10月1日(木)の日本経済新聞の信越版に「生成AI利用 長野の中3、8割超に」という記事が掲載されました。長野県の小中高校生を対象にした大規模調査で、AIの使用率は、小学6年で7割超、中学3年で8割超、高校3年で9割超に上るという結果が得られたとのことでした。使用目的は「調べもの」が一番多く、次に「翻訳」で、「作文添削」など実用的な利用も増えてきているようです。「サイバーエージェント次世代生活研究所」が7月に行った調査でも同様の結果が得られており、これは長野県だけでなく全国的な傾向といえます。
興味深いのは、学年が高くなるにつれて、「自分で調べてから書き直す」割合が増えてきていることで、子供たちには「コピペして提出するのは、よくない、怒られる」という認識があるようです。
とはいえ、今後AIが主体となって文章作成が行われる傾向はますます増えていくと思われます。
そのような時代において、どのように文章を書いたらよいのだろうか?そんな思いを持ちながら過ごしていたら、一年も前になりますが、日本経済新聞に興味深いコラムが掲載されていたのを思い出しました。
『AI時代の文章作成指導』という題で、早稲田大学名誉教授の佐渡島紗織さんが執筆されたものです(2025年6月23日(月)日本経済新聞)。
「佐渡島」という苗字を見て、日本海に浮かぶ佐渡ヶ島と関係があるのかな?と気になり、AIに尋ねてみたところ、福岡県南部の筑後地方が起源とのことで、佐渡ヶ島とは関係がないようです。こうしたちょっとした疑問も、今では生成AIで簡単に調べることができます。そして、文章自体もAIに書かせることができる時代になりました。
このような時代において、ライティング教育はどうあるべきか――それが佐渡島先生のコラムの主題です。
先生は、AIが「必要な情報を探し、並べ、整理し、指示に応じた相手や目的に合う表現で文章を作ってくれる」と述べています。確かに、情報の整理だけであればAIを活用することで効率化が可能です。これは会社での業務にも通じる話です。
しかしながら、先生は「学問とは、先人の発見を踏まえ、それを超える発見をして発表する活動である」とも述べています。この点には大きく共感します。私たちの仕事も、過去の情報を整理するだけでは不十分であり、それを超える付加価値を生み出さなければ、AI時代において生き残ることは難しいでしょう。
では、どうすればよいのか。佐渡島先生のコラムを読んで、目から鱗が落ちる思いでした。先生は「出発点が大事」と強調されています。
「自分のこと、感じたことを書くことは、論理的・学術的でない」と考えがちで、「客観的な記述」「数字を使い根拠を挙げる」ことが重視されるあまり、「個人的な思いや体験は書いてはいけない」と思い込んでいる傾向があるとのことです。先生はそれを改善するため、「ライティング・センター」で「個」が尊重される文章指導を行っているそうです。
特に、AIの進化が著しいこの時代では、既存の情報を出発点にした文章は、生成AIが適切かつ迅速に作成してしまいます。そうした文章を提出しても、「ではその人の『個』はどこにあるのか?」という問いが残ります。だからこそ、AI時代には「個」から出発することが重要であり、「知覚された体験」から生まれる問いを起点に文章を書くことが求められるのです。
記事には、「早稲田大学」というブランドが就活生に与える影響を調べた学生の例が紹介されています。その学生は、「上のきょうだい2人は親の期待に応える進路を選んだが、自分はどう生きると自分らしくいられるかをずっと考えてきた」と語り、就活の面接で「早稲田生なのに、どうしてここを受けたの?」と聞かれた際、「私自身を見てくれないのか!」と憤慨した体験を出発点にしているそうです。
手前味噌かもしれませんが、改めてこのコラムを読み返してみると、「知覚された体験」から出発しているものが多いことに気づきます。最近は、「知覚された体験」からAIを超えるにはどうすればよいかを常に考えており、その問いをコラムの中でも探求しています。
佐渡島先生のコラムにも書かれていましたが、「個」から出発することが、AI時代における一つの鍵だと私は考えています。先生のコラムには他にも文章の書き方に関する参考点が多くありますので、是非バックナンバーを取り寄せて読んでみることをおすすめします。
佐渡・尖閣湾(画像:Suicasmo(Wikimedia Commons) / CC BY-SA 4.0)
また、文章の書き方等に関しては、本コラムの過去回「#44:伝え方を再考する」・「#45:プレゼン資料はシンプルに」・「#48:伝わる文章の作り方」および「#49:伝え方を反省する」あたりが参考になると思いますので、あわせてご再読ください。
佐渡島先生のコラムは、日本経済新聞の会員の方はこちらから読むことができます。
AI時代の文章作成指導 「体験から問いへ」支える 佐渡島紗織・早稲田大学名誉教授 - 日本経済新聞
※次号は11月16日(月)リリース予定です。