17年間、派遣営業一筋から、日本IDDMネットワークのNPO職員へ。内野さんが歩んできたキャリアの軌跡と、"1型糖尿病"という病気に向き合う活動に迫ります。
働く原点——リクルートで派遣営業として過ごした17年
ーーこれまでのキャリアについて教えてください。
新卒でリクルートスタッフィングという人材派遣会社に入社しました。17年間、主に東京で派遣の営業をしていました。
ーー新卒でリクルートスタッフィングに入社した理由はなんだったのでしょう?
1つは、母の影響です。私の母はずっと仕事をしていたのですが、ガンになって、数年入退院を繰り返していたんです。その時代にパソコンが得意というのもあり、IT系を扱う派遣会社に登録して、仕事に復帰していく姿を見ていました。病気などでキャリアが中断しても、復職できるような受け皿である派遣サービスにはよいイメージがありました。
ーー長年続けられた理由はなんだったのでしょう?
正直に言って、派遣の営業は大変だったなと思います。その中でも、非常に印象に残っている会社がありました。その会社の求人は時給が低くて、なかなか人が集まらなかったのですが、人を育成する土壌のある会社さんだったので、未経験の方を受け入れてもらう提案をしました。その頃、接客業のアルバイト経験のみで事務未経験の方が派遣として事務職に就くのは、なかなか難しかったんです。未経験だけど素直でがんばってくれそうな人を派遣していました。長くその会社を担当させていただいたので、未経験ではじめた派遣スタッフさんが契約社員になり、教育担当になり、キャリアアップしていく姿をみることができました。働くことは、人生の中での比重が大きいからこそ、その人の人生に影響を与えられることにやりがいを感じていました。
キャリアの転換期——NPOへの転職理由
ーー転職のきっかけは何だったのでしょうか?
十数年目の時、時短で働きたいママたちのために、時短勤務の派遣を企画・推進する部署が新設されて配属されました。そのサービスは、派遣スタッフの登録数が減ってきていたので、既存の登録スタッフさんのリソース活用という側面とママたちが社会復帰しづらいという社会の「不」を解決するCSR(企業の社会的責任)の側面を担っていました。その仕事をきっかけに、社会課題を解決することを仕事にするのは面白いなと気づいたんです。
また、営業メインの会社だったので、営業配属の時は、システムやツールなど全部しっかり揃っていたのですが、新規部署では、何か新しいことをやりたいとなった時には、システム部署に管理方法を相談し、新しいツールを作り、いろいろやらなければいけないことが増えて、それが非常に面白かったんです。私は、「どうしたらこの仕組みがうまくいくのか」など、そういうことを考えるのが好きなんだという発見もありました。ですが、育休復帰後にまた営業に異動になってしまって、思い切って17年勤めた会社を辞めることにしました。
その後、仕事を探していたら、たまたま日本IDDMネットワークの募集を見つけたのです。前職で経験した社会貢献と営業企画のお仕事とマッチすると思い、転職することを決めました。
1型糖尿病の患者さんと向き合う日々
ーー現在の業務内容を教えてください。
主に広報や企画をしているのですが、「1型糖尿病の根絶のための寄付額を増やす」というミッションにまつわる業務は何でもやっています。
ーー印象的だったエピソードはありますか?
数えきれないぐらい、たくさんあります。思い出すだけで目頭が熱くなるのですが。。。
2021年に阪神タイガーズの投手で、1型糖尿病患者の岩田稔さんとFCバルセロナからヴィッセル神戸に移籍されてきた同じく1型糖尿病のセルジ・サンペール選手とのオンライン交流会を開催しました。そのイベントに参加してくれた男の子が、このイベントをきっかけに、1型糖尿病であることをクラスでカミングアウトすると宣言したんです。
その数か月後、岩田投手の引退セレモニーで流す1型糖尿病の子どもたちからのメッセージ動画を募集したら、その子が応募してくれました。セレモニーでは、何度も練習したスピーチを真剣な顔で話す男の子の動画がバックスクリーンに映し出され、テレビで生中継されました。後日、その子は、周りのお友達から「すごいね」と言われ、保護者の方からも立派だったねと嬉しいメッセージをいただいたとお父さんがメールで報告してくださいました。
そして2年後、その子のお父さんからまたメールをもらいました。そのメールには、息子さんがクラスでただひとりだけ皆勤賞をもらった報告とあわせて、「岩田投手に勇気をもらい、1型糖尿病をカミングアウトできたおかげで、学校生活がより過ごしやすくなった影響が大きいと思っています。」と改めての感謝がつづられていました。
このイベントの企画は、いつもがんばっている1型糖尿病の子どもたちが、「有名なスポーツ選手と会えたら良いよね」と思い企画しました。こちらが想像している以上に、患者さんやそのご家族の方に感謝していただけることが多くて、そしてその気持ちを感謝の言葉として伝えてくださる温かさにこの仕事をしていてよかった、もっと頑張ろうと思いました。
フルリモートでもつながる職場の空気感
ーーリモート中心の働き方でどのようにコミュニケーションをとっていますか?
チャットワークでの連絡と、あとは音声アプリのようなもので会話したりしています。みんなやはり在宅で寂しいので、電話をすると雑談を含めて少し話してしまうというところはありますね(笑)また、イベントなどで対面した時は、その後食事に行ったりしていますね。
ーー職場の雰囲気はどんな感じですか?
普段は、在宅で集中して作業していることが多いですが、ムードメーカーの職員が一人いるんです。1型糖尿病を持ちながら高校時代に女子駅伝に出場して区間記録を持っているパワーのかたまり。子供が5人いて、犬まで2匹飼っているという。。。
何かミスしたりすると「戒めの為に、5キロランしてきます!」と言って実際に走りにいったことも。職場の雰囲気を明るくしてくれています。
「誤解」と闘う——1型糖尿病への理解を広げたい
ーー1型糖尿病に対する世間の誤解はまだ多いですか?
まだまだ誤解は多いと思います。患者さんやそのご家族が「糖尿病」という名前を変えてほしいと仰るのは、世間的には「糖尿病が生活習慣病だ」というイメージが強すぎるから変えてほしいという背景があります。
患児のお母さんから聞いた話ですが、親族の集まりで、親戚のおばちゃんが、1型糖尿病のお子さんに「お菓子食べる?」と聞いてくれて、お母さんがインスリンを打つ準備をするために糖質量を確認していると、その方から「大変だね。何を食べさせよったと?」と聞かれたそうです。1型糖尿病の発症は、食生活とは関係ないのですが「糖尿病=生活習慣」という誤解から、悪気なくふとでた質問に、悲しい気持ちになってしまうというのは辛いなと思いますね。
ーーどうやって理解を広げていますか?
もっと1型糖尿病への理解を広げる活動をしていきたいと思っています。イベントに出席したり、新聞などの取材ももっと増やしていきたいです。
信念と目標——『治すために自ら動く』という姿勢
ーー大切にしている信念は何ですか?
日本IDDMネットワークの“患者・家族団体自らが自分たちでお金を集めて治そうとしているという姿勢”にとても共感しました。将来的には、研究助成を行った研究で1型糖尿病が治る病気になり「このような解決の方法があるよ。」とほかの患者・家族団体のロールモデルになりたいと思っています。
ーー今後の目標があれば教えてください。
今は、一番長く勤めている職員になったので、管理職の経験はありませんが、事業の計画をたて、管理ができる人になりたいと考えています。
また、東京マラソンで外国人のランナーの方との交流の機会があるのですが、来年は英語を話せるようになることを目標に、毎日英語学習アプリで学んでいます。
読者へのメッセージ——同じ方向を向いて一緒に走れる魅力
ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。
日本IDDMネットワークのお仕事は、支援者のみなさんと一緒に同じ方向を向いているのが他の仕事にはない魅力だと思います。
例えば、寄付のお願いをした後、寄付者の方から「このような機会をくれてありがとう」と言われることがあります。寄付のお願いをするNPO職員と寄付者という関係なのですが、同時に一緒に1型糖尿病を治る病気にしたいと思う同士だと感じます。ぜひ興味を持ってくださる方がいれば、一緒に働きましょう。