ある日の会議で、どうしても答えの出ない議題がありました。
AとB、どちらの案にも一理ある。だからこそどちらを選ぶべきか。
場は静まり返り、沈黙が続いたとき、一人がこう切り出しました。
「こんな時こそ、流儀に立ち返って考えてみませんか。」
どんなに立派な行動規範も、たいていは壁に貼られたまま忘れられます。
つくった時には盛り上がっても、半年後には誰も口にしない。そんなことは、現場ではよくある話です。
ところがKOBIRAでは、一度つくった行動規範を、いまも「流儀」として育て続けています。そんな「作って終わり」になりがちな行動規範を、どうやって日々の仕事にまで根づかせているのか。今日は、KOBIRAの“今”に着目してお話しします。
「流儀」って何?

KOBIRAが2022年に作った流儀をまとめたミニブック(当時のもの)
流儀とは、ひとことで言えば、KOBIRAで働く私たちの「行動のよりどころ」です。会社が大切にしている行動規範を、日々の判断やふるまいに使える言葉へと落とし込んだもの。理念・志と並ぶ、KOBIRAの理念体系を支える一本の柱です。
もっとも、この「流儀」という呼び名は、はじめからあったわけではありません。もとは「バリュー」と呼ばれていました。
2022年、KOBIRAは理念経営に舵を切り、ミッション・ビジョン・バリューを定めました。それから約3年半。太陽ガスとの合併を見据えて理念体系を刷新し、そのタイミングで「理念・志・流儀」という和語に置き換えました。
そもそも、どれだけ立派な価値観をかかげても、現場に伝わらなければ、ただの飾りで終わってしまいます。だからこそ、KOBIRAが流儀づくりで何よりこだわったのは、「誰にでも伝わる言葉にする」ことでした。
抽象的な言葉は、想像以上に伝わりません。
実際に、新しく作ったバリューを「会社全体で共有する価値観です」と説明したとき、あるベテランの社員から「俺の価値観を変えろということか」と受け取られたことがありました。
そこで一度「行動規範」と言い換え、温泉のマナー書きに例えたことで腹落ちしてもらったのです。結果、「罰則はないけれど、みんなが気持ちよく過ごすための決まりごと。」そんなニュアンスだと相手に受け入れてもらう言葉になりました。
そうした「バリュー」は、なぜKOBIRAでは「流儀」と呼ばれているのか。理由はふたつあります。
ひとつは、日本語に馴染みのある私たちにとって、横文字はどうしても届きにくいこと。もうひとつは、KOBIRAらしさを考え直したとき、横文字より漢字のほうが老舗らしいと感じられたことです。
理念・志と世界観をそろえる意味でも和語がふさわしい──事業部内でもそんな声が自然と広がり、「流儀」に落ち着きました。
けれども名前を変えただけでは、言葉は現場に根づきません。KOBIRAが仕込んだのは、その「作り方」でした。
流儀が根づく理由は「作り方」にある
KOBIRAの流儀は、二階建ての構造になっています。一階部分は、グループ全体で大切にする「4つの共通の流儀」。
① 柔軟に、進化し続ける
② ちょうどよかった、これをきっかけに
③ チームで成果にたどり着く
④ 凡事徹底
そして二階部分が、この4つを土台にしながら、各カンパニー(グループ内の各事業会社)が自分たちの独自性を踏まえてつくる「オリジナルの流儀」です。
いうなれば、共通の価値観を全社でそろえつつ、それぞれの現場の色を重ねていく、そんな考え方ともいえるでしょう。
大事にしているのは、言葉を「ただ選ぶ」のではなく「一緒につくる」こと。私が所属する経営企画室(各カンパニーを横断して支える、いわばグループの心臓部のような部署)でもこの春、自分たちのオリジナル流儀をつくりました。
はじめの一歩は、一人ひとりが過去の成功体験を振り返り、自分の価値観を言葉にする個人ワークから。

チームの流儀を作る前に、まずは個人の価値観から洗い出すことが大事と考えて、個人ワークを設計

そこから組織全体への流儀へと
落とし込んでいくことになりました
ここでも、KOBIRAらしくAIが相棒に。個人の流儀は、専用につくられた対話型のAIコーチに、思いつくまま、ときには声で話しかけるだけで、頭の中のもやもやが少しずつ言葉になっていく仕様に組み立てました。
その結果、AIが問いを重ねてくれるので、自分でも気づいていなかった「大切にしていること」を、多忙な業務の中でも掬い上げることができたのです。
そこからは、経営企画室での昼会(短い定例の時間)にそれぞれが持ち寄って個人の価値観を共有し、キーワードを選定する作業に。そうして集まったチームの声から、経営企画室の流儀として、10個の候補が生まれました。

仮決定された、10の流儀

個人投票をしたものを元に、
10の流儀を6まで絞っていきます

みんなでそれぞれの「推し」流儀を話し合い…

気になるものには付箋を貼っていく

会社の基本的な4つの流儀に
どう紐づいているのかも確認

時には真面目に

時には笑顔で

頭を悩ませながら

少しずつ少しずつ、流儀を絞っていきます

1回目の流儀ワークは終了!
ただ、ここでは流儀を確定させることはできず….

また別日に、
流儀ワーク「第二弾」が設けられます!
第二弾の流儀ワークでは、6つに絞れた流儀の言葉づかいのひとつひとつにも「ちょっと堅いかな」「これは少しとがって聞こえるかも」と、意見が飛び交います。
たとえば『効率化の職人魂』という原案は、「職人魂だと、少し堅くて手が届きにくいかも」という声から『効率化の職人メガネ』へ。そこからさらに「もう少し高いところを目指したいね」と話し合いを重ね、最終的に『効率化の刀を研ぎ続ける』へと落ち着きました。
その途中では、『刀』か『刃』かでも立ち止まり、「刃だと少し物騒に見えるね」と、やわらかく『刀』へ。
ほかにも、『そもそも何のため?』は『そもそも論』に、『小さなうちに片づく』は『小さなうちに解決できる』に。
たった一語、ひとつの助詞のニュアンスまで、みんなで何度もていねいに議論して選んでいきました。

決まった6の流儀を、細かくチェックしていく作業

違和感があるもの・この言葉では自分はこう感じる、などをメンバーで素直に話し合います。

そうしてようやく…経営企画室での
オリジナル流儀が決定!
最初の個人ワークから約半年ほどの時間をかけて、私たち経営企画室での6つの流儀ができあがりました。
① 徹底議論、徹底コミット
② 雑談は、戦略だ
③ 先回りの想像力
④ 効率化の刀を研ぎ続ける
⑤ 「ナイストライ!」を贈りあう
⑥ 楽しむ意志が、最高のチームをつくる

最後は全員で署名をしていきます

笑顔

達筆…!

また、笑顔

みんなで作った、オリジナルの流儀が完成!
このオリジナルの流儀は、どれも一語一語、みんなで選び抜いた言葉です。自分たちで選んだからこそ「ピンとこない」も「知らない」も一つもありません。一人で向き合った言葉が、みんなの手を通して、腹落ちする言葉になっていく。それが、作って終わりにしないための出発点なのだと思います。
部の流儀は、まだできたばかりです。それでもこの流儀ワークを終えてから、経営企画室では気軽なやりとりの総量が増えたと感じています。
以前はあまり発言しなかった人も、意見を口にするようになり、関係性そのものを少しずつ変えていきました。
作った言葉を「使い続ける」ための工夫も、いくつか生まれています。5月に開催された部内合宿では、「この合宿では『雑談は、戦略だ』を体現するために、まず自分から雑談を仕掛けます」というように、一人ひとりが流儀に紐づけて自分の行動を宣言する時間を設けました。
さらには、称賛のメッセージを社員同士で贈りあうサービス『Unipos(ユニポス)』でも、早速新しい流儀の体現エピソードが贈りあわれています。

【経営企画室】となっているのが、経営企画室だけのオリジナルの流儀

このように流儀に沿ったエピソードを投稿してもらえると、やる気も上がります
毎日いちばん目にする場所に置いておくと、不思議と、迷ったときにふっと立ち返れるのです。
「流儀は覚えるものではなく、日々そばに置いて使うもの」そんな感覚が、KOBIRAではあちこちの事業部に広がっています。
(ちなみに広報の私は、自分の推し流儀を会議の背景にするなどして工夫しています…!)
この動きは、経営企画室だけのものではありません。他のカンパニーでも、それぞれの流儀づくりが進んでいます。そして8月1日の合併後には、その一つひとつがお披露目される予定です。
初めは全体で決まった共通の4つの言葉が、次はオリジナルの、各現場の言葉へと翻訳されていく。流儀が「生きている」何よりの証拠だと思います
そして今、流儀がどう活用されているのか
実は、KOBIRAに「流儀のための特別な会議」のようなものはありません。では、流儀はどこで生きているのか。その答えは、もっと日常の場面にあると感じています。
たとえば経営企画室では、週に1度の部会がその舞台になっています。経営企画室は、特定の部署の利害に寄りすぎず、グループ全体を見渡しながら「会社としてどうするか」を考える立場です。だからこそ部会では、数字や進捗の共有だけでなく、経営判断の前提や、組織の空気、現場で起きている摩擦のような、“この立ち位置だからこそ扱える話”を、あえてテーブルに載せます。
流儀が本当に効くのは、そういう場で、答えが一つに決まらない議論にぶつかったときです。
AでもBでも成立する。けれど、どちらにも100%の正解はない。
合理やロジックだけでは決めきれない局面で、最後に拠り所になるのが流儀です。
実際に、判断が割れた議題で場が止まったとき、メンバーのひとりが「こんな時こそ、流儀に立ち返って考えてみましょうよ」と投げかけたことがありました。合理では決めきれないテーマを、意思を持って選ぶ。その共通言語として、流儀が働いています。
これから入る「同志」へ
KOBIRAが理念経営にシフトした2022年から、約4年の月日が経ちました。組織の変化というのは、目に見えてわかるものではありません。それでも、時間もお金も惜しまず、経営改革に投資してきた結果。3・4年をかけてようやく「手応え」が見え始めたように思います。
その変化を、いちばん近くで支えているのが流儀です。
理念・志・流儀のうち、流儀は一人ひとりが日々もっとも身近に触れる言葉。だからこそKOBIRAが大切にしているのは、結果だけでなく「結果の出し方」です。短期の数字だけを追うのではなく、仕事に込める思いや成果への向き合い方がKOBIRAらしくあること。その積み重ねの先にこそ、「これからの百年も、地域から安心と希望の火を熾(おこ)す」という理念があります。
流儀は、これからも3年スパンで見直しを続けていく予定です。ただ、変わるのは「いまの私たちを言い表す言葉」であって、その奥にある姿勢は変わりません。組織が進化すれば、流儀もまた進化していく。言葉を更新し続けられることこそ、流儀が"生きている"何よりの証だと思っています。
変わり続ける流儀と、変わらない理念。その両方を大切にしながら、私たちはこれからの百年へ歩いていきます。
そんな私たちの姿勢に少しでも心が動いた方と、一人でも多くご縁が生まれたら、これ以上に嬉しいことはありません。