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IT部とのコラボレーションで成功した、Green Beansのオンライン新規顧客獲得施策とは

各部署とIT部がワンチームとなって革新に挑戦するイオンネクスト。同社が運営する「Green Beans」はネット専用スーパーであるためマーケティング施策による顧客獲得は事業運営上不可欠なポイントだ。マーケティング部が顧客獲得のための新施策導入を検討した際、成功の決め手となったのはIT部とのコラボレーションだった。

3万品目の商品をトリガーに、検索画面での露出を取る

2023年7月にネット専用スーパー「Green Beans」を正式ローンチしたイオンネクスト。「Green Beans」は既存店舗から商品が発送されるネットスーパーとは異なり、実店舗という顧客接点を持たない。そのため、オンライン・オフライン双方でのさまざまなマーケティング施策を通じた新規顧客獲得は、同社のビジネスの成否に大きく関わる。

新規顧客獲得のためにイオンネクストのマーケティング部が選んだ施策の一つが「Googleショッピング広告」(以下ショッピング広告)だ。 これは、Googleで商品名を検索する際に、検索の結果が表示される画面トップに掲載される広告である。

マーケティング部でオンラインの新規顧客獲得を担当する上田裕介は、このショッピング広告を次のように評する。

上田「これまでお客さまは、商品を購入する際、店舗ごとの販売価格を比較することができませんでした。ショッピング広告はお客さまが商品名を検索した際に、最もその商品をお得に買える小売店がどこなのかという情報を一目瞭然に提供する画期的なものです」

もちろん商品価格を比較するポータルサイトも存在してはいるが、検索をするタイミングでどこが最もお得なのかが分かったほうが、お客さまにとっては利便性が高い。

もう一つ、前述したとおり、完全にネット専業の小売であるGreen Beansには、実店舗が存在しないため、お客さまに認知してもらうためのタッチポイントをなるべく多く作っていく必要がある。

上田「Google検索というスマートフォンのインフラに、どう露出を図るのかは我々の事業の根幹に直結する重大なテーマです」

Green Beansの強みは、3万点以上を誇る品目数だ。この3万点のアイテムをトリガーとして、Googleの検索結果にGreen Beansの広告を表示させることにより、お客さまとのタッチポイントを創出することを狙っている。

想定と全く異なっていたフィードの仕様

イオンネクストのマーケティング部がショッピング広告導入の検討を開始したのは、2023年10月頃のこと。同年7月にGreen Beansが正式ローンチを迎え、さまざまなシステムが徐々に本格稼働を開始したころから、これまで導入していなかったショッピング広告を開始したいという機運が部内で高まってきた。

ショッピング広告を利用しようとすると、ECサイト運営事業者は、「商品フィード」を用意する必要がある。商品マスタを、ショッピング広告用にxml形式に加工したデータだ。

イオンネクストでは、その中核となるシステムとしてイギリスのネットスーパー Ocado社が提供するOSP(Ocado Smart Platform)というオンラインの食料品・日用品販売のソリューションを活用している。そして、もともとOSPには、ショッピング広告用のサンプルの仕組みが用意されていたため、マーケティング部は特段の準備なしにフィードデータを送信できると想定していた。しかし実際に蓋を開けてみたところ、サンプルと実際に用意しなければならないフィードのデータは大きく仕様が異なっており、早々に壁にぶつかってしまったのだ。

ここでマーケティング部から相談を受けていた同社IT部は、OSPの機能に頼るのではなく、開発体制を立ち上げて自前で仕組みを構築することを即座に提案・決断した。

上田「Ocado社と協議して、OSP内部のシステムを変更してもらうより、IT部で仕組みを作ったほうがスピーディーに進められるのではないかと、アドバイスをいただきました」

IT部でこのプロジェクトを担当したプロダクト&ソリューションシニアマネージャーの村岡尚幸はいう。

村岡「はじめは提供されているファイルをそのままGoogleに転送すればいいのではないかと考えたのですが、実際そのファイルは使えませんでした。そこで元々あったファイルをベースに改良しようとしたのですが、調査したところそれも難しいことがわかりましたので、そのタイミングで専任のエンジニアをアサインして、データを抽出し、転送する仕組みを作ることにしました」

このときのことを「立ち上げ期であったこともあり、スピードを重視した」と、村岡は振り返る。事業部門が何を求めているのか。どのような対応をすれば、事業が前に進み、実績を出せるのか。そこまでを考えて、どうリソースを割くのかを判断した結果といえよう。

新規顧客のうちショッピング広告経由が10%を占めるほどの存在に

このようなやりとりを経て、無事ショッピング広告の運用がスタートしたのは、2023年11月から。上田とともにショッピング広告の導入に携わり、広告による新規顧客獲得を担当する楠本絵梨奈は、運用開始から1年を経たショッピング広告を次のように評価する。

楠本「ショッピング広告は、商品をダイレクトに検索してる人に刺さる、これまでにない新しいタッチポイントをつくることができる媒体です。顧客とのコミュニケーション、顧客獲得、双方で非常に重要な媒体という位置づけです。

時期によって異なりますが、新規会員の1割程度がショッピング広告から流入することがあり、インパクトのある構成比を占めていると言えます」

上田は「商品を売っている自分たちも全く気づいていないトレンドに乗れるのがよいところ」とショッピング広告を評する。SNSでバズったアイテムが検索から直接売れていくのだ。

 たとえばとある商品が終売になるというニュースがSNSで話題になれば、それにともなってその商品が売れる。ネットでバズっている商品があれば、コンバージョン率約5%という高い割合で売れていく。

上田「Green Beansの棚がインターネットに公開されていて、お客さまがどんどんほしいと思ったものをご購入していく。これまでにない革新的な売れ方だと思います」

さらにその検索を接点として、新しい「Green Beansのファン」を生み出すことができるのだ。

迅速かつ柔軟な障害対応体制を確立。失敗に学び強くなり続ける

今回開発したショッピング広告にフィード情報を提供するシステムは、大きなトラブルもなく安定稼働を続けている。

上田「広告が止まると新規顧客の獲得や、ひいては売上に大きなダメージがあり、我々にとっては死活問題です。ですが、不具合があったとしても、IT部さんは慌てず最速で対応してくださって、事なきを得ました」。

迅速な対応ができる理由は内製化が大きいと村岡は言う。

村岡「組織づくりも内製化に比重を置いて行っていることもあり、スピーディーに柔軟性を持った障害対応が可能です」

イオンネクスト技術責任者の樽石将人は、IT部が率先して信頼性向上への取り組みを進めている点を強調する。Green Beansの立ち上げ時、同社IT部が注力したのは運用体制の整備だった。同部門は「リライアビリティ(信頼性)ファースト」を掲げ、トラブル発生時に自動検知できる仕組みや発見者が即時に報告可能なプロセスを確立。また、復旧までの対応速度を高めるための運用基盤を整えたうえで、インシデント(大きなトラブル)が起きた際には必ず振り返りを実施し、その結果を踏まえて再発防止体制を着実に構築し続けている。

 なお「インシデント」とは、システム運用や情報管理における保安上の脅威となるような出来事を指す。「ローンチして1年半が経過していますが、メジャーインシデントと呼ばれる大きな障害は数件発生していますが、そのようなインシデントに直面するたびにチームとして対応力を挙げようとしているのです」(樽石)

その甲斐あって、今は大きなトラブルがあっても、すぐに復旧できるような状況ができあがりつつある。失敗をするたび、トラブルがあるたびに、そこから学び、どんどんイオンネクストのIT部は強さを増していく。

プロフェッショナルとして、事業部門からの要望に柔軟に対応しつつ、トラブルが発生すれば確実に、そして迅速に復旧する。イオンネクストのIT部全体に深く根付いているように感じられる。

広がるマーケティング部の活動領域と期待されるPdM人材の役割

このショッピング広告の成果を受け、上田は今後は別媒体における類似広告への展開も検討したいと語る。

上田「主婦層や若年層など、メディアによってターゲットのユーザー層は異なっており、タッチポイントも違ってきます」

新しい広告の導入は、すなわち新しい客層の掘り起こしを意味する。

楠本は、在庫状況をよりタイムリーに反映できるようにすることで、より広告運用を効率化していきたいと述べる。

IT部の村岡は施策のROIを評価するための仕組み作りに着手したいと語る。

そもそもショッピング広告の開発はフィードデータ送受信の域にとどまるものではなく、より大きな仕組みの一部とも考えることができると技術責任者の樽石はいう。

たとえば、見方を変えればGoogle ショッピング広告はSEOの一種である。いかに検索に当てにいき、認知や購買につなげるか。大切になるのは様々な検索キーワードに合わせて、Green Beansの商品を適切に表示しつつ、露出を高めていくことだ。それを実現するためには、Googleに提供するフィード情報の中身をいかに精度高く作るかが課題となり、ここに開発の余地があるといえよう。

また、広く考えるとこのショッピング広告のためのフィードデータ作りは、商品マスタの情報整備の領域でもある。突き詰めれば基幹システム上にある商品マスタ情報をどう整備し、活用していくかを考えることにもつながっていく。

ITとビジネス部門をつなぎあわせ、たくさんのステークホルダーの関与する領域を、システムによってさらに高度化していく。そのようなフェーズに入った同社で、今後活躍が期待されるのがPdM(プロダクトマネジャー)だ。

樽石「これまでイオンネクストのIT部は、ビジネス部門が提示する要件に合わせた仕組みを作るという、いわば『社内での受託開発部門』という傾向が強くありました。ですが、これからはIT部が積極的にビジネス部門に寄り添い、『アウトカムは何か?』『ならばこのような仕様はどうか?』と取り組みを進めていくような形になるはずです。PdMという役割をどんどん採用して、育成し、チームを強化していきたいと考えています。しっかりとコミュニケーションを取りながら、全体の視点に立って1つのものを作り上げる。そのような人にとって、活躍しがいのある仕事だと考えています」

PdMを軸として、IT部と事業部門が密接なコラボレーションを進めることで、イオンネクストはさらなる価値創造へと踏み出そうとしている。

 ●樽⽯ 将⼈
イオンネクスト株式会社 技術責任者CTO
レッドハットおよびヴィーエー・リナックス・システムズ・ジャパンを経てグーグル日本法人に入社。システム基盤、『Googleマップ』のナビ機能、モバイル検索の開発・運用に従事。東日本大震災時には、安否情報を共有する『Googleパーソンファインダー』などを開発。 その後、楽天を経て2014年6月よりRettyにCTOとして参画。同社の上場の牽引後、2022年1月に退職。2022年3月より現職。

●村岡尚幸
イオンネクスト株式会社 IT部プロダクト&ソリューションシニアマネージャー
Slerで経験を積んだのちに、通販会社、商社、保育関連企業、製薬会社などさまざまな事業会社を経験。2022年より現職。

●上田裕介
イオンネクスト株式会社 マーケティング部 顧客獲得デジタルマーケティングスペシャリスト
WEB開発会社、広告代理店などを経て、2015年からイオンクレジットサービス株式会社(現・イオンフィナンシャルサービス株式会社)でデジタル制作・運用に携わる。2021年より出向で現職。

 ●楠本絵梨奈
イオンネクスト株式会社 マーケティング部 顧客獲得 マーケティングスペシャリスト
広告代理店、旅行・ホテル関連企業を経て、2023年より現職。

 

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