こんにちは。日本マタニティフード協会の山本です。
私たちは、妊娠中から子育て中のご家族に向けた商品を、メーカーさんと一緒に届ける仕事をしています。有明と府中に「Tokyo Family Marche」という店があって、約1,100社の商品が並んでいます。スタッフの9割が育児中で、来てくれるお客さんもほぼ全員、妊婦さんか小さい子を連れたご家族です。
メーカーさんとお付き合いを始めるときは、必ず面談をします。だいたいオンラインで、1時間くらい。そこで最初に聞くのが「いま、いちばんの課題って何ですか」です。
5年半で約1,100社。この質問の答えで、いちばん多いものはずっと変わっていません。「認知です」「まず知ってもらわないと、っていうところですね」。
私たちは、「認知」の一つ手前に、大事なことが隠れていると考えています。
この記事に書いてあること
・「認知」という答えが自然に出てくる理由と、それがちょっと怖い理由
・認知は手段で、課題は「いま起きていること」で言うものだということ
・認知が取れた翌日を想像してみる、三つの問い
・それでも認知がほんとうに課題な商品はある、という話
先に、私たちが土台にしている式の話
社内でずっと使っている式があります。
売上 = ① 商品の魅力 × ② 売り方(伝え方) × ③ 売り場 × ④ 競合
①は、誰の、どんな困りごとを、どう解決して、どんな気持ちにするのか、が一文で言えているか。
②は、その商品を「誰の、何のための商品」として見せるのか。
③は、狙っている人がほんとうにいる場所に置けているか。
④は、隣に並んだときに、こっちを選ぶ理由があるか。
新しい発見ではなくて、世の中にある理論を、現場で使える4つの枠に整理しただけです。ただ、1,100社の商品を見てきて、売れる場合と苦戦する場合を分けていたのは、毎回この4つのどれかでした。掛け算なので、どれか一つがゼロに近いと、他がどれだけ良くても結果はゼロに寄っていきます。
で、この式の中に「認知」という項はないんですよね。認知は、式の答えを大きくする装置だと思っています。答えが大きければ、認知はそれを増幅して売上になる。答えが小さければ、小さいまま増幅されて「知られたけど、売れない」になる。名前は広まったのに売り場で動かない。しかも一度そうなると、二度目の認知はもっと取りにくくなります。これはけっこうつらいです。
「認知」と答えるのは自然で、だからちょっと怖い
先に書いておきたいんですが、「課題は認知です」と答える企業さんを、私は間違っていると思ったことがありません。むしろ、商品と長く向き合ってきた人ほど、そう答えるのが自然だと思っています。
つくり手は、商品に近すぎるんです。
原料を選んで、製法を決めて、何度も試作をして、その良さを毎日見ている。そういう人にとって魅力は、説明するものではなく、そこにあるものです。だから「魅力が伝わっていない」という発想が、そもそも出てきにくい。残る説明は「まだ知られていないから」になります。
それから、認知って、誰も責めていない言葉なんです。
「商品の魅力が言葉になっていない」と言うと、開発の人に責任があります。「売り場が合っていない」は営業の人に責任があります。でも「認知が足りない」は、誰も傷つかないのです。社内で合意が取りやすくて、明日から動ける。課題の言葉として、いちばん優しいんだと思います。
もう一つ、ここがちょっと怖いところなんですが、認知施策は汗をかいた実感があります。広告を出した、SNSを回した、インフルエンサーに頼んだ。数字も出る。やった感がある。
私はサウナに行くと痩せた気になります。体重は変わっていないのに、汗をかいた分だけ何かが進んだ気がする。認知施策には、それに近い手触りがあると思っています。悪いことじゃないんです。ただ、体重が変わっていないことには、あとで気づく。
認知は「やること」で、課題は「起きていること」
課題と手段って、言葉の形が違うんです。
課題は、いま起きていること。「知った人の多くが、売り場を前にして他社商品を選ぶ」とか、「一度買った人が二度目を買わない」とか、「バイヤーさんに提案しても返事が来ない」とか。
手段は、これからやること。「認知を取る」「広告を出す」「営業を増やす」。
「課題は認知です」と言うとき、たいてい、やることのリストが先にあります。その中でいちばん大きそうなものを課題と呼んでいる。これだと、その手段が効く状態なのかどうかが確かめられていません。
私たちがやっているのは、順番を戻すことです。売れている状態を先に想起して、いま起きていることを言葉にして、そのあいだにある差を見る。その差が課題です。認知はその差を埋める手段の一つであって、差そのものではない。ここを一回分けるだけで、面談の後半がだいぶ変わります。
認知が取れた翌日を、一緒に想像してみる
面談で「認知です」と聞いたとき、聞き返しているのはだいたいこの三つです。どれも「仮に認知が取れたとして」から始めます。
一つ目。知った人が、棚の前で隣の商品と並べたとき、こっちを選ぶ理由を一文で言えますか。
商品名を知っている人が、初めて実物と競合を同時に見る場面です。「すごくいい商品なのは分かるけど、他より高いね」で止まるなら、認知は「知っているけど選ばない人」を増やすことになります。これは式の①、魅力が言葉になっていない状態です。
二つ目。知った人が、知ったその日に買える場所に、狙っている人はいますか。
SNSで話題になったのに、売っているのが狙っている人の通らない棚だった、というのはわりとあります。これは③、売り場の状態です。
三つ目。知った人は、どんな瞬間に、この商品を思い出しますか。
「つわりで食べられないときは、あれ」「夜泣きで困ったら、あれ」みたいに、困りごとと商品名がつながっているかどうか。つながっていないと、一度知られても、必要な瞬間には思い出されません。人は認知してから買うまでに何度も接触がいる、とよく言われますが、思い出されない商品はその回数がいつまでも足りない。これは②、誰の、どの困りごとの商品として見せるか、の状態です。
三つとも「はい」と即答できるなら、認知は課題で正しいです。そのまま投資していいと思います。
どれか一つでも詰まったら、そこがほんとうの課題です。たとえば「知った人が隣と比べて選ぶ理由を、まだ一文で言えていない」。認知と比べると、ずいぶん小さい課題に見えると思います。でも、認知よりだいぶ安く直せて、生み出すインパクトは大きくできます。
認知だけ先に取ると、同じところをぐるぐるする
よくあるのはこういう形です。
他社が1,000円で売っているものを、3,000円で出している。なぜなら、こういう背景があって、こういうロジックがあって、しかもつくり手にこういう思いがある。それを聞くと、たいてい「めちゃくちゃいいじゃん」と思うんです。この商品を買うことが、その思いに賛同する表明になる。そういう商品です。
でも、それが伝わらない状態で認知だけ取ると、売り場では「ただ高い商品」に見えてしまう。めちゃめちゃ多くの人に知ってもらったのに、手に取ってもらえない。で、ずっと同じところをぐるぐるする。
順番としては、伝えることを磨く。認知してもらう。選ばれやすくなるから買われる。買われるから、次の認知に投資できる。この循環に入れるかどうかで、同じ広告費の返り方がまったく変わります。
認知を否定しているわけではないし、認知を取る手段を持っていないわけでもありません。ただ、この循環に入る前に認知を取ると、少し経ってから「いっぱい知られたんですけど、売上につながらなくて」という相談になって戻ってくる。それを何度も見てきました。
認知以外の言葉が出てこないとき
「認知じゃないのは分かりました。でも、他に何て言えばいいか分からないです」。これもよく言われます。
私たちが使っているのは、主語を変えてみる、という置き換えです。
「うちの商品が、知られていない」だと、主語は自分たちです。これを「〇〇で困っているママさんが、うちの商品にたどり着けていない」にする。主語が買う人になります。
同じことを言っているようで、後者にすると次の問いが勝手に出てきます。その人はどこで困っているのか。困ったとき、まず何をするのか。検索するのか、誰かに聞くのか、今あるもので済ませるのか。何と比べているのか。答えていくうちに、認知の手前にある課題が、だんだん言葉になっていきます。
魔法のキャッチコピーは、ないと思っています。誰にでも刺さる言葉もない。ただ、「この人に、この瞬間に」まで絞れれば、刺さる言葉はだいたい商品の中にもう入っています。出しきれていないだけです。
それでも、認知がほんとうに課題な商品はあります
念のため書いておきます。①が一文で言えて、④で隣に負けない理由があって、③に狙っている人がいる。それなのに、単純に出会えていない。そういう商品は、たしかにあります。
その場合、認知は投資です。同じ広告費で返ってくる量がまったく違う状態なので、迷わず増幅したほうがいい。私たちの店やコミュニティを、そういう商品の「最初に出会う場所」として使ってもらうのも、この考え方からです。
認知を否定したいのではなくて、認知が効く状態かどうかを、先に一緒に確かめたいだけなんです。私たちも正解を持っているわけではないので、店で試して、数字で確かめる。掲げて、検証して、また掲げる。その繰り返しです。
家の中でも、だいたい同じです
妻に「最近どうしたの」と聞かれると、私はたいてい「時間がない」と答えます。これもたぶん、同じ種類の言葉です。嘘ではないけれど、起きていることじゃなくて、やることの話をしている。ほんとうは「娘と過ごす時間より仕事の返信を優先している自分に、ちょっと引っかかっている」あたりが課題で、時間はそれを埋める手段の一つでしかない。
言われる前に気づきたいんですが、なかなか難しいです。
課題を聞かれて「認知」と答えるのは、私が「時間がない」と答えるのと同じで、たぶん誰でもそうなります。だから私たちは、その言葉を否定せずに、一つ手前の言葉を一緒に探すところから始めています。
御社の「認知」の一つ手前には、どんな言葉がありますか。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。