東大院→急成長スタートアップ→EDEYANS へ。1人目のプロダクトデザイナーが「紙と電話」が最強だったカオスな現場で学んだこと
タイから来日し、東大院での物理的なモノづくりを経て、ソフトウェアの自由な表現世界へと飛び込んだサーリットさん。
EDEYANS の1人目のプロダクトデザイナーとして彼が目にしたのは、突発的なトラブルや例外パターンがリアルタイムで激しく交錯する、ホテルのバックヤードという「現場」でした。
「自動化こそ正義」というバイアスを覆したエキストラベッド機能の開発裏話から、AI 時代における人間のデザイナーの価値まで。現場主義を貫く開発チームの中で、彼がどのように難解なオペレーションを紐解き、プロダクトへ落とし込んでいるのか、その現在地をじっくりと語ってもらいました。
目次
toC ではなく「働く人のためのプロダクト」を。異色のキャリアを持つデザイナーが「Jtas」に惹かれた理由
決まったフローがない「例外パターンの現場」。ホテルのバックヤードで本当に機能する画面設計とは
「自動化こそ正義」のバイアスが崩壊した日。現場で見つけた、DX の本質
「AI は現場に行けない」から、私たちは足を運ぶ。課題も未来もオープンな環境で、自ら発信していける仲間へ
toC ではなく「働く人のためのプロダクト」を。異色のキャリアを持つデザイナーが「Jtas」に惹かれた理由
ーー これまでの経歴を教えてください。
大学院で機械工学を学ぶためにタイから来日しました。
機械工学の勉強は楽しかったのですが、物理的なモノづくりは製造マシンの都合などでアイデアが制限されがちです。それよりも、画面一つで無限に表現できるソフトウェアの方が圧倒的に自由度が高いと感じ、独学で UI/UX デザインを学び始めました。
卒業後はスタートアップ2社でプロダクトデザイナーやエンジニア業務を兼任し、実績を積んできました。
ーー そこから、どのようなきっかけで EDEYANS を知ったのでしょうか?
もともと旅行が好きで、次は自分が関心を持てる「旅行やホテル」の業界に関わるソフトウェアを展開している会社で働きたいと考えていました。単に自分が好きだからというだけでなく、ホテルなどの旅行業界で懸命に働いている方々の力になりたい、手伝いたいという想いが強くあったんです。
そこで情報収集のために ChatGPT に「日本の旅行系テック企業」を尋ねたところ、いくつか挙がったリストの中に EDEYANS の名前を見つけたのがきっかけです。
ーー 数ある企業のなかから、EDEYANS への転職を決めた理由は何ですか?
ホテル OS を目指しているホテル客室清掃 DX プラットフォーム(AI SaaS)「Jtas」の存在がユニークだったからです。
世の中にあるホテル・旅行系のプロダクトは、ゲストが使う toC 向けアプリや予約システムが大半を占めています。一方で「Jtas」は、ホテルのスタッフだけでなく、バックヤードを支える清掃会社や現場の清掃スタッフまで巻き込む、働く人たちのためのプロダクトでした。そのニッチかつ本質的なアプローチに面白さを感じたのが大きな理由です。
また、選考の中で話したメンバーの皆さんから温かさを感じたことも決め手になりました。ここなら、自分の意見をオープンに話せる環境だと直感的に思いました。プロダクトの魅力と、このチームの心理的なコミュニケーションのしやすさの双方に惹かれて入社を決めました。
決まったフローがない「例外パターンの現場」。ホテルのバックヤードで本当に機能する画面設計とは
ーー 正社員1人目のプロダクトデザイナーとして参画し、「Jtas」の第一印象はいかがでしたか?
あらゆる業務を網羅した、驚くほど複雑なプロダクトでした。
ただ、これは設計が悪いわけではなく、ホテルの社員や多国籍な清掃スタッフがリアルタイムで激しく動く「現場のオペレーション」自体が、気の遠くなるほど複雑だからです。
決まったフローがなく突発的なイレギュラーが日常茶飯事だからこそ、長年「紙と電話」が使われてきました。紙はどこにでも自由に書き込めるため、システムよりもずっとフレキシブルなんですね。
ーー その複雑で柔軟な現場に、デジタルでどう挑むのでしょうか?
システムが使いにくいと現場はすぐ紙に戻ってしまうため、現場にとっての ”使いやすさ” には細心の注意を払っています。
画面をどうシンプルにするか、その難易度は本当に高いですが、これまでの UI/UX を読み解くうちに、一見分かりにくい画面配置も、実は現場のあらゆる例外パターンを想定して緻密に考え抜かれた結果なのだと気づきました。限界まで無駄を削ぎ落とした「優れたデザイン」の土台がそこにあったんです。
だからこそ強いリスペクトがありますし、システム特有の自動化や情報共有のメリットと、紙のような柔軟性を両立させながら、そのバトンを受け継いでさらに改善していくのが今の私の役割だと思っています。
「自動化こそ正義」のバイアスが崩壊した日。現場で見つけた、DX の本質
ーー 入社してから特に印象に残っているという「エキストラベッド機能」の改善プロジェクトについて教えてください。これはどういった機能なのでしょうか?
2人部屋にベッドをもう1つ追加して3人部屋にするといった、日常的に発生するエキストラベッド作成業務を管理する機能です。
最初はアプリ上のチェックボックスを使いやすくするだけの、単純な UI 改善だと軽く考えていました。しかし深いオペレーションを学ぶうちに、現場の使用状況によって実際の部屋のベッド数と「Jtas」で管理するベッド数がズレてしまうという、物理的な現場を DX する際の大きな壁にぶつかったんです。
ーー 人間が介在する以上、データの入力漏れや現場との同期ズレは避けられない変数ですよね。
その通りです。ただデータを直すだけならいいですが、ベッドが一つ増えれば清掃費用として請求金額が変わります。清掃会社の売上に直結するため、実際のベッド数、「Jtas」のデータ、請求金額の3つすべてが連動しているんですね。
もし下手に全体を自動化してしまうと、ヒューマンエラーでデータがズレれば作業指示にも誤りが生まれ、その誤った指示のもと作業をするとゲストクレームに繋がる可能性もあります。なおかつ請求金額もズレるとなると、ホテルと清掃会社双方の現場が大混乱してしまいます。
ーー そのカオスなエラーパターンを、どうデザインで解決したのですか?
例外が多すぎるため、結論として「自動化することをやめました」。
あえて昨日のベッド状態、当日のベッド作業、集計の3つを構造的に完全に切り離し、それぞれを手動で別々に編集できるように画面を設計し直したんです。ユーザー自身の手動コントロールに委ねた方が、結果的に一番分かりやすく現場に寄り添えるデザインになります。本当にいい意味で難しく、挑戦的なプロジェクトでした。
ーー ホテル業界が未経験だったにもかかわらず、なぜそこまで深く現場を理解できたのですか?
現場を熟知する社内のメンバーに徹底的に聞くこと、そして自分自身で実際の清掃現場へ足を運ぶようにしているからです。
世の中の開発者の多くはエアコンの効いた部屋にこもって作業をしがちだと思いますが、それでは本当の意味でユーザーを理解することはできません。EDEYANS には、全員が当たり前のように現場へ赴く環境があります。
「その方が絶対にいいプロダクトを作れる」と感じましたし、私が転職を決めた理由の一つでもあります。
ーー 入社して数ヶ月が経ちましたが、実際に現場を見て感じているリアルな課題はありますか?
ホテルのバックヤード業務は想像以上に奥が深く、まだまだ理解しきれていない難解な領域がたくさんあります。まだ入社して数ヶ月ということもあり、複雑に絡み合ったオペレーションのどこを・どういう方向で改善していくべきか、自分でもまだ100%は把握しきれていないというのが正直な現在地です。
ただ、この見えていない余白こそが、これからもっと現場をキャッチアップして仕組みを作っていける、スタートアップならではの面白さだと感じています。
「AI は現場に行けない」から、私たちは足を運ぶ。課題も未来もオープンな環境で、自ら発信していける仲間へ
ーー 今後の挑戦と、この AI 時代にサーリットさんが考える「人間のデザイナーの価値」について教えてください。
まずは複雑なホテルの現場を理解し、ウェブやモバイルのデザイン表現をさらに突き詰めていきたいです。
これからはデザインの領域でも AI の活用が当たり前になるからこそ、最新テクノロジーは誰よりも上手く使いこなしたい。ただ、AI が作る画面はパッと見こそ綺麗ですが、客室清掃の複雑な裏側を真に理解し、現場が迷わない UI/UX に落とし込むのは人間にしかできません。
なぜなら、AI は現場に足を運ぶことができないからです。汗をかきながら働くスタッフの動きや、突発的なカオスを肌で感じられないツールに、フレキシブルな現場を支える設計は不可能です。だからこそ、現場に足を運び続ける人間としての価値を磨き、プロダクトの価値や使いやすさを高めていきたいですね。
ーー 具体的には、どのような人が EDEYANS で活躍できると思いますか?
「自分がやりたいこと」をきちんと持って、それをオープンに発信していける人、そういうコミュニケーションが好きな人ですね。
EDEYANS は現場の泥臭い課題から目指す未来まで、情報の透明性が非常に高い環境です。そのため、与えられた仕様をただ形にするだけでなく、「もっと現場に寄り添うにはどうすべきか」を自ら主体的に考え、意見を率直にぶつけ合える人が向いています。
多くのメンバーが明確な目標を持って走っているので、指示を待つのではなく、一緒に仕組みそのものから作っていける主体性のある人にとっては、とても挑戦しがいのある面白い環境だと思います。
取材企画・協力 / 世界線株式会社