プロジェクト全体を俯瞰し、最適なデザインでお客様のブランド価値向上へ導く。それが、ドットゼロにおけるディレクターの役割です。単なる進行管理にとどまらず、企画提案から制作、さらにはチーム設計にまで深く関わります。
多様なデザイン領域を横断しながらクリエイティブの力を最大化するその業務内容の実態を、ディレクターであり執行役員のS.Tへのインタビューを通して紐解いていきます。
プロフィール
氏名:S.T
役職:執行役員 / ディレクター
プロダクトデザイナーの経験を経たのち、2023年 3月にディレクターとしてドットゼロに入社。ディレクターとしての勤務経験はなかったが、デザイナーでの企画設計や予算管理などの経験から、的確なクリエイティブ目線を活かしたディレクションで、多岐にわたるプロジェクトをリードする。
学生時代はどんなことをしていましたか?
中学生の頃からものづくりが好きでした。きっかけは革を使って自分でバッグを手縫いしたことです。そこから「自分の手で役立つものを形にする」ことに魅了され、高校は工業高校に進学しました。工業高校といっても金属加工や機械系ではなく、腕時計や指輪といったプロダクトを制作することが中心のユニークな学校でした。
大学進学の際は、ファッションの中でもプロダクト寄りの領域に興味があったため、ファッションプロダクトデザインコースのある大学に進みました。バッグや靴など、用途に応じて設計されることに魅力を感じ、特に「このサイズ、この形である意味」を追求することに心を動かされました。中学生の頃からバッグを作っていた体験もあり、自分の進む道が自然と定まっていきました。
大学在学中は、ファスナーで有名なYKK主催のデザインコンテストや、日本皮革産業連合会主催のレザーバッグコンテストなどに参加し、受賞を果たしました。コンセプト設計からデザイン、指示書に至るまで、自分で描き起こし、職人の方々と連携して実制作にも取り組みました。
そして次第に、ファッション性だけでなく、「日常の不便を解消する機能性」を軸にデザインを考えることが好きになっていきました。「自己表現」よりも、「人が本当に便利だと思えるものを作りたい」という気持ちはその時に培ったものだと思います。
前職での業務について教えてください
前職はレディースのバッグメーカーで、プロダクトデザイナーとして働いていました。バッグの企画・デザイン以外にも、素材の買い付けや海外の工場とのやりとり、生産管理、価格設定、販売促進、カタログ制作、撮影ディレクションの工程にまで携わっていました。
また、自分のチームがデザインした商品の販促物を作ることもありました。その中の業務のひとつである、毎月発行の自社カタログの制作においては、台割作成をはじめ、デザインや撮影ラフ、コピー開発、デザイン組版までを一人で担当しました。「商品をデザインした者が最もそれを理解する」という会社の方針に沿い、自ら主体的に制作に取り組みました。制作時は、商品の見せ方や言葉の設計、写真の配置など「売るための表現」を常に意識していました。
正直なところ業務量は膨大で大変でしたが、デザインという仕事に関する多くのことを、身をもって実感できた期間でもありました。
ディレクターを目指そうと思ったきっかけを教えてください
転職を考え始めた時に、「この先、自分はどんな関わり方でデザインやものづくりを続けていきたいのか?」と考える瞬間がありました。前職ではプロダクトデザイナーとして幅広い仕事をしてきましたが、関わる案件の量や領域には限界があったのも事実でした。深く考えるにつれて、「もっと多様なジャンルのデザインに関わってみたい」という想いが強くなっていきました。
そして転職活動中、その想いに当てはまったのが「ディレクター」という職種でした。それまで意識したこともなかったのですが、知るほどに自分が経験してきた企画や商品設計の知見を活かしつつ、より多くのクリエイティブに携わることができるポジションだと知りました。自分自身が手を動かすことから一歩引いた立場で、多様なジャンル・複数のクリエイターと協働しながらものづくりを進められる仕事に、自然と興味が湧いていきました。
ドットゼロに入社したきっかけは何でしたか?
実は、制作会社で働くという選択肢はまったく考えていませんでした。前職がいわゆるメーカーだったこともあって、自然と事業会社ばかり調べていました。そんな中で、転職エージェントから紹介されたのがドットゼロでした。
面接では、一次面接にも関わらず取締役をはじめ3名のスタッフが同席のうえ、1時間以上かけてじっくり話を聞いていただきました。「こんなに向き合ってくれる会社があるんだ」と、正直驚いたのを覚えています。
その時に感じたのが、「この会社は人の個性や根底にあるものを大切にしている」ということでした。加えて、業務内容を聞けば聞くほど、自分の今までの経験を存分に活かすことができると感じました。そして何より、「裁量が大きい」「自由に挑戦できる」という環境に魅力と将来性を感じました。
他にも選考が進んでいた企業はありましたが、「この会社で働いてみたい」と思い、ドットゼロへの入社を決意しました。
ドットゼロのディレクター業務について教えてください
ドットゼロのディレクターは、単なる進行管理ではありません。お客様との初回打ち合わせでは、課題や要望を丁寧にヒアリングし、それをどうデザインに落とし込むのかという企画、提案の段階からクリエイティブ目線で関わっていきます。課題を抽象的なままにせず、最適な策を考案し、言葉やデザインで可視化します。お客様の課題や要望をクリエイティブの力で解決するためのプロセスの構築こそ、ディレクターの重要な仕事のひとつと言えます。
そしてディレクターは、見積もり・スケジュール作成、プロジェクト全体のクオリティ管理を担いながら、社内デザイナーや外部パートナー(カメラマン・ライター・コーダーなど)のアサインも自ら行います。撮影がある場合は、香盤表の作成や撮影当日のディレクションも行い、紙媒体なら紙の選定や印刷工程の調整まで、デザイナーやアートディレクターと協議しながら取りまとめます。
このように、業務範囲は幅広いですが、お客様の要望に基づいて最適なチームを組み、最良のアウトプットを目指してプロジェクトを遂行するための仕組み作りもディレクターの大切な役割です。
ディレクターとして心がけていることはありますか?
ディレクターの仕事は、どれだけ丁寧に案件を進めたとしても、最終的には「成果物がどうだったか」で判断されると思っています。だからこそ、コンセプト策定をはじめ、上がってきたデザインや資料は細部までチェックして、「これは自信を持って提案できる」と思える状態でクライアントに届けることを心がけています。お客様が信頼をして案件を任せてくださり、また自身が窓口を務める以上、そこに一切の妥協はありません。
もちろん、すべてを完璧にこなすのは難しいですし、日々いろんな領域の案件が飛び込んでくる中で、知らないことや初めてのジャンルの案件を受けることも多いです。判断に迷った際には、即座に調べたり必要なら周囲に相談してスピード感を持って動くようにしています。常に誠実に対応することが、結果的に信頼につながると考えています。
また、社内外のコミュニケーションにも気を配っています。年齢や立場に関係なく、誰に対しても敬い、常に感謝の気持ちを伝えることを心がけています。例えば後輩社員を是正する場合も、いきなり否定せずに一度肯定を挟むなど、言葉選びや伝え方には常に意識を置いています。チームで気持ちよく働くために周囲に気を配り、「心地良いコニュニケーション」を心がています。
執行役員としての責任や役割をどう捉えていますか?
ありがたいことに、2025年の3月から執行役員を任され、今まで以上に「数字」だけではなく「チームの成熟」に向き合うようになりました。今までは自分が担当する案件単位で「うまく進める」「いいものをつくる」という目線だったのが、今では「チーム全体としてどう利益を出していくか」「どう効率よく回していくか」を考えるようになりました。
具体的には、各案件の単価や見積もりのバランス、メンバーの作業工数、デザイナーへのオリエンや外部パートナーへの発注の仕方まで気を配るようになりました。もちろん、数字だけを見て判断するのではなく、「業務の負荷が偏っていないか」や「案件が利益の出る構造になっているか」そして何より「楽しめているか」など、細かい部分にも目を配るようにしています。
とはいえ、「自分がすべて変えるんだ」といった姿勢ではなく、周囲とコミュニケーションを取りながら、課題に挑むというスタンスでいます。会社としてもっと成長していくためには、仕組み化やお金の回し方を整えることが必要だと考えています。
役員になったからといって、急に業務内容がガラッと変わったわけではありません。しかしながら、視座が変わったことで、「会社全体をどう前に進めるか」という軸で向き合えるようになりました。
これから築いていきたいキャリアについて教えてください
今の自分にとって一番大事なことは、「ドットゼロで結果を出し続けること」それに尽きます。自分を評価し受け入れてくれたこの場所で、しっかりと価値を示していきたいという気持ちです。そして、ドットゼロの一員として、自分が関わる案件やプロジェクトを通じて会社のブランド価値をもっと上げていきたいと思います。ドットゼロが全国的に知られるデザイン会社になることが、私が持っている大きな目標のひとつです。
クリエイティブに関わる仕事をしている人は、どこに所属しているかで信頼される側面もあります。もちろん、最初から知名度のある会社に入るというのもひとつの選択肢ですが、私は「自分がいる会社を信頼されるブランドに育てていく」ほうが、ずっと楽しいし、やりがいがあると感じています。
キャリアというのは、「ただ役職が上がった」「何年働いた」ということではなく、「自分がここで何を成し遂げたか」がすべてだと思っています。だからこそ、目の前の一つひとつの案件をしっかり形にしながら、ドットゼロというブランドそのものを、チームとともに育てていきたいと考えています。
これからディレクターを目指す人へメッセージをお願いします
私自身、もともと作り手としてやってきたので、手を動かす楽しさや、ものづくりに込めるこだわりの大切さはよく理解しています。一方で、ディレクターという立場で全体を見るようになって感じるのは、良いアウトプットは「見た目がいいかどうか」ではなく、「誰の どんな課題を どう解決しているか」が本質だということです。
だからこそ、デザイナーであってもディレクターであっても、「誰のために 何を届けるのか」「どうすればチームやクライアントの力になれるのか」といった視点を持つことが大切であり、結果的に自身の強みになると思います。相手に真摯に向き合いながら、柔軟にものづくりに取り組める人が、信頼される存在になっていくと考えています。
そしてもうひとつ大切なことは、自分がどんな価値を示すことができる人間なのかを、自身の言葉で伝えることです。「自分は何を大切にして 何を生み出したいのか」を言語化できるようになると、どんな場所でもブレずに働けるし、自分の軸でキャリアを築いていけると感じています。
代表からのメッセージ
ディレクターというポジションは、常に社内外のチームの中心に立ち、円滑にプロジェクトを遂行することが求められます。コミュニケーション能力だけではなく、チームのモチベーターとしてのリーダーシップを問われるポジションでもあります。そしてプロジェクト遂行のために正しく、時に勇気のある舵取りが必要です。
ディレクターに対して私がよく言うのは「お客様の半歩先に立ち先導する」ということです。お客様も気付かない潜在的な課題を見出し、クリエイティブの力で解決へ導く。そのためには、冷静にモノゴトを俯瞰で捉える視野が重要になります。
ドットゼロのディレクターには、この視野を多くの経験を経て研ぎ澄ませて欲しいと考えています。