かつては世界のトップに君臨していた日本の製造業。今でも「技術大国」として知られる日本ですが、海外にその立場を奪われ始めているのも事実です。その原因の一つがDXの遅れ。工場ではロボットなどを取り入れ、徐々にDXが進んできていますが、研究開発などの上流工程では今でもアナログな業務が数多く残っています。
AIを活用し、そんな上流工程のDXを進めるのが、私たち株式会社SUPWAT。製造業における研究開発や設計、生産技術部門で蓄積されたデータを活用し、業務プロセスを効率化、標準化する「WALL」を開発しているファクトリーテックスタートアップです。
今回はCEOの横山にインタビューを実施し、製造業が抱える課題や、AIによってどのように上流工程を革新するのか話を聞きました。
製造業における上流工程が抱える課題とDXのメリット
―まずは日本の製造業におけるDXの現状について教えてください。
最近は工場で働くロボットがニュースになるなど、下流工程におけるデジタル化・DXは徐々に広がり始めています。しかし、その一方で「ものをどのように作るか」を考える開発段階、つまり上流工程のDXはほとんど進んでいないのが現状です。
国としてもIT投資を推進してはいるのですが、まだまだ現場主義な企業も多く、開発段階のDXにまで手が回っていません。加えて、業界全体でAIやビッグデータのリテラシーが高いとは言えないことも、DXがほとんど進まない原因の一つだと考えています。
―上流工程のDXというのはどのようなものでしょうか。
ものをつくるには設計書が必要で、その設計書を作るには緻密な計算が必要になります。机上の空論だけでは設計できないため、多いと何千回、何万回と試行錯誤を繰り返し、設計書を完成させることで初めて工場での大量生産ができるのです。
その開発段階を効率化するのが、わたしたちが提供しているサービスです。AIやデータを活用することで、これまで数千回必要だった試行錯誤を数百回に短縮します。その分、コストが下がり、開発期間も短縮できるため、ものづくりの生産性を大きく上げられるのです。
―具体的にどのようなシーンでの利用を想定しているか教えてください。
私は大学院時代に飛行機エンジンのファンブレードの開発に携わりました。ファンブレードとは飛行機のエンジンの一番手前にあるブレードのことです。飛行機に鳥が衝突してしまう「バードストライク」は航空機にとってクリティカルな課題であり、もし鳥がエンジンに吸い込まれてしまうと、ファンブレードが破損し大事故に繋がりかねません。
より軽量な材料を利用し、かつ破損しにくいファンブレードの開発が各社で進められていますが、その設計がとても緻密なのです。少しずつ機構や材料の特性を変えながら、最適な設計をしなければいけません。当時は何百回とアレンジを加えながら改良を重ねてきたのですが、AIを活用することで、そのアレンジの回数を大幅に減らすことができるのではと考えるようになりました。また、ちょうどディープラーニングが流行り始めていたこと、計算機(GPU)の能力が実用に耐え得るレベルまで進歩してきていたことも重なり、AIの可能性を真剣に模索するようになりましたね。
ファンブレードに限らず、アレンジや試行錯誤が必要な工業製品であれば、AIによって、開発期間の短縮が可能だと考えています。いきなり最適解を提案することはできませんが、これまでのデータを分析して「当たり」をつけてくれるので、少ない回数で正解を見つけることができるのです。
―どのような企業が顧客となりうるのでしょうか?
製造業界であれば、どのような企業でも私たちの顧客になり得ます。現在は自動車業界からの引き合いが多いですが、もっと小さなモビリティやBtoBの産業機械、素材や材料開発などでも問題ありません。
ものづくり企業すべてがターゲットになり得るので、大きな市場を狙えるのが私たちのビジネスの魅力です。
「製造業×テクノロジー」異色のキャリアを持つ代表だからこそ見えたソリューション
―なぜ製造業のDXを推進しようと思ったのか聞かせてください。
私自身、実際にものづくりの世界にいて、大きな課題を感じたからです。私は大学時代からものづくりの研究をしていましたし、就職してからは自動車メーカー向けのOEM製品開発をするような会社で、ものづくりの現場をサポートする仕事をしていました。
そのような仕事をする中で、現場で働く人に何度もヒアリングをしながら、どんな課題があるのか聞いていくと、上流部分での課題が見えてきました。また、私自身も研究をする中で何度も何度も繰り返し実験をすることがあったのですが、それがとても面倒で。スーパーコンピューターを使って演算しても数日かかることも珍しくありませんでした。
そこに製造業の大きな課題があると思って、自ら解決しようと起業を決意しました。
―同じように課題を解決しようとしている企業はいなかったのでしょうか。
私達のようなサービスを展開している企業は、世界中を探してもあまり見たことがありません。その背景には、製造業と情報テクノロジーの間に大きな溝があるように思えます。製造業はAIなどの情報関連技術に関するリテラシーがとても低く、「ChatGPT」という言葉を聞いたことがある人はいても、それが何なのかを説明できる人はほとんどいません。
一方でAIを扱うテクノロジー企業にとっては、製造業はとても複雑で、安易に参入できない領域。製造業の課題とAI技術を併せ持っている企業が少ないために、世界的に見ても競合がほとんどいないのが現状です。
―製造業を経験した人でなければ難しいのですね。
そうですね。しかし、実際は製造業を飛び出す人というのは多くありません。製造業界には終身雇用の考え方が根強く残っており、起業はおろか転職をする人も少ないのが現状です。
しかし、そのような風潮も徐々に変わり始めています。政府は、2022年に発表した「スタートアップ育成5か年計画」の中で、スタートアップに対する年間投資額を2027年度には10兆円規模へ増やすことを目標として掲げ、スタートアップの支援体制は強化されてきています。また、メーカーからコンサルティング会社に転職するなど、会社を飛び出す人が増えてきているので、そのような方々にも私達に興味を持ってほしいですね。
顧客に価値を提供し、サービスをブラッシュアップできるコンサルタントを募集
―現在、どのような人材を求めているのか教えてください。
端的に言えば、コンサルタント兼CS(カスタマーサクセス)をお任せできる方です。製造業のお客様に、わたしたちのサービスを提案して価値を提供するだけでなく、お客様の要望をヒアリングし、プロダクトチームに伝えられる方を探しています。当社のコンサルティングには、技術課題の理解、ソリューションを作るための仮説立て、自社のプロダクトであるWALLの活用の3要素が求められるため、単にお客様の課題をヒアリングし、プロダクトチームに伝えるだけでなく、問題の本質を理解し、どのような機能や改善が求められているのかまで考えられる方だと尚いいですね。
私たちのプロダクトは既にPSF(プロブレムソリューションフィット)はしていると認識していますが、まだまだプロダクトの課題は数多く残っています。お客様の声をもとに課題を解消し、よりよいプロダクトを作るために、お客様とプロダクトチームの架け橋になれるような方にジョインしてほしいです。
―どのようなスキルが必要なのでしょうか。
まず必要になるのが製造業の知識。お客様にサービスを提案するのも、ヒアリングして問題を解決するにも、製造業に関するドメイン知識がなければ始まりません。そのため、製造業での実務経験あるいはそれに類似したものは必須になると思います。
加えて、コミュニケーションスキルや顧客対応の経験も必要です。顧客に提案するにも、ヒアリングをするにも、コミュニケーション能力は欠かせません。そのため、メーカーで研究職だけをしていたような方は厳しいかもしれませんね。
一方で、当社では業界知識を活かし、お客様の課題解決に取り組むことができるため、製造業界で実務経験を積んで、コンサルティングファームへの転職を検討しているような方にはおすすめだと思います。
―どのようなキャリアの方ならマッチしそうか聞かせてください。
たとえば製造業界で、開発職から営業職へ移った方や、コンサルタントになった方はマッチすると思います。実際に大手のメーカーやコンサルティング会社から応募してくれる方も増えてきています。
さきほど、大手のメーカーを辞める人は少ないと話しましたが、最近は会社の歯車になって働くことに疑問を持っている方も増えてきました。私たちの会社なら、自分で考えながら働けるため、魅力を感じてくれる方も多いようです。
「このままメーカーで働き続けて大丈夫かな」と不安や危機感を感じている方は、ぜひ話を聞きに来てください。
―コンサルをしている方に伝えたい魅力はありますか?
急成長スタートアップで経営に携われることです。コンサルを経験しているような方であれば、将来的に経営に携わるポジションをお願いすることになると思っています。私たちはこれからPMFを経て、資金調達をしながら海外展開に向かっていくため、経営の力量が求められるフェーズです。
特にコンサルをしている方の中には「困っている経営者を助けたい」という方も少なくありません。製造業は本当に困っている経営者が多い上に、社会課題に直結する課題が潜んでいます。経営者を助けながら社会課題を解決したいと思っている方には、ぜひ話を聞いてほしいです。
「工場から人がいなくなる」生産性を上げて日本の製造業を世界のトップへ
―今後はどのように事業を展開していくのか教えてください。
上流工程のDXを進めていくのは当然ですが、より下流へ進出していき、製造業を一気通貫でDXできる体制を目指しています。上流工程と下流工程を包括することで、部門間の連携をより強化することができ、それがさらなる効率化を生むからです。
また、今後は企業間の連携を強化していく予定で、すでに実証実験先も決まっています。製造業は様々な企業と協力しながらものづくりをしているので、そこでデータをうまく連携することで、ものづくりのスピードを上げ、国際競争力を高めていきます。
最終的には自社で工場を持ちながら、より現場感を持ったシステムにブラッシュアップしていくつもりです。自分たちが作ったシステムを、自分たちの工場で使うことで、いち早くフィードバックループを回し、改善していける構造を作っていきたいですね。
―最終的にはどのような社会をめざしているのでしょうか。
工場から人がいなくなり、よりクリエイティブな業務に人的リソースを当てられる社会をめざしています。今はどんどんものづくりのハードルが上がっており、高い品質のものを、短い期間で作らなければいけません。
実際に「ものづくり白書」にも記載がありますが、そのビジョンを実現するには、現場を効率化するかだけではなく、上流工程にもっとリソースを割かなければなりません。まずは上流から下流に至るまでのアナログで非効率的な業務を変革し、これまで埋没していたリソースを掘り起こすことで、その資源をより上流工程に投資できる状況を作っていきたいと考えています。