エンジニアにとって「成長」とは何だろうか。資格を取ること? 年収を上げること? 最新技術をキャッチアップすること?──アイエスエフネットで約2,300名のエンジニア全員との面談プロジェクトを率いた西村俊亮は、その問いに対して、少し意外な答えを返す。
「技術はあくまで手段なんです。その先に、自分がどんなキャリアを歩みたいのか。どんな生活を実現したいのか。僕たちが大事にしているのは、常にその"目的"の方です」
2024年に独立した組織として立ち上がったエンジニア開発本部。教育・人材管理・企画の3部門を束ね、エンジニア一人ひとりのキャリアに向き合う体制がどのように生まれたのか。その哲学と実践を聞いた。
「どの資格を取ればいいですか」の裏にあるもの
── まず、普段エンジニアの方と接する中で、一番大事にされていることを教えてください。
西村:エンジニアって、職業柄どうしても「どの資格を取ればいいですか」「次はどの技術を学べばいいですか」という、テクニカルな部分に目が行きがちなんですよね。それ自体は自然なことだと思います。
ただ、僕たちが教育・キャリアパスをトータルで考える部門として重視しているのは、技術はあくまで手段だということ。その先に、キャリアとしてどういう生活がしたいのか、エンジニアリングを通じてどんなことを実現したいのか。そこを一緒に考えられるようにしています。
── 寄せられる相談も、やはり技術寄りのものが多いですか?
西村:技術的な質問を受け付ける窓口もあるんですが、キャリアサポート窓口という別の窓口もあって、こちらには月に5件から20件くらいの相談が来ます。比較的入社が浅い方が多いですね。「キャリアパスが描けない」「そもそもどういう考え方をすればいいのか分からない」という声です。
大事にしているのは、テキストコミュニケーションだけで終わらせないこと。「質問に答えて終わり」ではなく、必ずオンラインで面談の場を設けます。聞いてきたことの背景が分からないと、本当の課題にたどり着けない。チーム内の人間関係だったり、現場でのプレッシャーだったり、表面には出てこない悩みが埋まっていることが結構あるんです。
「一旦、戻ろう」── 挫折したエンジニアへの向き合い方
── 実際、転職してきたエンジニアの中で壁にぶつかるケースもあるのでしょうか。
西村:ありますね。よくあるパターンとしては、すごい希望を持って転職してくる方。前職ではレイヤーの低い仕事をしていて、そこから脱却したくて来られる。でも、いきなり設計・構築のフェーズに入ると、業務の考え方やタスクの任され方がガラッと変わるので、対応しきれなくて潰れてしまう方が一定数いるんです。
── そういった方にはどう対応されているんですか?
西村:根性論で「乗り越えろ」とは言いません。状況によっては、営業と掛け合って案件から戻すこともあります。一旦戻って、キャリアのステップの踏み方を一緒に考え直す。
大事なのは「中間のステップをうまく作ってあげる」ことだと思っています。今やっている業務があって、目指す先がある。その間が直結しない場合に、どうそこに到達するかの道筋を一緒に描く。精神的に強くて一気に駆け上がれる人もいますけど、そうじゃない人をちゃんとサポートするのが、僕たちの役割です。
2,300人全員面談 ── カルテットプロジェクトの全貌
── アイエスエフネットには「カルテットプロジェクト」という取り組みがあると伺いました。
西村:はい。全国のエンジニア約2,300人全員と面談を実施するプロジェクトです。4〜5ヶ月かけて、約90%のエンジニアと実際に話しました。
エンジニアには事前に「スキルカルテ」と呼ばれるシートに、自分のスキルや1年・3年の短期〜中期のキャリア目標を書いてもらいます。面談者は事前にそのシートとスキルデータベースを確認した上で、一人あたり30分〜50分の面談を行います。
── 2,300人規模の面談、リソースはどう確保したんですか?
西村:教育部門だけでは到底足りないので、全社的なプロジェクトとして動きました。地方拠点の支店長や、他部署の技術幹部にも入ってもらって、リソースを集めた形です。僕自身も、現場のエンジニアの生の声を聞きたいと思って面談に入ることがあります。
── 面談ではどのようなやり取りをされるんですか?
西村:基本的にはカルテに書いてもらった目標に対して、面談者がフィードバックする形です。例えば「入場している案件であなたに求められている役割は何ですか」という項目に対して、内容が漠然としていれば「今やっている業務は具体的に何ですか」「達成すべき目標は何ですか」と掘り下げて、一緒に言語化していく。
エンジニア側から悩みを聞く場というよりは、こちらから能動的に導いていく面談ですね。
2024年、教育が「独立組織」になった理由
── エンジニア開発本部は2024年に立ち上がったと伺いました。それ以前はどのような体制だったんですか?
西村:教育という機能自体はずっとあったんですが、人事の下にいたり、別の部署の傘下にいたり、組織が点々としていました。教育・人材管理・企画の3部門がバラバラに動いていて、いわゆる部分最適の状態だったんです。
2024年にエンジニア開発本部として独立したことで、この3部門が利害関係なく連携できるようになった。アサインと教育の連動、データに基づく分析、そしてそれを施策に落とす企画。この一連の流れが一つの組織の中で回せるようになったのが、最も大きな変化です。
── 教育部門の評価基準はどうなっていますか?
西村:本部全体の目標は「エンジニアの単価アップと利益の向上」です。教育部門はそれをブレイクダウンして、研修の参加人数、フィードバックに基づく満足度、作成した教育コンテンツの数などをKPIとしています。
待機期間中のエンジニアに対しては、その方のスキルや経験データを分析して「あなたはこの研修を受けたらどうですか」と、こちらから能動的にお勧めする仕組みも始めています。受け身で待つだけでなく、教育側から手を差し伸べて底上げを図る動きですね。
AIとキュレーションで変わる教育コンテンツ
── 教育コンテンツの作り方にも変化はありますか?
西村:大きく変わりました。以前は講師が登壇してスライドで解説する形が中心でしたが、今はAIやネット上のリソースを積極的に活用しています。
例えば資格取得のための情報は、YouTubeやWebに質の高いものがたくさんあります。それを僕たちがキュレーションして「こういうコンテンツを、この順序で学べばスキルが身につきますよ」と案内する。Gemini Notebookに情報をまとめて、エンジニアが好きなタイミングで学習できるようにもしています。
講師がゼロから教える時代から、"最適な学び方を設計して渡す"時代に変わってきている感覚です。
成長が早いエンジニアの共通点
── 実際に成長しているエンジニアの事例はありますか?
西村:分かりやすい例だと、1年間でAWS関連の資格を12個取って、推進部署の副部長まで上がった方がいます。ただ、正直これは"外れ値"なんですよね。一般的なエンジニアには再現が難しい。
もっとリアルな例だと、2018年に未経験で入社した名古屋のエンジニアがいます。案件に入りながら必要な資格を取り、自宅にネットワーク機器やサーバーを買って自己研鑽を重ねた。その結果、当社の「高度専門職」という役職に最短で到達しました。経験年数・資格・売上基準のすべてをクリアして、です。
── 成長が早いエンジニアに共通する特徴はありますか?
西村:一番は、「お客様目線を持てるかどうか」です。
求職者の方って「自分はこうしたい」「こういう技術をやりたい」と、主語が"自分"になりがちなんです。それ自体は悪くない。ただ、成長が早い人は違う。「現場で何が求められているか」「お客様が何に困っているか」という視点を、自然に持っている。
成果の出し方は人それぞれです。資格をたくさん取る人もいれば、顧客との対話を通じて課題解決に貢献して評価される人もいる。でも共通しているのは、自分がどうすれば評価されるかを、相手の目線から考えられているということ。
「主語を自分にしないでほしい」
── 最後に、エンジニアに伝えたいメッセージはありますか?
西村:最近、社長と一緒に全国の拠点を回ることがあるんですが、その時にエンジニアの皆さんにいつも伝えていることがあります。
会社として「エンジニアの自由」や「ワークライフバランス」を大切にしています、と掲げている。それ自体は本当のことです。でも、だからこそ──働く時に、主語を自分にしないでほしい。
お客様が何を求めているのか。チームの中で自分がどんな役割を果たせるのか。その視点を持てるかどうかで、キャリアの伸びしろは大きく変わります。
僕たちは教育部門として、技術だけでなく、その"考え方"をエンジニア一人ひとりに伝えていきたい。2,300人全員面談も、キャリアサポート窓口も、すべてはそのためにあるんです。
今回の記事を読んで、当社についてもう少し知りたいと思っていただけた方へ。