ー最初に、「保護者支援」に関心を持つようになったきっかけから教えてください。
私は、中高生時代からずっと「親と子の関係」に関心がありました。その背景には、自分自身の原体験があります。
両親は子どもへの期待値が高く、特に母には厳しく育てられました。何でも一番でなければいけない――この期待は次第に高まっていきました。
部活では部長をやり、合唱コンクールではピアノの弾き手に選ばれるように努力し、進学する高校や受験する大学も母の意向で決まっていました。定期テストでは100点を取れないとひどく叱られていました。今となってはそのおかげでできるようになったと思えることもたくさんあるのですが、当時は必死で、「怒られないようにすること」が頭の中を支配していたんです。
そこでは「母親に認められること」が何よりも大切で、自己評価の基準になっていました。自分がどうしたいのかではなく、親の期待に応えることを考えてしまって、将来に対しても漠然とした不安を感じるようになっていました。だけど、高校で同じ悩みを抱える友人が多いことに気づき、自己理解を深める中で、「これは私だけの問題じゃないかもしれない」と気づいたんです。
ー母親に対してはどのような思いをもっていたのでしょう?
親子としてのかかわりのなかで苦しさを抱いていても、尊敬や憧れがあり、純粋に「いつか喜ぶ顔が見たい」という思いはずっと持っていたと思います。だからこそ、どんなに悲しい思いをしても、「親のせい」と思っても、ほかの人にそう言われるのは本当につらかった。
今でもそうです。私を守ろうとして言ってくれていることだとしても、自分のせいで親が悪者になることは、言葉にできない悲しみと罪悪感がありました。
ー学生時代のそうした経験や思いが、保護者支援の考え方につながったのでしょうか?
そうですね。弟には同じ思いをさせたくなかったし、それは、同じような環境にいる子どもたちについても同じでした。でもその一方で、母親である大人たちにも「母親としてのプレッシャー」や「年齢による精神の浮き沈み」など子どもには想像も理解もしきれないいろいろなつらさがあることを知りました。
母親本人や家族がそのことを知るだけでも、救われる部分があると思っています。もし誰かが母にとっての“安全地帯”になってくれていたら、完璧でなくてもよいと思わせてくれていたら、私自身ももっとラクだったかもしれない。そんな想いが、今の支援活動につながっています。
ーそれから、どのようにキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
新卒で教育系のベンチャー企業に入社しました。そこでは、キャリア教育のプログラムの運営にかかわる仕事をしていたのですが、その頃は「保護者支援を仕事にするのは難しい」と思っていました。支援の必要性は痛感していても、ビジネスとして持続していくのは厳しいんじゃないか、と。
そんな中、コロナ禍が始まり、世の中が「ステイホーム」の状況に。もし自分が中高生の頃に「ずっと家にいなさい」という状況に置かれていたら、耐えられただろうか――そう考えると、これまで以上に「本当にやりたい支援に携わりたい」という思いが強まり、転職を決意しました。
いろいろ調べる中で出会ったのが、カタリバの求人です。カタリバの活動については学生時代から知っていましたが、選考を通して採用担当者や代表たちと話をしていくうちにキッカケプログラムが立ち上がることを知り、「この仕組みを通して、子どもだけでなく保護者の支援もできるのでは?」と考えたのです。
ー「キッカケプログラム」とは、どのようなものですか?
2020年にスタートした事業で、経済的に困難な家庭の子どもたちを中心に、ヤングケアラ―などさまざまな困難を抱えた家庭に、オンラインで学びや社会とのつながりを提供することを目的としています。よく「パソコンやWi-Fiを貸し出す支援ですよね?」と言われますが、それはあくまで最初のステップです。大切なのは、学ぶ環境と安心できるつながりをつくることです。
支援対象の子どもには、パソコンとWi-Fiを無償貸与し、オンラインで学習や交流の機会を提供します。さらに、週1回、オンライン面談を実施。国内外の大学生や若い社会人が、学びの動機づけや楽しさの発見を手助けしたり、進路相談に寄り添ったりします。
ー保護者の支援にも力を入れているそうですね?
はい、子どもを支えるためには、保護者の安心が不可欠です。経済的な困窮だけでなく、「頼れる人がいない」「子どもとの向き合い方がわからない」と悩む保護者は少なくありません。
そこで、保護者支援や子育て経験のある「ペアレントパートナー」が月1回、保護者と面談をし、保護者の悩みに寄り添いながらサポートを行っています。さらに、必要に応じてカウンセラーや自治体窓口とも連携し、より専門的なサポートにつなげることもあります。
保護者の中には保護者自身が「ほめられた経験がない」「誰かに頼ることを学んでこなかった」など、さまざまな事情を抱えている場合も少なくありません。
だからこそ、誰かに「大変だったね」と共感してもらうことで、保護者が少しずつ気持ちを整理し、前を向けるようになります。ペアレントパートナーが寄り添うことで、結果的に保護者が子どもを見守る余裕をもてるようになり、より良い親子関係を築く第一歩になります。支援を続ける中で、私たちはその変化を実感しています。
ーこれまでの活動を通して、今後さらに力を入れていきたい支援はありますか?
特に考えているのは、「18~20歳の若者支援」と「若年で親になった方々への支援」です。
現状、多くの支援制度は「18歳まで」を対象にしています。つまり、高校を卒業すると、突然「もう大人だから」としてフォローが受けられなくなる。でも、18歳はまだまだ不安定な時期。社会的には大人とみなされても、支えが必要なことに変わりはありません。ヤングケアラ―の子どもたちを見ているとよりそう思います。
「18歳を超えたら自己責任」ではなく、「18歳を超えたからこそ支援が必要な人がいる」という視点を、もっと社会に浸透させていきたいですね。
—支援のあり方を広げていくうえで、カタリバの強みは何だと考えていますか?
カタリバには、「創りたい未来からはじめる」という文化があります。支援というと一般的には「できることをやる」発想になりがちですが、カタリバでは「まず理想の未来を描き、そこから逆算して今何をすべきかを考える」というスタンスが根付いています。
だからこそ、支援の枠組みにとらわれず、「本当に必要なものは何か?」を考えながら、新しい取り組みに挑戦できる。それが、これから支援を拡大していく上でも大きな強みになると信じています。