画像:© Captain76 / CC BY-SA 3.0(編集あり)
ミラノ・コルティナオリンピックが昨日2月22日(日)に閉幕しました。日本選手の活躍に毎日心を躍らせた方も多いのではないでしょうか。先週のコラムで『メダル至上主義よさらば』と書いたばかりで、メダルに言及するのもなんですが、金5個、銀7個、銅12個の計24個で、金メダル数もメダル総数も過去最多を更新しました。
振り返れば20年前に同じくイタリアで行われたトリノ五輪で日本が手にしたメダルは荒川静香さんの金メダルただ一つでした。あの大会で披露されたイナバウアーは今での多くの人の記憶に残っています。
イナバウアーは当時の採点方法では加点の対象外で、演じても得点にはつながりません。「点数よりも自分らしい演技を優先する」という荒川さんの強い意志は、ある意味『メダル至上主義をさらば』を体現したと言えるでしょう。そして、結果として勝っている。
この荒川さんの金メダルが転換点となり、冬季オリンピックを迎える度に日本はメダル数を伸ばしていき、今回のミラノ・コルティナでの過去最多につながりました。若い選手達が「もっと早く、もっと高く、もっと美しく」と自分らしさを追求しながら日夜練習を重ね、その結果最高パフォーマンスを魅せてメダルを獲れたのであれば嬉しい限りです。
さて、先週のコラムで「ポジティブストロークが重要」と書きましたが、なぜそれが良いのか、どのような効果があるのかについて端折ってしまいましたので、今回はその補足をします。
肯定的なアプローチを行うと、相手が身構えることなく受け入れる準備が整い、アドバイスを聞き入れやすい状況を作り出せます。よく功夫(カンフー)映画で「水がいっぱいの甕(かめ)の器に水を注いでもあふれるだけだ」といった、教わる側が“学びの準備ができていない”ことを示すシーンがありますが、ポジティブストロークはこの状況を避けるために有効です。
画像:AI生成(M365 Copilot)
また、ポジティブにフィードバックされた点が“アンカー”となり、次のアクションに進みやすくなるという効果もあります。ダメ出しだけだと、「言われたことをしない」という、自己防衛的な行動を取りやすくなり、最悪の場合「何をすればいいかわからなくなる」こともあります。ポジティブなフィードバックはその行動に自信を持たせるため、良い点が継続され、その先の発展にもつながるのです。
私自身、初めて課長になったときに自分がやっていけるのかとても不安でしたが、「廣木君なら問題ないと思っているから」と上司からコメントをいただいた経験があり、あの時に前向きに取り組む自信が芽生えたことを今でも覚えています。
先ほど、相手が身構えることなく受け入れる準備と書きましたが、そのために重要になるのが「ラポール」です。ラポール(rapport)とはフランス語で「関係」を意味し、相互の信頼関係、つまりコミュニケーションにおける調和のとれた状態のことを指します。ラポールを築くことは、円滑なコミュニケーションの基本です。
よく「ラポールはフランス語の“橋をかける”に由来し、心の架け橋という意味だ」と説明されることがあります。私もコーチング研修の講師をしていたときにそう説明したことがあります。しかしながら、フランス人の友人に確認したところ、実際には“橋をかける”という意味はないとのこと。ああ、恥かいた。
話を戻しますが、ここではラポールの取り方の基本(Basic)についてお話しします。
コミュニケーションの入り口は、まずアイスブレイクです。天気の話や最近の(刺激の少ない)ニュースなど、一般的な話題から入るのがよいでしょう。特に初対面の場面や大人数の前でのプレゼンでは非常に有効です。
さらにラポールの形成には「ペーシング」という手法があります。これは声の大きさ・高さ、話すスピード、間の取り方などを相手に合わせ、調和を生む技法です。相手が早口なら早口で、ゆっくりならゆっくり話す。これによりペースが揃い、自然と安心感が生まれます。片方が早口で、もう片方がゆっくりだと、いじめられているようですね。そこまでは言い過ぎとしても、どうしても“ずれ”が生じ、かえって距離感を生んでしまいます。
ペーシングの一つに「ミラーリング」があります。これはスマホ画面を大きなディスプレイに映すことではなく、相手の仕草を自然な範囲で模倣する方法です。相手が前かがみで手を組んでいれば同じように構えてみる。相手が手で鉛筆を回していたら、同じように鉛筆を回してみる。ただし、鉛筆回しがあまりうまくないと失敗してラポールが逆に途切れる可能性もあります。
ラポールが最も取れている状態とは何か?と聞かれたら、私は「飲み会」と答えます。みんな大声で酔っていて、似たようなテンションと動きになりやすい。まさにペーシングもミラーリングも自然に発生し、ラポールが成立している状態です。
また、聴き手になったときは、相手の話にフィードバックという“ストローク”を返してあげることも大切です。反応がないと話し手は不安になります。最も簡単なフィードバックは「うなずく」ことです。これがあるかないかで、話し手の心理状態は180度違ってきます。私も大人数の前で話す際、うなずきが見えるだけで話しやすさが全く変わります。
『#19:ラジオなんですけど(下)』でも触れましたが、ラジオでは聴取者とラポールを取りにくいですね。相手からのリアルタイムのフィードバックがないためです。ラジオ出演時はラポールに苦労しましたが、オンライン会議でも同じ状況が発生します。特に顔を出さない場合、表情がわからず、コミュニケーションが不安定になります。できるだけカメラをオンにして顔を見せ、フィードバックを与え合うことが大切です。
お互いに顔を見せないオンライン会議では、ラポールはさらに取りにくくなります。『#12:笑顔の使いかた』で書いたような「笑顔」も使えません。こうした場合は、タイミングを見計らった上での声でのフィードバックが重要になります。「そうですね」とか「はい」とか。その際は「笑声(えごえ)」を意識してみてください。無理に笑う必要はありません。明るく、相手をリスペクトするような声。これが笑声です。笑声は相手の緊張をほぐし、ラポールを築く助けとなります。
二週連続でお届けした「良好なコミュニケーション」シリーズ。
「ポジティブストローク」と「ラポール」の二つを実践により、すべての人が自分らしさを表現でき、最高のパフォーマンスを発揮できるような環境を創造する一助になれば幸いです。
※次号は3月2日(月)リリース予定です