黒椎茸ができるまでに、何回失敗したのか。
正直なところ、数えていません。
でも、確実に言えることは、それが「何十回」ではなく「何百回」だったということです。
最初は、大きな勘違いから始まった
対面販売で「焼いて食べるなら、もっと美味くできるんじゃないか」という仮説が生まれた時点では、僕たちは一つの大きな勘違いをしていました。
「水分を足せば、ジューシーになるんじゃないか」
業界の常識では、椎茸は「水分を抜くもの」でした。
理由はシンプル。水分が多いと品質が安定しない。腐りやすくなる。日持ちが悪くなる。
だから、数十年の間、椎茸栽培は「できるだけ水分を抜く」という方向で発展してきたんです。
でも僕たちは、その常識を疑ってみた。
単に水をかけたら、すぐに水キノコになって腐っちゃう。
ダメだ。どうしようか。
そこから、本当の試行錯誤が始まりました。
品種選定:正解がない環境での選択
水分を足すなら、品種を変える必要がありました。
ジューシーな品種を探す。でも、ただジューシーなだけじゃダメ。
水分を保ったままでも、ちゃんと食感が残る品種。そういうのが必要でした。
何種類も試しました。
A品種は水分は多いけど、食感が残らない。ふにゃふにゃになる。
B品種は食感はあるけど、水分が足りない。焼いても出汁が出ない。
C品種は…
その繰り返しの中で、ようやく「北研902」という品種にたどり着きました。
その品種なら、水分を保ったままでも、食感がしっかり残る。
焼いた時に、ちょうどいい「汁気」が出てくる。
でも、これは「品種を決めた」というだけの話。
本当の課題は、その品種をどうやって育てるか、という別の問題でした。
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(レンチナスの椎茸ハウスの中)
湿度管理:85%〜90%の極限環境
通常の椎茸栽培の湿度は、どのくらいか。
一般的には60~70%程度です。
でも、僕たちは湿度を上げる決断をしました。
85~90%。
その環境に24時間換気を組み合わせる。
一般的な栽培とは真逆の環境です。
なぜこの数字なのか。
それは、試行錯誤を繰り返す中で「この湿度なら、水分が椎茸に吸収される」と気づいたからです。
でも、この高湿度環境は、多くの問題を引き起こしました。
カビの発生。形の崩れ。予期しない結果の連続
湿度を85~90%に保つと、当然カビが発生しやすくなります。
環境を整えるのに、毎日のチェックが必要になりました。
どこでカビが出ているのか。
換気は十分か。
温度はちょうどいいか。
毎日、毎日、その細かい調整を繰り返しました。
さらに、形も崩れることが多かった。
水分が多すぎると、椎茸の傘が開きすぎる。
逆に足りなくなると、反り返ったりする。
「あ、この形はダメだ」
そういう判断を何百回も繰り返しました。
1日で数十個の椎茸をチェックしても、「これは規格に入る」と判定できるのは数個。
ロスは出ます。廃棄も増えます。
でも、それでも続けました。
温度管理:水蒸気の加え方
水分を加えるなら、温度管理も重要でした。
単に湿度を上げるだけでは、カビが増殖するだけ。
そこで考えたのが「水蒸気で水を加える」という方法。
加温によって水蒸気を発生させ、その水蒸気を環境に入れる。
これなら、単なる加湿ではなく、より制御された水分供給ができる。
でも、その温度や加える時間は、何が正解なのか。
教科書はありません。
毎日試す。
朝8時に加温を始めると、午後には形が変わる。
朝6時に始めると、また違う結果になる。
季節によって、外気温によって、その日の天気によって、結果は変わります。
「この時期は、こくらいの温度で、この時間加温すると、いい形になる」
そういう「感覚」を身につけるために、何ヶ月もの試行錯誤が必要でした。
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試行錯誤の繰り返し。その中での小さな発見
毎日、毎日、同じような作業を繰り返していながら、毎回、わずかな調整を加える。
水分量を調整する。温度を調整する。湿度を調整する。
毎回、ほんの少しずつ変わっていく椎茸を見ていると、「次はこうしたらどうか」という仮説が出てくる。
その仮説を試す。また調整する。
その繰り返しが、実は一番面白かったんだと思います。
失敗も含めて。
「あ、昨日は失敗した形だけど、この椎茸は違う」
そういう小さな発見の繰り返しでした。
色の変化。黒さの誕生
水分を多く使うようになった結果、椎茸の見た目が変わりました。
太くなったし、色も濃くなった。
黒っぽくなったんです。
最初は「あ、こういう色になっちゃった」くらいの感覚でした。
でも、当時やりとりしていたデザイナーさんに、この黒い椎茸を見せたんです。
「この椎茸に名前をつけるんなら何がいいかな」
そしたら、その人が一言。
「あ、これもう黒椎茸ですね」
その一言で、決まった気がします。
名前が決まった。アイデンティティが決まった。
試行錯誤の中で生まれた色が、そのままブランドアイデンティティになったんです。
偶然じゃなく、必然。
焼き椎茸に最適な形を求めて、水分を足した。その結果として、黒さが生まれた。
全てが繋がってたんだ。
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30,000個に1つ。その理由
なぜ黑椎茸は「30,000個に1つ」なのか。
それは、この試行錯誤の中で生まれた規格基準が、圧倒的に厳しいからです。
傘の大きさは直径9センチ以上。
厚さは3.5センチ以上。
傘の巻き込みは1センチ以上。
重さは90グラム以上。
全部を満たさないといけない。
品種選定→湿度管理→温度管理→水蒸気調整…
これらの全部が揃った時だけ、黑椎茸は生まれる。
1個の黑椎茸を作るために、何百回の失敗を積み重ねる必要がありました。
その後の取り組み
黑椎茸ができた後も、試行錯誤は止まりません。
どうやったら、より安定して作れるのか。
ロスを減らすには、どうすればいいのか。
毎年、毎年、少しずつ改善していきます。
今も、その過程は続いています。