◯「飲み会」より「困った時に助け合える」関係 〜信頼と信用の違い〜
「信頼」と「信用」。私たちは日常的にこれらの言葉を使いますが、両者の違いを明確に意識している人は少ないかもしれません。しかし、この二つの概念の違いを理解することは、質の高い人間関係を築く上で非常に重要です。
まず、「信用(Credit)」とは、過去の実績やデータ、記録などに基づいた、条件付きの評価です。例えば、クレジットカードの審査は、過去の返済履歴という「信用情報」に基づいて行われます。つまり、信用は「過去」を向いており、条件を満たさなくなれば失われる可能性があります。
一方、「信頼(Trust)」とは、その人の未来の行動やあり方に対する、無条件の信念です。「この人ならきっと大丈夫」「あなたを信じている」という気持ちであり、明確な根拠がなくても相手を信じようとする姿勢です。信頼は「未来」を向いており、人間関係の深い部分で結びついています。
タニクリが目指す「助け合える関係」は、この「信頼」に基づいています。過去の失敗や実績だけで人を判断するのではなく、その人の可能性を信じ、未来に向けて共に歩んでいこうとする。それが私たちの理想とする組織のあり方です。私たちは人生で多くの時間を「信用」を積み上げることに費やしますが、どれだけの時間を意識的に「信頼」を育むことに使っているでしょうか。逆説的ですが、信頼に満ちた人生は、結果として信用だけを追い求めた人生よりも、はるかに大きなことを成し遂げるのだと僕は信じています。
◯なぜタニクリには管理職がいないのか?「自律性」という信頼のカタチ
「管理職がいない会社」と聞くと、多くの人は「無秩序でバラバラなのではないか」と不安に思うかもしれません。しかし、タニクリでは、管理職の不在こそが、組織の強さと柔軟性を生み出す源泉になっていると考えています。
タニクリには、社長と専務以外の、いわゆる中間管理職が存在しません。それだけではありません。工場の始業時間や出勤人数、会社で使う備品や家具の購入といった事柄も、現場の社員やパートさんたちが自分たちで話し合って決めています。誰が何時に来て何時に帰るかさえ、個人の判断に委ねられているのです。
なぜ、このような一見すると大胆な運営が成り立つのでしょうか。それは、私たちが社員一人ひとりを、
「自分のことは自分で考え、判断できる、自律的な大人である」
と心から信頼しているからです。
私たちは、社員をルールで縛り、管理・監督する対象とは考えていません。一人ひとりが、自分にとっても、みんなにとっても良いことは何かを考え、判断し、行動できる存在だと信じています。正直に言うと、コントロールを手放すことは時に怖いことです。でもそれは、人間の限界ではなく、人間の可能性に賭けるという、私たちの意識的な選択なのです。この「信頼」と、それに応えようとする社員の「自律性」が両輪となって、タニクリのユニークな組織は動いています。
◯「子供が熱を出したら休めますか?」への正直な答え
「働きやすい環境」とは、会社が用意した手厚い制度やルールによって保証されるものなのでしょうか。それとも、そこで働く人々の人間関係そのものから生まれてくるものなのでしょうか。この問いは、働きやすさの本質を考える上で非常に重要です。
採用面接で、特に子育て中の方からよく聞かれる質問があります。「子供が熱を出した時に、休めますか?」。多くの会社なら「はい、制度があるので大丈夫です」と答えるでしょう。しかし、私たちは正直にこう答えます。
「わかりません」
これは、決して冷たい突き放しではありません。会社がルールや仕組みで「休めること」を保証するのではなく、働きやすさの本質はもっと別のところにある、という私たちの哲学の表れです。私たちはこう続けます。
「でも、もしあなたが周りのみんなにとって、いなくてはならない大切な存在になっていたとしたら。あなたが本当に困った時、周りの人はきっとあなたを放っておかないでしょう。誰もが助けてくれるはずです。しかし、もしあなたが周りに迷惑ばかりかける人だったら、誰も助けてはくれないかもしれません。大切なのは、制度があるかどうかではなく、あなたが周りから助けてもらえるような信頼関係を、自分自身の手で築けているかどうかなのです」
もちろん、これは精神論ではありません。実際にタニクリでは、子供の急な発熱などがあれば、みんなが当たり前のように協力し合い、休みが取れています。それは会社が決めたルールがあるからではなく、一人ひとりが「困った時はお互い様」という信頼関係を日頃から築いているからです。本当の働きやすさは、制度ではなく、血の通った人間関係の中にこそ宿るのです。