成功モデルを「拡散」する
前回までは、「スケールアップ」(規模を大きくする)というタイプの拡大を見てきた。ただし、NPOやソーシャル・ビジネスの場合、一般企業のように「大きくすれば勝ち」というわけでは必ずしもない。
自分たちが提供するモノやサービスで市場を寡占し、莫大な利益をあげようとねらっているのならば、それもありだろう。しかし、多くのNPOやソーシャル・ビジネスの目標はそこにはない。「いかに早く困っている人たちを多く助けられるか」。それこそが最大の目標となっている組織がほとんどだろう。収益の最大化を犠牲にしても、インパクトの最大化を志向する点が、一般企業とは大きく異なる点だ。
それゆえ、NPOやソーシャル・ビジネス独特の拡大方法がある。それを「スケールアウト」と呼ぶ。スケールアウトは、自分たちのモデルやノウハウを他地域や他国にリプリケイト(複製)し、より広範囲に困っている人を機動的に助ける手法だ。こうした方法で、地域や国を超えて拡散しているNPOやソーシャル・ビジネスは、世界じゅうにたくさん存在している。市民と共に公園を作るNPOであるKaBOOM!は、全米で2000以上の公園を立ち上げた。また貧困地帯の厳しい環境にある公立学校に一流大学卒業生を送り込むTeach For Americaは、世界33か国に展開している。日本でもNPOという言葉が生まれる前からNPO活動をしている、生活協同組合は日本全国に拡散している。
スケールアウトの3つの方法
さて、「スケールアウト」的な拡大といっても、その方法にはいくつかある。それらを、社会起業家研究の第一人者であったスタンフォード大学の故グレゴリー・ディーズ教授は、次の3つに分類している。
<1>ブランチ(支社)型
<2>アフィリエイト(ブランド連携)型
<3>ディスセミネーション(種まき)型
それぞれについて、どういった方法なのかを述べていこう。
まず取り上げるのは、<1>の「ブランチ(支社)型」。
これは、現在とは別の場所にも自分たちで拠点をつくり、拡大していく方法である。一般の企業でいえば「支社」を構えていく方法といえる(これに関しては、むしろビジネス業界でお馴染(なじ)みだ。次からはNPO独特な色合いが濃くなっていく)。
自分たち独自の文化や価値観などを非常に大切する組織や、ほかでは簡単に真似ができないノウハウをもっている組織に、この方法を採るところが多い。
たとえば、ブランチ型のスケールアウトの例として知られているのが、アメリカの教育NPO「City Year」。子どもたち向けに、課外奉仕活動を通して「市民意識」を身につけてもらうという活動を行っている。
「City Year」がブランチ型にこだわる理由
このNPOは、現在、全米24か所と海外2か所に拠点をもつが、すべて本部のスタッフが現地に赴き、その設立を直接指揮している。なぜこの方法を採るのかといえば、「City Yearらしさ」を守るため。ボランティアに参加する学生たちにしても、その基本理念の実践が徹底されている。
実は僕はボストンでCity Yearのオフィスを視察させてもらい、課外奉仕活動にも参加させてもらったが、「独特のノリ」を強く感じた。何と言うか、「かっこいい体育会系」なのである。
制服もTimber Landというアウトドアの会社から支給してもらったもので統一しているし、その一体感と文化は、その文化に完全に染まりきった人間が、スタッフを感染させて創っていくしかない。
またこの文化が、ボランティア採用と動員、モチベーション管理、そしてブランドの核にもなっている。ふにゃふにゃしたCity Yearは、City Yearじゃないのだ。クールなナイスガイが、率先して汚い公園を楽しそうに掃除しているからこそ、参加してみたい、寄付したいと思うのだ。まさに文化が、ソーシャル・ビジネスモデルに組み込まれている。
こうしたモデルを採用しているソーシャル・ビジネス/NPOの場合は、ブランチ型が望ましい。濃く文化を背負った人間が、新たな場所に支社を設立し、その文化で染め上げていく形が最も成功確率を高める。
では、<2>のアフィリエイト型や、<3>のディスセミネーション型とは、いったいどのような方法でのスケールアウトなのだろうか。
それについては、次回くわしく述べていきたい。
>【vol.37「「ビジネスモデルをオープンソースにし、イノベーションを拡散する」】に続く(4/18更新予定)