「エンジニアが一番困ってることって、自分の市場価値が分からないってことなんですよ」
そう正義感あふれる表情で話すのは、有限会社エキストラのSES事業を牽引する、執行役員の伊藤 嵩弥(いとう たかや)。
SES事業とは、System Engineering Serviceの略称です。
ソフトウェアやシステムなどの開発・保守・運用を必要とするものの、社内に十分な数のエンジニアがいない企業に対して、エンジニアを派遣する事業を指します。
ただ「SES」という名前自体、業界外の人にとっては馴染みがないですし、こうやってパッと説明を聞いただけではイメージしづらいことも多いというのも事実...。
そこで今回は、SES事業に詳しい伊藤に対して「具体的にはどんなことをやってるの?」という質問を投げかけ、多くのナゾに包まれたSES事業の実情を探っていきたいと思います!
エンジニアとは、定期的に顔を合わせてコミュニケーション
――早速なんですけど、SES事業では、具体的にどんな業務をしてるんですか?
伊藤:一言でいうと、エンジニアが実務に集中するための、実務以外のサポート全般です。派遣先の企業の開拓から、給与交渉、トラブル時の仲介までなんでもやります。
――そんなに幅広くやってるんですね...!
伊藤:特に給与交渉に関しては、エンジニアが企業に対して直接言いづらい面もあるので、我々のようなSES事業者を通してもらうことによって、適正な金額になりやすくなると思います。エンジニアが一番困ってることって、自分の市場価値が分からないってことなんですよ。このスキルがあれば何円っていう相場観が、個人ではイマイチ掴みにくいところもあって。
――エンジニア業界の給与事情って、意外とブラックボックスな側面もあるんですね。
伊藤:我々のようなSES事業者であれば、いろんなエンジニアの給与交渉を担当しているので、それぞれの能力に見合った年収を提示するという形でも、エンジニアのサポートをしています。
――他にまだ企業とエンジニアとの仲介役として、行っている業務はありますか?
伊藤:我々とエンジニアとの間で、少なくとも1ヶ月か2ヶ月に1回くらいは、ランチなんかをしながらコミュニケーションを取るっていうことを大事にしていますね。
――エンジニアの方って効率性を重視しているイメージだったんですけど、やっぱり直接会うことも重要なんですね。
伊藤:もちろん普段はメールやチャットでのやり取りなんですけど、直接会って話していると、わざわざメールやチャットをするほどのことでもないなっていう小さな悩みや不満が、けっこう出てくるんです。それらは小さいうちに対処しておくほうが、絶対に良いので。あと逆に、我々からエンジニアに対しても、直接伝えたほうがいいなってことを、そのタイミングで話すようにしています。
――例えばどんなことですか?
伊藤:企業側からエンジニアに対して思っていることを、我々が仲介して伝えるんですけど、一番多いのは勤怠関係ですかね。特に、遅刻が多いって話はよくあります。それで、遅刻だと「寝坊しないように気をつけてくださいね」で終わるんですけど、もう少し複雑な事情の話もあって。
――どんな話ですか?
伊藤:SES事業の場合、基本的に月の合計勤務時間に、ある程度の幅を設けているんです。一般的なのは、月140時間〜180時間っていう幅ですね。つまり、月に140時間働いても、180時間働いても、エンジニアにとってもらえる給与は一緒なんです。そうなると、なかには月の合計勤務時間がギリギリ140時間になるように休むエンジニアもいて。
――お金の絡んだ、すごい生々しい話ですね。。。
伊藤:別に契約上は140時間でも問題はないんですけど、企業側の印象としては、やっぱり良くはないじゃないですか。それにエンジニアにとっても、そんな目先のちょっとした楽よりも、企業側の印象を良くして中長期な関係を築いたほうが、結果的には給与面の向上にもつながるので。そこは例え150時間でもいいから、もう少し出勤時間を増やしてくださいといったことを伝えています。
トラブルの際の落としどころを探るのが、SES事業者の腕の見せどころ
――他になにか、SES事業を行うなかで印象に残っている場面はありますか?
伊藤:エンジニアが開発や運用で、トラブルを起こしたときの仲介は、毎回けっこうな労力を使いますね。例えば派遣しているエンジニアが、間違ったコードに書き換えてしまって、システムが30分間全停止してしまったなんてこともありました。でも正直、それはもうSES事業者の身としてはどうしようもできないじゃないですか。
――起きてしまった事実は変えられませんもんね...。
伊藤:だからそういうときは、契約書を読みながら落としどころを探ります。第何条にこう書いてあるから、トラブルが発生したときの責任はどっちだとか、システム全停止はこの箇所の記述に基づいて、即日解雇だとか。ただ、そうなるとエンジニア側がさすがに即日解雇はないんじゃないですか、こっちにも生活があるんですというふうになって...。このやり取りを企業とエンジニアで直接行うとお互いが主張を譲らなくて解決しないので、我々が間に入って話をまとめています。
――そういった契約周りの細かいところまで、サポートするんですね。ちなみに、SES事業者にもプログラミングの知識は求められるんですか?
伊藤:いえ、ぼくはコードを書くことはできないです。ただ、企業の人事やエンジニアとコミュニケーションを取るための、最低限の知識は必要です。逆に、プログラミングの各言語について多少浅くても幅広く知っておけば、他のSES事業者と差別化を図ることもできます。実務レベルとまではいかなくても、ある程度、専門用語も使いながらの会話ができれば、それによってエンジニアからの信頼を獲得しやすくなりますね。
今後は規模と分野、両方向に拡大
――エキストラでは、いまSES事業に営業として携わっているのは、伊藤さんだけですか?
伊藤:そうですね。いま全部で20名くらいのエンジニアと契約しているんですけど、私ひとりで対応できる人数としては、このあたりか、増やせても30人くらいが限界なのかなと。
――たしかにここまで伺ったように、この事業では一人ひとりのエンジニアとの密なコミュニケーションっていうのが、ものすごい大事ですねもんね。
伊藤:だからいまは自分以外にもうひとり、営業を採用したいなと思っています。その方にいま自分が抱えているエンジニアを引き継ぐのか、新しいエンジニアを開拓してもらうところからやるのかは分からないですけど、ゆくゆくは会社全体で契約しているエンジニアを100人〜200人規模くらいにしたいなとは考えていて。
――伊藤さんが一緒に働きたいなと思う、人物像はありますか?
伊藤:営業という業務に関しては、仮に未経験でもOJT形式でやりつつ私が教えます。その際には、分からないことに対して貪欲な姿勢とか、数字に対して絶対に成果を残すんだっていうやりきる力とかがあるとうれしいですね。
――では最後に、伊藤さんご自身が今後エキストラで、どのように活躍していきたいのかについて聴かせてください。
伊藤:SES事業に関しては、それこそ100人、200人規模のエンジニアを採用して、より大きな案件を受けられるようになりたいですね。あと将来的には、エンジニアという業種にとらわれることなく、転職業界全体の仲介を行うことも視野に入れています。
――規模と分野、両方を拡大していくということですね。
伊藤:そのうえで、私自身はSES事業だけでなく、どんどん新規の事業も開発していきたいです。個人的には、やっぱりtoC向けの自社サービスを作りたいですね。ふだん生活していると、「こういうサービスがあったらもっと便利なのに!」というアイデアはたくさん出てくるんですけど、それをすぐ実行に移せる開発力と資金力がエキストラにはまだなくて。そのためにもまずは、SES事業を軸に会社としての基盤を整えていきます。