顧客の満足度を高めるためにUXに着目しよう
顧客に機能やコンテンツを継続的に提供するサービスにおいて、顧客の満足度を向上させることは顧客生涯価値を高めるために必要な取り組みです。顧客が満足を得るためにはサービスの機能や情報がただ存在するだけでなく、顧客体験(User Experience = UX)の中に適切なタイミング・適切な形で提供される必要があります。昨今では企業に限らず、国や行政など公的な機関も顧客の満足度の向上やミスを無くすことを目的にUXの向上に取り組んでいます。しかしUXの向上のためにはどのような取り組みを行えばよいのでしょう?「UXデザイナー」に全部まるごと依頼すればよいのでしょうか?
この記事では、UXのもつ構造的な特徴や時間軸についてを解説し、どのように取り組んでいけばよいかについてご紹介します。
UXは顧客と触れるあらゆる要素で構成される
顧客体験のことを「User Experience」略して「UX」と一口に言い表されていますが、それが何によって構成されているかを指し示すことは非常に難しいことです。UXはサービスの提供に必要なさまざまな要素で構成されています。
例えば、顧客が訪問するウェブサイトや、サービスを利用するために操作するユーザーインターフェース(User Intereface = UI)などが上げられるでしょう。これらはすべての顧客が目にして触れるもののため、UXの中でも重要な位置付けであることは想像できるとおもいます。このほかにも、顧客の困りごとを解消するためのヘルプ記事や、トラブルを抱えた顧客に対するチャットや電話によるカスタマーサポートもUXを構成する要素です。UXとは、顧客が企業やサービスや製品と接するあらゆる構成要素・あらゆる側面によって構成されているといってよいでしょう。(https://www.nngroup.com/articles/definition-user-experience/)
ここに上げるのはウェブのUXのもつレイヤー構造について図に示したものです。(2000 Garrett, J.J. )
このようにウェブ上でのUXに限ったとしても、5つのレイヤーに分けられる様々な要素で構成されていることがわかります。また、最も抽象度の高いレイヤー(図の最下層)には顧客自身がサービスにもとめていること「ユーザーの需要(ニーズ)」があります。顧客のニーズが最も根本的なところにあり、それを叶えることを目的とした機能や情報の構造・レイアウトが積み上がるようにして構成されているのです。
UXは時間の経過によって変化する
また、UXを複雑にしているもう一つの要因は、顧客の「体験」であること故に時間の経過と切っても切れない関係にあるということです。UXを時間の経過で捉えてみましょう。顧客があるサービスや製品の存在を知り、自分の目的に適う要求を満たすだろうという期待のもと利用を始め、何らかの目的を達成し、利用後に振り返ってみてもう一度利用したいと思う、という流れが見えてくると思います。
UXとはこのように顧客自身の経験の中に生まれるものです。人の経験というのは時間を経るごとに変化したり、記憶によって蓄積されたりします。つまり、UXも経験をする前・経験をする最中・経験した後というような時間の進行と密接に関係しています。例えば、旅行メディアに気持ちを刺激されて旅行予約サイトを訪れる・旅行に行った後に宿泊したホテルがとても良かったので他の人におすすめしたいという気持ちになる、など利用する前や後にそのサービスを利用する理由や動機があることがあります
このようにUXを理解し向上させる取り組みには、時間の経過によって変化するUXを一貫して捉える必要があります。とは言えサービスを提供する側(事業部や企業の側)からすると、自社のサービスの利用を始める前の「見込み顧客」と利用を始めた後の「利用者」とでは、担当する部署やチームが異なることがあるでしょう。UXの向上には部署やチームを横断した統合チームの結成や、顧客の利用の流れについて様々なツールで目線をあわせる必要があります。(顧客視点×現状分析のカスタマージャーニーマップ)
利用者の頭の中は誰にも見えない
「UXデザイン」と言う言葉には「UX」という単語と「デザイン」という単語がセットになっています。なぜUXとデザインという組み合わせなのでしょうか?デザインするということはどういうことなのでしょうか?
ここで一度「使える道具」と「使えない道具」を分けるのは何なのかについて考えてみましょう。まずひとつ目はある目的を達成するための機能を備えているかどうかが挙げられます。例えばフォークは料理を刺して口に運ぶために使う道具です。その目的が達せられないような持ち手の大きさ・先端の尖り具合では道具として機能を備えているとはいえません。
また、利用する者の要求を満たしているかどうかも含まれるでしょう。先程のフォークの喩えだと一般家庭で使用されるフォークと各国の首脳の集まるサミットが開催されるような高級レストランで使用されるフォークでは、同じ食事の為の道具でも全く異なる意味が付与されてしまいます。歴史的に重要なイベントのための重要人物が使用するフォークであれば、求められる工作精度・審美性・フォークで表現したい思想やメッセージが一般家庭用とは全く異なるはずです。
道具に求められる機能や要求には、利用者が「必要である」と自覚しているものと利用者が無自覚に「そうあるべきだ」と前提として行動しているものとがあります。また要求の中にも定量的に「どのぐらいの量あるべきか」と定められるものもあれば、印象や感触のように定性的で人によって捉え方に振れ幅があるものがあります。それらは利用者の頭の中にしかない情報であり、どんな手段で読み取ろうとしても客観的に読み取ることが困難なものです。
そのような読み取り困難な利用者の頭の中の情報を読み取る数少ないやり方の一つが、共感を手がかりにして利用者の立場や視点を理解しようとするアプローチです。そしてそのアプローチを用いて利用者の求めるモノを作ろうとするのが、デザイナーのやり方なのです。ただこれは職業としてのデザイナーだけのものではなく、誰かに使ってもらえるモノを作ろうとするすべての人に共通したやり方とも言えるでしょう。これまで述べてきたとおりUXにはさまざまな構成要素があり、各要素を作り利用者へ提供する立場の人もまた多く関わっています。目に見えるモノやウェブサイト・ユーザーインターフェイスに限らず、カスタマーサポートやトラブルシューティングも含むサービス体験そのもの=UXを作る取り組みにデザイナーのやり方を用いようというのが、UXデザインの目指すところです。
ブラックボックスを前提とするデザイナーのやり方
先述の通り利用者の頭の中については(何についての要求は自覚していて、何についての要求は自覚していないのか)全く伏せられている状態です。我々の頭脳がどういう仕組みでエレガンスさを感じるのかは完全なブラックボックスです。だが感じ方の異なる他者と対話を通じてエレガンスさを感じるものについて共感を得ることはできる。デザイナーはこの共感を手がかりに理解しようと試みます。
ですが「共感」もまた利用者とデザイナー双方の主観を含んでいるため完全なものではありません。ではどうやってこの不確かな手がかりに、それを作るべき・投資すべきというビジネスの意思決定に必要なだけの確実さを与えることができるのでしょうか?そこで必要になるのが、仮説に基づいた検証のサイクルを回すことです。ブラックボックスを相手にしていてはどうしても不確実さがつきまといます。そういう状況では逆にあらゆることは仮説であると捉えるべきでしょう。こういう状況に置かれた利用者はこういう行動をする・こういう反応をするだろうという仮説のもと、実際にそうなのかを確かめる検証を行い、結果をもとに再度仮説を立て直すというサイクルの繰り返しの先に、ある程度の確実さのある仮説が立てられるのです。
他にも、仮説を立てるために必要な情報を集めることから、検証までのステップを直線のフローに描くと、そこからは「発散と収束」のふたつの動きが見えてきます。
まず仮説を立てるためにはその時点で集められる十分な情報が揃っていることが望ましいです。そのため利用者についての十分な情報収集や調査を行います。そうして集められた情報をもとに顧客セグメントや顧客ニーズや顧客の課題についての仮説を立て、利用者の要求事項やコンセプトの方針を決めます。そこからさらにどういう形・見た目・順序・構成であれば要求を満たすのかについて、発想を広げる・たくさんの可能性を広げていき、最後にそれぞれの可能性を比較検討し絞り込み、開発し顧客へ提供します。
たくさんの情報を集めたり、たくさんの可能性や発想を広げるにあたって一人の人間ができることには限度があります。そのためチームで調査を行ったり、発想のワークショップで取り組んだりするとよいでしょう。収束のステップでは、たくさんのものの中から関係性をモデル化したり、アイディアをなんらかの観点に基づいて評価することを行います。このときも、複数の人の視点や視野・視座が集まることで、関係性についての新しい切り口が得られるでしょう。
何より重要なのが顧客や利用者の頭の中はブラックボックスであり、全てのことは仮説であるということです。そのため仮説形成と検証のサイクルを回し、顧客の要求についての仮説の確実さをより高めていくサイクルを止めてはならないのです。
サービスのUXを良くするときにはどうすればよいか?
ここでUXを良くする取り組みをまとめてみましょう。
- UXの改善に取り組むには顧客や利用者を理解する必要があります。顧客や利用者の行動や意思決定が何によって決まっているかに関する仮説を立てる必要があるからです。そのためには顧客が接点をもつあらゆる場所・あらゆる時間軸から収集します。必要に応じてインタビューや行動観察を行うべきでしょう。
- 次に集めた情報を分析し、顧客や利用者の行動や意思決定に影響している要因や顧客の要求について仮説を立てます。得られた具体的な情報から、抽象的なモデルを導くことができると仮説の精度や確度が向上するでしょう。
- そうして立てられた仮説を元に検証のための準備を行います。このステップではどういった状況の利用者にどんな機能や情報を提供すれば、彼らが価値を感じるのかを検証する方法について決定します。状況を仮定してテスト的に実施する場合もあれば、実際にリリースしてABテストのように検証することもあります。
- 仮説を元にして作られたものを、利用者がどう理解し行動するのかについてもう一度観察をします。狙い通りの行動や反応をしたかどうかで仮説の正しさを検証します。これでサイクルは一巡し、必要に応じてモデルや仮説の見直しを行います。
各ステップごと目的に応じて適切な人たちを巻き込み、共創できる環境をつくったりすることがUXデザインには不可欠です。また、サイクルを組み継続的に運用し続けられることも必要です。一つの部署や一人の担当者が兼務でできることではないので、多くの企業では内部に専門のチームをつくり他の部署を巻き込んで施策を出していく動きをしています。
また客観的な立場からの判断や分析が必要になるため、外部の専門家に委託することがあります。社内でチームを作りたいと思っているが専属の担当者を立てるのが難しい、専門性を取り入れてUXの改善を推進したい、という場合はぜひrootへご相談ください。スタートアップから上場企業まで幅広い企業での継続的なUX改善の実績があります。