「都市部に行かないと面白い仕事ができない、という固定観念を壊したい」
株式会社Recoraの代表取締役・齊藤真紀さんは、静かながらも確固たる意志を持ってそう語ります。
大学卒業後、教育への情熱から学習塾を10年間経営。その後、ECビジネスに大きな可能性を見出し、2019年に山口県下関市で株式会社Recoraを設立。アパレル小物やバッグを中心とした自社ブランド「ラシエム」を全国へ展開しています。
齊藤さんのキャリアの根底には、地方出身者として抱いてきた原体験と、そこから生まれた社会への強い想いがありました。
今回は、齊藤さんのこれまでの歩みを紐解きながら、Recoraの事業に込められた哲学と、彼が目指す未来に迫る2部構成のインタビューをお届けします。
前編では、教育の道からEC会社設立に至った経緯、そして「個人」から「チーム」へと仕事観が大きく変化した創業期について語ってもらいました。
これまでの歩み
ーー本日はありがとうございます。まずは、齊藤社長のこれまでのご経歴と、Recora設立の背景についてお聞かせいただけますか?
大学を卒業してすぐ、22歳の時に個人事業として学習塾を立ち上げ、約10年間運営してきました。もともと教育大学に通っていたこともあり、教育分野への関心が強かったんです。子どもたちの成長を間近で見守り、地域に貢献できている実感に、大きなやりがいを感じていました。
一方で、少子化が進み競争が激化する中で、資本力のない個人がビジネスとして学習塾を成長させ続けることの難しさも痛感していました。
ーーもともと教育、特に学習塾に興味を持たれたのはなぜだったのでしょうか?
私自身が地方出身で、身近にいる大人が学校の先生くらいしかいなかった、という原体験が大きいですね。中学・高校と進路を考える時期に、相談できる相手が限られていました。
もちろん先生方には大変お世話になりましたが、もっと多様な生き方やキャリアの選択肢を知りたかった。だからこそ、単に教科を教えるだけでなく、「生き方や選択肢を広く与えられる大人になりたい」という想いが強くありました。勉強を通じて、子どもたちの様々な悩みに寄り添い、自分の経験を還元できる存在でありたかったんです。
ーーそこからEC事業へ転身されたのは、大きな決断だったかと思います。きっかけは何だったのでしょうか?
20代半ば頃から、塾とは別のビジネスを模索し始めました。高校時代にYahoo!オークションで古着を売買してお小遣い稼ぎをしていた経験が楽しく、ECビジネスを本格的に学び始めたのがきっかけです。
最初は、日用品や雑貨を仕入れて楽天市場で販売したり、古着をヤフオクで売ったりと、商材や販路にこだわらず、自分が理解できる商品から小さく試していきました。
試行錯誤を重ねる中で、「自社で企画・開発した商品をECで販売する」というビジネスモデルに大きな可能性を感じたんです。この方法なら、日本全国、さらには世界に向けても事業をスケールさせられる。そこに大きな魅力を感じ、学習塾を閉じてEC事業に一本化することを決意し、2019年に株式会社Recoraを設立しました。
ーーRecoraの設立前後で、齊藤さんご自身の仕事観に変化はありましたか?
はい、劇的に変わりました。私は会社員経験がないのですが、個人事業でやっていた頃は「まずは自分が勝つ」という意識が非常に強く、一人で結果を出すことに集中していました。商品の企画から梱包・発送、カスタマーサポートまで、文字通りすべてを一人でやっていましたから。
しかし、Recoraを設立して仲間が増えるにつれて、「僕が頑張る」だけでは遠くへは行けないと痛感したんです。意識は自然と「チーム全体で勝つ」ことへと変わっていきました。
自分の役割も、現場のプレイヤーから、チームが機能し、メンバーが成長できる環境をどう設計するかを考える側へとシフトしました。特に、「個人の成長と組織の成長がしっかりリンクする事業になっているか」は、常に自問自答しています。
ーー創業の地に山口県を選ばれたのも、強い想いがあったからだと伺いました。
はい。一番の理由は、「都市部に行かないと面白い仕事ができない」という固定観念を壊し、「地方でもできる」ことを証明したかったからです。
私自身、地方出身者として、仕事のために故郷を離れるのが当たり前という風潮にずっと違和感がありました。地方で暮らし、働きながら、自分らしく挑戦できる。そんな選択肢が当たり前にある社会をつくりたい。その想いが、Recoraの原点であり、事業を大きくしていきたいと願う何よりの動機になっています。
事業への想いと現在の仕事
ーー次に、Recoraが展開されている事業についてお伺いします。EC事業の特徴や強みはどこにあるとお考えですか?
一言で言うなら、「お客様起点の発想と行動が強い会社」であることです。
現代は価値観が多様化し、お客様のニーズも細分化しています。私たちは、その多様な声をデータに基づいて丁寧に読み解き、商品企画からマーケティング、カスタマー対応に至るまで、すべての活動に反映させています。
具体的には、各チームが“お客様の声”を自分たちのKPIに変換して運用する体制を築いています。
- 商品開発:商品レビューを分析し、品質改善や新商品開発に活かす
- マーケティング:広告の反応データから、お客様への訴求やサイトの導線を磨き込む
- カスタマー対応:お問い合わせや返品理由から、サービスの根本的な課題を抽出する
このように、お客様のインサイトを組織全体で共有し、事業を回していく仕組みこそが、Recoraの根幹にある強みです。
ーー「お客様のニーズを起点に自社で企画・販売する」というビジネスモデルには、どのような想いが込められているのでしょうか?
多様な価値観の時代だからこそ、お客様の声をダイレクトに商品づくりへ反映できることに、大きな意味があると考えています。仕入れ販売では難しいですが、自社企画なら実現できる。これが私たちの本質的な提供価値です。
展開しているブランド「ラシエム」では、単にモノを届けるのではなく、お客様の日常が心地よく、豊かになるような体験を目指しています。EC業界には、まだ“安かろう悪かろう”という商品も少なくありません。私たちは、「品質にもデザインにも妥協しない商品を、手の届く価格で」提供することを何よりも大切にしています。この誠実な姿勢を貫くことで、「信頼できる」「期待以上だった」という声が増え、私たちにしかできない価値が形になりつつあると感じています。
ーー代表として、現在はどのような業務に最も注力されていますか?
会社のフェーズによって役割は変わってきましたが、今最も時間を投資しているのは、「3年後・5年後にどんな会社・組織をつくるか」「新しい事業をどう育てるか」といった中長期的な設計です。どこに投資し、どんな人材を配置し、どの領域に挑戦するのか。会社の未来を描くことに向き合っています。
同時に、これまで自分が担ってきた役割を、メンバーに少しずつ任せていくことにも力を入れています。その際、やり方だけを教えるのではなく、「なぜその判断をするのか」「会社としてここは譲れない」といった背景や思想ごと伝えることを重視しています。
ただし、現場の仕事に介入しすぎないよう、適切な距離感を保つことも意識しています。私が先回りすれば早い場面もありますが、それではメンバーの成長機会を奪ってしまう。信じて「任せる」姿勢が、自律的なチームを育む上で不可欠だと考えています。
後編へ続く(愛車を売って資金繰りした創業期とそれを乗り越えた先に辿り着いた「地方創生」という壮大なビジョンをお届けします)