食があるオフィス
Contributor :
小河 知穂 | グラフィックデザイナー
2021年より東京から福岡県の糸島へ拠点を移し、多拠点生活を実践中。
ポップアップストア 日日 @nichi__nichi 店主
目次
食があるオフィス
レストランがある毎日
デザイン事務所時代とのつながり
空間と人がそろう場所
働く自分の機嫌を取れる場所
最後に
青山の街を歩きながら初めてFAROを見学しに訪れたのは2015年8月のこと。いまでもはっきり覚えています。ドアを開けた瞬間、ぱっと目に飛び込んできたのは天井からさがる存在感のある照明。その奥には広々としたキッチン。どこを切り取っても洗練されたインテリアと「日常の中にレストランがある」という事実に ──「ここで働きたい!」と心の中で即決。
人に第一印象があるように、場にも第一印象がある。FAROは一瞬で人を惹き込む特別な空間でした。
本格フレンチがカジュアルにたのしめる Restaurant PORTUS ※現在は閉店
レストランがある毎日
オフィスの中にレストランがある ── それだけで日常の音や香りがまるで違う。五感を刺激してくれる環境でした。
食べることは大好き。だけど忙しいと、つい食事を後回しにしてしまう。
そんなときに香ばしいパンの匂いがふわっと広がったり、カトラリーが重なる小さな音が聞こえてくると「机でコンビニサンドをかじってる場合じゃない!」と気づかされる。ほんの小さなことだけど、心と体を立て直してくれるきっかけになっていました。
入居者さんだけでなく、レストランを目当てに訪れる人もいる。だからオフィスの中にいながら、自然と外の流れと混ざり合える。それも魅力の一つでした。
ランチの時間は特別で、一人で座っていても、隣の人と自然に会話が始まるのです。
「今日はゆっくりランチ?」
そんな一言から仕事の相談や新しい企画が動き出すことも。食を前にすると肩の力が抜けて、会議室では出てこない本音や笑顔が生まれる。それが食の持つ大きな力でした。
仕込みの香りで時間を感じたり、夕方になってレストランのざわめきが「もう19時か」と教えてくれる ── そんな日常が心地よかったのを覚えています。
毎日オフィスに美味しそうな香りが
当時、私が制作していた書籍の編集者さんはFAROの空間が大好きで、打ち合わせのたびに青山まで足を運んでくれました。
打ち合わせはいつもレストラン。雑談9割、仕事1割。それでも大切な信頼や企画はそこで自然に形になっていきました。思い返せば、食を通じて素の自分を出せていたからこそ、良い仕事ができていたのだと思います。
さらに「食事しよう」と友人たちが訪れてくれることも。普通は仕事場に友人を呼ぶなんてほとんどないのに、FAROは“働く場”でありながら、誰かを招きたくなる心地よさがありました。
そして何より楽しみにしていたのが、コミュニティマネージャーさんが企画してくれるランチ会や夜の交流会。キッチンがあるだけで、イベントは一気に華やぎます。
普段話さない人とも自然につながれて、人見知りの私も助けられました。
フリーランスにとって新しい出会いは大切。その場のおかげで実際に仕事につながり、今でも続くご縁があるのは本当にありがたいことです。
FARO青山で定期開催していた本のイベント「SAKE TO BOOKS」
デザイン事務所時代とのつながり
私はフリーランスになる前、デザイン事務所で働いていました。そこで学んだのは特に「働く環境の大切さ」。
オフィスを移転するたびにスタッフ全員で場所を選びました。その基準は「周囲にカフェや本屋があるかどうか」。アイデアを広げるインプットの場所、リラックスできる余白のある場所 ── それが私たちの条件でした。
仕事の合間に本を開いたり、カフェで打ち合わせをしたりすることで、新しい発想が生まれるのを実感していたのです。
だからこそ、FARO青山にレストランがあったことは私にとって大きな魅力の一つでした。オフィスの中に「切り替えの場」があることで、働き方も人との関わり方もぐっと豊かになる。まさにそれを体感していました。
FARO青山はクリエイターが多く、デザイン書の外商さんが定期的に販売に来てくれる
空間と人がそろう場所
同じような環境を自分でいちから作り上げるのは簡単ではありません。家具やインテリアを整えることはできても、そこに集まる人や文化までは用意できない。
FAROの魅力は、洗練された空間そのものに加えて、そこを選んで集まる会員さんや、コミュニティマネージャーさんの存在です。価値観が近いからこそ、自然と会話が広がりやすい。雑談からプロジェクトに発展したり、お互いを応援し合ったり。空間と人、その両方が揃っているからFARO青山は特別な場所だったのだと思います。
1Fのお花屋さん がランチタイムにレストランの片隅でミニブーケの販売をしてみたり
働く自分の機嫌を取れる場所
「毎日目にするもの」「身体に入れるもの」── 全部が自分のコンディションをつくります。私にとって食がある環境は、まさに“働く自分の機嫌を取れる場所”。おいしいものを食べて、心地よい空間に身を置き、自然に会話が生まれる。その一つ一つが仕事のリズムを整え、新しいエネルギーになっていました。そして、その感覚はいまでも変わりません。
全国の生産者さんから旬の食材が届く。写真は鎌倉野菜のファームトゥテーブル
最後に
今は家族の都合で地方に暮らしています。好きな海がある場所を選びました。そして引越しのときにまず確認したのは「近くにシェアオフィスがあるかどうか」。
FAROでの体験が私の働き方や価値観の基準になっているのは間違いありません。
そして、その時間を支えてくれていたのがコミュニティマネージャーさんたちです。人を自然につないでくれたり、イベントを企画してくれたり。私がFAROで得た仕事やご縁は、彼らの存在があったからこそ生まれたものでした。
いまFAROでは新しいコミュニティマネージャーを募集しているそうです。
人と人をつなぐことにわくわくする方にとって、ここはきっと特別な場所になるはず。元利用者として、これからFAROを担う方を心から応援しています。
次回は「FAROにあるギャラリー」をテーマに、アートと働く時間について書きたいと思います。
FAROの「食」のかたちは変わりながらも、その後オープンした神楽坂、中目黒といったFAROの全拠点がキッチン併設で、今も様々な食のイベントが行われている。
Contributor :
小河 知穂 | グラフィックデザイナー
2021年より東京から福岡県の糸島へ拠点を移し、多拠点生活を実践中。
ポップアップストア 日日 @nichi__nichi 店主