公平性といったトピックとは直接的に関係がある分野ではありませんでしたが、個人としてはもちろんのこと、ビジネスでそういったことを実現することが重要だと感じ、社内で声を上げ続けて、2022年にDEI担当執行役員を任されました。
ーー今回の上場に対してどう感じていますか?
永井:役員として上場セレモニーの場に並んだときはとても嬉しかったですね。でも何かを成し遂げたり、新しいプロジェクトを始めたりするたびに、より大きな責任が伴うということは意識してしまいます。
私は、上場は目的ではなく、プロセスだと考えています。ニューロマジックでは<「都市」のような組織を目指し社会の変化に対して影響し続ける>というビジョンを掲げています。
「都市」はそこに暮らす人、働きに来る人、観光しに来る人など様々な関わりがあり、多様性のなかで成り立っています。我々の組織も、価値観を同じくする人たちが会社や個人の垣根を越えてパートナーシップを組み、共存共栄していける「都市」のような姿になることを目指しています。上場を通してどうより大きな都市をつくっていけるのか、より大きいインパクトを生んでいけるのか。それが重要だと思います。そういった意味では大切なツールになると思いますし、意味があることだと思います。
ベッティーナ:もちろん、ニューロマジックの上場の瞬間は嬉しかったです。サステナビリティやDEIを促進する企業として、露出が増えることはとても大切です。露出が増えれば、他の企業に知ってもらい、影響できるかもしれません。私たちが率先して手本を示す必要があると思っています。
東京証券取引所上場セレモニーでの二人
女性の役員が少ない背景には、社会の構造的な問題がある
ーーまだまだ女性の役員が少ないという日本の現状についてどう感じていますか?
永井:ニューロマジックも私が取締役兼執行役員につく前は10年以上全員男性で、会社は変革の必要性を感じていました。そしてそれぞれサステナビリティとDEIに注力しているベッティーナさんと私が取締役に就任しました。日本企業でも女性の役員を意識的に増やそうとしてはいますが、実際に実現している企業はまだまだ少ないと思います。そういった意味では私たちはラッキーだったと言えるかもしれませんが、同時にもっと早く声を上げていれば、もっと早く実現したのではないかとも思います。
ベッティーナ:私の日本以外でのキャリアを振り返っても会議室で女性が私だけ一人という状況は少なくありませんでした。指導者も男性なことの方が多かったです。彼らに「タフになれ」「決断は素早く」「コミュニケーションを過剰にするな」と教えられてきました。でも欧米で、女性起業家の方がより高い収益を上げ、多くの雇用を創出し、効果的なリーダーシップを発揮しているというデータがあります(参照元:Court of Arbitration of the European Chamber of Digital Commerce)。また、男女ではコミュニケーションの長けている部分が違うというデータがあります(参照元:National Library of Medicine)。企業は、女性がもたらす利益が大きいということに気づかないといけません。男性と強みは違うかもしれないですが、それでいいんです。それぞれの良さを活かしていくべきではないでしょうか。
ー一人の女性として、ビジネスのシチュエーションで不平等を感じたことはありますか?
永井:私は新卒で女性が多いニューロマジックに入社し、ここでしか社会人を経験していないので、幸運にもこれといった差別を感じたことはありません。
ベッティーナ:私は女性だからという理由でお茶汲みを頼まれたり、ミーティングの設定や出張の際の交通機関やホテルの予約などを任されたりすることが多かったです。仕事場で「子どもを産む予定はあるのか?」と聞かれたこともあります。特に衝撃だったのは、ビジネスイベントにドレスを着て参加した際に、生理前だったのでむくんでいたのですが、男性の同僚にお腹をつつかれ「引っ込めろ」と言われたことです。「自分のお腹を見たことあるの?」と思ってしまいました。男性が同じような体験をすることは滅多にないと思います。こういうことがあると、私生活でも次にドレスを着たときに「着るべきじゃないのかな...」と思ってしまいますよね。だからこそ今、性別に関係なく自分らしく力を発揮できるニューロマジックの環境で働けることは幸せです。ニューロマジックに入る前は、ノーメイクで会議に参加することなんて想像もできなかったです。
ーー女性役員が増えることで、会社にどのような変化が生まれると思いますか?
永井:女性社員の一人が上場セレモニーの後のパーティーで「永井さんが役員になってくれて本当に嬉しい」と伝えてくれたんです。たとえ彼女自身が役員になりたいというわけではなくても、私がこのポジションにいることで、もし彼女が望めば実現するというイメージが湧くと伝えてくれました。みんながリーダーになりたいと思わなければいけないわけではありませんし、それぞれがキャリアに望むものは違っていいと思うのですが、選択肢を持てるということは大切です。社内に女性のリーダーが増えたり、ベッティーナさんのように多様な背景を持つ人が増えることで、誰もが自分が望むキャリアを追いかけられるというメッセージになると思います。
ベッティーナ:リプレゼンテーション(表象)はとても大切ですよね。男性は子どもの頃から、決定権を持つ役職や権力を持つ仕事に男性がついているのを当たり前のように目にしています。女性にとってもそれが普通になるべきです。そうすれば新しい扉が開くかもしれません。「怖そうだと思っていたけど私にもできるかも」と思えるかもしれない。
ーー壮大な質問ですが、日本社会で女性役員を増やしていくためには何が必要だと思いますか?
永井:なんだろう。まず他の企業の女性役員にインタビューしたいな(笑)。ニューロマジックでは女性が役員になるのは普通のことのように感じるので、なぜ他社ができないのか気になります。先ほどベッティーナさんが言っていた通り、女性が決定権のある役職に多い方が、会社にとって利益になることが分かっているから、なおさら。近年、女性の社外取締役は増加しているらしいのですが、社内から昇格する女性取締役の割合はまだ低いそうです(参照元:日本経済新聞)。企業は社内にたくさんの才能があることを知るべきなのかもしれません。この世に完璧な人なんていません。人は挑戦して、経験して、成長するものです。多様性を意識した雇用だけでなく、かれらの社内でのポジションを確保することも含めて、社員と成長していく姿勢が企業には必要だと思います。
ベッティーナ:根底にあるのは、構造的な問題ですよね。今の社会の構造は男性のためにつくられたものです。多くの企業は「男女は関係ありません、一番適した人を採用します」と言うかもしれません。それはいいのですが、採用のプロセスについては考えたことがあるでしょうか? 多くの場合、求人広告には男性志向の要項が並んでいます。ウェブサイトを開けば、写真は男性ばかりで、女性は応募しづらくなります。構造全体が男性をリーダーにすることを前提にしている。もし「男女は関係ない」というのであれば、男性も女性も安心できるようなスペースをつくらなければいけません。「性別は見ない」というのは簡単ですが、見るべきなんです。どうして女性の役員が少ないのか、どうして女性の応募者が少ないのか。ちゃんと考えるべきです。
永井:構造レベルで考えるのは大切ですね。女性は小さい頃から日常的なマイクロアグレッションを受けたり、電車で痴漢を受けたりしているなかで、企業ページに男性しかいなかったら本当に応募しにくいですよね。普段の小さな出来事がビジネスのシチュエーションにも全て繋がっている。構造を見直さないといけないというのは賛成です。
国や文化を超えて大きな都市をつくっていく
ーーこれはアムステルダムと東京オフィスの両方を担当しているベッティーナさんへの質問です。日本とヨーロッパがお互いから学べることはありますか?
ベッティーナ:私は子どもの頃から好奇心旺盛なタイプでした。「なぜ」という質問を大切にしてきました。日本文化のなかで働いていくうちに気づいたのは、この「なぜ」という質問が間接的な批判のように受け取られるということです。単純に分からないから聞いているのではなfく、その人の発言に懐疑的という印象を与えてしまう。日本の会社の文化のなかで変わってほしいことを一つ上げるとしたら、それかもしれないです。もちろん日本の方は文化を理解し、そういったことに配慮した適切な表現を使えると思うのですが、もし国外の人と働いていくのであれば、その前提がないことは知ってほしいです。逆にヨーロッパが日本から学べることは「聞く力」だと思います。日本の方と働くなかで、驚くほど皆さんが注意深く私の話を聞いてくれると日々感じています。私もその姿勢からたくさん学びました。何かを言い返すために聞いているのではなく、聞くために聞いている。ヨーロッパを含め私が過去に仕事をしたことのある日本以外の国では、ありえないことです(笑)。
永井:「聞く力」は特にニューロマジックの社員は得意な気がします。私自身、面談をする際は、そこはとても重要視してチェックしています。
ーー最後に、それぞれサステナビリティソリューショングループとDEIの今後のビジョンを教えてください。
ベッティーナ:当社のサステナビリティの最高責任者として、サステナビリティを全てのオペレーション、そして日常に取り組みたいと思っています。ビジネス戦略やビジネスモデルとしてだけでなく、私たちにとって当たり前のことにしたいんです。私たちには二つの役割があります。一つ目は社内でサステナビリティを浸透させること。二つ目はクライアントのサステナビリティ改革を支援すること。アムステルダムと東京の両方に共通するビジョンは、サステナビリティを企業の核に浸透させ、会社全体がより良い未来に向けて意識を持てるようにすることです。国や文化を超えてニューロマジックの信念である大きな都市をつくっていくこと。ヘルシーにサステナブルに成長していくことが目標です。
永井:私は2022年にDEI担当執行役員に就任して以来、差別禁止宣言など基礎的な取り組みをしてきました。なのでこれからは、社会的マイノリティの方や子育てしている方が感じている壁を取り除くために、会話をしたり調査をしたりして具体的な政策を進めていくフェーズに進みたいです。さらに将来的には社員だけでなく、社員の家族やパートナー企業にもそれを拡大していきたいです。ベッティーナさんも私も、サステナビリティやDEIについて、会社内だけでなく社会の問題として考えています。そのため、最終的な目標は社会の変革に貢献することです。
ただ、あくまでも私たちはビジネス面の責任者でもあり、私はサービスデザインやUXの戦略を、ベッティーナさんはサステナビリティコンサルティングを任されています。社内の環境づくりをしつつも、企業として利益を生むことに注力しているというのは重要なポイントです。ニューロマジックが利益を生み、持続可能なビジネスを実現してこそ、私たちのビジョンを他の企業にも広げていけると思っています。