こんにちは、unname代表取締役の宮脇啓輔です。
最近個人的に、「思考体力」という言葉を見聞きすることが増えました。
思考体力とは「思考し続けることができる体力(時間)」を意味すると思いますが、辞書には載っている言葉ではありません。
確かに、考え続けられる体力がある方が有利ですが、その実態は一体何なのだろうか、どうすれば身につけることができるのか。今回はそんな非常に重要そうなこの能力の正体について、解説していきます。
目次
「思考瞬発力」と「思考持久力」
人に説明したい人は、思考を深掘れる
思考体力は容量ではなく、運用技術
1. 温存
2. 分散
3. 抽象化
まとめ:思考体力の運用技術
「思考瞬発力」と「思考持久力」
まず、「思考体力」という言葉は、二つの時間軸の能力を含んでいると考えています。
一つは、短距離走のような「思考瞬発力」です 。例えば、1日の中で立て続けにミーティングを行ったり、誰かの相談相手として集中して思考し続けたりする力である。「水に潜って息を止める時間が長い」イメージです。
もう一つは、長距離走のような「思考持久力」です。これは、人生という長いスパンで一つのテーマについて何度も考え続け、問い直す力を指します。キャリアや人生設計といったテーマは、一度考えて答えが出るものではありません。10歳の時に考えたことと、知識や経験を得た15歳の時に考えることでは、結論が変わってくるのは当然なのです。このように、自分自身の変化に合わせて同じテーマに何度も立ち返り、思考を重ねていく習慣こそが、思考体力の持久力と言える。
仕事や勉強のような当たり前に思考する時間だけでは、周囲との差は生まれません。差がつくのは、むしろ仕事や勉強から離れたオフの時間に、どれだけ思考を続けられるかという点にあります。
人に説明したい人は、思考を深掘れる
しかし、思考の体力があっても、深掘りする技術がなければ意味がありません。では、思考を深掘りできる人とできない人の違いはどこにあるのだろうか。
わかりやすい分岐点としては、「その内容を人に説明できるレベルまで落とし込もうとしているか」という点に尽きます。思考が浅い段階で止まってしまう人は、自分の中で曖昧な理解のまま満足してしまう傾向があります。人に説明する必要がないので、わかった気でも問題ないし、わからないことに気づく機会を見逃してしまっているのです。
人に説明すると、自分が全然理解できていないことも認識できる
例えば、「ESG投資」という言葉を知った時、「環境とか世の中に配慮した良い投資」という程度の理解で終わらせてしまうかもしれません。しかし「ESG投資という言葉を人に説明できるようになりたい」「自分の考えや考察を加えたい」という欲求があれば話は変わります。
他者に説明することを前提とすれば、「E、S、Gとはそれぞれ何か?」「なんでそういう投資がホットになってきているのか?」「その投資スタイルの持続可能性はどうなのか?」など問われる可能性が高いのです。その際に答えられない自分を想像できるため、自然と深掘りせざるを得なくなる。
この「出会った知識を自分のものにしたい」という知的な欲求や、アウトプットへの責任感が、思考を深くする最大の原動力となるのです。
そして「説明可能なレベル」に到達するために不可欠な技術が「抽象化」でなのです。
抽象化とは、物事の全体像を捉え、「つまり、こういうことだ」とその本質だけを抽出し言語化する技術です。この能力がある人は、思考の全体地図における現在地を常に把握しています。「ゴールの水深が30メートルだとすれば、今はまだ5メートル地点だな」というように、思考の深度を客観視することもできます。これにより、思考の迷子を防ぎ、効率的に深掘りを進めることができるのです。
思考体力は容量ではなく、運用技術
そもそも、本気で思考すれば誰でも疲れます。
私も疲れていない人を見たことがありません。だとすれば、思考体力が高いように見える人は、体力の絶対量が大きいのではなく、手持ちの体力を効率的に運用しているのです。その運用の核となるのが「温存」「分散」「抽象化」なのです。
1. 温存
これは、思考回数そのものを減らし、思考のエネルギーを無駄遣いしないための技術です。ハイブリッド車のように燃費が良ければ、ガソリンが少なくても長く走れるということです。
かの有名なスティーブ・ジョブズが常に同じ服を着ていたのはご存じでしょうか。彼は、服を選ぶという経営者にとってはどうでもいい日常の意思決定を減らすことで、重要な経営判断のために体力を温存していたのです。どうでもいい人の話は聞かない、という嗅覚もこれにあたります。経営者が移動にタクシーを使ったり 、秘書にスケジュール調整を任せたりするのも、時間効率だけでなく、乗り換えや日程調整といった認知負荷の高い作業から自身を解放し、思考体力を温存するためなのです。
一つ目の運用技術は、「無駄な思考を減らし、体力を温存する」という運用方法でした。
2. 分散
これは、思考の負荷を時間的に分散させる技術です。PCに短時間で高い負荷の処理をさせ続けると、熱くなるように、思考体力も同様です。なので、できるだけ負荷を分散させましょうというお話です。
例えば、仕事でクタクタになって家に帰り「今日の夕食、何がいい?」と聞かれても、考えるのは億劫ですよね。そういう疲れている時に限って「なんでもいいよ」と言ってしまうのだと思います。しかしそうではなく、疲れていない時にあらかじめ「肉料理が良くて、焼肉か、生姜焼きか、ハンバーグか」のように選択肢を考えておけば良いのです。すでに思考は終わっているので、疲れて家に帰った時でも今考えたように「今日は焼肉が食べたい!」と答えることができるのです。
重要な会議でいきなり全力で思考するのではなく、事前に散歩中でもしながら論点を整理しておくことで、本番での負荷を分散させることができるのです。優秀な人は大体この技術を身につけています。
二つ目の運用技術は、「アイドルタイムで思考し、思考負荷の分散をする」という運用方法でした。
3. 抽象化
これは、物事をシンプルに捉え、思考の対象範囲を絞り込む技術です。
サッカーの試合をプレーヤー目線ではなく、俯瞰して見ているイメージです。この能力を持っていると思考の嗅覚がよく、全体像も見えるので論点も明確になります。抽象化された会話は、結論がわかりやすく、何よりも文字量(会話量)が少なくて済むので、情報処理の負荷が下がります。結果的に無駄な思考が減るので、思考体力の消費を抑えることができるのです。
三つ目の運用技術は、「話を簡素化し、情報処理の負荷を抑える」という運用方法でした。
思考体力を最適化する、3つの運用技術
まとめ:思考体力の運用技術
ここまでの話をまとめると、「思考体力」とは、才能による生まれつきの優位性や根性といった精神論ではなく、以下の3つの具体的な技術によって成り立っています。
①思考体力の温存:日々の意思決定をルーティン化し、思考のエネルギーを浪費しない。
②思考タイミングの分散:思考する時間を分散させ、特定のタイミングでの負荷を軽減する。
③抽象化による思考の省略化:物事の本質を捉え、簡素化して考え会話することで、情報処理の負荷をを減らす。
そして、これらの3つの技術を実践する原動力となるのが、「人に説明したい」という知的な欲求と責任感なのです。これらを組み合わせることで、初めて人は、深く、そして長く考え続けることができるようになると確信しています。それが「思考体力」の正体なのではないでしょうか。
思考体力を温存し、会話でどっと疲れないための運用技術を身につけてみてください。