はじめに — なぜ「信じている」私が「バブル後」を書くのか
私は、テクノロジーの進歩と米国経済の底力を信じています。スタンフォード大学の経営大学院で最先端のイノベーションに触れ、帰国後は米国株への投資を一つの軸とする証券会社、ブルーモ証券を創業しました。AIという技術革命が本物であることも、長期的に世界の生産性を引き上げていくことも、疑っていません。
そんな人間が、『AIバブル後の投資戦略』というタイトルの本を出す。
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我ながら、矛盾しているように見えると思います。テクノロジーと米国株を信じているなら、「これからも上がる」と背中を押す本を書くほうが自然でしょう。なぜ、わざわざ「バブルの後」という、水を差すような言葉をタイトルに掲げたのか。
理由を一言で言えば、私の中で「AI革命を信じること」と「AIバブルのリスクに備えること」は、まったく矛盾しないからです。
むしろ、その両方を同時に考えることこそが、これからの投資の出発点だと考えています。いま必要なのは、強気相場から降りることではありません。強気相場が永遠に続く、という前提を手放すことです。
なぜ私がそう考えるに至ったのか。少し個人的な話から始めさせてください。
この時代にAIバブル後を語る3つの理由
私の原点 — 「バブルの後」を、二度くぐってきた
私がリスクという言葉に人一倍敏感なのは、頭で学ぶ前に、生活で知ったからです。
最初は、平成バブルの崩壊でした。私がまだ幼い頃のことです。当時の記憶は断片的ですが、身近な家族の資産が大きく目減りし、暮らしの足元が崩れていく感覚は、はっきりと覚えています。子どもながらに、「日本経済に、何かおかしなことが起きている」と感じました。
二度目は、リーマンショックです。2008年、私が大学で学んでいた頃でした。複雑に組み上げられた金融の仕組みが崩れ、その衝撃が世界中に波及していく。金融が社会を動かす力の大きさを実感する一方で、危機の引き金を引いた側が救済される裏で、普通の人々が職や家を失っていく——その不公平さも目の当たりにしました。
「経済の仕組みは、本当に持続可能な形になっているのか」。この問いが、その後の私の進路を決めました。経済学を学び、行政と金融の現場で日本経済の課題に向き合い、留学でイノベーションの最前線に触れ、そして2022年にブルーモ証券を創業しました。
ここで言いたいのは、「悲観せよ」ということではありません。逆です。私は未来に賭けて会社をつくった人間です。ただ、好景気のただ中にいるときこそ、その後に来る局面に備えておきたい。二度のバブル崩壊を肌で知っているからこそ、上昇相場の今、あえて注意を促したいのです。
テクノロジーは本物。それでも、相場はバブルになる
ここが、この本でいちばん伝えたかったことのひとつです。
「技術が本物であること」と、「その株価が妥当であること」は、まったく別の問題です。
正直に言えば、私は現在のAI相場を「いまバブルだ」と断じる立場ではありません。生成AIはすでに私たちの生活や仕事の中に入り込んでいますし、相場を牽引する巨大テック企業の多くは、かつてのドットコム期に乱立した赤字ベンチャーとは違い、確かな収益基盤を持っています。株価の水準は高めではありますが、当時の極端な熱狂とそのまま重ねられるものでもありません。
それでも、私は警戒を解きません。思い出すのは、2000年前後のドットコム・バブルです。
インターネットは、間違いなく世界を変える本物の技術でした。20年余りが経った今、私たちはその恩恵の中で生きています。技術への期待は、何ひとつ間違っていなかった。それでも、将来の需要を当て込んだ過剰な期待と投資が膨らみ、相場はバブルになり、やがて崩壊しました。技術は本物だったのに、その時点で投資した人の多くは報われなかったのです。
ここから得られる教訓は、シンプルで、そして少し残酷です。「正しい技術に賭けること」と「正しいタイミングで報われること」は、同じではない。いちばん危険なのは、「AIが進歩すること」と「AI関連株が上がり続けること」を、同じ意味だと思い込むことです。技術革新は新しい富を生みます。けれど、その恩恵がどの企業に、どの株主に、いつ届くのかは、まったく別の話なのです。
技術の最前線にいる人ほど、熱狂と冷静さの両方を持っている——留学で現場の空気に触れていた頃、私はそう感じていました。その姿勢こそ、いま私たちに必要なものだと思います。
「真の分散投資」が、まだ日本に根づいていない
もう一つ、私が強い危機感を持っていることがあります。日本に「本当の意味での分散投資」が浸透していない、ということです。
新しいNISA制度をきっかけに、投資を始める人は大きく増えました。これは本当に素晴らしいことで、私たちが目指してきた方向そのものです。ただ、その広がり方に気がかりな点があります。「全世界株式(オルカン)一択」「S&P500だけでいい」という、単純化された投資スタイルが、まるで唯一の正解のように語られていることです。
インデックス投資そのものは優れた手段で、否定するつもりは一切ありません。問題は、それ「だけ」になり、リスクを管理するという視点が抜け落ちてしまうことです。
たとえば、「全世界株式と米国株の両方を持っているから分散できている」と考える方は多い。けれど、この2つはどちらも株式という同じ性質の資産で、中身は米国市場に大きく偏っています。だから、米国市場が崩れれば両方とも同時に沈む。分散しているようで、できていないのです。
加えて、ここ数年の成功体験が、私たちのリスク感覚を少し鈍らせたとも感じています。株価が下がる局面でも、急速な円安がその損失を覆い隠し、「ほったらかしでも増える」という感覚が広がりました。けれど、それは特定の条件が重なったからこそで、為替がいつも味方をしてくれるわけではありません。
世界の機関投資家やプライベートバンクが当たり前にやっているのは、もっと地味な作業です。株式だけに頼らず、値動きの性質が異なる資産を組み合わせ、地域や時間の面でも偏りをならしていく。そうやって、どんな相場が来ても致命傷を負わない設計を、あらかじめ持っておく。これが本来の分散投資であり、リスクをコントロールするということです。
この世界標準のリスク管理が、日本の個人にはまだ十分に届いていません。金融リテラシーの底上げは思うように進まず、中立的な立場で助言してくれる仕組みも十分には根づいていない。多くの方が、手探りのまま「株式インデックス一本」で走っています。だからこそ私は、本書で「真の分散投資」とは何かを、できるだけ実践的に書きました。
さいごに — 今がバブルだと言いたいわけではない
最後に、誤解のないようお伝えします。
私は「今がバブルだ」と言っているのではありません。AI相場が明日にも崩れるとも考えていません。本書の中でも、その点は繰り返し丁寧に書いています。AI革命は本物であり、その株価上昇は当面続くだろうとも思っています。
ただ、注意深く見ていると、過去のバブルを思わせる兆候がいくつかあるのも事実です。上昇が一部の巨大企業に極端に集中していること。その熱狂を支える投資や資金の流れに、かつての危機を思い出させる危うさが混じり始めていること。こうしたサインを、私は見過ごすことができません。
大切なのは、悲観でも楽観でもなく、正確な現状認識です。そして、どんな相場が来ても自分の資産を守り、育てていける世界基準の資産運用の作法を、一人ひとりが身につけることです。テクノロジーと米国株の未来を信じるからこそ、その果実を長く受け取り続けるための「備え」を持ってほしい。
『AIバブル後の投資戦略』には、その考え方と、明日から使える具体的な方法を込めました。AIの時代を、不安でも過信でもなく、自分の頭で納得して歩んでいく。そのための一冊として、手に取っていただけたら嬉しいです。
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