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できないことならやってみる

株式会社Gear8に入る前


踊るかなにか作るか。

 物心つくかつかないかの頃から初めて、進路を決める頃まで続けていたのは踊りと図画工作でした。
踊ることは大好きで、高校では全国大会に出たり出なかったりし、文字通りの表舞台で生きることも考えなくはない環境でした。当時のチームメイトには海外や舞台の世界で踊り続けている仲間もいます。
 一方で、部活や習い事、というものとはまた別に呼吸をするようにやめられなかったのが絵を描くこと、なにか立体物やアクセサリーなどものを作ることでした。幼稚園のころから一番ひとに褒められ、評価されたり選ばれたりした経験が多いのも絵か工作。
 自分より何年も先に兄は美大、姉は舞台の世界に進んでいて、自分が進路を決める時にも一般大に進むことは端から考えていませんでした。勉強も好きだったし頭はそんなに悪くなかったはずだけど。

 結局のところ踊りの世界にいくには体も弱すぎ、ケガも多く、決意も足りず。とりあえず都内(と呼ぶには郊外で畑しかない場所)の美大に進むことになります。絵を描くよりは立体物をつくりたくて、工芸デザインを専門に選びました。

吹きガラスはへたっぴなので全然できない。


好きなことしたい、でも安定したい。

 大学3年になって就活を始めたころ、何も分からないまま手当たり次第に受けては落ちを繰り返していましたが、今考えるとそのほとんどがアパレルやインテリア、ジュエリーなどのメーカーでした。
 「作家になる覚悟はないし、売れない不安にも不安定な収入にも自分は耐えられそうにありません」とプロ作家である教授や講師に向かって言い切った件については若気の至りとしてお許しいただきたい記憶ですが、なにかを作ることにはこだわっていたのです。ダンス同様ここでも決意が足りなかったわけですが、甘っちょろい中でもなにかを作ることに関わっていたいな、とは。諦めきれなかったのもあるし、企業で働こうと自己分析する上でも単純に好きなことや得意なことがそれしかなかった。

 そんなときに出会ったのが前職の、ベンチャーなのに上場している(当時)へんてこなメーカー兼小売兼卸をやっていた東京のインテリア雑貨関係の会社。当時のカリスマ社長が「いいものを作れるのに売り方が分からないひとを助けたい」とこぼした言葉になんだかぐっときて、会社説明会の帰りに逆方向の山手線に乗ってしまったことを覚えています。常務から採用の電話をいただいて、こたつの中で泣いたことも。



形ある「もの」をつくる会社での仕事。

 在学中にインターンで店舗接客から初めて、折に触れて「美大卒で商品企画をやりたい新人」というイメージを社長に植え続けた結果、新卒入社して3か月後には本社のマーチャンダイジング部に配属されました。その後、ここでMD(マーチャンダイザー)として3年ほど働くことになります。

 商品自体も多岐にわたっていましたが、主な仕事は春夏または秋冬の新商品を考えるための市場調査、ブランドに合わせた商品の企画立案、図面や仕様書の作成、外部メーカーに依頼しての見積もりとサンプル作成、その修正、採算の計算と売価の設定、半期の予算を達成するための商品の積み上げ、その調整、スケジューリング。社長プレゼンの会議を通ったら実際の量産のハンドリング、時々中国に飛んで工場の視察と指示出し、プロモーションのための撮影や企画の打ち合わせ、カタログの校正、ブランドの打ち出し方の検討、パッケージや説明書・下げ札の文言の作成、品質基準の検査や確認、営業のための説明やサンプルの手配。発売されたら売れ行きや露出をチェックし、リピート発注の可否を考え、後に続く企画を考え、ダメだったら廃番を検討し...どうやったってなにかしらの不良品は出るのでその品質管理、原因究明、場合によっては謝罪や回収、改善、説明...そして落ち着かないまま次のシーズンがやってくる。

 そんな膨大な仕事を、全体的に責任をもって推し進めるのがその会社においてのMDでした。もちろん開発分野、品質管理、PR、営業にそれぞれ他部署のプロフェッショナルがいますが、中心だったり見守り役だったり謝罪役だったりと立ち位置を変えながら、商品を販売し売り上げを作っていくための過程の全てに携わっていたと思います。

中国各地の工場のほか、市場調査でロンドンへ。

入ったばかりのころはもちろん何もわからなかったので、商品会議で出た単語を同期と検索したり後から先輩にこっそり質問したり(MOQって、SKUって、下代と上代って、リードタイムって、なんですかー!の状態)して、経常利益や粗利や輸入コストの計算なんかも教わっては「?」マークを浮かべつつも、少人数の部署だったので容赦なく担当商品やブランドを抱えさせてもらいたくましく逞しく育ちました。
 とにかく仕事ができる憧れの恰好いい上司の元で、仕事の仕方からしゃべり方や各部署のとの接し方、ファッションやまつげエクステまで意識して真似をして、ひとこと褒められて舞い上がったり、めちゃくちゃ怒られて泣きながら改善策を提出したりと、ありがたい環境で成長させてもらいました。びっくりするほどいいひとばかりの会社だったけれど、毎日けっこうな緊張感の中で働いていたと思います(上司に話しかけるときの緊張感を、Gear8に入って忘れた)。
 「可愛がられなさい、でも強かに生きなさい」と、20代前半の女の子が会社でどう立ち回ったら穏便にやりたいことを通せるのか、必要なことを教えてもらいました。圧倒的な経験不足を補うにはスケジュールのバッファーと根回しが欠かせないことも。そのほかにも新卒ですから、会議の準備や議事録のとり方、電話対応からお掃除当番まで「会社で働いてお金をもらうこと」についても本当にたくさんのことを学んだ期間です。


札幌に行かねばならぬという転機。

 仕事は好きだったのでずっとこの会社で働いてもいいなあと思っていましたが、社長が変わり、上司が変わり、会社が少しずつ変化していくのを感じていたころにポンと札幌への移住が持ち上がりました。婚約者(いまの夫)が転勤になったわけですが、彼と結婚する以外の選択肢を特に思いつかなかったので仕事を辞めてついていくことに。とくに迷いはしませんでした。
 当時、リクルートの転職エージェントにはどうにかして今の会社に残ったほうがいいと諭されたのを覚えています。年齢と残業時間を考えたら給与待遇がめちゃくちゃ良い、札幌にはそんな仕事はないと(笑)

 少しずつ転職活動はしてみたものの、縁もゆかりもなく旅行ですら行ったことのない土地に移住する前ではどうにもイメージが湧かなかったので、仕事が決まる前にとりあえず引っ越しをしました。

越してきてしばらく、北海道って空が広いなあって言いながら空ばかり撮っていた。


新天地、なんでもいいから働きたい。

 引っ越してきたのが2016年の夏、仕事探しと教習所通いをしながら慣れない家事をする生活をはじめ、専業主婦には3日で飽きました。北海道にはびっくりするほどメーカー関連の求人が無くて、お給料も東京に比べると段違いに安くて、戸惑いながらも興味がある会社をいくつか面接させてもらいました。転勤族で結婚したて、子供はまだいない20代半ばの女性となると、事務でも何でもまぁ落ちる落ちる。子供は?次の転勤は?と毎回面接のおじさんたちに聞かれました。東京で働いていた時の半分のお給料の仕事でもあっさり落ちる、となるとさて困ります。とはいえ夫の収入だけで生きていけるような状況ではありません。現実は厳しい。

 しんどいなぁ、嫌だなぁと思いながら失業保険でお金をもらいつつハローワークにも通って、求人を探していたころにたまたま見つけたのが、Gear8です。
 「一般事務、兼ディレクションサポート」のような募集内容だったと思いますが、Webの知識も経験も一切なかったけどAdobeとOfficeは一応使えたし、進捗管理は得意かな...サイトを見たらなんだかおもしろそうだな...と思い、ハローワークに電話をかけました。

 水野との面接では、今までやってきた仕事、大学の制作物やイラスト、卒業制作などのポートフォリオを見せてほぼ世間話。夫の転勤でポンと札幌に来てしまったという事情は説明しましたが、そういえば今後子供が生まれたらどうするんだというような話は当時一切聞かれませんでした(笑) 
 とはいえ「SEOってなんだか分かる?」と聞かれて、まったくわかりませんと返したのは応募者多数有れど私くらいだったのかもしれません。当時のオフィスの応接スペースではほとんど会社の様子は窺えませんでしたが、会社の様子や行事などのムービーを見せてもらい、この会社に入れるといいなぁと思いながら帰りました。

 教習所で授業の合間に開いたiPhoneで、採用してもらえる旨のメールを受け取ったのを覚えています。

Gear8で働く


手に持てない「もの」を作る仕事

 さてGear8に入って3年弱、仕事の範囲は広く浅く、多岐に渡っています。最初のころは、サンプルの山と段ボールに囲まれたデスクで仕事をしていた前職に比べて、Webの仕事って形ある物質がずいぶん少ないんだなぁと妙なところに驚いたりしていました。全部がパソコンの中で出来上がっていくのが不思議。サンプルもテストも本番も、画面の中だなんて。

 スタートはここでもなにもわからずでしたが、とりあえずググる、やってみる、ダメだったら教えてもらう( 調べてわかることを聞くな、と前職で教わったのでとりあえずググる。幸い、ディレクションはともかくウェブの基本業務や新情報はだいたいGoogle先生が答えを知っている )という繰り返しでなんだか気が付いたらそれなりに幅広く仕事をするようになっていました。自分のやっている業務内容をリストにするとちょっとカオスすぎて頭を抱えるのですが、「プロフェッショナルは他にいるけど、全体をなんとなく推し進めていく」という進捗管理の仕方は前職に通じるところがある気がします。

夏合宿の思い出。楽しそうだからという理由で持ち寄り浴衣の会。


みんながマルチなふしぎ集団

 Gear8は現在札幌拠点で13名、全拠点あわせて20名ほどの小さな会社です。部署もなく、内線もなく、デスクに仕切りもなく、役職も名刺に書いてある肩書きだけというくらいふわっとしています。そのためそれぞれがメインの役割のほかにも色々と兼務したり、得意なことを請け負ったりして補い合っているところがあります。経理が写真を撮ったり、デザイナーが構築したり、ディレクターがデザインしたり...業務の境界線はできる・やりたいひとがやるという形で自由に移動するような動き方をしているのです。面接に来た方にお話するとだいたい驚かれるか不思議そうな顔をされます。

今現在、わたしがやっている仕事はだいたいこんな感じです。

・採用人事、労務
・総務、事務
・広報、自社メディアの運用担当
・アナリスト
・広告運用
・ウェブディレクションのサポート 
 などなど、諸々...。

 採用面接をしているときもあれば、ウェブサイトに使うイラストを描いているときもあるし、アクセス解析をしているときもCMSのマニュアルを作っているときもあります。会社のブログやSNSを書いているときも、コピーを考えているときも、大掃除の分担を考えているときもあります。なんでも屋です。

時にはチェンマイに取材にいったり。

 最初からやったことのある仕事だったものはイラストくらいのものですが、前述の通り頼まれたり必要に駆られるうちに気が付けば色々やっていました。専門的な話になると分からないときも多々ありますが、そこはディレクターやエンジニアがもちろんしっかりやってくれます。あくまでわたしはサポートなので。メインのディレクターが走り抜けたあとにぽろぽろこぼれ落ちてくる仕事を、後ろから拾ったり投げ返したりしながら追いかけているような感覚でしょうか。

 ディレクターという仕事の内容が多岐に渡り、さらにクライアントもあらゆる業種の企業さんのほか学校や病院、工務店や飲食店などとにかく幅広いので、応募の際に「そろそろやったことのない仕事もしてみたくなって」とよく声をかけていただきます。
「やったことないので一から全部教えてもらえますか?」と言われるとちょっと難しいのですが、「やったことはないけど、とりあえず調べてやってみていいですか?」というタイプはウェルカム。チャレンジ精神というとダサいですが、「新しいことをやってみる」ことをポジティブに楽しめるひとが向いている仕事だと思います。


自分なりにはたらく

 役割によっては帰りが遅くなりがちだったりしますし、繁忙期になれば全体的に死屍累々の様相は呈してきます。数年前に比べたらみんな健全な時間にちゃんと帰るようになりましたが、制作会社というと忙しい、というイメージなのは間違ってはいないと思います。
 そんな中ですが基本的に私は定時くらいに退勤させてもらっています。主婦でもあるし、毎日自分で作ったごはんを食べたり食べさせたりしたい。あといっぱい寝ないと本当に無理。なので時間内で仕事をやりくりするように、効率をよくしたりリマインドをかけまくったりしてなんとかしています。何度も言うようですが小さい会社なので、そこは自分のキャパと技量と他のメンバーの仕事や家庭の状況などまるっとひっくるめて成立するように、調整したり主張したりして働きやすいペースをつかんでいきます。時短勤務のスタッフも、夜型のスタッフも朝型のスタッフもいます。遅くまで残れる日でなにか役に立てそうなことがあればやるし、一気にやりたい仕事があればキリがいいところまでやる。でも緊急事態が発生していても自分になにもできることがないなら潔く帰ります。いてもしょうがない。
 大きな会社だと周りのペースや上司の働きかた、会社のルールでなんとなく自分の働きかたも定まってくる気がしますが、Gear8では個々のベストなペースを尊重したいと思っています。仕事は山ほどあるけど、それぞれに生活もある。まとめて休んでもいいし、細々休憩してもいいです。デスクでお昼寝してもいいし。

個性が強すぎて基本的にバラバラな多国籍チームです。


大切なのはできる仕事もやったことない仕事も、自分なりにいいと思うかたちでトライしてみて、何かしらは知見がためられるように失敗なり成功なりの結果にしてみることなのだと今は思っています。
...何の参考になるのかさっぱりわからない記事になりましたが、SEOってなんですか?って面接で訊いた社会人7年目も、それなりにウェブの世界でたのしく働いているというお話でした。マイペースにそろそろ産休に入りますが、興味がわいた方はどこかで、ゆっくりお話しましょう。

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