プロフィール
鹿田 一貴(しかだ かずたか):自営農家として電照菊の栽培に従事。その後、株式会社ハコブネのスマートアグリ事業で、福岡県八女市にある廃校を活用した「未来農業ラボ895」に参画。現在は、室内型水耕栽培の研究を行う施設管理を担う。
『未来農業ラボ895』の誕生秘話
──現在の鹿田さんの業務内容を教えてください。
主に、施設内の管理を担っています。具体的には、施設の温度や湿度のコントロール・野菜やフルーツの成長過程の記録・人員の配置などです。
以前、私自身も自営農家として、施設内で電照菊を栽培していました。
その後、未来農業ラボ895に参画し、農家としての知見を活かしながら、現在の業務に従事しています。
──未来農業ラボ895が誕生した背景を聞かせてください。
農業は、人が生きていく上で必要不可欠な“食料”を供給してくれるものです。しかし、近年は異常気象・自然災害・後継者不足・国内自給率の低下など、さまざまな問題に直面しています。
未来の農業はどうあるべきなのか──。
次世代にも継承できる農業のかたちを考えた結果、“農業”と“IT”をつなげる『未来農業ラボ895』が誕生しました。895は、八女(やめ)・黒木(くろぎ)・木屋(きや)の頭文字からきています。
未来農業ラボ895では、室内で農作業を完結させ、情報管理にはITを活用。農業に対する知見がない人でも、“自分で食べる分は自分で育てられるシステム”を提供することを目指しています。
農業に知見がなくても、“室内栽培”できるシステムを
──事業内容を教えてください。
事業は主に2つにわかれています。
1つ目は、様々な野菜・フルーツを栽培できるユニット「人工光型植物工場ユニット」の管理システムの研究です。
この栽培ユニットが確立されれば、温度・湿度をコントロールしながら室内栽培ができるため、気候などの不確実な要素に左右されず、通年栽培が可能になります。また、需要に合わせて輸入を調整する手間も省けます。現在は、温度・湿度などのユニット部分の環境を整備しながら、作物をより簡単に栽培できないか模索中です。
2つ目は、「NoAH」クラウドサービスの展開です。
「NoAH」とは、育成データや作業マニュアルなどをすべて電子化できるシステムのこと。温度・湿度などの綿密な情報をすべて数字で管理できるため、作物が確実に育つ条件を求めやすくなります。
長年培ってきた知識と経験が必要な“昔ながらの農業”ではなく、ITを通じて、栽培未経験者でも簡単にできるような“栽培管理”や“システム”を広めたい。そんな想いから、未来農業ラボ895の事業を通して農業の概念を刷新し、次世代でも躍進できる土壌づくりをしています。
──現在はどのような作物を室内栽培していますか?
メインで育てている作物は、いちご・ミント・エディブルフラワーです。
従来のいちご栽培は、低い温度での管理が必須でしたが、温度・湿度をコントロールできる室内栽培により、夏場でも実をつけることが可能になりました。
また、作物を栽培した“ノウハウ”を伝承し、地域との連携も図っています。
福岡市内にあるバーでは、「店内で栽培したミントを、新鮮なままお客さまに提供したい」というご要望から、店内の空きスペースに合わせて弊社の栽培ユニットを導入。店内で育てた香り高いミントをその場で収穫し、モヒートやレモネードに使用して提供されています。
──将来的に挑戦したい作物はありますか?
室内でどこまで栽培できるか、模索しながらにはなりますが……根菜類や果樹にも挑戦してみたいです。
根菜類は土の下に実をつけるため、底の深さが決まっている室内では、どこまでも下へと成長できるというわけではありません。深さに限りがある室内で、どのような根菜類なら育てられるのか、とても興味深いですね。
また、果樹の場合は“木”を育てることになるため、それなりのスペースが必要になります。規模・成長条件を考慮しながら、室内で栽培できる作物の可能性を見つけていきたいです。
『未来農業ラボ895』が実現した”就労支援”と”地域貢献”
──事業を通じて、どのような社会貢献が実現できていますか?
まずは、“就労支援”の場の提供です。
室内栽培はからだが不自由な方でも作業ができるため、老人ホームなどにも栽培ユニットを導入。稼働・室温・湿度・作物の成長状況などの管理を、高齢の方々に担当していただいています。これは初めての試みだったこともあり、農業未経験者でも理解できる“最適な伝え方”にたどり着くまでには苦労しました。
たとえば、肥料量も“数字”ではなく、「このカップに1杯入れてくださいね」と伝えるほうが、農業をしたことがない人にはわかりやすいですよね。現在も老人ホームの方々と話し合いを重ね、やり方や伝え方を柔軟に改善しながら進めている最中です。
次に、“廃校”を活用した地域への貢献です。未来農業ラボ895は、現在は休校中の八乙にある小学校の一角を利用し、室内型水耕栽培(インドア農法)を行っています。また、その近くにある学童では、子どもたちに勉強の場を提供できるよう、ワークショップも開催。地域に活力をあたえながら、“ノウハウを次世代に引き継ぐ場”としても社会に貢献できていると自負しています。
次世代にも”継承”できる農業をめざす
──『未来農業ラボ895』のビジョンを教えてください。
ビジョンは大きく3つあります。
1つ目は、“都市型農業”を実現させること。
栽培ユニットを使用した室内栽培が広がれば、ビル1棟すべてを使って農業ができます。つまり、遠く離れた農地から、時間をかけて野菜を都心へ運ばなくても、消費者の近くで栽培が可能になるのです。鮮度の高い農作物を、人件費・流通コストを削減しながら届けていきたいと考えています。
2つ目は、“災害への備え”ができる体制を整えること。
近年、世界的に自然災害や気候変動など、さまざまな影響が生じています。スーパーで当たり前に買っていたものが、手に入らなくなる日が来るかもしれません。災害発生時に、農業に対する知見がなくても、「自分で食べる分は自分で育てられる」よう、室内栽培の促進・マニュアルづくりをしていきたいです。
3つ目は、若者の“職業選択の一つ”として農業を確立させること。
今までの農業は「キツい・汚い・危険」の3Kとされ、若者が就農意思を持つのは難しい状況にありました。しかし、室内栽培であれば、部屋の中の涼しい環境で農業ができるため、若者の雇用を生み出しやすくなります。室内栽培ユニットを通じて、安心安全な食べ物を年中いつでも栽培できるよう、開発を進めて農業の幅を広げていきたいです。
大切なのは”やってみる精神”
──最後に、求職中の方々に向けてメッセージをお願いします。
廃校や空きスペースを利用して室内栽培ができること。室内だけでもトマトやミントなどの作物が収穫できること。農業の新たなかたちを広げるために、「まずは知ってほしい」と思っています。認知を広げた暁には、栽培ユニットを導入し、実際に体験してほしい。
何事も、やらないよりはやってみることが大事です。未来農業ラボ895では、ビジョンに共感してくれる、チャレンジ精神溢れる方をお待ちしています。
興味を持ってくださった方は、見学も可能です。まずはぜひ、 “知る”ところから始めてみませんか?
〈未来農業ラボとは〉