「面白そうだったら、やってみる。決めた後にどうするかを考えるんです」
dcn株式会社の代表・友口 涼介さんは、自身の経営スタイルをそう語ります。東京消防庁で人命救助の最前線にいた消防官から、起業家へ。そのユニークなキャリアの根底には、「認知科学」との出会いから生まれた「決断ファースト」という確固たる哲学がありました。
公務員試験対策スクール「東消塾」の運営から、観光事業まで。既存の枠にとらわれず挑戦を続ける友口さんの目に、dcnの未来はどのように映っているのでしょうか。消防官時代から現在に至るまでの軌跡、独自の事業観、そしてdcnが求める仲間について、詳しく伺いました。
消防官から起業家へ。安定を手放し、自己成長の道を選んだ理由
ーー本日はよろしくお願いします。まずは、友口さんのご経歴についてお伺いしたいです。消防官から起業家という異色のキャリアですが、どのような経緯があったのでしょうか?
消防官を目指したきっかけは、大学4年生の時に消防隊員の方と出会い、「シンプルにかっこいい」と思ったからです。体を動かすことが好きだったので、人命救助という仕事に直結することに魅力を感じ、東京消防庁に入庁しました。
4年間勤務したのですが、2〜3年と続けるうちに、庁内での目標を見失ってしまったんです。資格取得などに興味が持てなくなり、「自分の能力を活かせる場所は他にあるんじゃないか」と考えるようになりました。ちょうどその頃、仲の良かった同期が先に退職して新しい道に挑戦していたことにも刺激を受け、「とりあえず自分でやってみよう」と、思い切って退職を決めました。
ーー大きな決断ですね。退職後、すぐに会社を設立されたのですか?
いえ、最初は個人で活動していました。ちょうど退職したタイミングがコロナ禍で、とりあえずYouTubeで東京消防庁に関する情報発信を始めたんです。すると、視聴者の方から「勉強を教えてほしい」「面接対策をしてほしい」といった連絡が来るようになり、オンラインスクール「東消塾」を立ち上げました。
会社を設立したのは、その後のことです。きっかけは、学んでいた認知科学コーチングでした。そこには「決断ファーストでないと人生は動かない」という考え方があります。当時の自分にとって、個人事業主よりも抽象度の高い挑戦が会社設立でした。そこで、純粋に自己成長のために「会社を作ったらどうなるんだろう?」という興味から設立を決めました。まず決めて、後からやり方を考える。それが僕の基本スタイルです。
ーーなるほど。「決断ファースト」という考え方が根底にあるのですね。公務員から経営者になる上で、変化や葛藤はありましたか?
葛藤は正直、忘れてしまいました(笑)。ただ、働き方は大きく変わりましたね。公務員は上から与えられた仕事を正確にこなすことが評価に繋がりますが、経営者は自分で仕事を作らなければなりません。どうすれば最短で、効率よく成果を出せるのかを常に試行錯誤するようになりました。
また、消防士時代の経験も活きています。災害現場では、誰が何をすべきか、どう動くべきかといった人員の最適配置を考えるのが得意でした。その経験は今、新規事業を立ち上げる際の「どんな人材が必要か」という要件定義や、チームのタスク分担を考える上で非常に役立っています。
受講生の人生を変える。元消防官だからこそ提供できる「東消塾」の価値
ーー現在の中核事業である「東消塾」についてお聞かせください。どのような想いで運営されているのでしょうか?
想いとしては、僕らのサービスを通じて消防官を目指す人が増え、最終的に人命救助ができる人材が一人でも多く育てばいいなと思っています。かつては自分が救助する側でしたが、今はその「人」を育てるフェーズにいると考えています。
ーー大手予備校にはない、「東消塾」ならではの強みは何でしょうか?
大きく3つあります。 一つ目は、元東京消防庁の講師から直接指導を受けられる点です。現場のリアルな話ができるので、入庁後のミスマッチを防ぐための「職業理解」にも繋がります。
二つ目は、自学自習の最適化です。分からない問題があればスマホで撮影して送ってもらうだけで、講師からその人のためだけの解説動画が返ってくる仕組みを整えています。これにより、学習のつまずきをすぐに解消できます。
三つ目は、東京消防庁に特化したコミュニティです。全国から同じ志を持つ仲間が集まり、チーム制でモチベーションを維持しながら学習を進められます。一人では続かない勉強も、仲間となら乗り越えられます。
ーーオンライン形式ですが、受講生一人ひとりと向き合う上で意識していることはありますか?
個性ももちろん大切ですが、僕らは「合格しなければ意味がない」と考えています。そのため、生徒一人ひとりの状況をヒアリングした上で、「合格するためには何が最適か」という視点から逆算して、やるべきことだけを指導する。非常にシンプルですが、そこは徹底しています。
事業創造のプロセスこそがやりがい。困難さえも楽しむ挑戦者の思考
ーー教育者、そして経営者として、最もやりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?
学習塾で言えば、やはり受講生から合格の報告をもらった時ですね。今年、2年半なかなか合格できなかった社会人の女性がいたのですが、個別指導プランを提案し、今年の1月から5ヶ月間、プロの講師と伴走しました。そして先日、見事に合格されたんです。ご本人からすごく感謝されましたし、僕にとっても非常に印象深いエピソードになりました。
また、新規事業に関しては、0から1を創り上げていくプロセスそのものが好きで、大きなやりがいです。困難も含めて、全部楽しんでやっていますね。
ーー事業運営における最大の困難は何でしたか?
一度、インドネシアのロンボク島で観光事業を立ち上げるために半年ほど現地にいたことがあります。サーフィンが趣味で昔からよく訪れていた島で、観光特区として盛り上がっていたので「これは面白いことになる」と直感し、日本法人を新卒の役員一人に任せて飛び立ちました。しかし、その半年間で日本法人の経営がうまく回らなくなってしまったんです。役員も体調を崩してしまい、急遽帰国して事業を立て直すことになりました。その再構築の時期が一番苦労したかもしれません。ただ、そうなる可能性も想定してリスク管理はしていたので、致命的な問題にはなりませんでした。
ビジョンはなくてもいい。「楽しいか」で繋がるプロフェッショナル集団
ーーdcnには、どのような仲間が集まっているのでしょうか?
正直に言うと、壮大なビジョンを共有して集まっているわけではありません。僕自身、今のフェーズでビジョンが本当に必要なのか、まだ確信が持てていないんです。
だから、メンバーとは「僕がやろうとしていることを、一緒にやって楽しいと思えるならやろう」という一点を握っています。新規事業の立ち上げは困難の連続ですが、そのプロセスを楽しめるかどうかが重要です。
ーーチームを率いる上で大切にしている価値観はありますか?
最近よく言っているのは、「最小限の労力で最大限の結果を出せるようにしてください」ということです。本当に意味のあることだけを見極めて、そこに集中してほしい。僕自身、昔から「それは本当に正しいのか?」と常に考える癖があるので、その思考はチームにも求めています。
ーーdcnには、どのような方に仲間になってほしいですか?
自分で考えて実行し、結果を出すまでを自走できる人ですね。僕がマイクロマネジメントをするのが好きではないので、極力、管理や監視はしたくありません。裁量権を大きく渡すので、その中で自由に、かつ責任をもって動ける方を求めています。
学習塾から観光事業へ。そして世界へ。dcnが描く未来
ーー今後の会社の目標について教えてください。
まずは既存事業の成長です。学習塾事業全体で年商1億円、営業利益3,500〜4,000万円を目指しています。そして、もう一つの柱として観光事業を拡大していきます。現在運営している宿泊施設を、来期には自社で5棟運営し、管理物件も10件まで増やしたいと考えています。
ーー友口さん個人の夢や目標は何でしょうか?
遠い話になりますが、海外、特に東南アジアで新規事業(観光事業)を立ち上げることです。市場があって、何より「面白そう」なので(笑)。そのために今、日本で何をすべきかを逆算して考えています。
個人としては「健康的に生きる」こと。これが一番の上位概念かもしれません。
ーー最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
dcnがやっている事業や、僕の考え方に少しでも「面白そう」だと感じていただけたなら、ぜひ一度お話ししてみたいです。
僕らはまだ発展途上のチームですが、だからこそ挑戦できる領域は無限にあります。裁量権の大きい環境で自分の力を試したい方、0から1を生み出すプロセスにワクワクする方、そして、その挑戦を一緒に楽しめる方。そんな方と出会えることを楽しみにしています。