どれだけ偉大な経営者にも、そこに至るまでのバックボーンがあるものです。今回お話を伺ったのは、株式会社テックビルケアの代表である茶橋様です。
中学時代から家を離れ、共同生活を送る中で様々な価値観や自立心が養われた茶橋様は、大学卒業後もすぐに家業を継ぐことなく、自らの目で社会を見、自身に必要な知識や経験を積み上げ、現在の体制を築き上げました。今回は、学生時代から経営者になるまでの道程と、経営において重視しているマインドについてお話しいただきました。
茶橋昭夫 / 代表取締役
関西大学卒業後、新卒では家業であるテックビルケアではなく、IT企業に入社。プログラミングスキルをつけながらツール開発に従事。その後、二社にて業務用エアコンメンテナンスや消防設備点検に従事した後、2008年にテックビルケアに入社。2019年に代表取締役に就任。
全寮制の学校に通っていた中学生時代からの自己形成
ーーそれでは、簡単に学生時代の頃からご紹介ください。
実は、中学生の頃から全寮制の学校に通っていました。小学校6年生の頃というのは、なんとなく「どんな学校に行きたいか」と方向性は見えていても、自分の意思はまだ固まっていない時期だと感じます。
私の頃も同様で、親の「こういう人間に育ってほしい」という希望から、中学1年生から岐阜県にある全寮制の学校に行くことになりました。私立の中学校なので受験はありますが、難関校ではなく、少し勉強すれば入れる学校です。
ーー全寮制の生活はいかがでしたか?
中学1年生から、基本的に自分で全てをやらなければならない環境に身を置いていました。毎朝決まった時間に起きて、布団を畳んで、食堂で食事をとり、掃除や洗濯も自分で行う生活です。今、私の子どもにそれをさせられるかどうかを考えると、多分無理なんじゃないですかね(笑)。
ーーそのような生活の中で、どのような経験や価値観が培われたのでしょうか?
特に自立心が養われましたね。中高一貫の全寮制の生活は、私の価値観や性格に大きな影響を与えました。中学3年生の頃にはニュージーランドへホームステイをし、その後、高校生の時に一年間ニュージーランドへ留学しました。異文化に触れることで、視野が広がり、自己肯定感も高まりました。
ーー学生時代に学ばれたことで、今も経営に活きている経験や知識はありますか?
その後の話になりますが、大学時代には様々なビジネス書や自己啓発本を読みました。有名な経営者である松下幸之助さんや稲森和夫さんの本も読む中で、純粋に、彼らのような素晴らしい人間性・ビジネスマインドを持った経営者が率いる会社に憧れるようになりました。その経験や視点が、家業を継ぐ際に、今の社風を作り上げる原動力になったと思います。
例えば、今の環境整備や3S活動も、中学高校時代の共同生活での経験や価値観が基になっていて、整理整頓や決められたことをしっかりと守るという習慣、ルール作りに繋がっています。
初めての社会人経験と家業への道
ーー社会人になってからのお話もお聞かせください。ご実家を継がれることは元から意識されていたのでしょうか。
大学生の頃から意識はしていました。アルバイトで家業を手伝っていたので、どんな仕事をしているのかは大体把握していました。ただ、すぐに家業を継ぐのではなく、社会人として様々な世界を見てみたいと思っていたので、新卒の就職先は私が選択しました。
ーーそれでは、大学卒業後のキャリアについてお聞かせください。
大学ではITに興味を持つようになり、卒業後は中堅のソフトウェア会社に就職しました。大学時代からパソコンにも興味があり、自分で組み立てたり、サイドビジネスをしていたので、その延長でIT系の会社に入りたいと思ったんです。また、父親の会社に入る前に他の社会を経験することで、自分の力でやりたいことをやるための準備をしたかった気持ちもあります。
入社してからは、毎日パソコンに向かってプログラムを組み、大手メーカーが営業で使うツールを開発していました。2年ほど在籍した後、次に働き始めたのがダイキン工業です。
ーーダイキン工業さんへのご入社理由も伺いたいです。
ダイキンへはエアコンのメンテナンスを学びたくて入社しました。それを自分の会社の事業の柱にしようと思っていたんです。ダイキンでの経験は、自社でエアコンのメンテナンス事業を始めるための重要なステップになっています。その後、学んだことを糧に、2004年に自分の会社に戻り、それまでは清掃事業がメインだった当社で、防災設備もメイン事業の一つとして展開しました。清掃を行っている建物で防災設備の管理もできれば、より多くのビジネスチャンスが生まれるという考えでした。
「数字を追わない」経営に舵取りした、経営者としての信念と実践
ーーご出版された本にも書かれていましたが、「売上重視」に価値を見い出せず、「数字を追わない」経営に舵取りをされた経緯についてお聞かせください。
当時、ビジネスとは、数字を出さないと社会に役立っていないことになると捉えていました。しかし、期毎に「何億円の売り上げを目標に頑張るぞ」と言われても、私も、周りの社員もあまりピンと来ていなかったのです。何を頑張るのか、そして、達成した後のメリットが見えなかったので、この働きに意味があるのか疑問に感じていました。
ーー数字だけにこだわることに疑問を持たれていたんですね。
まだ社長を勤めていた父からも「目指すものがないと目標は達成できない」と言われていましたが、そこまで数字にこだわる必要があるのか疑問に感じました。特に、弊社は物を売っているわけではなく、個人の努力だけで数字を上げるのは難しい業種です。営業マンがいるわけでもないので、誰が何をしたら数字に近づくかがクリアになりにくいのです。
それで、私の代では数字の目標を一旦無しにして、社風やルールの整備に力を注ぎました。結果的に数字は変わらず成長していきましたし、会社の雰囲気も良くなったと思います。数字を追わなくても、結果はついてくるということを実感しました。
ーー「目標がないと社員は頑張れない」という話も聞きますが、貴社では実際に目標を排除したタイミングでやる気がなくなる社員はいなかったのですか?
直接そういう声を聞いたことはありませんね。もちろん、何も目標がないのは良くないので、今は営業利益目標を設定しています。売上至上主義になるのは避けたいので、利益目標を重視しています。そして、利益が目標を超えたら、その3分の1を決算賞与として社員に還元するようにし、利益が社員のモチベーションとリンクするようにしています。売上目標は一切設定していません。サービス業で安売りをしても自社の価値が下がるだけなので、利益を重視しています。
ーー数字への向き合い方の他に、重要視されている経営観や大切にしていることはありますか?
何事も前向きに捉えることと、チャレンジ精神を持つことです。特に前向きな姿勢は重要だと考えています。こう感じるようになったのは、元々の性格もありますが、中学生時代の経験が大きいですね。小学生の頃は成績が悪く、塾の先生にもバカにされるくらいでした。しかし、中学1年生の中間テストで初めて理科のテストで学年1位を取ったことで、自己肯定感が一気に上がったんです。この経験が自信となり、それ以来前向きな姿勢で取り組むことができました。小さくとも成功体験を積み重ねることで、自己肯定感が高まり、前向きな姿勢が生まれると考えています。だからこそ、社員にも成功体験を積んでほしいですし、そういう環境を作りたいと思っています。
これからも「人」を大切にする経営を
ーー「人」を大切にする経営についてお聞かせください。
会社は、人生の中で大きな一部を占める場所なので、単に給料をもらうための場としてではなく、社員が「テックビルケアに入れてよかった」「働けたことで成長できた」と感じられるような場所にしたいと思っています。そのためには、社員が生き生きと働ける環境を築くことが重要です。自分自身もビジネスを楽しんでいますし、社員にも楽しんで働いてほしいと思っています。そのために、適切な環境を整備することが、私の使命だと考えています。
ーー新入社員に対しても、特別な思いを持たれているのでしょうか?
そうですね。新卒の方を採用する際には「基本的には定年まで働き続けてもらう」つもりで採用し、働き続けたいと思える環境を作っています。そして、新卒・中途に限らず、新入社員にとって「将来どんな未来が待っているのか」が描ける会社にしなければならない。ワクワクできる未来が描ける会社にすることが重要だと考えています。
ーー茶橋様が人間関係を大事にしている理由は、経営者としての信念か、学生時代の経験か、どちらにあるのでしょうか?
両方ありますね。経営者としては、社員が生き生きと働ける環境を整備することが重要です。また、中学時代の全寮制の生活で、他人と協力し合いながら生活することの大切さを学びました。この経験が、現在の経営スタイルに大きな影響を与えています。
ーー最後に、これからのビジョンをお聞かせください。
今後も「人ありき」の経営を続けていきたいと思います。社員一人ひとりが輝ける環境を整備し、社員が自分の力を最大限に発揮できるようにサポートしていきます。また、新しいことに挑戦し続けることで、会社全体の成長を促進し、社員と共に未来を切り拓いていきたいと思います。
終わりに
茶橋様のお話を通じて、経営者としての信念やビジョンが明確に伝わってきました。
全寮制の学校で培われた自立心や価値観、そして、社会人としての経験を活かして築き上げた現在の体制は、多くの企業にとっても学ぶべき点が多いでしょう。茶橋様が目指す「人ありき」の経営は、社員一人ひとりの成長と幸福を追求するものであり、その結果として会社全体の成長にも繋がっているのです。
今後の株式会社テックビルケアの更なる発展を期待しています。