2024年11月25日〜12月2日まで出店し、来場者や都の関係者、都知事からも大変好評だったデイブレイクの冷凍寿司。美味しいという評価が7割以上を占めたほか、小池東京都知事からも「冷凍だとは思えない」という声が寄せられました。
その冷凍寿司は、どのようにして商品化され、開発プロセスにおいてどんな工夫があったのか。商品開発と実際の商品提供に携わったプロジェクトメンバーの振り返り座談会を開催。TIBで販売した冷凍寿司の開発の裏側を聞きました。
(参加者:木下瑠里、吉行あずさ、佐藤優、西島由佳、鈴木 茜、矢澤明葵、佐藤朋子)
開発期間はまさかの15日!アートロックフリーザーを使うのだから、鮮やかで立体的なものを作りたかった
ーーー出店が決まってから、どのようなプロセスで提供商品を開発されたのですか?
(木下)出店が決まったのが10月の終わり頃だったので、開発期間は11日でした。11日間で開発して1日で写真撮影、3日間で製造。商品企画から製造完了までがわずか15日間で、本当に大急ぎの商品企画でした。さっき日数を数えてみて、改めてみんなで驚いたよね笑 最初は「アートロックフリーザー」の導入パートナーが製造する冷凍にぎり寿司だけを販売する計画でしたが、せっかく出店するなら華やかにしたいなと思って、手毬寿司を新しく作ることにしました。
今回の 「TIB 1st Anniversary WEEK」のテーマが「デジタルノウハウによって世界に向けて持続可能な新しい価値を生み出すこと」と聞いたので、「持続可能な商品、限りなく無添加なものを提供すること」もテーマにしました。冷凍でも添加物がたくさん入っている食品が多いので、優れた冷凍技術でしっかり鮮度を保てば、添加物を入れる必要はないということを知って欲しくて。
(吉行)せっかくアートロックフリーザーを使うのだから、他と差別化できるような見せ方がしたい。鮮やかで立体的なものを作れないかなと思って、食材の組み合わせを検討しました。
ーーー野菜が入っているのも彩豊かで華やかでしたね。食材の選定でこだわったことは?
(吉行)魚だけでなく野菜や豆腐も入れたいと思い、冷凍できる野菜を色々試作して魚との組み合わせを考えました。今回特に発見があったのは豆腐!豆腐はなかなか冷凍するのが難しくて、食感が悪くなりがちですが、豆腐にお味噌用に漬けることによって、ふんわりとした食感が残ったんです。
(木下)豆腐はこれまで何度も凍結したけど、絹が木綿っぽくなってしまうことが多い。でも今回は普通に絹のままだったよね。
(吉行)お豆腐にお味噌を載せて1日〜1週間寝かせると、キュッと引き締まってクリームチーズみたいになるんですが、それを凍結させると良い具合にふんわりしたんです。
(鈴木)大きい豆腐に味噌を載せた?それとも小さくカットしてから?
(吉行)先に小さくカットしてから味噌を載せました。塩味の影響なのか水分が抜けて、凍結がうまくいったと推測しています。今回の開発での発見でした!
(吉行)その豆腐との食感の違いを楽しんで欲しくて舞茸を組み合わせたんですが、舞茸はキノコの中でもシャキシャキとした歯ごたえがあるので、冷凍しても食感が残るんじゃないかな?という仮説のもとでやってみたら、見事に成功!イメージしていた食感が再現できました。
(佐藤)アイディアもすごいし、美味しかったって、お客様や社内の人からもお豆腐の手毬寿司は好評でしたね。
2年間冷凍保管した柚子の香りに驚愕!
(矢澤)手毬寿司は香りもよかったです。特にゆずは、蓋を開けた瞬間に香りが広がるくらいで。香りが残るのはアートロックフリーザーだからですし、本当に美味しかった。
(佐藤)あの柚子、実は・・・アートロックフリーザーを導入されているお客様から2年ほど前に提供していただいたものなんです。
(鈴木)2年前!?最近買って凍結したのだと思ってた!
(佐藤)そうなんです。賞味期限は大丈夫だけど香りはどうかな・・・とドキドキしましたが、使ってみると、これはいける!って安堵すると同時に驚きました。柚子が徳島県産のいい素材というのもちろんですが、ここまで香りが保たれるのは普通の冷凍ではありえないので、やっぱりアートロックフリーザーすごいんだなって自画自賛しちゃいました笑
ーーー解凍方法は、どのように決定しましたか?
(木下)湯煎やぬるま湯、レンジなどの選択肢がありますが、今回は解凍後にすぐ食べてもらえるわけではないので、乾燥のリスクを考えて自然解凍を選択しました。今回は(冬なので)大体3時間半ぐらいでした。すぐに売り切れて、ちょっと湯煎で解凍したものもあったね。笑
(佐藤)気温(室温)によって解凍時間が左右されるのを改めて実感しました。寒いと時間がかかるし、ちょっとでも暖かいと早い。
冷凍のまま購入した人が約3割。視線を感じた冷凍寿司への関心の高さ
ーーーお客様はどのような層がいらしていましたか?
(西島)主にTIBの利用者や施設関係者、デイブレイク(アートロックフリーザー)のユーザーで、これからお寿司のビジネスを始めたい方もいらっしゃっていました。「冷凍のものを購入したい」と希望される方も多くて、どうしようかと最初は戸惑いました。
(佐藤)解凍しなくていいので一見楽に見えるかもしれませんが、解凍の仕方次第で品質は本当に変わるので、品質担保ができないのは心配でした。「今日中に解凍して食べてください。再冷凍は絶対にしないでください」と念押しして提供することにしたんですが、結果的に、全体の約3割が冷凍状態での販売でした。
(鈴木)溶けたらもう一回冷凍庫に入れたらいいんでしょ?と思われている方は多いですよね。解凍が始まっちゃったら元には戻らないことが意外と知られていない。
(木下)あと、解凍してる時、視線を感じました。笑 本当にここで自然解凍してるの?何も手を加えていないの?と確認したい人が見ていたんだと思います。でも逆に言えば、疑うくらい品質が良かったということですよね。
ーーーお客様の反応で印象的だったことは?
(佐藤)感想は人それぞれなのですが、「冷凍寿司」をどう受け止め方をしているかによって感想が違うのが印象的でした。冷凍寿司だと思って食べてくれてる人は「冷凍だと分からないぐらい美味しかった」という評価で、お店で食べるお寿司を想像して食べる人の感想は「普通だった」。だからこそ、そこは私たちの伝え方が大切だと思いました。
冷凍寿司って、デイブレイクにとっては日常でも、食べたことない人がほとんどです。私たちはお寿司が冷凍できることを知っているし、解凍後に鮮度のいい状態を再現できることの凄さや、そこに辿り着くまでの研究の苦労を分かっているけど、外の人は知らない。
私たちの目線で提供するだけではダメで、ここに至るまでのプロセスを言葉にしないと、せっかくのこのお寿司の魅力が伝わらないし、この空間に浮いてしまいます。「従来の冷凍技術だと、お寿司は冷凍できないんです。お米がボロボロになったり、ネタも美味しくなくなったり。でも、アートロックの技術はここまで進化しているから実現できるんです!」って隅々まで伝えると、納得してくれました。
お米は奥が深い!と再認識
(吉行)シャリへの意見も色々ありましたね。手毬の玄米は、美味しいけど食感が寿司っぽくないとか。
(佐藤)ご飯は本当に人それぞれですよね!普通の炊飯米でも固めが好きとか柔らかめが好きとか、冷凍している・していない以前に、人によってこのお米の好みは違う。今回提供したにぎり寿司と手毬寿司、おのでらさんのお寿司でそれぞれお米の特徴が違ったので、お客様の好みはバラバラだった気がします。
(西島)どこに合わせていくか、難しいですよね。固さを選べるようにしたらいいのかな、ラーメン屋さんの麺みたいに。笑
(木下)同じ米でも、仕入れた日と1ヶ月後では味が全然違います。収穫日から時が経てば経つほどお米が持つ水分量が減っていくので、毎回同じように炊き上げるためには、お米の状態に合わせてお水の量を調整しないといけない。今回も、試作の時には3合で炊いたけど、実際は7合で炊いたから食感が変わっていました。
(吉行)お米も難しいし、ネタを載せるタイミングも、凍結前なのか、シャリを凍結させてからなのか、ちょっと解凍させてからか・・・それぞれ食感が変わるので難しかった。もしかしたらもっとベストな状態があったのかもしれないと、課題は残ります。
(木下)そうだね。そこまで追求できなかったのはちょっと心残り。今回は期間限定だったけれど、商品として本当に販売するならもうちょっと研究したい。出店期間中にも、お客様からの声をできるだけ反映しようと思って細かい改良を施しました。初日にお客様からうなぎの皮が硬いという声があったので次の日以降は一つひとつ皮を剥がしたり、マグロと白身のお寿司で色移りを防ぐために透明のフィルムで覆ったり。これはやってよかったと思います。
「ネタは冷たく、シャリは人肌」がチルドに勝る可能性
(佐藤)「ネタは冷たく、シャリは人肌。これが家庭で誰もができるようになった時、イノベーションが生まれる」というコメントをアンケートに答えてくれた方がいて、それが実現できたら冷凍寿司の革命だなと思いました。特別な解凍機を使わないとできないのか、電子レンジでできる方法があるのか・・・より手軽な方法を解明できたら、一気に冷凍寿司は広がっていくと思う。
(鈴木)カウンターのお寿司屋さんで食べる寿司じゃない限り、スーパーとかお持ち帰りのお寿司って冷たいですよね。だから、「ネタは冷たく、シャリは人肌」が冷凍で実現できたら、チルドに勝るものになるかも。
自分たちと違って、冷凍寿司がはじめての人がほとんど。伝えることの大切さ
ーーー最後にお一人ずつ、感想を聞かせてください
(西島)佐藤さんも言っていたように、私たちは冷凍寿司が当たり前になっていて、お客様へ伝える工夫が足りなかったことが反省点です。フレーズを統一したり、言葉だけでなく装飾やデザインでも視覚的に伝えられたら、もっとあのお寿司の価値が伝わったかもしれない。
(鈴木)自分にとっては冷凍が当たり前になっていましたが、お客様にすごいね、新しいね、と言っていただいて、社会にとってインパクトのある仕事をしているんだなという気持ちになりました。一方で、デイブレイクのことを知ってる人は冷凍技術や性能のことを知りたい。一般のお客様は広く冷凍の話を聞きたい。それぞれのお客様に適切な回答ができなかったのは準備不足だったと感じました。それぞれへのアピールを準備していたら、もっと喜んでもらえたかもしれません。
(矢澤)TIBを訪れたお客様が、この空間は何なんだ?なんでここでお寿司売っているの?って疑問に思ったと思うんですよね。私たちが何者で、どんな特徴のお寿司なのか、もう少しストーリーを知ってもらってから食べてもらえるようなオペレーションを次は考えたいです!
(吉行)商品開発については悔いが残る部分もあります。それが、もっと突き詰めたいという気持ちにも繋がっているので、課題が残ったのも良かったです。やるなら完璧にやりたい。そしたら本当に、そのお寿司を全力で可愛がると思う!
(木下)また開催するなら、デイブレイクのお客様の食材でお寿司ができたら嬉しいです。北海道常呂町のホタテや豊洲市場の新鮮なマグロ、九州・天草の鯛、高知県のカツオ・・・素晴らしい生産者がたくさんいるので、いろんな地域の旬の食材を集めたお寿司ができたら、デイブレイクオリジナルの唯一無二の冷凍寿司を提供できそう。いつか完成させたいです。
(佐藤)私は今、海外に冷凍寿司を展開するプロジェクトに携わっているのですが、今回の出店を通じて、改めてたくさんの人が冷凍寿司に対しての関心を持っているんだなと身に染みました。情報収集のためにわざわざ来てくれている方もいて。冷凍寿司の最先端まではいかないかもしれませんが、先の方を走っていることを自覚したので、まだまだ研究のやり甲斐があるし、もっと突き詰めたいなと気持ちが引き締まりました!
(木下)海外の方でビーガンを求めて覗きに来てくれた人もいたので、ハラルやビーガンもやってみたいね。それこそサステナブル、グローバルに対応できる商品ができそう。
ーーーまた次のイベントで出店するかもしれないみたいですよ!
(木下)えっ?また出すの?本当?じゃぁその時は、今回の反省を活かして・・・またみんなでがんばろうか!
ーーーさいごに、リーフレットのデザインを担当してくれた佐藤朋子さんに、デザインにこめた気持ちを聞きました。
(佐藤)商品写真を見た瞬間、丸っこくてかわいい!と思いました。皆さんが可愛がりながら作っている情景が浮かんだので、見た目の愛らしさが伝わるシンプルなデザインにしました。「えっ、冷凍だったの?」というフレーズは、私が普段の商談でよくお客様から聞く言葉です。食べた瞬間のお客様の心の声、思わず声に出そうな言葉を想像して書きました。
私もこのお寿司をいただきましたが、質の高さは自社商品ながらすごい。また出店する機会があれば、冷凍でこのクオリティを表現する難しさ、緻密な研究があって実現していることを、デザインを通じて伝えられたらと思います。
「えっ、冷凍だったの?」って、このデザインと同じ言葉を何人の人が思い浮かべてくれたかなと想像すると、ちょっとそわそわしますね。担当させていただき、ありがとうございました!
デイブレイクでは、今回の実績をもとに、今後も各地の自治体と連携しながら、その土地ならではの新鮮な魚を使用した冷凍寿司を提供することを計画中です。旬が限られる魚を時期を外して提供できる体制を構築するなど、冷凍技術を活用することによって付加価値を高め、地域の特産物の魅力をさらに多くの方々に届けたいと考えています。またの開催を、どうぞお楽しみに!