2. 俳優を目指した僕が、なぜ家業を継ぐことになったのか
人生は、必ずしも思い描いた通りに進む訳ではありません。むしろ、予期せぬ回り道や、突然の方向転換の中にこそ、本当の自分の居場所を見つけるヒントが隠されているのかもしれません。
大学卒業後、特にやりたいこともなく就職活動もせずフリーターになってしまった僕は、極貧生活から脱出するため、派遣社員としてゲーム会社のセガで働き始めました。しかし、配属された部署は驚くほどヒマで、「このままだとクビになるかも」と不安な毎日。そこで僕は、誰に頼まれるわけでもなく、毎日、同じフロアに20台以上あるコピー機の紙を補充し、皆さんがお茶を飲むためのポットのお湯を沸かし続けるという雑用を自主的に始めました。
すると、その奇妙な行動がたまたま部長の目に留まり、「お前、面白いな」と声をかけられ、なんと新設部署の社員になることができたのです。
正社員になり生活が安定すると、僕は新たな夢を見つけます。「そうだ、俳優になろう!」。大学時代の「モテ修行」で別人になる面白さに目覚めていた僕は、会社員をしながら俳優養成所に通い始めました。演技は素人でしたが、「とにかく周りを喜ばせよう、笑わせよう」と場を盛り上げることに徹していると、不思議と評価され、数年後には事務所に所属して仕事をもらえるようになっていました。
「このままいけば、俳優として生きていけるかもしれない」。そう思い始めた矢先、父から電話がかかってきました。「そろそろ帰ってこい」。会社が倒産しそうだというのです。自分の夢と、50人以上の社員とその家族の生活。壮絶な葛藤の末、僕は俳優の道を諦め、家業を継ぐ決意をしました。しかし、心の中ではこう誓っていました。
「3年で会社を立て直して、必ずまた東京に戻ってやる!」と。
けれど、実家に戻った僕を待ち受けていたのは、そんな決意を木っ端微塵に吹き飛ばすほど、想像を絶する現実だったのです・・・