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1枚のマスク
2020年、地球ではヒトという霊長類の代表が、コロナウイルスという微小な存在に翻弄され続けています。もちろん私たちの小さな診療所も、混沌の真っ只中です。チームワークで生物界の頂点に上り詰めた(と思っている)ホモ・サピエンスは、彼らが誇るそのコミュニティの中で、自慢の大脳皮質をフル回転させながら、慰め合ったり、恨み合ったり、それはもう大騒ぎです。その一人である私はこう思います。これは人類対ウイルスの戦いであり、個体同士の力技では、確実に人類は負けてしまう。ウイルスは甘いものではありません。ヒトは微生物をコントロールできる、というのは、ヒトの奢りだと思います。犠牲になった仲間を忘れ、医学史上...
医業とサービス業
いくらWebページが一般的となったとはいえ、少なくとも私の知る限り、初めての病院がどんな雰囲気なのかは、受診してみなければ分からないものです。窓口で冷たくされないだろうか、ちゃんと話を聞いてもらえるだろうか、医師は怖くないだろうか、そんな不安を感じながら最初のドアを開くのはもうやめましょう。例えばファミリーレストランに、あなたはドキドキしながら入店することがあるでしょうか。病院とは何が違うのでしょうか。ただの食事と健康上の問題。違いはそれだけでしょうか。大手のサービス業では、接遇そのものを大切にしていることは、医療以外の職務経験が無い私でも分かります。一方、ほとんどの医療機関で、接遇は非...
都心の無医村
30代も後半に差し掛かった頃、ビジネスマンになった同級生に会う機会がありました。ほぼ病院で生活してきた私には、異業種の方の話は、いつも新鮮です。彼は誰でも知っているような都心のタワーオフィスでバリバリ働いていました。会ったのは春先で、彼は花粉症で困っていました。ついでに頭痛もある、夜も寝つきが悪いと、随分色々でしたが、聞けば病院に行く時間が取れない。市販薬で凌いでいるが、大病が隠れていないか不安で仕方ない。休んで病院に行けばいい、と言うのは簡単ですが、私自身、患者として外来を受診することなど想像もできないスケジュールで働いていましたので、彼の気持ちはよく分かります。何故そうなるか。受診の...
生活習慣病は自業自得ではない
「公衆衛生学」という耳慣れない学問が、日本の疾病構造を大きく変化させました。平均寿命も延びました。一方で「健康寿命」については伸び悩んでいます。これは、統計だけでなく、医療の現場でも、肌で感じます。特に脳神経外科救急では、初対面の患者さんの家族に「命を取るか、意識を取るか」という究極の選択を迫る毎日ですから、非常に辛いことも多い。人間の死亡率は常に100%です。あなたも、私も、何らかの具体的な死因で、死を迎えます。そのほとんどは、がんか、脳卒中を含む心臓・血管障害です。死ぬのは分かっていても、誰だって、それまでは元気でいたいものです。一般的な病院の脳神経外科の外来では、ほとんどの患者さん...
医者の仕事に思うこと
人が生きるとはどんなことなのだろうか、10代の頃、そんな思春期にありがちな気持ちの渦巻きの中で、私は医師を志しました。医師という仕事自体に迷いはありませんでしたが、医学部に進学してからも、医師とは何かというテーマが頭から離れることはありませんでした。学生実習で脳の手術に参加して以来、「人間を知ることは脳を知ることではないか」と思うようになり、迷うことなく脳神経外科へ進み、ひたすら手術に明け暮れました。手術は今の時代でも手でするものです。医師になって5年が経った頃、自らの手で消えかけた命に再び火が灯る初めての経験がありました。10年を超え、死の淵から社会へ戻って行く命、残念ながら救えなか...
透明な医療で病気と闘う
医師は診察中、パソコンに向かって何を書き込んでいるんだろう、カルテに何を書いているんだろう、と感じたことはないでしょうか。あるいは、病院の会計が思いもよらない高額で驚いたり、明細が意味不明でため息をついたことはないでしょうか。その程度ならまだ良いとして、根本的に診療内容に疑問を抱きながらも、どうしていいか分からず、とりあえず治療を受けてしまったり、出された薬を飲んだり、あるいは不安で勝手にやめたりするとなると、かなり怖い話です。これらは、情報公開以外に解決しようがありません。いや実は、情報の公開は、保障されています。しかし、カルテをそのまま読んでも、ほぼ暗号です。あまりに分からない。これ...
だいだいって何?
▪「大丈夫。」 これほど使う人によって意味が変わる言葉は少ないでしょう。 大きな病院では「命に支障がない」「これ以上対応しようがない」という意味で使われることが多いと思います。時に「お引き取り下さい」というネガティブな意味ですらありえます。 一方、家族や友達であれば、その「温かさ」が随分変わってきます。たとえ、大丈夫に根拠がなくても「どうであっても、味方だし、一緒にいるよ」という前提があるからなのでしょう。▪実際には、「医学的には大丈夫」でも、「社会生活上は全然大丈夫じゃない」ことは、いくらでもあります。「頭痛」はその代表です。例えば、頭痛のせいで仕事に支障が出てしまうようなことは、避け...