2025年11月、日経BP総合研究所が発表した「子育てしやすい自治体ランキング2025」で、長崎県大村市が全国1位に選ばれた。2位は兵庫県明石市、3位は千葉県流山市。4位以降に東京都心3区が続く。
このニュースを聞いたとき、嬉しいと同時に、少しほっとした。
私はEnvitalの事業の傍ら、大村市で約5年間、地域づくりに関わらせてもらってきた。東京に本拠を置きながら大村と行き来する二拠点生活を続ける中で、地元のお母さんたちから「ここは子育てしやすい」という声を繰り返し聞いてきた。子ども3人の家庭がごく普通にいる。全国的に少子化が叫ばれる中で、この感覚はちょっと特別だなと感じていたので、数字で裏付けられた形だ。
「突出」ではなく「バランス」の街
ランキングの詳細を見ると、大村市の特徴がよく分かる。住民の評判で全国1位、年少人口比率で8位。特定の施策が突出しているのではなく、安心・安全、生活の利便性、医療、子育て支援——8つの評価分野すべてで高水準を維持している。
二拠点で半分この街に暮らしている身として実感するのは、何か一つの派手な政策があるわけではなく、長年にわたるインフラ投資の積み重ねで、日常の暮らしの基盤がしっかり整っているということだ。
病院が近い。保育園に入れる。買い物に困らない。歩道が安全。図書館が素晴らしい——ミライon図書館は、住民アンケートでも繰り返し名前が挙がる。大人も子どもも一日過ごせる場所がある。新幹線が来て、空港もある。こうした「当たり前」が、実はどれほど贅沢なことか。東京にいると気づきにくいが、地方都市でこのバランスを維持するのは簡単ではないはずだ。
大村市は長崎県内13市で唯一、50年連続で人口が増え続けてきた。合計特殊出生率は1.74と、全国平均の1.20を大きく上回る。これらの数字は、ある日突然の政策で実現したものではなく、長い時間をかけた地味な積み重ねの結果だと思う。
この街のまちづくりに関わらせてもらって
私が大村市に関わり始めたのは、市が「未来都市構想」を策定する過程からだった。テクノロジー企業の事業開発を本業とする自分が、なぜ九州の地方都市のまちづくりに関わるのか。最初は周囲にも不思議がられたと思う。
きっかけは単純で、この街に可能性を感じたからだ。空港のある地方都市は全国にいくつもあるが、人口増を維持し、官民が同じテーブルについて動ける体制を持つ街は多くない。縁があって関わらせてもらえることになり、気がつけば5年が経った。
5年の中で少しずつ積み上がってきたものがある。行政の担当者と民間が互いの事情を理解し合えるようになったこと。地域の事業者とのネットワークが実務的に動き始めたこと。こうした「見えない資産」は、ランキングには反映されないけれど、次の一手を打つための土台になっていくものだと感じている。
ランキングの先にあるもの
ランキング1位は素直に嬉しい。でも、本当に大事なのは「その先」だと思う。
子育てしやすい街であり続けるために何が必要か。ランキングに載った39項目はすべて「今の暮らしの評価」だ。でも、「10年後の暮らし」を見据えた仕込みも要る。デジタル技術を使った行政サービスの効率化、交通手段の多様化、エネルギーの地産地消——テーマはたくさんある。
私が本業のテクノロジー事業開発と、大村でのまちづくりの両方に関わり続けているのは、この2つが最終的にはつながると思っているからだ。海外のディープテック企業が持つ技術と、地方の現場が持つ課題。この間に立つことで何かできるかもしれない、という思いで続けている。
もちろん、課題もある。2025年3月には市内の分娩施設が1カ所閉鎖し、残り2カ所になった。出生数が年間800人台を維持する街で、分娩できる場所が減っている。大村だけの問題ではなく地方全体の産科医不足という構造的な課題だが、「1位」の裏側にこうした現実もある。園田市長自身も、1位の評価を受けて「地域の課題解決に関心を持ち、みんなで参加するきっかけにしたい」と語っていた。こういう姿勢が、大村らしいなと思う。
住んでみないと分からないこと
最後に、一つだけ。
ランキングや統計では捉えきれない大村の良さがある。それは「人の距離感」だ。
東京の匿名性とも、典型的な田舎の濃すぎる人間関係とも違う。自衛隊の3部隊がある関係で転入者が多い街だからか、よそ者に対する自然な受容性があるように感じる。子育て世帯にとって、これは案外大きいのではないかと思う。
子育てしやすい街の本質は、制度や施設だけでは測れない。「ここで暮らしたい」と思える、何気ない日常の心地よさにこそあるのだと思う。大村には、それがある。ここに関わらせてもらっていることが、ありがたい。
画像出典:大村市が全国1位「子育てしやすい自治体ランキング」目指すは “町のみんなで支える子育て”《長崎》(長崎国際テレビ)
Envitalは、海外テクノロジー企業の日本市場参入支援を主軸としながら、地方のまちづくりにも関わらせていただいています。テクノロジーで事業を成り立たせつつ、地域社会にも貢献できる形を模索しています。