今回は、AIによる業務効率化の先にある評価制度と組織のあり方にフォーカスした話をしようと思います。
評価制度、ちゃんと運用できている会社ってどれくらいあるんだろう
経営者や人事の方なら、きっとこの問いに苦笑いすると思います。
僕自身、いろんな企業の経営者とお話しする機会がありますが、「うちの評価制度、完璧です」と胸を張って言える人にはまだ出会ったことがありません。実態はだいたいこんな感じです。
そもそも評価指標を設計すること自体が、めちゃくちゃ専門知識を要する作業なんですよね。組織心理学、行動経済学、業界特性の理解、自社のバリューとの整合——これを全部考慮して「この会社に最適な評価基準」を作るのは、専門のコンサルでも難しい。
そして、仮にいい指標を作れたとしても、評価されるのは「ゴールを決めた人」だけという問題が残ります。
サッカーで例えるとわかりやすいんですが、得点王は表彰されますよね。でも、決定的なスルーパスを何本も通したミッドフィルダーは? 体を張ってゴールを守ったディフェンダーは? チームの雰囲気を保ち続けたムードメーカーは?
会社でも同じことが起きています。売上を取ってきた営業は評価される。でも、その営業が商談に集中できるように裏方で資料を作り、顧客対応をし、社内調整をした人は? 新人を丁寧に育てて、半年後に独り立ちさせたメンターは?
今の評価制度は「賢い人がいい思いをする」構造になっている。 言語化がうまい人、自己アピールが得意な人、数字で見える成果を出しやすいポジションにいる人が有利です。
僕たちが本当に作りたいのは、「いい人がいい思いをする」組織です。
なぜ評価制度は機能しないのか — 3つの構造的な問題
「評価制度がうまくいかない」のは、運用が甘いからではありません。構造的に無理ゲーなんです。
1. 評価指標の設計が難しすぎる
まずここです。
「KPIを設定しましょう」と言うのは簡単ですが、その会社、その部署、その人に本当にフィットするKPIを設計できるのかという話です。
営業なら売上で測れる? いや、新規開拓とルート営業では全く性質が違う。エンジニアならコード量? それは品質を無視している。カスタマーサクセスなら解約率? でもそれはプロダクト側の問題かもしれない。
大企業はここに外部コンサルを入れて、何千万もかけて設計します。それでも「まあまあ」の精度です。中小企業にそんな余裕はないから、テンプレ通りに作って、結局その会社に合わない仕組みになる。
2. 定性的な貢献が見えない
これが一番根深い問題です。
チームの雰囲気を良くしている人。困っている同僚に声をかけている人。ドキュメントを丁寧に整備してくれている人。会議で的確な問いを投げて議論の質を上げている人。
こういう貢献って、本当に価値があるのに、数字で測れない。結果として評価シートに載らない。評価シートに載らないということは、評価されないということです。
「アシストした人も評価されるべき」——これは僕がずっと感じてきたことです。ゴールだけじゃなく、パスも、ディフェンスも、声かけも、全部チームの成果に貢献している。でもそれを「見る仕組み」がないから、見えないものは評価できない。
3. 評価者のバイアスと時間不足
評価する側にも限界があります。
直属の上司が評価するとして、その上司は部下の仕事を全部見ているわけではありません。記憶は曖昧だし、バイアスもある。直近の印象に引っ張られる「近接効果」、目立つエピソードだけで判断する「ハロー効果」——人間の認知バイアスは評価の精度を確実に下げます。
しかもマネージャーは忙しい。部下10人の評価シートを期末にまとめて書くのは、率直に言って苦行です。結果として「まあ、去年と同じでいいか」という惰性の評価が生まれる。
この3つの問題に共通しているのは、「人間がやるには負荷が高すぎる」 ということです。設計も、可視化も、評価も、人間のリソースだけでは限界がある。
じゃあ、AIならどうか。
AIが評価を変える — 「設計」も「運用」も自動化する
僕が考えているのは、評価制度の「一部をAIに置き換える」ではなく、「設計から運用まで丸ごとAIで再構築する」 というアプローチです。
評価指標の自動生成
まず設計の部分。
AIに組織のカルチャー、事業内容、バリュー、過去の評価データを読み込ませると、その組織に最適化された評価指標を自動的に生成できます。
「うちの会社はチームワークを大事にしているけど、具体的にどう測ればいいかわからない」—こういう悩みに対して、AIが「御社の業務データから見ると、チームワークは以下の3つの行動指標で測定できます」と具体的な提案を出してくれる。
しかもこれ、一度作って終わりじゃない。四半期ごとに組織の変化に合わせて指標を自動アップデートできる。事業フェーズが変わったら、評価基準も自動で変わる。今まで年に1回の大仕事だった「評価制度の見直し」が、継続的なチューニングになります。
貢献の自動抽出
次に、見えない貢献の可視化です。
今の企業には、実はすでに膨大な「貢献データ」が眠っています。
- Slack: 誰が誰にアドバイスしたか、質問に答えたか、感謝されたか
- Zoom / Google Meet: 会議での発言量、ファシリテーションの質、質問の数
- Google Workspace: ドキュメントの作成・編集履歴、メールの対応速度
- プロジェクト管理ツール: タスクの完了率、レビュー回数、ブロッカー解消への貢献
これらのデータをAIが横断的に収集・分析すると、「誰が何にどれだけ貢献しているか」が自動的に見えるようになります。
ゴールを決めた人だけじゃない。パスを出した人も、ディフェンスで守った人も、チームの士気を保った人も—どんな貢献も、貢献であれば無視されない。 これがAIによる貢献可視化の本質です。
評価者バイアスの排除
そして評価そのもの。
AIが業務データに基づいて評価の下書きを作成し、マネージャーはそれをレビュー・調整するだけでいい。「ゼロから評価シートを書く」のではなく、「AIの評価案を確認する」に変わる。
これによって、近接効果も、ハロー効果も大幅に軽減されます。AIは半年前の貢献も、目立たない日々の行動も、同じ重みで見ているからです。
実際にやってみて分かったこと — Google Workspaceのデータから見える景色
ここからは、実際にやってみた話です。
やったことはシンプルで、社内のデータソースをAIに読み込ませた。メール、ドキュメント、カレンダー、チャット等普段の業務で自然に生まれるデータを、AIが横断的にアクセスできる状態にしたんです。
業務ログを集約すると、「誰が何にどれだけ時間を使っているか」が自然に見えてきます。たとえばこんな感じです。
- Aさんはこの1週間で、チームメンバーからの質問にSlackで15回回答している
- Bさんはドキュメントの更新を8回行い、そのうち3つは他のメンバーが作成した資料のレビュー・修正
- Cさんはクライアントとのメール対応を28件処理し、平均応答時間は2時間以内
普段の業務をしているだけで、貢献データが自然に蓄積されている。
ここで重要なのは、僕たちがやったのは「業務効率化のためにAIを導入した」だけだということです。貢献を可視化しようと思って始めたわけじゃない。でも、業務フローにAIを組み込むプロセスと、貢献を可視化するプロセスは、実はほとんど同じだった。
社内のデータソースをAIに接続する。業務ログを構造化する。AIが横断的に分析する。この流れは、業務効率化でも貢献可視化でも全く変わりません。
つまり、AIによる業務DXに取り組んでいる企業は、すでに貢献可視化の土台が半分できているということです。
「賢い人」ではなく「いい人」が報われる組織へ
ここまで仕組みの話をしてきましたが、最後にビジョンの話をさせてください。
僕がこの仕組みを作りたいと思っている根っこにあるのは、「いい人がいい思いをする」組織にしたいというシンプルな想いです。
今の評価制度は、言語化がうまい人、アピールが得意な人、数字で成果が見えやすいポジションにいる人が有利です。でも実際には、組織を支えているのはそういう「賢い人」だけじゃない。
地道に同僚を助けている人。ドキュメントを整備している人。新人を育てている人。トラブルが起きたときに真っ先に手を動かす人。——こういう人たちが正当に報われる仕組みを、テクノロジーで作れる時代になりました。AIとSaaSの組み合わせで、今日から始めることも可能です。
弊社でもこの領域でHR支援ツールを開発中ですが、ツールを待つ必要はありません。既存のAIサービスの組み合わせだけでも、貢献の可視化は十分にスタートできます。
おわりに
評価制度を変えるのは大変です。人間の感情が絡む領域だし、組織文化にも深く関わる。「AIで全自動」にすべきだとは思っていません。
でも、AIは「大変」の質を変えてくれます。
設計が難しい → AIが下書きを作ってくれる。 貢献が見えない → AIが自動で拾ってくれる。 評価者の負荷が高い → AIがドラフトを用意してくれる。
人間がやるべきなのは、AIが可視化した貢献を見て「この組織ではこういう行動を大事にしたい」と意思決定すること。そこは絶対に人間がやるべきで、AIに委ねるべきではない。でも、その意思決定に必要なデータを集めて整理する部分は、AIが圧倒的にうまくやれます。
「どんな貢献も、貢献であれば無視されない」 ——そういう組織が増えたら、働くことはもっと楽しくなるはずです。
この先、貢献の可視化をさらに発展させた「組織を跨いだ信用の仕組み」についても構想がありますが、それはまた別の記事で書きます。
今回の記事を読んで「貢献がAIにより可視化され、いい人がいい思いをする社会をつくっていくのって面白いな」と感じた方がいたら、ぜひお話させてください。まずは気軽に話を聞いてみたい方も、実際にどのようにして仕組みを構築しているのか興味がある方も、大歓迎です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!