巷に溢れるFintech関連のニュース。色々あった気はするけれど、なにかと記憶が曖昧になりがちな皆さんのために、当社Fintech研究所長の瀧が独断と偏見で振り返る「月刊 瀧」。今月はセブン銀行の西井さんとの対談を前編と後編の2回に渡ってお送りします。ラインナップはこちら!
【月刊瀧 8月号 前編】
1.セブンコンシェルジュ
瀧 :月刊瀧、前回7・8月号を録ったつもりが、今回、8月号でございます。
高橋:はい。
瀧 :今回は、ゲストにセブン銀行の西井 健二朗さんをお迎えしております。どうぞよろしくお願いいたします。
西井:よろしくお願いします。
1.セブンコンシェルジュについて
瀧 :いきなりですが、本題です。コミケに出られたとのことで、そのお話を聞きたいです。コミケで公開されたのってお盆の前の週でしたっけ?
西井:8月10、11、12日ですね。
瀧 :このニュース、初めて聞いたときに、とにかくすごい、えらいことになったなあ、と思いました(笑)
西井:ノリで出てしまいました
瀧 :MONEY PLUSでも取り上げさせていただきましたが、コミケに出店したのは金融機関では初めてですよね?
西井:初めてです。
瀧 :銀行はおろか、他の金融業態でもなかったと思うのですが。社内の人にどうやって説明したんですか?
西井:してない(笑)
瀧 :ええっ
西井:この企画は全体的にステルス(笑)
瀧 :カッとなってやった系(笑)
西井:コミケ、って言っても、皆さん知らないんです。ニコニコ超会議とかは知っていますが。ただ、話が広がると、偉い人の息子さんがそういえば行っていた、みたいに、案外行っている人がいるという話になりました。僕はちなみに知らなかった。
瀧 :へー。すごい。
西井:コミケのエントリーは2月頭くらいが期限で、この企画のGoサインが出てるか出てないかくらいのタイミングでした。広告宣伝的に見てもらうのに、ちょうどいいんじゃないかということで、とりあえず申し込みしといたんです。
瀧 :へー。
西井:で、金融機関で初めてということで、運営側の方から事前に「何やるんですか?」と面談を受けてですね、で企画を説明して「面白そうですね」ということになって。それが5月かな。
瀧 :そうなんですね。そういえば、企画名の「セブンコンシェルジュ」なんですが、セブンイレブンなので7人なのか、予算の関係で7人なのかっていう質問がありまして、、、
西井:予算じゃないですね、人的リソースですね。もともと12人いたんですよ。
瀧 :えー!そうなんですか?
西井:セブン銀行では、口座開設月によって支店名が12種類あって、花の名前になっています。例えば、ハイビスカス支店とか。
瀧 :はい。
西井:各支店に一人のコンシェルジュ、っていうことで始めたんで、「ツクモ」とか「九」が付いてるのとかあるんですけど。
瀧 :ほんとだ。
西井:で、もともと花に色を似せたりとかやってたんですが、12人作るのにもうむっちゃ体力が、、、
実は12人の相関関係とか、生まれてからのバックグラウンドとか、それぞれのキャラ設定が全部作ってありまして。それを12人作るのが結構苦しくなってきて、7人にリストラされたっていうことです。
瀧 :この7人は何か競ってるんですか?
西井:競ってないですね。いろんなところでつながりがあって、まだWebで相関図が出せてないんですけど。(※取材時点。現在は下記相関図が公開済)このお兄さんキャラの氷室さんがカフェを運営していて、そこが最終的にはつながってくる、っていう設定で。
(出所)【キャラクター相関図】
瀧 :「金がないならうちでバイトするか?」ってセブンでバイトするってことじゃなくてカフェでバイトするってことなんですね(笑)
西井:そうなんです。
瀧 :この人たちは今、池袋と新宿のアニメイトと新宿歌舞伎町のATMコーナーに行くと会える?
西井:はい。今はそうですね。
瀧 :指名ってできるんですか?
西井:指名は今はできないんですよ。現行のATMの仕様で。なので、今回POC的にやっていて、次の世代のATMから出し分け、っていうのをやりたいなあ、と。
瀧 :それはキャッシュカードの情報からの出し分けなんですか?
西井:全員に出たら嬉しくないお客さまもいるので、例えばスマホATMとかって言って、プラスチックカードがなくても出せる仕組みがあります。希望した人はスマホの中に自分が好きなキャラのバーチャルキャッシュカードが作られて、そのカードを持って会いに行くとその人が接客してくれる、みたいなことを妄想しています。
瀧 :声優さんに「推し」がいて、それをお目当てに来た人とかも結構いるんですか?
西井:ほとんどそうだと思います。今回、僕らはこのIPをオリジナルで作ってるんで、IPに力があるわけではないんです。なので、声優の方のパワーやインフルエンス力に頼ったかたちです。
瀧 :今のところ、どなたが一番人気あるんですか?
西井:皆さま人気がありますので甲乙はつけられないです。知人でこの世界に精通している方からは、なんて豪華なキャスティングとコメントいただきました。今回、ATMの3キャラのうち、SNSをやってる方は、実は小野友樹さんしかいないんですが、フォロワーが55万人もいるんですね。まだATMに登場いただいておりませんが、木村良平さんは100万人、代永翼さんは75万人、津田健次郎さんだと37万人。すごいことです。このことに、他の金融機関も気づけばいいなあと思ってやってます。
もともとこの企画は当社のアクセラレータープログラムで、フーモアという漫画やエンタメコンテンツを作ってるスタートアップ企業が「エンタメ×金融」で新しい金融を!との提案を頂きまして全力で「いいね!」なんて言ったものの、具体的になにをやるかでちょっと迷走していた時期に、当時2万を超えるリツイートをされていた一般の方のつぶやきがありまして、それを見てユーザーが求めているのはこれなんだな、と。
瀧 :本当のオープンイノベーションだったわけですね(笑)
西井:で、今回はATMからキャラが強制的に出ちゃうんで、置き場所に困ってアニメイトさまにご相談に行ったら、「是非、やりましょう!」となって、こういう奇跡の座組みになっていると。
瀧 :アニメイトでクレジットカードを利用すると、マネーフォワードの自動分類では「秘密の趣味」になるんですよ。せっかく秘密の趣味にしてあげてるのに、それ喜んでつぶやく人たちがいて。今後、カード使わずにATMで引き出す人が増えるから、秘密の趣味の分類が減るはずですよね。当社としてはツイートされづらくなる(笑)
西井:店舗で見ていると、あまりクレジットカードを使う人いないですね。ほとんど現金です。
そういえば、この脅威のツイート知ってます?これも一般の方なんですけど、要は「引き出して買わないとだめでしょう」みたいなツイートが8月25日の昼にされて。今回アニメイトさまにATMを置いたことについてなんですが。
最近、日中ずーっとツイッター見てるんです(笑)どんどん流れていくと見落としちゃうんで。すごい勢いでツイートされているのをずっと見てます。
...今、どれくらいいいね付いているでしょう?
瀧 :さっきのが1~2万だったので、それくらいですか?
西井:3.9万いいね、です。
瀧 :すごい(笑)
西井:2万リツイート。すごくないですか?
瀧 :もはや「推し」に無限に貢いでしまう。1つの発想の原点として、ATMがないから支出が抑制できている、ということですよね。ATMがあると身ぐるみはがされるから。
西井:従来であれば、どうしても欲しいときには、アニメイトさまの向かいに別のコンビニがあるんですよ。
瀧 :あー、はい。
西井:わかりますよね・・?(笑)
(ネットの書き込みを見ながら)
西井:ほとんど書き込みはポジティブです。
瀧 :すごいですよねー。
西井:これまた、関連するすごい記事が出てくるんですけど。
セブン銀行に導入された「イケメンATM」をオッサンが利用したら、めちゃくちゃ頭に来たッ! ツンデレ要素なんかいらねえわッ!!
「日向 威月」っていうキャラが歌舞伎町にいて、ツンデレなんですよ。本来「いらっしゃいませ」というところのボイスが「よく来たな」「何の用だよ?」とか言うんです。で、当社以外のすべてのカード入れても「いらっしゃいませ」というのは出てしまうんです、今は。で、それにブチ切れる、と言う(笑)ただ、読んで行くと好意的な記事なんですが、おもしろおかしく書いてくれています。
瀧 :いやー、良いでしょう!
僕、アマゾンのアレクサのスキル、家で使っていて、やたらと「パスコードを教えて」と頼まれるのがツボっていまして(笑)
日向 威月:こんばんわ。今日はどんな日だったかな。パスコードを教えて欲しいなっ!
瀧 :この語気がちょっと強まる感じがすごい好き(笑)
西井:アレクサももうすぐ3キャラ目が出ますので。
瀧 :今はまだ1キャラとかなんですか?
西井:「アレクサ、奏くんでセブン銀行開いて」と言うと3キャラ目の奏くんで開きます。
瀧 :え、そうなんですか。やばい!(笑)
西井:これは、どっちかと言うとアレクサのPOCでやった感じですね。実は残高読み上げられても全然嬉しくなくって、そもそも残高はアレクサボイスでしか読み上げてくれないんです。じゃあどうしようか、となって、参照系APIで取引の摘要欄を見て、給与振込だったら「1か月、お疲れ」とか、デビットだったら最初は「使ってくれてありがとう」なんだけど、使いすぎてると「おい、使いすぎじゃないのか」とか。
瀧 :すごい!良い(笑)
西井:あと、ログイン時間によって朝だったら「おはよう」とか、夜だったら「もう寝なよ」とか、1日3回とか来ると「何の用だよ。暇なのか。」とかって言うっていう。これめっちゃ使うといろんなバージョン出て来るっていう(笑)
瀧 :やり込み要素があるんですね!
西井:はい。ほかにも、エイプリルフールだったら嘘を言うとか、クリスマスだったら...とか実はめっちゃセリフが用意してあって。
瀧 :めっちゃ面白いんですが、ちょっと真面目な話にします。今回お呼びしたのは、実はボイスバンキングの文脈で、まだホームランといえるアプリが全然出てないという文脈がありまして。
去年、Money20/20に行った時も、ボイスバンキングは一つのテーマでして、海外ではどの銀行も軒並みやってる感があります。ただ、アレクサでピザを頼むとか、スタバのオーダーはあったりするものの、純粋なペイメントで、「西井さんにさっきの8000円送って」みたいなのって、まだちょっと先かな、というのが正直な感想です。
でも一方で、日本のインターネットバンキング利用率がまだすごく低くて、それが、声経由であれば、人類が数百万年前から繰り返している行為だから、もうちょっと身近になるよな、ていう期待があるんですよね。
西井:はい。
瀧 :イケメンも一つの象徴だと思うんですけど、セブン銀行さんのプロジェクトで、なんか初めて温かみがあるバンキング体験を見たな、という印象を持ちました。すごい新鮮な顧客体験だなと。
西井:ボイスUI自体はどうなんだろう、と僕は思っていて、アメリカだとどちらかと言うと車社会なのでありだと思うんですよ。乗ってる時にボイスで片付けちゃえという。
でも、日本の、特に都会だとボイスを出す機会があんまりないな、と。例えばホリエモンさんがVUIなんか来ないよ、と言っているけども、そこは一理あるなと思っています。
ただ、声自体が好きな人というのはいるので、そういう人は都心部でも自宅で聴く。だから田舎とか都会に関わらず一定の層でVUIというのは全然有りですね。車に乗ってる時に用事を全部できるんで。
瀧 :ラジオって結構車で聴くと思うんですが、それと近いのかもしれないですね。
ちなみに、可能な範囲で知りたいんですけど、セブン銀行自身の口座があることと、セブン銀行のビジネスモデルって、口座を持ってないユーザーからの収益って大きいじゃないですか。これって、どっちかというと口座を持っているユーザーはボイス型を楽しめて、それ以外の多くのユーザーはイケメンで流入して来る、というマーケティングの考え方になるのでしょうか?
西井:僕らのゴールとしては、セブン銀行の口座を使うユーザーを増そうとは実は思ってなくて、ATMからキャラクターが出て、喋ったりするという体験を提携金融機関のサービスにも使って欲しいと思っています。
提携頂いている金融機関はとりあえず、スマホ上だとなんでも作れるわけじゃないですか。例えばイケメンのインターネットバンキングみたいなものとか。でも金融なんで、最後は現金のトランザクションが発生するので、そのATMのところを僕らは金融機関が使っているキャラなりボイスを出すことをやって行こうと思っていて、それがひとつのゴールです。
もともと、僕が三和銀行に在籍した時「オールワン」という商品の企画をやっていて、今ではあまり見ない、口座維持手数料にいかに付加価値を持たせられるのか、を考えたことがあったんです。
最近はまた、口座維持手数料というワードを聞きますが、コンテンツが良ければ手数料を喜んで払っていただける人たちもいるので、うちのATMとコラボして使ってもらえたら面白いなあ、と思っているんですよね。
瀧 :フレームワークとしては、今はイケメンのインターフェイスですけど、別にこれが...
西井:鉄道とかでもいいんです。
瀧 :たしかに(笑)
西井:宝塚とかもいいかもです。
瀧 :趣味がバーっとさらされるとか(笑)
西井:今回はこれがわかりやすかったんで、これでやってみましたが。
瀧 :キャッシュレスが話題ですが、現実的にはATMはだいぶ残るんだなと最近思うようになりました。日本中の銀行が、全体感としてはATMを減らす方向にある中で、セブン銀行さん、ローソン銀行さん、イーネットさんがありますよね。
動物の目線でATMを見たとき、カードと4桁を入れると餌がわーっと出てくるわけですよ。犬の自動餌やり機で、ポコって押したらジャーッとドッグフードが出てくるあれと、本質的に存在が似てる気がするんです。これって、ひょっとするとすごい体験なんではないかと。
それだけのカタルシスがあるものなのに、どちらかというとセキュアな、制服着た行員さんがおじぎするCG見ていて、これだけの液晶技術の国なのにもったいない、と思っていました。新しい地平を開いたと思っているんですよ。このプロジェクト。
西井:金融だから、きっとここまでしかやっちゃいけないのでは、っていうラインを、たぶんみんな持ってると思うんです。特に銀行という会社にいる人たちに事前説明すると、いろんなことを言う人がいるんで、ここまでやっても大丈夫だよっていうギリギリまで行こうと思ったんで、今回、ツンデレとかもやってるんです。
瀧 :これって金融庁にも説明は必要なんですか?
西井:全く。
瀧 :要らないですか?
西井:はい。このコンテンツが育っていって、グッズを売るとか言うと付随業務なのかどうなのか、みたいな論点は出てきます。グッズを売らない限りは大丈夫だな、と(笑)
瀧 :なるほど(笑)ATMにガチャ機能がついて、10円入れたり引き出したりしまくる人が出てきたりとか、そういうのはないんですか?
西井:10円は入らないんで大丈夫です。1000円はいるかもしれませんが(笑)。
高橋:このグッズたちはプレゼントみたいな形なんですか?
西井:これは今回コミケに来て、ATMを体験してくれた人にプレゼントしたんです。
瀧 :すごくきれい。お金かかってますね。
西井:いや、大したことないですよ。ラバスト(ラバーストラップの略)って言います。
高橋:ラバーストラップ。。
瀧 :へー。缶バッジもある。
西井:SDキャラと言います。スーパーデフォルメ。。
瀧 :西井さんはそういう素養は...
西井:全くなく(笑)
瀧 :一から学習されたんですね。
西井:はい(笑)
瀧 :オタク文化に造詣の深い、例の3人の女性の方々は社内公募されたんですか?
西井:そうですね。なんとなくあぶり出されて。まだまだ、他にもいると思うんですけど。
瀧 :今回は、手を上げる勇気があった3人が・・(笑)
西井:でも筋金入りなんで、ほんとに夜10時とかまで、ずーと3人でコンテンツがこうだとか、シナリオのそれこそ点を打つ位置までこだわったりしています。
瀧 :そこ、大事なポイントだと思います。
西井:そこが結構しっかりしていたのが良かった。中途半端なものを出すと分かりますし。
瀧 :一流じゃないと、みんな気づいちゃうんでしょうね。
西井:わかってるな、というのが、今回ちゃんとできていたのが良かった。その代わり、付いていくのはめっちゃしんどいんですけど(笑)
瀧 :でも僕たち、願わくばそんな仕事がしたいじゃないですか?この方向性かというと、わかんないですけど、せっかくだったらそういう仕事したいじゃないですか。好きな対象が仕事にできるならこだわり抜かないとね、やっぱり。
(後編へ続く...)
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