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博士課程で物理学を専攻しながら、医療・農業向けのプロダクトを開発。サイエンスとビジネスの境界で、何が生まれるのか。

大阪大学大学院 理学研究科・物理学専攻 博士課程に在籍しながら、シグマアイで自社プロダクトの企画・開発を担う人見さん。医療コールセンター向けソリューションや農業向けソリューションを、現場と協業しながら形にしてきました。そこで学んできたことやユーザーの皆さんへの想い、そしてサイエンスとビジネスとのつながりについて、詳しく語ってくれました。

【プロフィール】
人見 将(ひとみ・まさる)

大阪府出身。大阪大学大学院 理学研究科・物理学専攻 博士課程 2年在籍中。日本学術振興会 特別研究員、博士課程教育リーディングプログラム、専門は物性理論の研究。シグマアイには、2020年5月にインターンとしてジョインした後に、従業員として勤務している。主に自社プロダクトの事業開発を担当。仙台市の医療コールセンター向けソリューション「whis+」、農業向けソリューション「Econnect」を生み出した。

アインシュタインの伝記に影響を受けて、法律から物理学の道へ

−大阪大学大学院の博士課程で物理学を専攻していますが、興味を持ったキッカケは何だったのでしょうか?

中学生の頃までは、弁護士に憧れていました。小学生時代から趣味として六法を読んだり、憲法の前文を暗記して空で言えるくらい勉強していたんですよ。しかし、中学2年のときにアインシュタインの伝記を読んで、「宇宙って凄い!こんな大きな世界があるなんて!」と感動して、物理学に興味を持ったのです。そこからは、法律からは離れて、宇宙の世界に傾倒していきました。いわゆる「中二病」だと思いますね(笑)。

−そこから一気に研究の世界につながったのもすごいですね。専攻している分野を教えてください。

物性理論を研究しています。平たく言えば、陽子や電子がどのように動いていて、電流が流れるのか、熱はどうやって伝わるのか、といったことを探究する分野です。手法としては、紙と鉛筆で理論を作って、パソコンを使った数値計算で検証するというものです。数式一つで世界を表現するような学問ではなく、物質の多様な世界を扱うのが、自分の肌に合っています。

基礎研究と社会との架け橋になりたいと、シグマアイにジョイン

−大阪大学大学院に通いながら、シグマアイでも仕事をしていますが、どういう形でジョインしたのでしょうか?シグマアイは東北大学発のスタートアップなのですが。

2019年にシグマアイ代表の大関さんが、大阪大学に集中講義にいらっしゃったのです。そのときのホスト役が私の指導教官で、みんなで雑談をしていたら「人見くん、君は面白い人間だから、焼肉を食べに行こう!」といきなり誘われました(笑)。ちょうどそのときに、私自身も「国内研修」という民間企業でインターンするプログラムの行き先を探していたんですよ。そこで後日、大関さんに「シグマアイで面倒見てくれませんか」とお願いしたら、二つ返事で「いいよ!」と。2020年の5月に、最初はインターンとしてジョインして、今は大阪大学の研究室に籍を置きながら、従業員として働いています。

−具体的には、シグマアイのどの点に惹かれたのでしょうか?

2つありますね。1つ目は事業内容です。当時から、最適化手法の社会への応用に興味がありました。物理の世界で議論されている純粋に学問的な最適化手法がどのように社会に還元されていくのか知りたかったのです。2つ目は、大関さんの研究者としてのスタンスです。基礎研究は社会との距離が遠くて、「象牙の塔」にこもってしまい、世の中との接点を持ちたがらない研究者の方も中にはいます。大関さんは真逆で、基礎研究の成果を社会に積極的に還元しようとしている。研究と社会、サイエンスとビジネスの間の「界面活性剤」「ジャンクション」のようなイメージを、集中講義の際に持ちました。今後の日本の学術界においては、大関さんのようなスタンスの研究者がより求められると思っていて、一緒に仕事をすることで学べることも多いと感じたのです。

コールセンター向けアプリの開発では、カットオーバー1ヶ月前に、全面的に作り直した

−シグマアイにジョインして、どのような仕事を担当したのでしょうか?

最初にメインで担当したのが自社プロダクト「whis+」の開発です。仙台市の医療コールセンター向けのアプリケーションで、問い合わせに対して最適な医療機関を提案することができます。プロジェクトの立ち上げフェーズからアサインされ、当初はシステム開発を担っていたのですが、自分の適性を見ながら、企画やビジネスサイドに徐々に役割をシフトしていきました。



こちらの記事にもありますが、「whis+」はコールセンター現場の方々にプロトタイプを提供した後に、大幅な仕様変更を行って作り直しました。

あのときは大変でしたね。実際に現場を訪れてアプリを使ってみたのですが、私たちが想定していた状況と現場の課題感には多くのギャップがありました。「このままだと使われないシステムを作ってしまう」とメンバー全員で危機感を共有して、改めて要望を丁寧にヒアリングしながら、機能やUIを作り替えたのです。

カットオーバーの1ヶ月くらい前に作り直したので大変ではありましたが、モチベーションは全く下がりませんでした。コールセンターの皆さんの役に立つものを、開発している実感を持てていたから。「whis+」の企画と実装の大半は、学生メンバーで進めたんですよ。同じ世代で徹底的に議論して開発したので、楽しかったですね。

もちろん、マネージャーの皆さんがフォローしてくれたのも大きかったです。シグマアイには、「社会の役に立つものしか作らない」というスタンスが徹底されているので、プロジェクトのマネジメントに一貫性が保たれています。私はその哲学に共感していて、迷うことなく企画や開発が進められていますね。

愛媛県の離島の皆さんと対話を繰り返して、農業向けソリューションが生まれた

−「whis+」の次は、農業向けソリューションの「Econnect」を担当しています。

愛媛大学の武山絵美教授と協働開発したiPadアプリです。農作物を食べるイノシシやシカの害獣問題を解決するためのものです。捕獲者の皆さんがイノシシやシカを捕獲した際には、自治体への報告が必要になるのですが、その一連の流れをデジタル化するシステムを開発しました。



「Econnect」の開発においても、愛媛県の離島を訪れることで課題の解像度が上がり、農家の皆さんに使っていただけるものができました。iPadはもちろん、スマホすら使ったことがない方が利用者になりますので、ITリテラシーのギャップを埋めるが大変でしたね。「なんやそれ?そんな道具はつかわへんで」という状態から、プロジェクトはスタートしましたから(笑)。

そのギャップはどのように埋めていったのでしょうか?

皆さんとひたすら対話を繰り返しました。現地に行って、一緒にご飯を食べて、お酒を飲んで仲良くなって。私個人が人と仲良くなるのが好きなので楽しかったですし、現地の皆さんも受け入れてくれました。大阪に戻ってからは、電話で意見を聞いていました。「人見くん、今度はいつこっちに来るんだ?」と言ってもらえたときは、ちょっと嬉しかったですね。

農村の過疎化は、果たして問題なのか?

−現在、「Econnect」はどのような形で使われていますか?

2022年の3月末にカットオーバーしました。その後は愛媛県内の幾つかの地域で使われて、すでに数百件の捕獲情報が蓄積されています。どの季節に、どのような獣が、どのような大きさで捕獲できるのかが可視化されつつあります。そのデータを活用することで、農業の保護だけではなく、生態系の解明にもつなげたいですね。ひいては、地方の過疎化の問題にもアプローチしようとも考えています。ただ、正直に言いますと、最近になって、自分の中で迷いが生じているんですよ。

−どのような迷いですか?

離島で暮らす皆さんと接する中で、「温かい人たちが住んでいて、自然に溢れた環境を残したい」と思っていたのですが、限界集落に無理して人に住んでもらうことは、本当にあるべき姿なのかと。50年や100年の時間軸で考えると、日本の人口は間違いなく減っていく中で、今の環境を残すことが正しいとは言い切れないのではないか。そう考えるようになりました。時間や空間のスケールを変えれば、課題の捉え方は変わってくる。何が正解か分からないけれど、悩みながらも日々の仕事に向き合うことで、自分としての方向性を見出していければと考えています。

ビジネスで学んだことが、サイエンスの世界でも活きている

−日本が抱えている問題に対して、根本的に向き合えるのは、シグマアイの特徴かも知れませんね。

そうですね。アカデミック領域の探究するスタンスを、ビジネスのシーンに上手く融合させていると感じています。「そもそもどうなんだっけ?」「100年後もそれでいいんだっけ?」という会話が、日々繰り広げられています。メンバーの肩書きも年齢も関係なくて、フラットに意見を交わせる環境です。先ほどお話しした、サイエンスとビジネスの間を埋める実感を味わうことができています。私にとっては、毎日が勉強です。

−逆にビジネスで学んだことが、サイエンスの世界で活きていることはありますか?

何かを伝える際に、相手を意識できるようになりました。社内で話す際にも、地方の方々とお話しする際にも、自分が言いたいことをそのまま伝えるのではなく、相手の生活背景を意識してコミュニケーションできるようになりました。そのスキルは研究のシーンでも活きていますね。

シグマアイは、大企業に対するコンサルティングを事業の柱に置いています。その仕事に携わるシニアな皆さんが、伝え方には細心の注意を払っているのを横で見ていたのも影響しています。ああ、ここまで考えてコミュニケーションを取っているんだと、何度も驚いた覚えがあります。

研究者としての土台を作り、シグマアイと協業する。「サイエンスとビジネスの間」を担いたい

−最後に、今後のキャリアの展望を教えてください。

物理学の研究と、シグマアイでの業務の「二足のわらじ」を履いていますが、少し研究の方に軸足を戻そうかと思っています。向こう1年半くらいで、研究者としての土台を作りたいのです。そのために海外に行く機会も増えているので、シグマアイでの活動は今よりも少し抑えていこうかと。

ただ、一段落したら、また二足のわらじの生活に戻そうと考えています。私自身、物理も好きですし、人間も好きですし、事業開発も大好きですので、サイエンスとビジネスの間を担える人材になりたいんですよ。自分の研究成果を社会に伝えていきたいですし、アカデミックの世界をもっとオープンにしたい。

シグマアイは「私たちの技術で、すべての人が輝く未来を」というミッションを掲げていて、私自身の理想と共鳴する部分も多いです。同じような志を持った仲間がこの会社にはたくさん在籍しているので、一緒に仕事をするだけでも楽しい。研究活動が一段落したら、またシグマアイを起点にして、もっともっと社会の課題と技術をつなげていきたいですね。

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