小池 入江 大学卒業後、株式会社ヘアモード社に新卒入社。
編集者から副編集長、編集長を経て、執行役員に就任。 2024年、ビューティガレージグループ入りのタイミングで代表取締役社長となり、
紙とWebの両輪で美容業界の情報発信を牽引している。
はじめに
美容業界における「学び」と「情報発信」を支え続けてきたのが、ヘアモード社です。
1960年の創業以来、月刊誌や書籍を通じて美容業従事者の成長に寄り添ってきました。
その伝統を引き継ぎながら、時代の変化に応じて新たな挑戦を続けているのが、
代表取締役社長の小池さんです。
BGグループで活躍する女性リーダーを紹介する全3回のインタビュー企画。
第1弾では、現場でチームを率いるBGパートナーズ田中さんに。
第2弾では、グループ全体を束ねるネイル&アイ推進グループ統括責任者小林さんに
ご登場いただきました。
そして最終回となる今回は、歴史ある出版社を率いる小池さんにお話を伺います。
登壇していただく方の物語から、働き方とキャリアのヒントを見つけていきます。
▶︎ 第1回のインタビュー記事はこちら
▶︎ 第2回のインタビュー記事はこちら
ヘアモード社一筋、24年のキャリア
――まずはヘアモード社の事業と、小池さんのキャリアについて教えてください。
当社は美容専門出版社です。月刊『HAIR MODE』と『美容の経営PLAN』を中心に、
単行本や電子書籍も展開しています。
1960年の創業から65年、常に美容師さんの学びに寄り添ってきました。
私は、2001年に新卒で入社して以来、ヘアモード社一筋で働いています。
編集者から副編集長、編集長、執行役員を経て、昨年ビューティガレージグループ入りのタイミングで代表取締役社長に就任しました。
📸 受け継がれる歴史とともに、今も美容の学びを届けるヘアモード社の月刊誌と書籍。
📸 月刊『ヘアモード』の創刊第1号(1960年4月号)
📸 月刊『ヘアモード』創刊期の表紙一覧
――どうして新卒でヘアモード社を選ばれたのでしょうか。
まず、”美容師さんと働きたい”という思いを抱いた原点には、大学時代に通っていた
美容室ROSSOでの体験があります。
ROSSOは本当に“全員接客”が徹底されているサロンでした。
担当の方だけではなく、そこにいるスタッフ全員が私のことを知っていて、声をかけてくれる。
おしゃれでトレンド感があり、自由で温かい空気に満ちていたんです。スタッフひとり
ひとりが技術者としての夢を持ち、常に新しいことに挑戦している。
その姿に心から惹かれて、「この人たちと働きたい」と思ったのをよく覚えています。
📸小池さんの原点になった、美容室ROSSO代表 原田タダシ様と
また、その背景には小さい頃に抱いた思いも影響していると思います。
父の仕事の関係で幼少期をアメリカで過ごし、小学校入学前に日本へ帰国しました。
日本の学校文化に馴染むのに苦労し、子どもながらに孤独を感じることもありましたね。
そんな時、母に連れられて美容室に行くと、そこはまったく違う世界でした。
美容師さんたちは自由で、楽しそうに働いていて、
「美容って素敵な仕事だな。私も美容師になりたい」と子ども心に思ったんです。
こうした原体験も重なり、"美容の世界に関わりたい"という思いが芽生えていきました。
そこにもうひとつ、自分の好きなことが関係しています。
ずっと本が好きで、東京女子大学では日本文学を専攻し歌舞伎の脚本など近世文学を研究していました。小説もよく読んでいましたね。学生時代は三島由紀夫に夢中になったこともあります。活字が好きで、物語を読むことが好きで。
その”本への愛着”と“美容室が好き”という気持ちが結びついて、美容専門誌の仕事に強く惹かれたんです。
編集者として学んだこと
――新卒時代、どんな思いで仕事に臨んでいましたか?
出版社で働ける喜びと、美容師さんに歓迎される温かさに、最初からモチベーションは
高かったです。ただ、初めはつまずきもありました。
『美容の経営PLAN』編集部に配属されて、経営者の方に取材をして原稿を書いたときのことです。私はもともと活字が好きで文章を読んだり書いたりすることに抵抗がなかったので、カチッとした、少し硬い文体で仕上げてしまったんです。
それを取材相手である美容室経営者の方に事前確認で送ったら、
「これでは全然伝わらない、書き直してください。」
と言われて。全部直すことになりました。
しょんぼりしましたけど、同時にありがたい経験でした。
それまで自分が『よい』と思った文章をそのまま出していたけれど、受け手が誰なのか、その人たちがどう理解するのかを徹底的に考えなければならないと気が付きました。
読者の多くはこれから独立を考える美容師さんや、経営を始めたばかりの方です。
彼らが“なるほど”と思える文章でなければいけないのに、私はそこへの配慮が足りていなかったんです。
美容室経営者といっても、多くの方は美容師であり現場に立つプレーヤーです。
ビジネス用語や専門的な単語、理論をいかにわかりやすく伝えられるか。
どうすれば彼らの実感に寄り添えるか。
それを学ばせてもらったのが、あの時の失敗でした。
紙とWeb、それぞれの強み
――発信方法としての紙とWeb、それぞれの魅力をどう見ていますか?
紙媒体の良さは“立ち返りやすさ”にあると思います。
体系的に学べて、実体があるので必要な時に読み返しやすいです。
一方、Webは即時性と拡散力が段違いです。
また、コンテンツへの評価が数値として表れやすいのも特徴ですね。
紙の良さも守りながら、Webで得た反応をもとに改善していく。
変化する時代に合わせて、発信方法を進化させることが必要だと思います。
守るものと、挑戦すること
――ヘアモード社の守りたいものと、挑戦したいことは何でしょうか。
守りたいものに関しては、この会社が長い歴史をかけて培ってきた特性です。
ヘアモード社はずっと美容師さんに密接に寄り添ってきた会社で、美容技術や
ヘアデザインに関して、美しさやかっこよさ、またはご自分の感覚を重視する方たちと
共に歩んできました。
そのように感性を大切にする方たちとしっかり語り合い、彼らがやっていることを理論化したり体系化したりする。その作業を編集者が担うことで、成功者のロジックをあらゆる方にとって再現可能なものに置き換えることができます。
当社の編集者たちはそれを実現できる人たちなので、この会社の特性として必ず守り続けたいと思っています。
一方で挑戦したいことは、紙の媒体ではなかなか得にくい“数字として表れる反響”を
どう生かすかという点です。
本が売れることはもちろん良いことですが、では『HAIR MODE』のどの企画が支持されて売れたのかまでは見えにくい。
けれどオンラインメディアであれば、閲覧数や反応がすぐ数字で返ってきます。
何が読者に喜ばれたのか、何が響いたのかを明確に判断できる。
そこを見て次にやるべきことをシフトしていくことが、これからの挑戦だと思っています。
――編集者として記事や紙面を創っていた頃と比べて、
経営者となった今「判断の軸」が変わったと感じる瞬間はありますか。
やっぱり数字実績を見て判断する、というところが一番大きく変わった部分だと思います。
ヘアモード社は伝統的に“ものづくり”の会社で、編集者は
”美容師さんとしっかりコミュニケーションをとって魅力的なページを作れるかどうか"、そして、”正しい情報を正確に伝えられるかどうか”、
そうした点を非常に厳しく教育され、育成されてきました。私自身もそうやって育てられてきたので、編集者の頃は数字を強く意識することはあまりなかったんです。
でも経営者になると、軸はまったく違ってきます。どんなに良いものを作ったとしても、それが数字として成果に結びついていなければ意味がない。そこは立場が変わったから
こそ常に意識せざるを得ない部分です。
正直、数字はあまり得意ではなかったところなので、経営者になってから大きく視点を変えざるを得ませんでした。
当社は職人気質の人が多く、仕事に対して本当に真摯で、クオリティーを追求するタイプの組織です。
そうした職人集団の良さはそのままに、経営者としては“数字で結果を出す”ことを同じくらい重視しなければならない。編集者時代には見えていなかった視点が加わったことが、一番大きな違いだと思います。
リーダーとしての姿勢
――ご自身のリーダーシップのスタイルを教えてください。
こういった質問を頂いたので、初めて考えてみました(笑)
まず本質的にはサーバント型だと思いますし、本当はそうありたいと思っています。
でも、今は会社の大きな転換期なので、あえてドライビング型であろうとしています。
歴史のある会社なので、これまでやり続けてきたことを守ろうとする力が内部的に強く
働く組織だからこそ、変化を進めるために“強いリーダー”を演じる必要があると感じます。
だからこそ、まずは自分が誰よりも新規事業を直接多く手掛け、推進することを意識しています。
――社員の方との信頼関係を、どのように築いていますか?
日常的に意識しているのは、まず“常に機嫌よくいること”ですね。
すごく当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、とても大切だと思います。
業務が多忙なのでバタバタしていることは多いのですが、そこで話しかけにくい雰囲気を出してしまうと社員に余計な負担をかけることになる。
だから、できるだけ一定の状態を保つようにしています。
次に気をつけているのは、”伝え方”です。
特にネガティブなことや複雑なことは、テキストベースで伝えないようにしています。
文字だけだと人によって受け止め方が大きく変わってしまうので、できる限り口頭で
伝えるようにしているんです。
直接顔を合わせて話すことで、意図もニュアンスもきちんと共有できる。
そうすることで、誤解なく伝えられると思います。
そしてもう一つ大切にしているのは、編集長を“長”として尊重することです。
本1冊1冊に編集長がいて、その人が責任をもって誌面を仕上げています。
だからこそ、私は経営者という立場から一方的に口を出すのではなく、編集長を一人の
リーダーとして信頼し、権限を委ねるようにしています。
現場の責任者をきちんと尊重することが、社員との信頼関係を築く上で欠かせないと思います。
女性としてのキャリア
――女性としてキャリアの壁を感じたことはありますか?
正直に言うと、これがあまりないんです。
美容という業界にいるからというのは大きいと思います。
性別による制約を強く意識したことはなく、女性だから難しいと感じる場面はほとんど
ありませんでした。
ただ、人並みに“将来の定まらなさ”に悩んだことはあります。
特に20代から30代前半の頃は、結婚するのかしないのか、母親になるのかならないのか、ずっと東京にいるのかいないのか──
そうした不確実性と、仕事やキャリアアップとのバランスをどう取ればいいのか、
自分の希望が分からない時期がありました。将来のイメージが具体的に描きにくいというのは、女性にとって大きな課題だと思います。
男性の場合は、多くの人が”ずっと働き続ける”という前提を持っていると思います。
でも女性はそうとは限らない。続ける人もいれば、別の選択をする人もいる。
その可能性の幅があるからこそ、先が予測しづらくて苦しく感じることもあるかもしれませんね。
――小池さんは、その課題をどう乗り越えてきたんでしょうか。
私自身は、乗り越えたというよりも、その都度
“今、自分にとって一番良いと思えることを選ぶ”ことを繰り返してきたと思います。
将来こうなるかもしれないから、と計算して動くのではなく、目の前にあることに
一生懸命取り組み、最善を尽くす。その積み重ねが、結果的にここまでつながってきたのだと思います。
ちなみに、女性としての壁はあまり感じませんでしたが、”社会人としての壁”なら、
たくさんありましたよ(笑)
リーダーシップの本質
――小池さんの考えるリーダーとは何でしょうか。
私の考えるリーダーは、
ビジネスの目的と人を結びつけて、成果が出る方向に導いていく役目。
組織としての目標をしっかり定め、その目的に人材をどう結びつけていくか。
そのプロセスをみんなと一緒に進めていくこと。
それがリーダーの役割だと思います。
一方で、“気持ちの部分”も大切にしたいです。
「みんなと進めること」を前提にした上で、極端な話、もしみんなが去ってしまった
としても、自分ひとりでやり遂げる覚悟を持っているか。
誰もいなくても自分だけは残って、この仕事を形にする。
その強さを内面に持ち続けることは大切だと思います。
――若手社員にとってどんな存在でありたいですか?
私自身はリーダーとして成果を出す方向に組織を導く責任があります。
ただ、社員ひとりひとりにとっては、まず自分の人生があり、その上に仕事がある。
だからこそ、仕事で行き詰まったり、難しいことが起きたりしたときには必ず
“人生とのバランス”の話が出てくるはずです。
キャリアと私生活をどう重ね合わせていくかは、人によって違いますし、とても大切な
テーマだと思います。
だから若手の社員にとって私は、成果に向かって引っ張る存在であると同時に、
ひとりひとりの人生に寄り添い、その人にとって良い判断ができるようフォローできる
存在でありたいと思っています。
“相談したらきちんと話を聞いてくれる人だ”と思ってもらえるように。
そこを大切にしていきたいですね。
これからの展望
――今後、ヘアモード社をどう導いていきたいですか?
私たちの強みは“美容技術者のスキルを体系化し、言語化する力”です。
これを核にしながら、時代に合わせた発信の形を模索し続けています。
紙とWeb、両方を駆使して、美容のプロの望みに応えるメディアでありたいです。
また、ビューティガレージのグループに加わったことで、多くの知見やサポートを得られるようになりました。その強みを活かしながら、これからも美容業界に貢献できる集団であり続けたいなと思います。
美容業界を志す人へ
――美容業界を目指す若い方に、メッセージをお願いします。
美容業界はポジティブなエネルギーに満ちています。
女性にとっても自分の価値観を仕事に活かしやすい世界です。
悩むこともあると思いますが、その分挑戦のしがいも大きい。
私自身、この業界の一員として、数多くの挑戦を重ねてきました。
その中で強く感じるのは“この業界は人を成長させる力がある”ということです。
美容師さんも編集者も、そして経営者も、挑戦を通じて自分を広げていける。
だからこそ、自分の想いを大切にして飛び込んでみてほしいと思います。
おわりに
本企画では、BGパートナーズ・チーム責任者の田中さん、ビューティガレージ統括責任者の小林さん、そしてヘアモード社代表取締役社長の小池さんにお話を伺ってきました。
立場やキャリアは異なりながらも、三人に共通していたのは
「自分だけではなく、周囲の人を活かすリーダーでありたい」という姿勢です。
田中さんは“縁の下の力持ち”としてチームを支え、小林さんはグループ全体を見渡す
統括者として挑戦を続け、小池さんは伝統ある出版社を変革に導いています。
それぞれが異なるフィールドでリーダーシップを発揮しながらも、根底には
「誰かの力になりたい」という共通の思いが流れていました。
美容業界は、女性も男性も、自らの感性や価値観を強みに変えられる世界です。
この特集を通じて、より多くの方が「自分も一歩踏み出してみよう」と思えるきっかけになれば幸いです!