今回は、ある自治体と取り組んだ「イベント開催に伴うエリアの回遊性分析プロジェクト」の裏側をご紹介します。
対象となった地域は、主要駅の周辺に商業エリアや観光エリアなど、異なる特徴を持つ複数の“まち”が存在する魅力的なエリアです。自治体ではイベントを活用した賑わいづくりに取り組んでいましたが、「イベントによって人の流れがどのように変化したのか」「エリア同士がどうつながり、どう巡られているのか」を具体的に捉えきれないという課題を抱えていました。
一般的な人流データでは「どのエリアに何人来たか」という点(滞在人口)は見えても、「どの道路を通って、どう回遊したか」という線(動線)までを捉えるのは困難です。この高難度な問いに対し、GEOTRAは高粒度なGPS位置情報データ(GEOTRA Activity Data)を用いて「通行道路とランドマーク間の移動を結びつける分析」に挑みました。
今回は、本プロジェクトを担当した伊藤 史紘にお話を聞きました。
担当者紹介
伊藤 史紘
東京科学大学大学院 情報理工学院を修了。学生時代は経済物理学を専攻し、GEOTRAにて長期インターンシップで実務経験を積む。入社後はデータサイエンティストとしてGEOTRA Activity Dataを活用したお客様向けデータ分析および機械学習モデルの開発に従事。
現場の課題:「点」のデータでは、人の動きが見えてこない
自治体の担当者様は、イベント開催による賑わいの創出やエリア全体の活性化を目指していました。しかし、施策の効果を検証し、次のまちづくりに繋げるためには「駅に来た人が、具体的にどのルートを通って周辺のエリアまで足を延ばしたのか」を正しく把握する必要がありました。
社内や一般的な調査手法では、駅や施設ごとの「来訪者数」などの断片的な集計データは存在するものの、それぞれのスポットがどのように「線」で結ばれて人流を生んでいるのかまでは捉えられていませんでした。
そこで、人流データを活用して現状をより多角的に把握したいというご相談をいただいたのが、プロジェクトの始まりでした。
前例なき「定義づくり」の壁
今回のプロジェクトは、GEOTRAにとっても「特定の道路の通行とランドマーク間の移動を結びつけて分析する」という新たな挑戦でした。そのため、いざ分析に入ろうとした段階で、大きな「壁」に直面することになります。
伊藤:「今回のような動線分析はGEOTRAにとっても初の試みでした。何が難しかったかというと、『どの移動軌跡があればその道路を通ったと判定するか』や『主要な施設や通りを地図上でどこまでの範囲として区切るか』という定義を一から設計しなければならなかった点です。」
分析の判定条件やエリアの区切り方ひとつで、集計結果の見え方はガラリと変わってしまいます。
伊藤:「『この定義で、本当に現地で生活し、観光している人たちのリアルな動きを表現できているのか』と、条件設定の段階ではかなり頭を抱えましたね。」
「データ上の正しさ」ではなく、お客様の現場知見とデータを往復させる
壁を突破する鍵となったのは、お客様と対話を重ねながら分析精度を高める「泥臭いキャッチボール」でした。
伊藤:「まず仮の判定条件とエリア範囲を設定し、中間報告の場でお客様に確認していただきました。お客様は、現場の通りの使われ方やイベント当日の空気感を誰よりも熟知されています。
『この施設はもう少し広い範囲で捉えた方が実態に近いのではないか』『この時間帯の動きを詳しく見たい』といった現場の生の知見を伺いながら、分析条件をひとつずつ見直していきました。」
対象エリアの大きさや集計時間帯を変えて再分析を行うなど、数字だけで判断するのではなく、「お客様の実感」と「データ」を何度も往復させることで、分析の精度と納得感を極限まで高めていきました。
感覚がデータで裏付けられた瞬間
試行錯誤の末に迎えた最終報告の場。主要な通りのひとつが、駅周辺の商業エリアと少し離れたエリアを繋ぐ上で重要な役割を果たしているという分析結果をお示ししたとき、大きな成果を実感することになります。
伊藤:「分析の結果、その通りは単なる近隣への移動だけでなく、広域なエリア同士を繋ぐルートとして利用されていることが判明しました。これは、お客様が日頃から街を見ていて感じていた『この通りがエリア同士を繋いでいるのではないか』という実感と、完全に合致する結果だったんです。」
お客様が感覚として持っていた仮説がデータによって証明され、「まさに知りたかったことだ」と深く納得していただけた瞬間でした。
伊藤:「単なるデータの納品ではなく、お客様が次の施策を考えるための『確信』をお届けできたと感じられ、ホッとすると同時に大きなやりがいを感じました。」
「人流データの会社だから」で終わらない、GEOTRAらしさ
今回の案件を通じて、伊藤があらためて“GEOTRAらしい”と感じたのは、お客様の課題に徹底的に伴走するスタンスでした。
伊藤:「決められた形式のデータをそのまま納品するのではなく、お客様と一緒に『何を明らかにしたいのか』『どう見せれば次のアクションに繋がるのか』を考え抜いて分析を作り上げていく。途中で新しい視点が出てきても、条件を見直して再集計するなど、柔軟に応えていく姿勢にGEOTRAらしさを感じます。
大規模な位置情報データと高いエンジニアリング力を掛け合わせ、お客様ごとに異なる難しい問いに向き合い、形にしていく。これこそが私たちの強みだと思います。
おわりに:施策の立案から実行、振り返りまでを一気通貫で
今後の展望について、伊藤はデータの可能性をさらに広げたいと語ります。
伊藤:「今回はイベント実施後の振り返り分析が中心でしたが、今後はイベントやまちづくり施策の『検討段階』から関わっていきたいと考えています。
どのエリアに施策を打てば回遊が生まれるのかを事前データで検討し、実施後に効果を検証する。施策の立案から実行、効果検証までを一気通貫で支援できれば、データの価値はさらに高まります。
データを単なる報告資料で終わらせず、より良いまちづくりの施策を考え、実行し、次につなげるサイクルをお客様と一緒に作り出していきたいです。」
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