海外スタジオで培った動物表現の極意──西田健一が語る、CGシーンに届ける“リアル”とこだわり
熊が息づき、羽ばたく翼が空気を切り裂く——そんな“生命の鼓動”をCGで描くために、CafeGroupでは動物VFXのR&Dに注力しています。
その中核を担うのが、Weta Digital(現WetaFX)で『アバター2』『ホビット』など数々の大作に携わり、『キングダム』『ゴールデンカムイ』で国内の観客をも驚かせたモデリングスーパーバイザー・西田健一さん。
今回は、西田さんのキャリアの転機から動物VFXへのこだわり、若いクリエイターへのエールをお届けします。ぜひ最後までご覧ください。
目次
- ―西田さんのキャリア変遷を教えてください。
- ―なぜCGを仕事にしようと思ったのでしょうか?
- ―CafeGroup入社のきっかけと決め手は?
- ― 影響を受けた作品・アーティストは?
- ―『ゴールデンカムイ』のクマ表現での工夫と苦労は?
- ―「これは成功した」と感じた動物描写のシーンや、逆に課題が残った表現などがあれば教えてください
- ―毛並みや動きのリアリティなど繊細な表現が求められる動物VFX制作で意識していることは?
- ―Xで公開している、「血塗」やリアルな犬やなどのモデル題材はどのように選んでいますか?
- ― 次は鳥類!自主制作に向けた準備は?
- ―“CGだからこそできる”動物表現の面白さや、実写ではできない場面を任されるケースで印象的な経験があれば教えてください。
- ―海外で働きたい若手のクリエイターへメッセージ
- おわりに
―西田さんのキャリア変遷を教えてください。
大学卒業後はグラフィックデザイン会社に入社しました。しかし、方向性の違いから3か月で退職し、まったくの未経験でCG業界へ転向しました。
遊技機・ゲームを扱う大手企業でCGの基礎を学んだ後、より幅広いスキルを身につけるためCM制作スタジオSpiceへ転職。約4年間、モデリングからレンダリングまでをCM制作を通して学びました。
そこからモデリングに専念したいと考え、SEGAのVE研へ移りキャラクターモデラーとして映像制作に携わるように。やがてVE研が分社化しMarzaへ移籍しました。ちょうどこの頃から本格的に海外就労を目指して行動を開始し、約7年かけてようやくニュージーランドのWetaDigital(現WetaFX)へ入社が決定。シニアモデラーとして約8年間在籍したのち、2018年に帰国して現在に至ります。
―なぜCGを仕事にしようと思ったのでしょうか?
グラフィックデザイン会社にいた頃、DTP制作の案件の一つに『ファイナルファンタジー』の攻略本「アルティマニアシリーズ」がありました。そこに載せるFFのキャラクターやクリーチャーの3D画像をクライアントから受け取りつつ、「こういうキャラクターを自分でCGで作ってみたい」と漠然と思うようになったんです。
当時使っていたPCに「Strata3D」(※)というソフトが入っていて、合間の時間に独学で勉強しながら、実際の仕事でもアイコンなど簡単な3Dを取り入れていました。そうしているうちに「CGを主軸にして仕事をしたい」という思いが強くなり、入社3か月でしたが勢いで退社してしまいました。きっかけは「FFの攻略本」と「勢い」です(笑)。
※ 1990年代後半から2000年代前半にかけて世界で最も普及している3D CGソフトの一つ。Adobe Illustrator や Photoshopなどのアドビシステムズ(現アドビ)製品との適合性が非常によいことから、アドビ製品に慣れたデザイナーやイラストレーターによって利用されることが主に想定されている。
―CafeGroup入社のきっかけと決め手は?
結果的に言うと、ご縁とタイミングです。
映画『アバター2』の制作に携わっていたときに「このプロジェクトが終わる頃に帰国するかも」と家族と話していました。ところが別の事情で、前倒しで帰国することになり日本での転職先を探していたところ、岸本さんと北田さんから「ニュージーランドに行くので会いましょう!」と連絡をもらいました。観光が目的だと思っていたら実は誘いに来てくれたと後で知りました。
ちょうど転職を考えていたので、こちらから条件を出してすぐに合意してもらえたのも大きかったです。
北田さん(左から4番目)と西田さん(右から3番目)&キャラ・リグチーム
― 影響を受けた作品・アーティストは?
やはり『ロード・オブ・ザ・リング』3部作ですね。海外就労を目指すきっかけにもなった作品で、WetaDigitalでモデラーとして働くと決めるほど影響を受けました。今考えると無謀でしたが、Weta一社に絞って挑戦し、結果的に入社できたのは本当に幸運でした。
アーティストとしては、Wetaで同僚だった人々が一番刺激的でした。天才かと思うほどのスキルを持つアーティストと机を並べ、彼らの作品を直接見ながら盗める技をどんどん吸収できたことは、自分の中で大きな財産です。モデリングスキルは追いつかなくても、物を見る「目」は相当鍛えられました。
―『ゴールデンカムイ』のクマ表現での工夫と苦労は?
その動物が実際にどう暮らしているのかを踏まえて制作指示を行いました。クマひとつ取っても、性別や年齢、季節、監督のイメージなどを考慮しながらモデルを作ります。モデルが良くてもアニメーションが不十分だと台無しなので、Weta時代の同僚で信頼できるシニアアニメーターにクオリティ管理をお願いし、さらに多くのプロフェッショナルが協力してくれたおかげで、良い仕上がりになったと思います。
―「これは成功した」と感じた動物描写のシーンや、逆に課題が残った表現などがあれば教えてください
国内において『キングダム』や『ゴールデンカムイ』の動物表現は、かなり良い結果になったのではと思います。とくに『ゴールデンカムイ』は実写化の発表当初に反対意見も多かったので、評価が悪くなくてホッとしました。
ただ、動物を作るコストが高いのも事実で、予算の都合でカット数が減ったり購入モデルだけで終わるケースもあります。
これからはコストを抑えつつハイクオリティな動物を提供できる体制が必要だと思っていて、その一環として動物アセットを使った面白いことを色々と考えています。
―毛並みや動きのリアリティなど繊細な表現が求められる動物VFX制作で意識していることは?
まずは「資料集め」と「ワークフローの確認」を徹底し、その動物がどのような環境や状況で暮らしているかを把握したうえでモデリングやテクスチャを行います。動物ごとに必要な技術が異なるので、毛や羽、鱗などの表現は、リグやセットアップ、アニメーションなど後工程との兼ね合いも考慮しながら試行錯誤を繰り返して最適なアプローチを模索します。
特に見た目だけでなく生息環境を想定すると作品に“厚み”が生まれると感じていて、完成前にはできるだけ多くの人に見てもらいフィードバックを得ることで、バージョンを重ねるごとにクオリティを高めていくようにしています。
―Xで公開している、「血塗」やリアルな犬やなどのモデル題材はどのように選んでいますか?
「血塗」はアニメ呪術廻戦を見ていて「このキャラをリアルに作ったら面白そう」と思い、スカルプティングの練習を兼ねて作ってみました。人気作なのでファンも多く、多くの方に反応していただけて嬉しかったですね。
犬のモデルは完全に仕事寄りの目的で、新しいツールを社内に導入することを見据えて、指示を出す立場の僕自身が使いこなせるようゼロから勉強しながら作りました。結果、LinkedInやArtStationなど海外の方々にも大きく見てもらえて、リアルな動物CGの人気を実感できました。
今後は「鳥類」に挑戦しようと考えていますが、ゼロからの勉強になるため大きな挑戦になりそうです。いずれにせよ、最終的には「会社の資産」になりうる作品づくりを意識しています。
― 次は鳥類!自主制作に向けた準備は?
現在使っているHoudiniは作り方に正解がなく、人によってフローが違うのが面白いところです。
まずは「Houdiniを使った鳥の作品」をとにかく探して、さまざまなアーティストのデータやメイキングを見ています。そこから「真似したい部分」を寄せ集め、自分に合ったワークフローを組み立てようとしている段階ですね。
毛の生えた動物、羽をもつ鳥類、昆虫など、それぞれで一度フローを作ってしまえば2体目以降はスピードアップできます。その最初の土台づくりとして時間をかけているところです。自由な発想で作れるのもHoudiniの強みだと思います。
―“CGだからこそできる”動物表現の面白さや、実写ではできない場面を任されるケースで印象的な経験があれば教えてください。
現実に用意できない動物や、会話シーン、スタイライズされたキャラクターなどは、どうしてもCGが必要になります。しかし国内でそのような需要がまだ多くないのも現状です。
今後コスト面を解消しつつ、高品質な動物を幅広く提供できるようになれば案件も増えるはずですし、他社ではなかなか手が届いていない分野に力を入れたいですね。印象的な経験は、これからたくさん積んでいければと期待しています。
―海外で働きたい若手のクリエイターへメッセージ
最近は海外採用もかなりハードルが低くなっていると思います。
とはいえ、「行動力」と「タイミング」は大切です。スキルがあってもタイミングが合わないと採用されませんし、行動力がなければそもそも応募すらできません。
もちろん「ローカル人材に勝てる何か」、具体的にはハイレベルなスキルや表現力なども必要。英語が得意でない日本人をわざわざ採用するわけですから、地元のアーティストを上回る強みが必要になります。加えて「ネットワーク」も重要で、スタジオに知り合いがいるだけで採用のハードルは下がります。
最後は「辛抱強さ」です。実は入社してから生き残る方が大変だったりするので、粘り強さや折れない心は欠かせないと思います。
おわりに
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
西田さんの豊富なキャリアと動物表現へのこだわりは、きっと多くのCGアーティストに刺激を与えてくれたはずです。CafeGroupでは、動物のモデリング・VFXに興味のある方のご応募をお待ちしています。
これからも新たなCGの可能性に挑戦し続けますので、ぜひご注目ください。