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LegalForceの角田です。今年の2月末に4年間と2か月の間お世話になった、森・濱田松本法律事務所を退所し、小笠原と共同で株式会社LegalForceを創業しました。また、同時に小笠原と共同で法律事務所ZeLoを創業しています。
僕らがLegalForceを創業した理由
― リーガルサービスの提供の在り方をよりユーザーフレンドリーにしたい。
―高度なリーガルサービスを、地理的な制約や弁護士報酬の多寡に関わらず、より多くのクライアントが
享受できるようにしたい。
―弁護士の労働集約型の働き方を変えていきたい。
―テクノロジーでリーガルサービスを支え、法インフラの基幹となっていきたい。世界標準のリーガルサ
ービスを作って行きたい。
僕らがLegalForceを創業した理由です。
ただ、これだけ読んでも何のことかわからない方が大半だと思います。
今回、僕らが注力していく“企業法務”とはなんなのか、リーガルサービスがどのように提供されているのか、弁護士がどのように働いているのか、を角田の主観的な分析に基づき紹介しつつ、僕らがLegalForceを設立した理由について書きたいと思います。
“企業法務”とは
“企業法務”とは、一言でいうと、企業に関わる法律業務です。M&A、新規事業立案時のリーガルチェック、契約書のレビュー、紛争対応、法務戦略なんかが含まれます。
僕がLegalForce創業前に所属していた森・濱田松本法律事務所は、企業法務に特化した法律事務所で、規模にして国内最大級、法律実務に携わる人であれば知らない人はいないという程、著名な法律事務所でした。
取り扱う領域も、国内外のM&A、ガバナンス、ファイナンス、紛争解決、ベンチャー支援、倒産・事業再生、労務、知的財産、諸外国法務、ファンド等、企業活動に関わる全領域をカバーしており、クライアントは誰でも知っているような上場企業や外国企業、著名ベンチャーからスタートアップ、ファンドや政府機関に至るまで実に多様でした。
所属弁護士は極めて優秀で各自の専門性を極め、人格的にも優れた人間の多い、まさに真のプロフェッショナル集団。
ーBest for Client
ー妥協を許さないクオリティ
ー専門性向上へのたゆみない自己研鑽
―紛争案件では決して負けないよう知恵を絞り尽くす
僕らの仕事に対する姿勢やこだわりは、森・濱田松本法律事務所でもがきながらもがむしゃらに駆け抜けた4年間が大きな影響を与えています。
僕が小笠原と共同で創業した法律事務所ZeLoも、森・濱田松本法律事務所の理念を承継し、企業法務に特化した法律事務所としてBest for Clientの精神のもと、高いクオリティと真にクライアントのためになるアドバイスを日々追求し続けています。
起業家との出会い
弁護士になって数年がたつと、弁護士としての自信もつき、事務所の外へ出ていろいろな起業家の方とお会いする機会も増えました。
ー同世代の起業家が社会を少しでも良くしようと奮闘しているー。
僕が会った同世代の起業家の方は皆、夢を持っていました。
解決したい社会課題に真剣に取り組んでいました。
そして何より、リスクを恐れていませんでした。
ー薬剤師を煩雑な薬歴記入業務から解放し薬局を医療と患者が繋がる“架け橋”に変える、カケハシ
ー空室という“死んだ”空間を資産に変える、スペースマーケット
ー大手広告代理店から地方創生NPOを設立し、地方で起業したアントレプレナー
彼らの後ろ姿は僕の背中を強く押しました。何より、起業・独立という選択肢がとても身近なものに思えた。
時代の流れの中で。社会に必要とされる存在になれるか
他方で、いわゆるITベンチャーの人と話す機会が増えるにつれて、法律業界が抱える非効率性や不合理性が目に付くようになりました。それまで僕の中で常識だったものは、実は非常識でした。
時を同じくして、“AI弁護士現る”というネット記事を度々目にするようになります。
―人工知能「Ross」が弁護士事務所に就職。
それは、カナダの法律事務所がIBMワトソンを用いた法令調査用人工知能を導入したというものです。弁護士4年目、2016年5月のことでした。
僕はこの頃からテクノロジー関連の情報を追いかけるようになります。
―アメリカには法律×テクノロジーの領域、いわゆるリーガルテックの領域で既に1000社を超える
スタートアップが凌ぎを削っているらしい―
―アメリカでは単純な法律業務はソフトウェアに代替又はアウトソースされている―
―アメリカには書類をウェブ上で自働で作成できるサービスがある―
―アメリカの大手法律事務所の多くの弁護士は多くの法律業務がIBMワトソンに代替されると考えている―
"2015 Law Firms in Transition An Altman Weil Flash Survey"より抜粋
また同じ頃、“AI”や“人工知能”という、定義も中身も曖昧な用語が至る所に登場するようになります。それは弁護士とも無縁ではありませんでした。
―テクノロジー、そしてAI。
“弁護士”という職業とこの用語が組み合わさるとき、それはネガティブな意味を伴って伝えられることが普通です。
―高度な専門職であったはずの弁護士がAIや人工知能といった機械に取って代わられる。
それは、一般の興味をひくには十分にキャッチーでした。
そして、弁護士の間でも、これに呼応するかのように、正しい技術的な理解は置き去りにされたまま、“AIは弁護士の仕事を奪うのか”という議論が繰り広げられるようになります。
しかし、こういった議論に僕は非常な違和感を覚えます。
―技術の進歩、社会の変化は不可避。
―大きな社会の変化を前にして、どれほど強い組織であっても過去の栄光にすがる限りは無力であること
は歴史が証明している。ましてや一個人ならなおさらである。
―そうであるならば“自分達の将来がどうなるのか?”を議論することに建設的な意味は何もない。社会から
必要とされれば残るだろうし、必要とされなければ消えるだろう。
ひるがえって、僕は社会のニーズに応えることができているだろうか。
リーガルサービスとは
社会のリーガルニーズについて考察する前に、日本のリーガルサービスの在り方について考えてみます。
例えば、森・濱田松本法律事務所は、国内でも最もレベルの高い部類に属するリーガルサービスを提供しています(と言われています)。そして、法律事務所ZeLoもその立ち位置を目指しています。
ただ、それを享受することができるのは、ほんのごくわずかです。日本に数百万とある事業体のうち、誰もが知っているような大企業がほとんで、その数は全事業体からすれば極一部です。
もちろん、森・濱田松本法律事務所以外にもレベルの高いリーガルサービスを提供する企業法務事務所はたくさんあります。
しかし、弁護士の提供するリーガルサービスは“労働集約型”であるがゆえに、多くの場合、クオリティを維持するためには、優れた研鑽を積んだ有能な弁護士が、時間をかけて案件に携わる必要があります。経験の少ない弁護士が経験豊富な弁護士と同等のクオリティを出そうとすると、さらに多くの時間を要することになります。
こうして、弁護士が作成する成果物はクオリティを追求すればするほど、必然的に弁護士の時間を消費し、弁護士の時間は(いくら24時間体制で働いたとしても)有限ですから、優れた弁護士から優れたリーガルサービスを受けることのできる事業体は必然的に限定されることになります。
これがリーガルサービスは“労働集約型”であるがゆえに生じる1つめ目の問題です。つまり、優秀な弁護士による高度なリーガルサービスを享受できる事業体は今の日本では極めて限定されています。
次に、弁護士の報酬形態についてみてみます。
弁護士は通常、①タイムチャージ、又は②着手金+成功報酬、のいずれかのモデルで業務を受託します。前者は、企業法務の多くの案件で用いられる報酬形態で、弁護士の時間単価を各法律事務所が用意しており、案件処理に要した時間と所定の時間単価を掛け合わせて報酬を算定します。
後者は、紛争案件において多く用いられる報酬形態で、多くの場合、(旧)日本弁護士連合会報酬等基準(http://www.miyaben.jp/consultation/pdf/expenses_kijun.pdf )に従って、報酬が定められます。
ここでは、企業法務案件で多く用いられるタイムチャージモデルについて考えてみます。タイムチャージモデルは、弁護士が案件処理に要した時間に応じてクライアントが報酬を支払うモデルです。
そして、M&Aの際の法務監査(デューディリジェンス)、契約書のドラフティング、判例調査、不正調査、訴訟などの法律サービスは、基本的には時間をかければかけるだけクオリティが上がります。
他方で、時間を限定し、弁護士費用を抑えると、個々の事案に応じた適切かつきめ細やかな対応が難しくなります。
世の中に溢れている、取引実態を全く反映していないテンプレートをそのまま流用した契約書なんかがその典型例です。
こうして、タイムチャージモデルのもとでは、よりクオリティの高いリーガルサービスを享受するためには、所要時間に応じた多額のコストを支払う必要が出てきます。
これがリーガルサービスは“労働集約型”であるがゆえに生じる2つめ目の問題です。つまり、クオリティの高いリーガルサービスを受けるためには、クライアントは多額のコストを支払う必要があります。
実際には、営業利益に直結しない法務コストに多額の費用を支払うことができる事業体は限定されますから、多くの事業体では法務面のフォローは置き去りにされたままとなります。
これが現在の日本のリーガルサービスが構造的に抱える問題であり、これが解決されない限り、日本社会全体の法務レベルの向上は極めて困難であるといえます。
「怠惰」「短気」「傲慢」
プログラマーの3大美徳。はじめてこの言葉に触れたとき、僕は意味がよくわかりませんでした。ただ、説明を聞いてすぐに納得しました。
ー“怠惰”は、合理性・効率性の追求につながり、
ー“短気”は、課題発見と改善のために要する時間を短縮し、
ー“傲慢”は、成果物に対するこだわりを意味する。
翻って、法律家はどうか。
ー司法試験受験を通じて叩き込まれた“勤勉”さは、ともすれば合理性・効率性の追求よりもコツコツと地道
な作業を積み上げることが美徳とされ、
ー時間に縛られないが故の長時間労働とプロフェッショナルであり続けるための専門知識の習得には“気
長”であることが要求され、さらにはタイムチャージモデルが時間短縮へのインセンティブを奪う、
結果として、合理性、効率性、時間短縮は、リーガルサービスの提供の在り方からは置き去りにされる傾向にあります。他方、“傲慢”のみは通じるところがあるように思います。
しかし、「怠惰」と「短期」を置き去りにした「傲慢」はユーザーにとってどう写るでしょうか。
つまり、リーガルサービスにおいては、プログラマーの三大美徳のうち、「怠惰」「短気」が決定的に欠落し、「傲慢」のみが残った結果、ユーザーのニーズとは乖離したサービス提供がなされているように思えてならないのです。
僕らがLegalForceを創業した理由。社会に必要とされるリーガルサービスを目指して。
僕らは、同世代の起業家が社会課題を解決するために自ら起業し、リスクをとって全力疾走していることに背中を押され、社会が複雑化し、構造的に変化してゆく中で、あるべきリーガルサービスの在り方を考え尽くした結果として、LegalForceを起業しました。
日本のリーガルサービスの在り方は、資格と高い参入障壁に守られ、需要が供給を上回り、かつ知識格差によってクライアントが弁護士の能力を比較検討できない状態が長く続いた結果として、今、世界のリーガルサービスの在り方、あるいは他産業におけるテクノロジー導入の水準と比較して、著しく遅れをとっています。
この状態が長く続いた場合には、今は豊かさを享受できたとしても、将来、日本のリーガルマーケットは全体として沈み、日本の法務レベルは相対的に低下し、法律家は自らの首を絞めることになります。
LegalForceは、現在のリーガルサービスの在り方が構造的に抱える課題を解決し、弁護士がより高度かつユーザーに必要とされるリーガルサービスを提供し、より多くの事業体がクオリティの高いリーガルサービスを享受し、社会全体の法務レベルを向上させるためのいわば社会基盤となってゆきます。
これが僕らがLegalForceを創業した理由です。