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「自然や手作りを未来に残したい」
「天然魚や自然農法を残したい」
そんな言葉を聞くと、多くの人は“綺麗事”だと思うかもしれません。
実際、私自身も以前、尊敬する経営者からこう言われたことがありました。
「杉ちゃんがいうことは綺麗だが、具体性に欠ける。本当にそれをやるべき理由が見えてこず刺さらない。」
その言葉をきっかけに、私はこの問いと真正面から向き合うようになりました。
なぜ私は、the kindestを通して“自然”や“手仕事”を支えようとしているのか?
正直時間がかかりましたが、整理できました。
結論から言えば、それは「善いことをしたいから」ではありません。
それが、日本の“文化的BS”をより良い形で守り、未来にPL(価値創出)を生み出すために必要な戦略だからです。
今日はそんな考えに至った背景も触れながら、皆さんに共有させてください。
the kindestが仕入れをさせてもらっている長崎五島列島の漁港でパシャリ
五島〆という神経締め技術を用いて、配送の途中でビクビク動いて体内のエネルギーを消費し、旨味であるイノシン酸を残す技術を用いているそうです。
1. SDGsの本質は「資源獲得戦争」
私たちはつい、SDGsを
「地球に優しく」
「未来の子どもたちのために」
といった道徳的なスローガンとして捉えがちです。
しかし実態は違います。
SDGsで掲げる様々なアジェンダは、実は極めて現実的な「国家の生存戦略」を考え昇華されたものなのです。
ヨーロッパ諸国(当然国による)がSDGsに本気なのは、資源のない国がどう生き残るかを考えた結果。
- 自国で石油もレアメタルも採れない。
- 食料自給率も低い。
- 世界から資源を買うには強い通貨と交渉力が必要。
そこで彼らが選んだのが、「循環、サーキュラーエコノミー」という新しいルール。
資源が限られているなら、“使い切らず回す”ことで経済の競争力を維持しようと考えた。
つまりSDGsとは「やさしさ」ではなく、戦略的な資源管理の体系だったのです。
美しい理想論ではなく、極めて現実的な「資源防衛戦略」の仕組みだと整理してみると、今行われている議論も少し入ってきやすいのではないでしょうか。
石油がとまると何が起こるのか? ~歴史から学ぶ、日本のエネルギー供給のリスク?
2. 日本は"資源大国"なのに、その価値を捨てようとしている?
では、日本はどうでしょうか?
私たちは「資源がない国」と思い込みがちです。
確かに、石油は取れない、自給率も低い(とされている、ここはあえて言及せずいきます。)
しかし実際には、
- 世界有数の漁場(黒潮・親潮)
- 豊富な森林と水資源(山林率約67%)
- 多様な土壌と四季による農産物
これらはすべて、日本が誇るべき“再生可能な天然資源”なのではないでしょうか。
そして、それを活かす“職人”という人的資本、生活の営みと共に紡がれてきた文化まで含めれば、
「自然×人間の技術」が一体化した“文化的BS(バランスシート)”こそが、日本の競争優位性の源泉
だと整理できるのではないか。
そんな風に私は考えています。
自然、技術、文化、それら全てが先人が積み重ねてきてくれたBSと言えるが、私たちは今、その『BSをPL(損益)』に換金しすぎて、 未来の原資を削り取ってしまっているのではないでしょうか?
便利さ、安さ、効率を追い求めた結果、 自ら資源を手放している状況だとすると、その皺寄せは全てさらに未来の世代に渡っていく。
この現実と向き合うことこそが、私たちの世代の大きな挑戦なのではないでしょうか。
愛媛の端っこ、宇和島での1枚
イカダの近くで仕掛けた罠にはなんとクエがかかっていました。
その場で捌いてくれ、お刺身に!美味しすぎた結果、写真は1枚も残っていません、残念。涙
3. 効率化は“輸入依存”を招く逆説的構造
養殖魚や工業農業による効率化。
多くの人の腹を満たすために、より美味しく感じるものを安定供給するために。
私はこれらの技術を産み出してきた先人たちに感謝こそあれど批判的なスタンスはありません。
ただ一方、手放しに全てを喜んではいけないのではないかと考える理由に、いくつかの背景があります。
その一つが実質的輸入依存があります。
- 飼料や種苗は外国製
- 化学肥料・農薬は海外から
- エネルギー・機械も外部依存
実は効率化を支えている多くは輸入であり、“自国内で生産しているように見えて、実は国際市場の一部でしかない”。ということ。
世界情勢が不安定になれば、
- 輸出規制
- 為替変動
- 国際価格の高騰
これらによって「安定していた食」は一気に崩れ去ります。
さらに、どこでも誰でも資本さえあれば農作物も、魚も美味しく安定に供給できる未来は、簡単に自然を相手にする小資本生産者を効率という武器で駆逐してしまう可能性も孕んでいます。
目の前の効率をいかに最大化するか、という問いも、非常に重要な視点であることと同時に、私たちが古来より守り、積み重ねてきた自然、暮らしと手仕事、街の文化。
こういった世界から見ても明らかに際立つ日本の価値を生む源泉、つまり“文化的BS”をいかに残していけるか?という視点を持って、効率と付き合っていく必要があるのではないかと思います。
自然農法でたくさんの農作物を育てる山梨県のファーマンさんにて試食。
長男のあおくんは原料選定にも参加して、ちゃんと味見しています。
食べすぎてこの後のランチでちゃんと食べれずパパに怒られていました。
4. 「その土地にしかないもの」が、世界で最も価値を持つ時代へ
テクノロジーが進化し、AIがレコメンドし、均質なモノが安く手に入る時代。
だからこそ人は、“その場所にしかないもの”に価値を感じるようになる。
と、私は考えています。
- 京都に行く理由は“お茶”ではなく“京都のお茶文化”。
- ナポリでピザを食べたいのは、“味”ではなく“背景”を体験したいから。
これは観光だけの話ではありません。
未来は「背景まで含めた価値」が、消費の主役になる。
つまり、単なる味覚やスペックではなく──
- どこで、誰が、どんな思想でつくったか?
- どんな歴史や営みの上に成り立っているか?
それらを掘り下げるだけの厚みがあるか。
そしてその場所にしかない文化と繋がり関与することが「価値の差」として、消費者に選ばれる時代になるのではないかと考えています。
北海道余市町で行われるワイン生産者が集まるイベントにて。
日本ワインの著名生産者ドメーヌタカヒコから聞く、土地、気候の話は心に響きます。
少なくとも数年と経たず日本最北端のエリアですら温暖化の影響を大きく受ける見込みとのこと。
5. 世界の教訓──バリ島の“失敗”と、トレド・フィレンツェの“成功”
【バリ島】
観光開発が進みすぎた結果、伝統的な文化・舞踊・建築が“商品”に変わり、日常から切り離された。
「なんかよくあるリゾート」になってしまったと、多くの人が語る。
本当にそれは、バリを支えてきた先人たちが望んでいた姿だったのでしょうか?そしてこれからのバリの人たちは、自分たちの文化的ルーツをどこに求め、どうアイデンティティを育んでいくのでしょうか?
私自身、振り返ってみると、
「日本人の中にはどこか、自然と共生し、手間や不完全さを受け入れて生きていた感覚」があるように思います。
またそれをアイデンティティと呼んでいたのでたのかもしれないと思います。
それは、どこかの制度が教えてくれたものではなく、「暮らしの中」で自然と根付いていた感覚。
この感覚が切り離され、経済合理性の中で“商品化”されていくとき、人は何を失ってしまうのか。
それをバリの変化が教えてくれているように思います。
【スペイン・トレド/イタリア・フィレンツェ】
逆に、文化財・景観・職人文化を厳格に守り抜いた結果、
「そこに行く理由」が世界中の人に認識され、経済・観光両面で持続的な価値を持ち続けている。
これは誰がそうさせたんでしょうか。
ここに大きなヒントがあるように思います。
私たちが育った日本には、フィレンツェとはまた違った、素晴らしい自然、手仕事が紡いだ文化があり、まだ煌めいています。
ただ、20年後本当にそれらはより良い形で残っていくのでしょうか。
私は今、その分岐点に立っているような気がしてならないのです。
国に任せてもいいのか。私たちでできることを考え行動すべきなのでは。
6.the kindestがなぜ「天然」や「手仕事」にこだわるのか?
the kindest は、健康に良いからオーガニックを選んでいるわけでは当然ない。
何度もいうが、そんなエビデンスはない!
- 一本釣りの魚を使うのは、漁師町とその海を未来に残したいから。
- 自然農法の野菜を選ぶのは、土壌の健康や土地ごとの農業文化を守りたいから。
- 手仕事を支えるのは、“その場所らしさ”を次世代に残したいから。
つまり、“天然”や“手仕事”は 「未来の競争力」を残すことへの投資だと信じているから、それを続ける努力をしています。
そして、それらを伝え、理解し、応援してくれる人を増やすことこそが売り上げを上げること以上に、大事なことだと思っています。
また、これらを単価の低い食品業界でチャレンジすることの意味。
ブランド作りを通してビジネスとして成立させることの意味。
IT時代に産まれた会社として、これらに答えを探し続けることは、未来の日本の製造業にとっても意味あることだと信じて貫いていきたいと思っています。
私たちの取り組みが一人でも多くの気づきを作り、ちょっとでも美しい天然や、手仕事が残っていく未来に貢献できたとしたら、人の豊かな未来にも、日本という国の未来の競争力にも貢献できたいい人生だったと言える気がしています。
どうですか、このこげ。
開けた瞬間に思いました。『苦いだろうなー』
でもこんな手作りが私は大好きなんです。
どこで買ったか忘れましたがこの景色も残したい手仕事の一つ。
この日からブロッコリーが大好きになったあおくん
どれがとっていいブロッコリーか見分けられるようになったみたいです、自信満々でした。
7.これからのthe kindestの挑戦
今後、the kindestがより力を入れていくのは、単に「いい商品を届ける」ことではありません。
それ以上に大事にしたいのが──
“自然や手仕事に触れる体験”そのものを、顧客と共有できたか?です。
それは、未来に向けた「消費」の価値が変わりつつあるからです。
いま、ラグジュアリーの定義が変わろうとしているとある友人から教えてもらいました。
これまでのラグジュアリーは「静的稀少性」が作ってきた。
つまり、限られた素材・生産量・デザインなど、所有できる“モノ”そのものに価値が宿るという考え方。
しかし、テクノロジーと情報が行き渡り、どこでも似たようなものが手に入る時代になった今、
・人々が本当に求めているのは“関わり合うこと”ではないか?
という視点が強くなってきています。
彼女は、「ニューラグジュアリー」という言葉で、この変化をこう定義しました。
動的稀少性── それは、“関与”が生み出す価値。
目の前のモノだけでなく、作り手との対話、生産地との関係性、時間をかけた参加そのものが、唯一無二の価値になる。
これからは、「所有」ではなく「関与」がラグジュアリーになる時代、そしてそれらが多くの消費生活のベースになっていく未来が近づいていると私も感じます。
食品領域における消費も徐々に変化しており、ニューラグジュアリーから学び設計すべき要素は多分にあるように思います。
人間国宝に認定された加藤卓男さんの釜
4日間焚き続ける火を見ながら食べる食事は最高でした。
8. the kindest が提供したい“関与型”体験
the kindestは、こうした時代の価値観の変化を踏まえた上で、
- 自然に触れる
- ものづくりに触れる
- 漁師や農家に会いに行く
- 子どもと一緒に、食や土地と向き合う時間を持つ
といった体験機会を、今後もっと増やしていきます。
それは、「楽しいイベント」ではなく、未来を守るエンジンになり得ると信じているからです。
関与の深さが、解像度の高い“愛着”を生む
不思議なもので、一度でも現地の海を見て、漁師の話を聞き、魚の美しさを体感すると、
ニュースで災害を見たときに「○○の漁港は大丈夫だろうか」と、心が動くようになります。
これは単なる「知識」ではありません。
関わったからこそ生まれる、”温度のある“解像度”です。
そして、この「誰かや何かを想う心」こそが、今の社会が最も必要としている資産なのかもしれません。
私の息子と娘は仕事がらたくさんの地域に訪れる機会があります。
その場で小さいながらにたくさんの自然、人と出会い、五感を通して様々な体験をさせてきました。
今でも夏が近づくと「とうもろこし、今年も食べようね!」といってくれます。
「文化的BS」を”体を通した体験”で蓄積していく
企業の経営でいえば、PL(損益)を生む前にBS(資産)を積む必要があるように、
社会においても、“文化的なBS”──自然や人の営み、手仕事への理解と愛着こそが、次世代の競争力になると信じています。
the kindest は、商品だけではなく、未来を担う子どもたちとその体験を共有するブランドとして、消費を「体験する贅沢」へと昇華させていきたいと思っています。
長くなりました!
天然魚も、自然農法も、手仕事も── それらは単なる贅沢品でも、こだわりでもありません。
日本が世界で戦い続けるための、かけがえのない資源です。
だからこそ、目先の効率だけで語らず、 次世代に残すべき"文化的BS"として、 私たち一人ひとりが意識し、選び、守っていくことが大切だと思います。
the kindest は、そんな未来に向けて挑戦を続けます。 共感してくださる方がいれば、ぜひ一緒にこのムーブメントを広げていきましょう。
お付き合いありがとうございました。
宇和島で初めて海釣りにチャレンジ。
ちゃみにイカをとってもらってご満悦でした。
捌きたてのイカ、信じられないほど美味しかったです。