「人生100年」と言われる長寿の時代、誰しもがいずれは関わることになるのが介護です。その介護業界は2024年、介護報酬改訂によって大きな影響を受け、今後もさらなる変化を求められています。
介護事業者に向けた採用支援を行うCyXenは、「介護業界」と「採用市場」で今それぞれ起きている急激な変化をどう捉え、この先にどのような展望を描くのか。CyXenの前身であるmedicaの立ち上げメンバーでもある、CEO 新原に聞きました。
※この記事は、2024年に作成した記事の一部をリライトしたものです。
※2025年4月に株式会社For A-careerのmedica事業部を分社化し、株式会社CyXenが誕生しました。
いま、介護業界が変わらねばならない理由とは
━━ 介護業界にとって2024年は非常に変化の激しい1年だったのではないでしょうか?
本当に大変な1年でしたね。業界全体で大きな変革が進んでいることを、改めて実感する年でした。お客様にとってもかなり大変だったと思います。実際に多くのお客様から「経営が厳しい」という声を聞いています。
大きな要因の一つは、やはり人件費の高騰です。元々、介護施設のビジネスモデルは、収入を増やすよりも販管費を削減することで利益を確保するという構造でした。これまでは人件費を削減して利益を維持していましたが、最低賃金の引き上げを受けて、利益減少に直結してしまいました。
もう一つ大きな要因としては、介護報酬改定です。今回、加算が増えたサービスとそうでないサービスに明確な差がつきました。要介護度が低い施設では報酬がほとんど変わらず、場合によっては減少した可能性もあります。一方で、終末期や要介護度が高い施設には報酬が増加しています。この背景には、国の医療費削減の意図があります。終末期の人たちが増えていく中で、病院での医療費が膨らむことを防ぐため、医療と介護を連携させ、病院ではなく介護施設や在宅で看取る形にシフトさせようという狙いです。
今後、日本では後期高齢者が増え、介護業界の焦点が終末期ケアにシフトしていくと予想されます。これにより、現在の要介護度が低い施設、例えばデイサービスなどの報酬は今後減少する可能性が高いです。実際、今回の改定で報酬が減少した施設もあります。これは、国として将来的に不要と見なされるサービスが影響を受けている証拠です。ですので、クライアントさんにもこうした変化に対応する必要があるということです。
この変化は実は、厚生労働省が3年ほど前から示している方向性に基づいています。そのため、業界の動向をしっかりとキャッチアップしていかないと、今後の経営は非常に難しくなっていくという現実があります。
1つの求人プラットフォームの登場が、採用市場全体を飲み込む変革のきっかけに
━━ CyXenの事業展開軸は「介護×採用市場」ですが、採用市場においても破壊的な変化がありましたね。
そうですね。これまでは「求人サイトAを見ている人が、Aに掲載されている企業に応募できる」といった求人サイトごとのマッチングが一般的でした。しかし昨年登場したIndeed PLUSという新しいプラットフォームは、求人の内容や特性、市場、応募状況に照らし合わせて複数の求人サイトに自動掲載を行うため、「Indeedに載せさえすれば完結する」、逆に言えば「Indeedに載せないと採用できなくなる」という構造を生じさせつつあります。
採用市場ではこのIndeed PLUSの登場をきっかけに、業界再編が進むであろうという見立てすら囁かれています。medicaもこの新しいプラットフォームへの対応に追われた1年でした。これによって採用市場がどう変わっていくのか、まだ予想がつかない部分もあります。
━━ 様々な変化への対応を余儀なくされているお客様に、CyXenができること、提供するべき価値の本質は何だと思いますか?
medicaの時代から我々が提供してきた主なサービスはRPO(採用業務の代行)ですが、その本質的な価値は、介護や医療の現場で働く方々の「想い」を守ることにあると考えています。
介護業界で働く方たちは、「利用者の方々に寄り添い、質の高いケアを提供したい」という強い想いを持ってこの仕事に就いています。ところが現実には、入職して数年も経つと、賃金の低さや人手不足による過度な負担など、さまざまな課題に直面します。施設長などの管理職になったことで、本来やりたかった介護業務から離れざるを得ないこともあります。
私たちがやりたいのは、採用業務をCyXenにアウトソースしていただくことで、そうした現場の方たちが介護に専念できる環境を整えることです。今後はさらにバックオフィス業務全般の代行や経営コンサルティングなど、施設運営の管理領域にもサービスやプロダクトを展開していきたいと考えています。
介護業界の可能性。葬儀との連携による、理想的なライフエンディングのプロデュース
━━ 業界全体があらゆる変化への対応を迫られる中、2024年4月には日本介護センターを買収しました。買収の狙いは何だったのでしょうか?
日本介護センターを買収した一番の理由は、私たちが介護・福祉業界で採用コンサルを名乗る上で、お客様の悩みや課題を本当の意味で深く理解するためでした。自分たちで実際に介護施設を経営することで、お客様が感じておられる悩みや課題を自分たちも同じように体験し、それを自分たちでまず解決してみる。そのノウハウを積み重ねてはじめて、お客様に本質的なサービス提供ができるのではないかと考えたのです。
結果として、買収して約1年で赤字経営だった日本介護センターを黒字にすることができました。またその経営改善の過程で、そもそもこの業界は構造的に変化に対応しづらいことがよくわかりました。手続きの煩雑さに加え紙文化も根強く残り、行政に提出する書類を作成するだけでも相当な時間がかかる。限られた業務時間の内、介護にかけられる時間や本質的な課題解決に目を向ける時間は、その分短くなってしまうのです。
その中で今後は、終末期の方に向けたサービス提供も担っていくことが国から求められています。私たちも今年2月、終末期の入居者さんをお迎えするホスピスを創設しました。だからこそ分かるのですが、デイサービスやショートステイなどの従来型サービスを展開している施設が今後終末期サービスにも対応していくというのは、かなりの労力が必要だと思います。
━━ コンサルタントとしてではなく、自分たちで実際に介護ビジネスをやってみる。その「手触り」から得られたヒントは何かありましたか?
お客様にもっと喜んでいただくためにも、介護業界の産業構造自体を変える必要があると考えるようになりました。
現状、この業界の収益モデルはほとんどを介護報酬に頼っていますが、私たちのお客様には、介護報酬以外の収入を得られるようになっていただきたい。介護業界で「新しい価値の生み出し方」を発明していく上で、私たちのような異業種から参入してきた会社だからこそご提案できることがあると考えています。
━━ 介護報酬以外の「新しい収益モデル」に関して、具体的な構想はありますか?
今私が考えているのは、介護と葬儀をしっかり連携させること。つまり、単なる介護施設ではなく、「人生の最期」をいかに納得のいく最良の形で迎えられるか、そこにご本人様とともに向き合うパートナーになっていきたいということです。
人は誰しも年齢を重ね、いずれは介護を受ける立場になり、最後は亡くなっていきます。その過程では、高齢者の資産管理や遺品整理といった課題が表れてきます。様々なビジネスの可能性が考えられますが、私が一番やりたいのは、「死」を単にネガティブなものとして捉えるのではなく、その人が納得できる形で旅立てるようにプロデュースすることです。
例えば、介護施設にいる段階からその方の人生の物語や希望する終わりの迎え方について丁寧にヒアリングし、最期のセレモニーである「葬儀」がその方とご家族にとってより意義のあるものになるようにプロデュースする。結婚式を思い浮かべてもらうと分かりやすいですが、式では花や写真、動画などを演出し、感動的な時間を作り上げます。葬儀も同じように、その人の人生を振り返り、思い出を形にすることで、遺された家族が温かい気持ちで送り出せる場にできるのではないでしょうか。
現在、家族葬は火葬場で行うのが一般的ですが、先にお話ししたように在宅介護が増えている中で、自宅で最期を迎え、その場で葬儀を執り行う「在宅葬儀」もメジャーになっていくでしょう。だからこそ、家族で迎える最期の時間をより良いものにするために、寄り添い、サポートすることが大切なのではないかと思います。
2025年も続く変化の中で、CyXenらしい軸を構えて新規事業創出へ
━━ すでに幕を開けた2025年、CyXenの目標と決意を改めて聞かせてください。
2024年は大きな変革の年だったとお話ししましたが、2025年、2026年と、今後さらに変化のスピードは加速していくと考えています。なぜなら、高齢化が急激に進み、後期高齢者の数が急増していくからです。
そんな中でCyXenの2025年の目標は、介護業界に貢献できる新たな事業を創出することです。外部環境が変化し続ける中で新規事業を生み出すために重要なのは、ブレてはいけない軸を明確にし、周りの変化に振り回されないようにすることだと思います。「ブレてはいけない軸」とは、介護業界に携わる人たちの想いを守ることです。私たちが大切にすべき価値観やビジョンをいま一度明確に言葉にしながら、それをどのように実現していくのかを考えることが重要になるはずです。
CyXenのメンバーたちには、この業界をどう変えていきたいのか、どんなビジョンを持って進んでいくのか。その方向性を明確にしながら、激しい変化を一緒に乗り越えていきたいと思っています。
▼インタビュイー▼
新原大貴(しんばら だいき) - 代表取締役 CEO
広島県広島市出身 広島市私立大学を卒業後、起業。 起業を失敗の後、株式会社ネオキャリアへの入社。当時はまだ認知度が低かった第二新卒に特化をした人材紹介事業部に配属され名古屋支店を立ち上げる。 その後、グループ代表の浅尾の誘いで株式会社For A-careerに入社し、人材紹介事業部の責任者をした後に、介護業界に特化したRPO事業を立ち上げる。 2025年4月、株式会社CyXenの代表取締役 兼 CEOに就任。