「それは数値化できないよね」。この一言で、議題から消えていくものが、どの会社にもあります。
接客の丁寧さ。現場のしんどさ。看板が見られているかどうか。どれも大事だと分かっているのに、測る方法がないという理由で、感覚のまま放置される。私たちトリノ・ガーデンがやっているのは、そこを測りにいく仕事です。
■ 従業員が、1時間に何歩あるいたか
あるうどんチェーンのリモデルで、私たちが数えたのは売上ではありませんでした。従業員が1時間のあいだに何歩あるいたか。何度しゃがんだか。
「従業員満足度を上げよう」という掛け声は、どの会社にもあります。それが施策に落ちないのは、たいてい測っていないからです。測っていないものは改善の対象にならず、最後は精神論になる。
しんどさを言葉から数字に移し替えた瞬間、それは「頑張って耐えるもの」から「設計で減らせるもの」に変わります。このリモデルでは、客数が増えたにもかかわらず、従業員一人あたりの負荷は軽くなりました。
■ 語尾と、声の高さ
あるゴルフショップチェーンには、買取実績が全国一位の店舗がありました。ただ、なぜその店が一番なのかが、はっきりしなかった。
私たちは、その店の接客トークをすべて記録しました。何を話しているかだけでなく、言い回し、語尾、声の高さ、音量まで分解して、他店と並べた。すると差が出ました。いまでは、この店の取り組みを真似て取り入れる店舗が60%まで上がっています。
一番店のスタッフは、それを無意識にやっていました。無意識だから、本人に聞いても出てこない。だから「丁寧に接客しています」としか報告できなかったのです。
■ 店の前を、何秒見たか
ある大手アイスクリームチェーンでは、デジタルサイネージの効果を検証しました。
広告の効果は売上で測ればいい、と思われがちです。ですが売上は、天気でも、季節でも動きます。だから私たちは、間を数えました。店前を通過した人が、そのサイネージを見たかどうか。どこで見たか。何秒見たか。そして、見た人と見なかった人で、そのあとの行動がどう変わったか。
結果として、1,000店舗を超えるチェーンの掲示ルールが書き換わりました。
■ 測れないのではなく、誰も測っていないだけ
この3つに共通しているのは、どれも「測れない」とされてきたものだということです。
実際には、測れないわけではありませんでした。ただ、測るのが途方もなく面倒だっただけです。何時間も映像を見て、人の手や足や声を一つずつ記録していく。効率だけを考えれば、明らかに割に合わない作業です。
だから、ほとんどの会社がやりません。そして誰もやらないから、そこには手つかずの答えが残っている。私たちが28名で大手チェーンと向き合えているのは、たぶんこの一点に尽きます。
■ 何を数えるかを、決める仕事
この仕事で難しいのは、数える作業そのものではありません。何を数えるかを決めるところです。
歩数を数えようと思いつくかどうか。声の高さを数えようと思いつくかどうか。看板を「見た秒数」で測ろうと思いつくかどうか。ここがずれていると、どれだけ丁寧に数えても、何も出てきません。
そして、最初から正解が分かっていることは、ほとんどありません。機会損失を数えに行ったはずが、価格の話になる。調理動作を測っていたら、厨房設備の設計に行き着く。数えてみて初めて、何を数えるべきだったかが分かります。
だから、正解を持って現場に行ける人は、この会社に一人もいません。全員が、分からないまま数えはじめて、途中で分かる。そういう働き方です。
■ 入社後は、まず数えるところから
入った人が最初に取り組むのは、華やかな分析ではありません。映像を再生し、人の動きを1コマずつ数える作業です。
地味です。ですが、この作業を通らないと、さきほどの「何を数えるか」を思いつく力が育ちません。何百回も同じ場面を見た人だけが、「今のは、いつもと違う」と気づけるようになります。数えていない人の違和感は、ただの思いつきで終わってしまう。
並行して、延べ150時間の教育カリキュラムがあります。「データ分析の考え方」「ロジカルシンキング」。ゼロから専門知識を積み上げられるよう設計したものです。メンター制度と定期カウンセリングもあります。
私たちのフィロソフィーは「Make It Fun」。
誰も見向きもしなかった地味な場所を掘り下げた先にこそ、本当の面白さがある、という信念です。測れないとされてきたものを、測れるようにする。その面白さを味わってみたい方と、話をしてみたいと思っています。