「モチベーション」。これさえあれば何でもできる、そう思いながら私たちは生きていませんか?小学生の夏休みの宿題からオリンピックのメダルレースまで、人の可能性を引き出すための最強の能力として。そしてどの企業においても、社員のモチベーションを上げる、または高い状態を維持させていくための、さまざまな取り組みが行われています。
今回のコラムでは、モチベーションを「おとぎ話の架空の怪獣」のように捉えて考えてみるという新しいアプローチを実践してみます。誰も本物を見たことがない、でもきっといる。そして飼いならせれば、素晴らしいことを起こしてくれるに違いない!
モチベーションを成り立たせる3要素
社員のモチベーションが上がらない理由として、一般的に以下のようなものが挙げられます。
・やりたくないこと、好きではないことをやっているから
・目標や明確な理由付けがされていないから
これらももちろん大正解ですが、やりたいこと・好きなことばかりで仕事はできない、目標や理由付けが明確であっても心が揺れなければ何も動かない。いえ、動けないのが人間です。でも今動かそうとしているのは、人間ではなくモチベーションという怪獣ですから、話はおもしろくなってきます。さっそく怪獣の情報を集めていきましょう。
「モチベーションを上げる!」という言葉が日本で多く使われるようになったのは、リーマンショック以降のこと。業績回復のために社員の働く姿勢、覇気やその改善を求めるようになった風潮からとされています。モチベーションは「やる気」という意味で使われますが、もともとの英語の意味は「動機」です。これがまさにモチベーションの大好物であり、大好物は上手に与えてあげればいいのです。
「モチベーション3.0」の著者ダニエル・ピンク氏は、「モチベーションを動かすための外的動機付けと内的動機付けには大きな違いが生まれ、成功報酬型の外的動機付けは20世紀的な旧式作業や体制には状況によってうまくいくこともあるが、現在においては人の思考を鈍らせ、機能しないばかりか、逆に害になる」とも言っています。
さらに、個人目的でもビジネスでも、「重要だからやる」「好きだからやる」「面白いからやる」の3つの感覚を軸にして回るとしています。「自立性」「成長」「目的」という人間の自然欲求の3要素で、モチベーションが成り立っていると。モチベーション怪物の大好物は3つもあるということです。
「心の機能」を使う習慣
どのような仕事やミッション、状況であれ、人間のモチベーションが機能するのは、個人の感情や感覚でしか反応できない「理由」「動機」、そしてその先にある超個人レベルの「幸福感」という内的動機付けです。
弊社で実施する、モチベーション向上のためのセミナーやワークショップでは、
【人が自ら動きたくなる、自ら働きたくなる理由】
これを徹底的に深堀し、ディスカッションしていただきます。「働く理由」や「働かなくてはならない理由」ではなく、「自分から働きたくなる理由」です。この過程で、自分にとっての内的動機とは何なのかが少しずつ掘り起こされていきます。
働くという行為が、「自分がやりたい好きだ」と思うことに最終的に行きつくのか、目標や理由付けは自身の幸福につながっているのか。こういった思考を日常化させておくことも、モチベーションが大喜びする習慣なのです。犬が大喜びするお散歩タイムのような…。
人の幸福感、幸福度は「心の機能」です。そう、機能、システムなのです。心のシステムが的確に機能し、幸福を感じるのは
1.個人として認められる
2.個人の特性が活かされる
3.他者と関わる
4.お互いを活かし合う相互サポートができている
この4つの場面が挙げられます。これらの場面で幸福感を体感でき、モチベーションが自ずと高まり、潜在能力が発揮されます。前出のモチベーションの3要素である「自立性」「成長」「目的」という人間の自然欲求も、この4つに関連しています。
そして、すべてに「個人」という存在が軸になっているのにお気づきでしょうか?自分というアイデンティティの自己認識があって、はじめてモチベーションが機能します。
日本の企業の多くは、いわゆる集団主義的組織です。例えば社員のアイデンティティは
会社名→部署・肩書→名前
の順序で成り立っています。自己紹介でも「○○会社、△△部の××と申します」という順番になりますよね。海外では「××といいます。仕事は△△(部署ではなく職種)、現在は○○で働いています」という紹介の仕方が一般的です。
こうした習慣の違いは、組織やグループへの所属意識が高い、言い替えれば個人のアイデンティティが低い日本の集団主義と、個人の裁量や責任が大きい海外の個人主義の差ではあれ、モチベーションを高めることにおいて、情報のひとつとして頭の中に入れておいてもいいのではないでしょうか?
「個人」「アイデンティティ」を自覚し、自己尊重している社員。個人特性や個性が認められ、内的動機付けが活用されている組織や会社。そこには、架空ではないモチベーション怪獣が実存し、いつでも力を発揮できる状態で待機しているはずです。