2025年10月、記憶のプラットフォーム「Monoxer(モノグサ)」を提供するモノグサは、シリーズCラウンドで総額約18.5億円の資金調達を実施しました。その際に、出資企業である三井化学は以下のコメントを寄せています。
「製造業における学習体験の新たなスタンダードを共に創出していきたい」
「記憶の定着」は、製造現場でどのような役割を果たせるのでしょうか? 三井化学のCVC部門でプリンシパルを務める矢田ゆかりさんに、モノグサ代表取締役CEOの竹内孝太朗と、社会人・従業員教育領域の責任者である吉川治人がお話を聞きました。
三井化学とモノグサに共通する価値観「人の可能性を信じる」
竹内:モノグサに対する、最初の印象をお聞きしてもいいですか?
矢田:モノグサのことは、京都で行われたスタートアップカンファレンス「IVS2025」でCFOの細川さんとお会いしたことをきっかけに知りました。
最初の印象では学生向けの事業がメインで、当社との接点を見出しにくいように思っていましたが、細川さんから「今後は社会人・従業員教育領域を含めた大きな展開を描いている」とお聞きし、興味を持ちましたね。
モノグサは「記憶の定着」に特化している点が他社との大きな違いであり、実際にMonoxerを使わせていただいたことで「記憶の定着とはこういうことか」と腑に落ちました。忘れかけた頃に、ちょうどその問題が出てくる。これまでなかったプロダクトであり、人が本当にほしかった機能が搭載されているのが、モノグサの一番の強みだと思っています。
三井化学株式会社 新事業開発センター CVC部門 プリンシパル 矢田ゆかりさん
竹内:そこを評価いただけるのはすごくうれしいです。モノグサは創業以来、あえて記憶一辺倒でやってきました。ゆえにエッジが効き過ぎている面もあり、それが事業を進める難しさでもあるのですが、自分たちがやってきたことは間違っていなかったのだと評価していただいた気持ちです。
私は三井化学さんとお話をする中で、皆さんが人の可能性を信じ、伸ばそうとしているのを感じていました。Monoxerは人を成長させられるプロダクトだと思っているので、同じ価値観を持つ企業からご出資いただけたことに心から感謝しています。
吉川:事業責任者としても個人としても、三井化学さんとご一緒できることを本当にうれしく思っています。僕は海外で育ち、国外から日本のものづくりのすごさを感じていました。新卒で製造業に入ったこともあり、「製造現場に貢献したい」という思いはずっとあったんです。
ただ、安全を追求する製造業はどうしても保守的にならざるを得ない面もあり、僕たちのような新しいプロダクトを取り入れるのは難しいとも思っています。
そのような中、矢田さんはフラットかつ前向きに、我々の話を聞いてくださった印象です。「こういう使い方もできそうですね」「このテーマに取り組むチームと話してみませんか?」など、スピード感を持って動いてくださって。うれしかったですし、より一層気合が入りました。
モノグサ株式会社 代表取締役CEO 竹内孝太朗(写真左)/社会人・従業員教育領域責任者 吉川治人(写真右)
矢田:私としても、製造業経験のある吉川さんが担当してくださって安心しました。当社は製造現場を抱えており、まだまだ人の手作業に頼っているところもあります。モノグサと一緒に、属人化や人材不足などの課題解決に取り組んでいけるといいなと思っています。
また、長期的には新規事業に関わるアントレプレナー人材とDX人材の育成を強化し、層を厚くすることを目指しています。企業価値に大きく関わる重要な部分ですので、こちらもぜひ伴走いただけるとありがたいです。
吉川:三井化学さんとの取り組みには、アントレプレナー教育、デジタル人材育成、現場の安全研修、技術承継など、さまざまなテーマがありますよね。幅広い職種や立場の方々がスコープに入っていることに、チャレンジのしがいを感じています。
矢田:当社は創業以来、石油由来の材料を提供する事業を続けてきましたが、厳しい経済環境の中、それだけで勝ち残っていくのは難しいと思っています。だからこそ、三井化学とシナジーがあるスタートアップに投資し、双方の企業価値の向上を目指すべく、2022年からCVC活動を始めました。
また、我々のような大きい母体の製造業では、スピード感やエッジの面で到底スタートアップには敵いません。そこはスタートアップの皆さんのお力を借りながら、我々も一緒に成長していきたいと個人的には思っています。
Monoxerで目指す、製造現場の技術伝承と安全性向上
矢田:モノグサとの連携を通じて、製造業の新たな教育領域を一緒に作っていけたらと思っています。まずは、新事業開発におけるアントレプレナー人材の知識習得支援、現場教育の効率化やDX人材の育成など、進めていけるとありがたいです。
竹内:実はモノグサとして、製造業はご一緒したい業界の一つでした。DXによって人手が不要になる場面は多いですが、人間がやらなければならない領域は必ず残ります。その一つが製造現場であり、人間が安全に生産性を上げるには、記憶の定着が不可欠だと思っています。
製造現場で人間が技術として伝承すべき領域を特定し、そこをMonoxerでしっかり伝承する。製造現場で活用しやすい記憶体験や、伝承のフォーマットをつくる余地はあるはずなので、まずはそれを実現したいですね。
現在は「覚える」のグラデーションに対応できるよう、プロダクトへのアップデートを進めています。伝承したい技術全体をMonoxerに入れてしまえば、局所を暗記することも、「全体を読んでおいてね」に対して、どの程度読めているかを確認することもできる。
技術伝承には「丸暗記してほしい部分」と「全体を俯瞰的に見てほしい部分」がありますから、それらを分けて記憶できるようにしたいと思っています。
矢田:おっしゃる通り、覚えてほしいものには濃淡があるんですよね。Monoxerは学ぶ側にとって便利なだけでなく、管理者側がユーザーの学習状況を確認できる点も大きな魅力だと思っています。
吉川:化学メーカーの複雑な製造プロセスは、長い歴史の中で改善を繰り返しながら作られたものであり、付け焼き刃的な知識ではなかなか全体感が掴めないのだろうと思います。
だからこそ知識はMonoxerでサクッと身につけて、その知識を使って「どうやって会社を良くしていくか」を考えることに時間を使える、そんな世界線を実現したい気持ちが強くあります。
竹内:良い事例を一緒につくり、製造業における学びの在り方を定義する。それがご出資に対する一番のお返しであり、モノグサにとっても重要なことだと思っています。
そうやって製造現場に人間が適切に関わり続けることへ貢献し、それを三井化学の皆さんと一緒に製造業全体に広げていけたらいいなと。最終的には「技術伝承がきちんとされているから日本の製造業は強い」「実はそれを手伝っているのがモノグサだった」という未来を目指したいです。
矢田:ぜひお願いします。製造業に適した記憶の在り方を確立できれば、日本のみならず海外の事業所にも展開できると思いますので、その点にも期待しています。
吉川:中期的な観点では、製造現場での安全性向上を実現したいと思っています。労働災害を減らすのは、社会人として僕が目標としていることでもあって。そのためにも、当たり前とされている安全教育の在り方を変えたいと思っています。
例えばMonoxerで問題を作成する際、「間違っているものを選びなさい」という出題形式を使うと、間違っているものを覚えやすくなってしまいます。そういった覚える技術を踏まえれば、事故事例で「どのような事故が起きたか」を共有するより、「安全な状態に戻すにはどうすべきか」を重点的に伝えた方が安全につながるかもしれません。
そうやってMonoxerをただ記憶するツールとして使うのではなく、「どういう覚え方をすれば本質的な行動変容につながるのか」を一緒に検証し、現場の研修をより最適なスキームに変えるチャレンジをしたいですね。
矢田:教育の切り口を変えるわけですね。「昔からこうしているし」で続いていることはたくさんあると思うので、楽しみです。
「記憶のプラットフォーム」というエッジを立て続ける
吉川:今回のご出資に対して、私は「記憶のプラットフォーム」というエッジを立てつつ、きちんとプロダクトを磨くことを忘れずやっていきたいと思っています。
今のMonoxerは、世の中の誰もが評価し、経営陣の大多数が導入に賛成するようなプロダクトではありません。実際に竹内が前職で「記憶のプラットフォームをやりたい」と言ったら、役員のほぼ全員から反対されたわけです。
竹内:「市場はあるのか?」と言われて、「市場はないけど課題はあります」と答えたら棄却されました(笑)
吉川:僕もカジュアル面談でMonoxerの話を聞いた時は「誰がこのサービスにオッケーを出したんだ?」と正直思いました(笑)
でも、スタートアップはそのくらいのことをやらなければ意味がないと思っています。エッジの立ったプロダクトを世の中に浸透させていくチャレンジ精神は失わずにいたいなと。
ユーザーの皆さんに本質的な価値を提供し、「明日Monoxerを取り上げられたら困る」と言っていただけるプロダクトになっているのか。営業として日々の数字を追い、事業を成長させるのはもちろんですが、そこに目を光らせることも僕の重要な責任だと思っています。
矢田:学生時代に作ったMonoxerのアカウントを、おじいちゃんおばあちゃんになっても使い続ける。そういう未来に向けて、モノグサにはぜひ人生になくてはならないプロダクトになることを目指してほしいです。
竹内:我々のミッションである「記憶を日常に。」は、「記憶が何の制約にもならない」ことを意味すると思っています。人間は大人になるほど自分の可能性を信じにくくなるように感じますが、いつまでも自分の成長に期待し続けられる世界を、モノグサを通じてつくりたい。命が終わるまで、そんな世界の実現に貢献したいと思います。
最後にモノグサが大切にしている価値観「ものぐさで行こう」を表すボードゲームを体験いただきました。
文章:天野夏海
写真:上野裕二
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