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年間3000人以上が来店した金沢茶寮が新たに仕掛ける、サステナブル×伝統文化のリデザイン

体験型アートカフェ、金沢茶寮(https://www.kanazawasaryo.jp/)。

「伝統工芸を現代風にアレンジし、新たなアート体験を提供する」というコンセプトのもと、九谷焼作家の吉岡 正義氏と、U.Sの共同事業として2022年3月に立ち上がった。自分だけのオリジナルな器をつくり、その場でプレミアムな日本茶を堪能する。旅先での体験のアップデートを提供し、約1年間で3000名以上のユーザーが訪れ、観光地ランキングでも石川県内で2位(じゃらん調べ)と、金沢で屈指の人気を誇る場所となった。まもなく、デビューから1周年を迎える金沢茶寮。金沢茶寮のこれまでと今後の展開について、ディレクター/ストアマネジャーの堀田萌生に聞いた。

お客様の顔が見えてこそ上がる解像度と緊張感。
この瞬間に体験できるサービスの質が、満足度を左右する。

金沢茶寮はオープンから10ヶ月の2500現在で2名以上のお客様に、アート体験を提供してきました。
わたしたちが提供しているアート体験は、漆塗りの技法をアレンジし、カラフルなカラーを選んで、自分だけの器をつくり、日本茶を堪能するという2時間のプログラムです。20種類以上ある色の選択肢から、自分で色を3つ選んで器に塗り、模様を出すために削る。色も、塗り方も、削りで現れる表情も、どれも違う。
世界に一つだけのものづくりができる体験になっています。



わたしはオープン当初からこの事業の立ち上げ担当として、金沢に着任しました。金沢茶寮が挑戦するといっていたのが「伝統工芸のアップデート」と「旅行体験のアップデート」。もともと、作家との仕事に興味があり、旅行体験自体が好きだったこともあり、入社して早々に手を上げました。最初は「面白そう」っていう気持ちが大きかったように思います。

けれど、私自身、サービス業の経験は初めて。過去、イベント制作会社や広告代理店などで、多くの企画を手掛けてきましたが、接客は仕事として本格的にはやったことはなく、最初はわからないことも多かったです。例えば、店舗にどんなものが必要なのか、運営のオペレーションとして配慮することは何なのか、メニュー開発として考えないといけないことはなにか…。正直、徐々に慣れていったという感じでした。そんなこともあって、どこかオープン時は、少しまだフワフワしているところもあったと思います。「お客様はちゃんと喜んでくれるのかな」という不安もあったのかもしれません。

そんなオープン初日に、来てくれたお客様。
それが、新婚旅行でいらしたお二人でした。そのときに、私のなかでグッと解像度が上がったのを覚えています。お客様には一生に一度の体験。しかも、旅行という楽しい時間の中で、金沢茶寮に来ることを選んでくれた。そのために何ができるのかを自分事として考えるようになりました。企画はあくまで企画。企画がうまくいくかどうかは、この瞬間に提供されるサービスがすべて。どんなに精巧な企画も、ユーザーが面白い、楽しいと思わなければ無意味です。当たり前のことに、気づいたところからが、始まりだったように思います。

そこから、少しずつ、お店の改善をはじめていきました。体験プログラム自体の改善もありますが、それ以上に体験に集中していただくための空気感をつくるためのほんの小さな積み重ねのほうが、多いような気がします。


「こんにちは」と言うお店。

例えばですが、金沢茶寮では「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と一言目に声をかけます。

いらっしゃいませ、という言葉は、距離感をつくる言葉になっている気がして。お店側がもてなす側で、お客様がもてなされる側としてしまうと、どうしても一枚の壁があるような感じがする。お客さま側にほんの少し、緊張感が生まれるんですよね。
その緊張感が必要なお店も当然あると思いますが、金沢茶寮ではなるべくお客さまには「ありのまま」「素の」自分自身でいていただきたいという思いがあります。

私たちのアート体験では「お客さまに自分自身で色を選んでもらう」ことを大事にしています。つい、体験というと「うまくやりたい」とか「下手だと思われたくない」という気持ちから「どの色がおすすめですか」「人気色はどれですか」と聞かれることもあるんです。けれど、自分と向き合って、色を選ぶことそのものがアート体験のひとつでもあるので、なるべくご自身で選んでいただけるように、迷われていれば、お一人お一人、コミュニケーションを取りながら選びたい色がどれかを一緒に探っていきます。だからこそ、素のまま、ありのままでスタッフとコミュニケーションを取れる関係性をつくることがとても大事なんです。

「こんにちは」と声をかけられると、お客さまも「こんにちは」とお返事をしてくださるようになる。お客さまとスタッフの間に自然とコミュニケーションが生まれ、緊張感がほぐれていく。入り口からコミュニケーションが生まれれば、その後つづく体験の瞬間も素のままでいられる。そう思っての小さな心掛けのひとつです。

わたしたちは体験に集中してもらうために、無色透明に、お客様の心地よい空間づくりを支援する存在でありたいと思います。



作家や作品への理解を深める中で知った、産業の問題。

こうして店舗運営していく中で、九谷焼についても質問をいただく機会が増えました。
金沢茶寮のもうひとつの特徴が、九谷焼作家・吉岡正義さんと共同の事業であること。また、スタッフとして実際に世界で活躍されている漆芸作家の松浦悠子さんと一緒に働くうちに、私もマネジャーとしてもっと作家や作品に対しての理解を深めたいと強く思うようになりました。そして、伝統工芸や作家に興味を持つ入り口としても、金沢茶寮が機能するようになってほしいという思いもありました。
金沢茶寮では、漆芸の「塗り」工程を現代的にアレンジしたものを提供していますが器は、九谷焼の製陶所で作られたものを提供をしています。九谷焼そのものにも知見を深めたいと感じて、窯焼き(陶器を焼く工程)へ連れて行ってもらいました。
その中で、本当に器作りは手間暇のかかる作業なんだと知りました。例えば、本焼きは約1200℃の窯の熱を維持するために、薪を入れ続け1週間寝ずに火の番をする。温度管理をして器をつくって、そこを見守って。人の手がすごくかかる作業なんですよね。知れば知るほど、改めてこの目の前にある器の価値を知ることになった。そして作家はそこから更に上絵付けをしたり、唯一無二の作品をつくる。この手間ひまが、どれほどのものか、目の前にすることで改めて感じました。

それと同時に、全部の器が無事に完成するわけじゃないことを知ったんです。考えてみれば当たり前なのですが、窯のなかでいくつかは割れてしまったりすることも多くて。ちょっとだけ、灰がついたり、欠けてしまうだけで、もう売れるものにはならないから廃棄される。でも、その数が思った以上で、大きなコンテナいっぱいに廃棄されることに驚きを隠せなかった。これは産業全体の悩ましい問題なんだと知りました。
ここに、もっと金沢茶寮としてなにかアクションを起こすことができないかと考えたんです。



廃棄するはずだった破片を唯一無二のアクセサリーとして蘇らせ、伝統工芸をより身近な存在に。

そこで思いついたのが、器を砕き、破片の個性を生かしたアクセサリーとして蘇らせることでした。最初は器そのものを金継ぎで蘇らせることも考えたのですが、もっともっと身近に手軽に伝統工芸に触れるきっかけをつくるようなものづくりをしたいとおもうと、金継ぎすら、すこしハードルが高いようにも感じた。そこで、戻すのではなく、いっそ形を壊してしまえばいいのではと思ったのが、始まりです。砕いてみると、意外と1つ1つが愛らしくもみえて(笑)破片に新たな個性が芽生え、1つ1つの個性を大事にしたいとおもう、金沢茶寮らしさもでてきたように思います。

そこから、作家として松浦さんにも参画してもらい、いくつか試作を重ねていきました。ベタで一色に塗ったり、あるいは細かく砕いてつなげてみたり。色々と試してみたのですが、そうしていくなかで、やはり形だけではなくて、色にも偶発的な要素を交えたくなってきて。もっともっと個性が出ていくような塗り方を選択するようになりました。そうしてたどり着いたのが、色と色が混じり、不思議な模様になる水彩風のデザインと、筆で色を飛ばしながら塗る金箔風のデザインでした。これらのつくりかただと、作家の手間はかかってしまいますが、模様もすべて個性がでてきて、唯一無二の作品になる。九谷焼の破片が生き生きと、個性を持つように見えて、完成したときは嬉しかった。
このアクセサリーには英語で陶器を意味する「pottery」にリデザインするという「Re」をくっつけた造語で「potte_Re」(ポタリ)と名前を付けました。

加えて、このピアスに「塗り」の体験を付けたプログラムも今後、金沢茶寮で用意をすることにしました。作家の手仕事によって生み出された、完成作品もとても価値のあることですが、自分自身の個性を生かし、色を選んでつくりあげる体験も同じくらい尊くて素敵な体験になると思います。



伝統文化をサステナブルな形でリデザインし、コト・モノ・ハコにイノベーションを。

今回のピアスも、作家の手をかけて、美しく生まれ変わらせたもの。そうした手仕事の数々が、まだまだ日本にはたくさんあります。今回、捨てるはずだったものを作家の力で蘇らせていくことで、新しいものを生み出していくサイクルに初挑戦しましたが、今後もこうした取り組みを続けたく、様々なものを試作中です。現在は草木染めの作家の方とコラボレーションして、金沢茶寮で提供する日本茶の、抽出後の廃棄される茶葉を使って行く取り組みを進行中です。これもまた、草木染めの作家さんの色を最大限活かして、個性豊かで唯一無二のものになっていくように、実験を重ねています。

今後、私たちは、金沢伝統文化の新たなデザイン拠点として、さまざまなコト・モノ・ハコのデザインに挑戦していこうと思います。今回のように新たに個性的なものを生み出すということや、訪れた方全員が、自分自身の個性を生かした作品作りができる場の拡張も考えたい。やってみたいことはたくさんあります。金沢の地と、作家と、伝統文化。すべてに貢献できるように、U.Sの大事にする「Wowとサプライズ」を忘れずに、楽しく今後もイノベーションを起こしていきたいです。


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