まえはら学童保育所の施設長・宮地尚子さん。わらしこの会が小金井市から業務委託を受ける前から、この学童に勤務していました。市の非常勤職員からわらしこの会の正職員になった理由。行政と民間では運営にどのような違いがあるのか?話を聞いてみました。
みんなの意見が反映されています
――もともと学童保育の経験があったのですね?
宮地 7年間、この学童に携わっていました。指導員としてのキャリアは20年ほど前からですが、非常勤だったためブランクもあります。わらしこの会が運営を受託するにあたり、人を介して誘っていただきました。自分では学童保育が天職だと思っていますし、安定してはたらきたいと考えていたので、正職員としての採用はありがたかったですね。
――市が運営していた頃と比べて、違いは感じますか?
宮地 独自性を出しやすく、法人としての思いを詰め込んだ保育を実践しやすいと感じます。市の直営では良くないというわけではありません。しかし、たとえば「おやつは手づくりを出したい」といった方針を決める場合など、正規職員、非常勤職員、臨時職員がいても、正規職員がほとんどのことを決めてしまう。それは小金井市に限らず、どこも同じだろうと思いますが、わらしこの会では雇用形態を問わず、みんなで考えて「こうしたいよね」と意見を出して、希望を取り入れるのが当たり前になっています。
――そのぶん、やることが増えて、お仕事が大変になってしまいそうですけど。
宮地 うちでは保護者の方へのお便りを年間50通ほど、およそ週1回のペースで出していて、 行政の方からも「残業や勤怠は大丈夫ですか?」と心配されたことがあります。しかし、お便りを書く人、子どもの対応する人、おやつをつくる人と、役割分担できますし、それほど大変ではありません。学童で子どもが過ごす様子を、保護者の方にきちんと伝えることを、すごく大切に考えていますので、職員同士の打ち合わせでも、連絡を密に、言葉にして、伝え合って情報を共有するようにしています。
――入所児童数が年々増えているということですが。
宮地 小金井市の学童は全入制になっていて、希望があれば、基本的に全員を受け入れています。なかには、小1の壁などが不安で、とりあえず申し込みをしたという保護者の方もいらっしゃるとは思います。それでも、私たちが考えている学童保育は、託児所としての機能を果たすことだけではありません。放課後になり、登所した子どもにランドセルをロッカーにしまってもらい、出欠をとって、お迎えがくるまで安全に過ごしてもらう。それは最低限のことで、学童で過ごすなかで、どんなふうに成長してもらえるか。考えて取り組むことが大事だと思っていて、工夫しています。
――預かるだけでなく、そのなかで何をするか。結果を導くためのプロセスを重視しているわけですね。
宮地 たとえば年末に行なうお楽しみ会は、三年生にとっては学童生活の締めくくりとなる行事です。内容を企画する子。司会をする子。飾りつけをする子。みんなが、いろんな役割を任せられ、人と関わり、つながり、いろんな思いを抱きながら、向き合い、取り組み、普段の生活のなかで準備を進めます。だからこそ、行事を組むことを重視していて、預かる3年間のなかで、自覚の芽生え、成長をお手伝いをしていきたいと考えています。
――途中で退所する子はいないのでしょうか?
宮地 昨年度は108名でスタートして、11月末に初めて1人減りました。年度が新しくなっても退所することなく、1年生から3年生まで、ずっと通い続ける子どもがほとんどですね。
午前中は行事の準備など
――毎年、けん玉の行事が盛り上がっているみたいですが、そこにも何か意図がある?
宮地 9月にけん玉はじめよう会、10月にけん玉大会、11月にけん玉修了会と、3ヵ月の間に毎月行事を開催しています。好きな子は家でごはんを食べる間も惜しんでやっているみたいですね。そういう子はおのずと上達しますが、なかには苦手な子もいて、体幹が弱かったりすると大皿に玉を乗せるのもひと苦労です。そこでくじけてしまいそうになるところを、どうフォローするか。苦手なことにも挑戦して、乗り越えていけるように、どうやってやる気を出してもらえるか。そこが指導員の工夫のしどころですが、毎日のつながりがあるから、成長を助けることができます。それがこの学童の良さ。はたらいていて、継続性を活かせる強みを、みんな感じていると思います。
――今、一緒にお仕事されている職員の方は、どんな人たちなのでしょう。
宮地 市の学童保育指導員として定年を迎えた男性。非常勤ではたらいていた60代の女性。40代、30代、20代の女性。20代男性。老若男女を問わず活躍中です。からだを動かす遊びは若い男性職員、困り事の相談やけんかの仲裁はベテラン職員といったように、子どもたちもうまくつかい分けていますね。
――職員の役割分担はどうなっていますか?
宮地 1階にうみ、2階にそらと、ふたつの育成室で子どもを預かっていて、それぞれのフロアにリーダー、サブリーダー、おやつ担当、フリーな役割と分けて配置。お楽しみ会などの行事のたびにも学年ごとの担当を決めています。しかし、自由遊びの時間は関係なく、おやつの準備をする職員を除いて、107対1という意識で子どもと向き合っています。
――みなさん、どのような勤務形態になっているのでしょう。
宮地 10時から18時、10時30分から18時30分、11時から19時と平日は3パターンのシフト制。土曜日や夏休みのスタート時間は8時からになります。基本的に子どもがやってくるのは放課後なので、保護者の方に「先生たちは午前中からきてるの?」と聞かれることもありますが、実際のところ、行事の仕込みなど、午前中が大変。それから子どもがやってくるまでの間にも、おやつをつくったり、打ち合わせをして、その日の流れを確認したり、やることはたくさんあります。
――どんな人が活躍できると思いますか?
宮地 子どもが好きで、子どものためにできることを探せる人。子どもと一緒にいろんなことを楽しめるように、自分を高めたい、向上させたい。そう思っている人ですね。言われたことだけやっていれば良いだろう。おやつのあとの洗い物、お掃除をやっておけば、それで良いかな。自分はまだ入ったばかりだから、出席をとったりするくらいで充分だろう。そんな姿勢だと、お仕事していても物足りなく、つまらないはたらき方になってしまうでしょう。子どもを見て「いつもとちょっと違うな」と気付いて、どうフォローしようか。常にアンテナを張って、そんなふうに考えられる人なら、もし失敗しても、次につなげられますし、先輩もみんな応援してくれます。
――あると役立つスキルは?
宮地 ピアノが弾けたり、音楽が得意ならありがたいですね。みんなで心をひとつにして、気持ちを込めてうたを歌うことは、すばらしい取り組みだと思っていて、いろんな行事で歌をうたうようにしています。とはいえ、ピアノに限らず、「こんなことができるんだけど、何か活かすことができないかな?」と言ってもらえるなら、何でも良いですし、苦手なことにも前向きに挑戦してもらえるなら、どなたも歓迎します。たとえば、けん玉をがんばった子にあげるマスコットを職員みんなで手づくりしているのですが、思いのほか、女性よりも男性のほうが縫い目が細かくてプロっぽかったりします。まずはやってみよう。その気持ちが大切だと思うのです。
おやつの食材に季節のものを
――手づくりのおやつを通じた食育に力を入れている理由は?
宮地 もう何年も前の話ですが、子どもから自分で炊飯器のスイッチを入れて、夕食に納豆ごはんを食べているという話を聞いたことがあり、私自身はそれからおやつでカレーやお好み焼きなども出すようになりました。自分の経験からも子育て中の食事の準備は大変だと知っていますので、学童で食育ができればと思ったのです。食材はできるだけ季節のものをつかっています。八百屋さんから買ってきた新鮮なキャベツをざく切りにして、ちょっと良いお塩をふって、ボウルでどん、と出したり。それだけの工夫と手間でも、普段はキャベツを食べない子がむしゃむしゃ食べて、家で話をして「どんなレシピなんですか?」と聞かれたりします。みんなで食べるからおいしい。一生懸命つくってくれるからおいしい。そういうこともあるでしょう。1年生が「これ嫌いだから、食べない」と返そうとすると、2年生、3年生が「つくってくれた人はどう思う?」と言ってくれて、そのおかげで「苦手だけど、少し食べてみるから、量を減らしてください」となったり。子どもの間で学びや成長につながるやりとりがあるのもうれしいですね。
――同じ保育のお仕事でも、保育園ではたらくのとはひと味違った楽しさ、面白さ、やりがいが感じられそうですね。
宮地 毎年4月は、入学してきた1年生を、2年生、3年生が手ぐすね引いて待っています。面倒をみたい。お世話したくてたまらない。「げた箱はここだよ」「ランドセルをロッカーにしまって」「連絡帳をこのかごに入れるんだよ」「帰るときはお便りポケットから連絡帳をとるんだよ」と教えてあげています。日々の生活のなかでも「先生、彼が家のカギを失くしちゃったみたい。困ってるから、話を聞いてあげて」と言ってきてくれたり、3年生が2年生に1年生の面倒をみてあげるように促してくれたりするようになるのです。入学したばかりの1年生は、まだ保育園の延長みたいな感じですが、学童で過ごすなかで、いろんな経験を積んで、3年生にもなると、学童をけん引する立場だという自覚が芽生えて、ずいぶん頼もしくなります。学童ならではの、子どもの成長を感じる喜びがありますね。
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