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#生まれたその日に失われる命を救う フローレンスの赤ちゃん縁組

2021年8月、厚生労働省は2020年度の虐待件数が過去最高の20万件を超えたと発表しました。心中以外の虐待死は57件、そのうち約半数が0歳児であり、11人が月齢0か月児。加害者の90%が母親です。

月齢0ヶ月児には、医療機関で出産できなかったために適切な処置がされず出産と同時に亡くなってしまった赤ちゃんや、自宅や公園のトイレなどで独りで出産し赤ちゃんをそのまま置き去りにしてしまったという事例も。

当然、母親は虐待による殺人または死体遺棄の罪に問われることになります。成人していれば名前も公表され、社会的な制裁も受ける事になるでしょう。

生まれてきたばかりの赤ちゃんが、約1ヶ月に1人の割合で虐待死する背景には何があるのか。

フローレンスでは、子どもの虐待死ゼロを目指して様々な取り組みをおこなってきましたが、2016年から運営している「赤ちゃん縁組事業」では特別養子縁組と並行して「にんしん相談」を実施しています。

「にんしん相談」は、妊娠出産にまつわる悩みや、予期せぬ妊娠を周囲に相談できず悩む方に、フローレンスの専門相談員が伴走する支援です。

今回は、この「にんしん相談」から見えてきたことをご紹介します。

※個人が特定されないように、にんしん相談に寄せられた複数のエピソードを元にして作成したストーリーです。

《秋山裕子(仮名)さんのエピソード》
秋山さんは3人の子どもを抱えるシングルマザーです。数年前に夫のひどいDVから逃れ、避難所生活を送ったのちに、離婚が成立し、今のアパートで子どもたちと暮らしています。

養育費がもらえず、頼れる親も親戚もありません。ひとり親手当とバイトの掛け持ちでどうにか生活していました。


そんな秋山さんのもとに、子育てや生活の悩みを相談できる男性が現れます。やがて婚約し、新しい生活を思い描き始めた矢先に、妊娠が分かります。喜ばしいはずの新しい命でした。

ところが、妊娠を打ち明けた途端、男性は音信不通に。それでも、毎日の仕事と子どもたちの世話に追われていた秋山さんは、悲しみに暮れる暇もなく、自分の体を気遣う余裕もなかったといいます。さらに、家計が厳しく保険料の支払いが滞りがちだったため、病院へ足が向かないままに月日ばかりがすぎ、気づけば中絶できる期間を過ぎていました。

途方に暮れた秋山さんはインターネットで検索し、特別養子縁組という制度があることを知り、フローレンスへメールを送ります。

「子どもを寝かしつけたあと、夜中にメールをしたのに翌日には返事がきて。不安を受け止めてくれた、そう感じてすぐに電話をしました。」


電話でフローレンスの相談員にゆっくりと話を聞いてもらううちに「なんで自分だけがこんなに悩んで苦しまなければならいんだ」と、初めて相手の男性への怒りが湧いてきたといいます。

「忙しくて不安で、何も考えられなくなっていました。話を聞いてもらって、ようやく自分の気持を吐き出すことができたんです。

後日、フローレンスの相談員が同伴して病院を受診し、無事に役所で母子手帳を取得。分娩施設も決まり、安心して出産できる環境を整えることができました。

『お金の心配はしなくていいから、一緒に病院にいこう』といって、東京の事務所からこんなに遠い地方まで駆けつけてくれました。もう、ひとりで悩まなくていい、そう思ったら涙が止まらなくなりました。

その後、秋山さんはフローレンスの相談員と話し合いを重ね、自分自身と生まれてくる赤ちゃんのことを一番に考えて、養親に託すことを決めます。

「自分で育てたいという気持ちが無いわけではありませんでした。生まれてきた赤ちゃんは、本当に可愛かった。生まれてから最終的に決めたらいいから、と相談員さんに言われていたので、もう一度よく考えたけど。現実的に3人の子どもをしっかりと育てなくちゃいけないと思ったら、どうしても余裕がない。養親に育ててもらうのがやっぱりいいと思って、託すことにしました。相談員さんが言ってくれたんです。特別養子縁組は子どもを捨てることじゃない。養子縁組は、幸せになるためにあるんだよって。

入院期間中は赤ちゃんのお母さんとして心をこめてお世話をした秋山さん。

「抱っこもしたし、たくさんお世話ができたので、悔いはありません。」そういいながらも、お別れのときには涙を流しながら赤ちゃんに声をかけました。「たくさん愛されて育ってね」

赤ちゃんは今、子どもを心待ちにしていた養親の家庭で、愛されてすくすくと元気に育っています。Aさんの想いは、きっと届いていることでしょう。

「あの時相談していなかったら、どうしたらいいかわからず家で産んでいたと思うし、そうなったら、自分も子どもたちも赤ちゃんも、どうなっていたか分からなかった」

妊娠を告げた途端、音信不通に。背景に性教育の不足や犯罪の事例も

妊娠を告げた途端に相手の男性が音信不通になるケースは、フローレンスの「にんしん相談」にもしばしば寄せられてきます。今年に入ってから、相手の男性の同意がなければ中絶できないと複数の病院で断られた末に、悲しい結末を迎えてしまった事件報道もありました。

この問題の背景には複雑で多様な課題があります。

日本の性教育の遅れや不足により、男女ともに正しい避妊や妊娠の知識が乏しく、出産育児がライフステージに大きく影響するという認識もできていない場合があります。また、女性側が若年であったり、経済的に困窮していたり、心身の不調や孤立など、社会的に弱い立場で予期せぬ妊娠が起こることが非常に多いこともわかっています。また、性犯罪によって妊娠し誰にも打ち明けられないまま悩んでいるケースもあります。

もちろん、予期せぬ妊娠がそのまま遺棄や虐待死につながるわけではありません。ご自身で子どもと生きていく道を見つけて、生活をしてる方もいれば、頼れる親や親戚がいて生活を支えてもらっている人もいます。

一方で、秋山さんのように頼れる人がなく途方に暮れてしまったり、性被害による妊娠や夫のDVから逃げているさなかの妊娠発覚など、身近な人に打ち明けて助けを求めることすら困難な人たちもいます。

妊娠は、女性単独によるものではありません。

それなのに、日に日に大きくなるお腹と向き合って不安を募らせ、苦しみ続けた結果の出来事に対して、社会的制裁が母親だけに向けられてしまうことは大きな課題であるとフローレンスは考えています。

「にんしん相談」で生みの親に寄り添う支援を実施

予期せぬ妊娠による虐待・遺棄から赤ちゃんを救いたいとの想いから、フローレンスは2016年に赤ちゃん縁組事業(にんしん相談・特別養子縁組あっせん事業)を開始しました。

2020年度までに、子どもを迎えることを希望する17組のご夫婦に新しい命を託すとともに、2500件以上ものにんしん相談に対応してきました。「深夜・休日・時間帯を問わず、匿名で相談したい」というニーズの高さに応じるため、2020年5月にはLINEで24時間いつでもチャットボットが応答する相談窓口も開設しています。

フローレンスは、相談者のおかれている状況を明らかにするために、コロナ禍を含む直近2年間にフォーカスして「にんしん相談」相談内容分析調査を行い、社会に求める支援策などを提言にまとめました。

【「フローレンスのにんしん相談」相談内容分析調査 概要

・集計期間:2019年9月1日~2021年9月30日

・対象地域:全国(全47都道府県)

・対象:認定NPO法人フローレンスのにんしん相談窓口(電話・メール・LINEチャットボット)に寄せられた相談

・有効回答:1,768件※

※対応のキャパシティの関係で一部の相談を停止していた時期を含む件数

※着信のみがあった場合など相談内容の把握ができないものは有効回答数に含めていない



調査結果によると、妊娠中期(22週)以降と回答したのは24.1%であり、経済的な理由から病院にも行けないまま、お腹が大きくなって不安といった声や、コロナ禍においては、パートナーも含めた雇用環境の変化や収入減による不安の声も多く寄せられています。

中には、緊急対応が必要なケースもあり、「お腹が痛くなってきたけれど、どうしていいかわらかない。病院に行くお金もない」といって電話をかけてくる方が少なからずいます。このようなとき、フローレンスの相談員は「とりあえず病院に行ってください。お金の事は、あとで病院で会ったときになんとかするから」と伝えたり、駆けつけて、一緒に病院へ付き添うこともあります。

実際に、数多くの妊婦さんに寄り添い、出産を見届けているフローレンスの相談員は、「私たちが接している相談者さんで、生まれた赤ちゃんを放置するといったことを、したくてしてる方はいないと思います。皆さん、何かしら事情があって、困っていて、中にはあちこちに相談したけれど支援を受けることができなかった結果、孤独な出産にいたってしまったという方もいます」といいます。

予期せぬ妊娠に悩む女性が誰にも相談できないままに出産し、悲しい結末を迎えないためにも、フローレンスでは「にんしん相談」で全国の相談者さんに寄り添い、病院の受診に付き添ったり、役所での手続きをサポートしたり、安心して分娩できる病院を探したりといった支援をしています。


選択肢のひとつとしての、特別養子縁組

フローレンスの赤ちゃん縁組は特別養子縁組がゴールではありません。赤ちゃんを自分で育てる、縁組で養親さんに託す、しばらく施設に預けて考えるといった選択肢があります。そのため、赤ちゃんが生まれる前に、相談者である実親さんとよく話し合い、必要であればカウンセリングの機会を提供して社会的支援についても理解していただいた上で、実親さんと赤ちゃんがどうしたら一番幸せになれるかを一緒に考えていきます。

そして、赤ちゃんが生まれてから、最終的に実親さんに決めていただきます。相談員は、赤ちゃんのお母さんとなった実親さんが、「自分の未来を自分で決める力」を引き出せるよう促していきます。その結果、「自分で育てたい」となれば地域の行政につなげていき、「特別養子縁組をしたい」となればその支援に伴走します。

フローレンスの「にんしん相談」では、相談者さんからはお金をいただいていません。そのため、相談員の人件費や出張費、生みの親へのアフターフォローにかかる費用などは、すべて寄付者さんからのご支援で成り立っています。

フローレンスが最後のセーフティーネットとなって、急を要する相談者さんに、「お金の心配は要らないから、とりあえず病院に行って」と伝え、赤ちゃんの命を救えるのは、多くの寄付者さんの支えがあるからこそできる支援なのです。



一方で、赤ちゃん縁組で特別養子縁組を希望するご夫婦には、1年から1年半に及ぶフローレンス独自の手厚い研修・実習などの支援を行うために必要な費用をご負担いただいています。

フローレンスは赤ちゃん縁組事業(にんしん相談・特別養子縁組)を通じて、すべてのお母さんが安心して出産し、すべての赤ちゃんがあたたかい家庭で愛情に包まれて育つことのできる社会を目指して活動しています。

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